退職者が一人でも加入できる労働組合に駆け込んだら


退職者は労働者か

 労働基準法で定義されている「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」(労基法9条)をいいますが、労働組合法では、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者」(労組法3条)とされており、失業者も含むものとされていますので、退職者も労働組合に加盟できる労働者といえます。

 そして、一般的には、退職した者と使用者との間の雇用関係は終了しており、その意味からは「雇用する労働者」には該当しませんが、解雇・退職など労働契約関係の継続の有無や、未払い賃金・退職金など労働契約の精算について争いがある場合には、雇用関係が消滅したとは言えず、その争いの範囲内において、「雇用する労働者」であると解されるとされています。

 かつ、このような労働条件に関する重要な労使間の問題は、労使が自主的な解決をおこなうことが、労組法の趣旨であることから、使用者には団体交渉応諾義務があるとされる傾向があります。


駆け込み交渉

 以前から合同労組の組合員であったのではない者が、解雇されてから合同労組に加入し、その合同労組が団交を申し入れてきた場合を駆け込み交渉といいます。解雇された者がその解雇の効力を争っている場合、使用者は、合同労組からの解雇そのものを交渉事項とする団交申し入れに応じる必要が出てきます。雇用関係が消滅したことを理由として団体交渉を拒否することは、雇用関係が消滅したとは言えないことから、不当労働行為になるおそれが非常に大きいといえます。
 ただし、使用者は団体交渉には応じる義務はありますが、解雇を撤回しなければならないというものではありません。また、解雇された者が加盟した合同労組からの団交申し入れは、その退職した従業員が解雇後、「社会通念上合理的な期間」になされる必要があり、著しく時期を経過した団交申し入れには拒否出来るものとされています。【東洋鋼板事件 中労委命令昭53.11.15】
                                                                                       
 ※ 「労働組合が解雇基準の適用や解雇の条件について交渉を求めてきた場合、たとえ対象となる労働者が解雇の通知を受けていても、使用者は正当な理由なく団体交渉を拒否することはできないものと解すべきであり、このことは、被解雇者が解雇された後に組合に加入(一般に駆け込み訴えという。)した場合でも同様である」(労働省労政局労働法規課編著『労働組合法労働関係調整法』労務行政研究所)


退職した労働者と事業主と起こりうる労使紛争

 ◆ 解雇 ◆

  労働契約の終了には、「契約期間の満了」(約束した期間が終わること)、「合意解約」(労働者と使用者とが合意によって労働契約を将来に向かって解約すること)、そして契約当事者の一方の意思表示による契約の破棄として「解雇」(使用者の一方的な意思表示によって労働契約を終了させる)、「退職」(労働者の一方的な意思表示によって労働契約を終了させる)などがあります。
合意解約は原則として自由ですが、退職や解雇については期間の定めの有無により異なってきます。

期間の定めのないとき 退職 労働者は退職日の2週間前までに通知する。(民法627条第1項)
解雇 使用者には労基法20条の手続きが必要とされるほか、解雇理由のない場合や正当性を欠く場合は、解雇権の濫用として無効となる。
期間の定めのあるとき 退職 労働者はやむを得ない理由があるとき以外退職できない。(民法628条)
解雇 使用者はやむを得ない理由があるとき以外解雇できない。(民法628条)

 ● 解雇と退職の分類

退職となる場合

1 任意退職 労働契約の合意解除
2 無断退職 労働者からする労働契約の一方的な解除
3 契約期間満了 契約期限の到来
4 休職期間満了自動退職 約定契約終了条件の成就と期限の到来
5 行方不明期間経過による自動退職    同 上
6 定年退職 終期の到来
7 本人の死亡 法定終了


解雇となる場合

1 普通解雇 やむを得ない事由の発生による使用者側からする労働契約の解除
2 懲戒解雇 懲戒処分としての労働契約の一方的解除
3 整理解雇 やむを得ない人員整理の必要性に基づく労働契約の解除
4 更新期間契約の更新拒否 事実上の期間の定めのない契約の準用とその解除
5 本採用拒否 試用期間中の留保解約権の行使
6 採用内定取消 就労前のやむを得ない事由の発生による労働契約の解除
7 休職期間満了による解雇 約定によるやむを得ない事由の発生による解除
8 定年解雇 定年の到来を原因とする労働契約の解除


 ● 解雇権の濫用に当たるような解雇は無効となります。

 この原則は、平成16年1月1日に改正・施行された労働基準法(第18条の2)に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」明記されるようになりました。

 ただし、この条文について罰則は用意されていない(労基法第104条第1項に定める申告の対象とはならない)ので、合理性なき解雇は無効となるものの、使用者が刑罰を受けたり行政処分を受けることはないと解されます。
 条文上、客観的とは、外部の第三者から見ても確認できる事実が、その解雇理由にあるか、また、合理的とは、理由の事実が真実で、解雇の正当な事由であるということを証明できるか、ということです。社会通念上相当とは、社会一般からみても確かにそうだと思われる理由があるということですが、これは時代や文化などによって微妙に異なってきます。
 そして権利濫用であるかどうかの立証責任は、使用者側にあるというのが、現在の考え方です。



 ● 解雇が有効かどうかの判断にあたっては、それに至る手順がどうであったかが、重要な要素となります。

 原則として就業規則該当の理由 → 就業規則等に定める解雇手続の利用 → 労基法の解雇予告手続の利用 → 法律上の解雇禁止に不該当 → 解雇の相当な(総合的判断)理由 → 有効な解雇


 ● 解雇が有効と判断されるにあたっては、次の要件を全部満たす必要があります。

 要件 @  解雇事由、手続きが法令に反しないこと・・・・労働基準法上の解雇予告義務を満たすほか、解雇事由なども法令に反しないこと
 要件 A  就業規則などに根拠となる定めがあること・・・・解雇事由や手続きが就業規則、労働協約上の規定に反しないこと
 要件 B  権利の濫用に当たらないこと・・・・解雇事由が使用者の私的感情に基づいているなど、客観的合理性のない事由で解雇をしていないこと
 要件 C  公序良俗に反しないこと・・・・一定年齢に達した女子社員のみを解雇するなど、公の秩序に反する理由での解雇でないこと
 要件 D  労働者との信義則に反しないこと・・・・事前に何らの説明もなく突然に解雇するなど、解雇の手続き面で労働者との信頼関係を著しく損なう方法で解雇しないこと


 ● 懲戒解雇は、企業秩序違反行為(非行)に対する制裁罰としての解雇をいいます。

 懲戒解雇の場合は、通常、解雇予告も予告手当の支払いもせずに即時になされ、また退職金の全部または一部が支給されず、さらに雇用保険の求職者給付にあたり、原則3か月間の支給制限があります。
懲戒解雇は懲戒処分としての性格と解雇の性格を合わせ持ち、両者に関する法規制を受け、一般的には、その対象となる服務規律違反は、「労働関係からの排除を正当化するほどの程度に達していること」が必要とされます。
また、懲戒は労働者に不利益をもたらす処分を、使用者が一方的に行うものですから、自ずから内在的な限界があり、業務の正常な運営を維持するための必要最小限の範囲内のものでなければなりません。
解雇予告や予告手当を不支給とするには、使用者は、労働基準監督署の除外認定を受ける必要があり、退職金不支給も就業規則等にその旨の規定が存在する必要があります。


 ● 懲戒解雇をおこなう際の注意点

 @ 解雇しなければならない事由を正確に把握する
 A その解雇事由に対して、就業規則の解雇規定を適用することができるかどうか(就業規則違反の解雇は無効)
 B 解雇方法が、労基法第19条第20条第21条の解雇条項に違反していないか
 C 解雇が、労基法第3条の差別的取扱いの禁止に違反していないかどうか
 D 過去の裁判における判例などを検討して、解雇は正当かどうか


 ● 不況、斜陽化、経営不振などにより事業運営上、人員削減の必要性が生じた場合の整理解雇が有効とされるには、次の4つの要件が必要です。

 整理解雇の四要件
  
  ◇ 人員削減の十分な必要性があること
  ◇ 解雇回避の努力義務を尽くしたこと
  ◇ 解雇対象者の選び方が公正・妥当であること
  ◇ 労働者・労働組合へ説明・協議手続きを尽くしたこと

 ◇ 第1の要件:人員削減の十分な必要性があること ◇

 受注減少や採算悪化による業績の著しい落込みなどで、有休資産の売却など経営合理化した上での経営危機であり、客観的に高度な経営上の必要性に基づいていること、ないしはやむを得ない措置と認められる必要があります。

 現実に経営状況を見極める場合、次のような事項が参考とされます。

  (1)収支決算上の赤字の有無・程度、借入金返済のひっ迫度、資産の増減など
  (2)人件費や役員報酬の額と増減
  (3)新規採用・臨時工などの社員の増減
  (4)業務量の増減
  (5)株式配当があるか、あるときはその金額はどうか

 ◇ 第2の要件:解雇回避の努力義務を尽くしたこと ◇

 会社は整理解雇を避けるためにとりうる他の手段を十分尽くすことが求められ、雇用調整手段をとれるのに、それらを採用せずに整理解雇の手段にでた場合は、解雇回避義務を尽くしていないとされ無効とされることがあります。

 回避手段としては   (1)残業削減・労働時間短縮 → (2)他部門への配転 → (3)関連会社への出向 → (4)新規採用の中止 → (5)希望退職者の募集 → (6)一時帰休の実施 → (7)資産売却 → (8)雇用調整助成金の利用 などがあげられます。

 ◇ 第3の要件:解雇対象者の選び方が公正・妥当であること ◇

 整理解雇が止むなしと認められる場合でも、使用者は被解雇者の選定については、客観的で合理的な基準を設定し、公正に適用して行う必要があります。
基準としては、年齢、勤続年数、勤怠、成績の優良・不良などの労働力としての評価、労働者の生活への影響などの評価があげられます。

 ◇ 第4の要件:労働者・労働組合へ説明・協議手続きを尽くしたこと ◇

 労働協約上、人員整理について、使用者に労働組合との協議を義務づける条項がある場合、具体的な人選の基準やその当否について十分な協議をなさずに行われた解雇は、協約違反として無効となります。
協約がない場合においても、使用者は労働者に対して、整理解雇の必要性とその内容(時期、規模、方法)について納得を得るための説明を行い、誠意をもって協議すべき信義則上の義務を負います。


 ● 解雇を確定させる。

 解雇を確定させるために、解雇を労働者が確認したという意思表示を書面で受け取っておくという方法は重要です。
「解雇処分について異議がない」という文書に署名押印をもらっておくと、後日になって解雇無効等を主張されることもなく、紛争の予防になります。


 ● 解雇予告手当・退職金の供託

 解雇予告手当・退職金の受領を拒否する労働者に対して、使用者側はこれを法務局に供託することによって対抗します。供託は、弁済したのと同様な法的効果を得るために行うものです。
供託するには、供託書に「解雇予告手当・退職金を提供したが、受領を拒否された」等の理由を記載して、金銭等を添えて法務局に提出します。申請は本人又は代理人によって行います。郵送による申請も認められています。
 退職金を供託した場合の注意として、法務局から退職金が支払われることになったとき、源泉徴収する機会を失って徴収漏れを指摘されることがあります。
供託する場合は、退職金にかかる源泉徴収税額と住民税の特別徴収税額を差し引いた金額を法務局に供託し、会社がこれを支払ます。供託した退職金債務は、その時点で消滅しますから、その社員が退職した年度の損金に算入することになります。 


 ◆ 競業行為 ◆

 ● 競業行為の禁止(競業避止)とは、労働者が同業他社に再就職することを禁止することをいいます。

  現行法上、競業避止義務が課されるのは、取締役や支配人だけです(商法264条等)。取締役や支配人は企業経営に直接関与し、企業との利害の一致が要請されます。

 反面、労働者は企業経営に直接関与するのではなく、企業と利害を同じくするわけではありませんが、在職中、労働者は不正な競業によって使用者の正当な利益を侵害しない競業避止義務を信義則による労働契約上の付随的義務として負うことになります。
しかし労働関係終了後については、退職労働者には職業選択の自由があるので、労働関係継続中のように一般的な競業避止義務を認めることはできず、就業規則または明示の特約といった特別の法的根拠が必要となると考えられています。
 そのため使用者は企業秘密、情報や顧客の保持のため、労働者が同業他社への就職や、同業会社の設立を禁止するという一定の規制を設ける必要があります。


 ● 競業規制の対象となる労働者は営業上の秘密(生産方法、販売方法、その他事業活動に有利な技術上または営業上の情報であって公然と知られていないもの)を知り得る立場にある者に限られます。
 具体的には技術の中枢部にタッチする従業員や営業担当者については、営業上の秘密が認められますが、単純労働に従事する者については否定されます。(キヨウシステム事件 大阪地裁判平12.6.19)


 ● 労働契約もしくは個別的な特約(誓約書など)、あるいは就業規則に、退職後も会社の営業秘密を使用・開示してはならない旨の禁止・義務規定と違反した場合の措置規定(使用者の差止請求や損害賠償請求)を設けておく必要があります。


 ● 競業禁止が有効となるためには、
   (1) 製造や営業等秘密の中枢にたずさわる者が対象
   (2) その秘密が保護に値する適法なものである
   (3) 就業規則などに明示の特約が必要
                以上の条件が必要となります。
  特約の要件
     ※営業活動の自由や職業選択の自由を不当に制限しないように配慮しなければならないことに注意
  @ 制限期間の限定・・・例えば2年間など合理的な期間にする必要がある
  A 対象地域についての定め・・・事案によっては全世界もある得るが、合理的な範囲に限定することが必要
  B 対象業種や業務、対象行為の限定・・・会社の全営業種目というような包括的なものは原則的に認められない
  C かかる制限に何らかの代償が支給されている・・・その代償は在職中の研究手当、開発手当、役職手当等でも差し支えない


 ● 競業行為の禁止に関して裁判での争いになった場合、競業禁止が認められるか否かは、会社側の知識・情報・ノウハウなどを保護する必要性と、労働者が被る不利益の度合いを比較したうえで、判断されます。

(1) 退職後の競業行為の差し止め
  退職者の職業選択の自由を直接制限する措置なので、期間・活動の範囲などを明確にした競業制限の特約が存在し、かつその制限の必要性と範囲に照らして当該特約が公序良俗に反しないかが検討されます。【参考判例 新大阪貿易事件(大阪地裁判平3.10.15)、日本水理事件(大阪地裁判平17.4.15)】

(2) 同業他社に転職した者に対する退職金の減額・没収
  退職金規定にその旨の明確な規定が存在することが必要で、そうした規定の合理性や当該ケースへの適用の可否が、退職後の競業制限の必要性や範囲(期間、地域等)、競業行為の態様(背信性)などに照らして判断されます。【参考判例 三晃社事件(最高裁判昭52.8.9)、福井新聞社事件(福井地裁判昭62.6.19)】

(3) 損害賠償請求






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