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烏賊と電脳の綜合百科事典
烏賊の王様

烏賊に纏わる故事・諺・慣用句

其他

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『烏賊の語源』

栄川省蔵氏の『新釈魚名考』に依ると、烏賊のイは語聲強調の接頭語で有り、カは食(け)が訛った者で、食用に供される動物の 呼称と看做す可きで有ると謂う。此の説に從えば、烏賊は、海の幸の代表と謂うよりも、食物其の物を表して居ると謂う事が出來 る。猶、烏賊の名は、既に733年編纂の『出雲風土記』に觀られると謂う事で有る。

上記の他にも、形が儼(いかめ)しいので『儼しい』から來たとも、古語の『嚴(いか)し』(荒々しい、甚だしいの意)から來 たとも謂われ、亦、『イ』は發語、『カ』は腹内に有る甲を指す等、諸説が有る。

『鯣烏賊(するめいか)の語源』

鯣烏賊は、墨を吐く者の群を意味する『墨群(すみむれ、すみめ)』が變化した名称と謂われて居る。亦、『鋭群(するどむれ) 』や『研理(すりめ)』等の説も有る。

猶、『延喜式』には、若狭、丹後、隠岐、豐後から烏賊が献上された記録が有るが、當時は勿論生で有る筈が無い爲、鯣で有ると 思われるが、鯣とは記さず烏賊と有る。平安時代の文献には『須流米』と有るが、『和名抄』には小蛸魚を斯う訓じて居る。

『槍烏賊(やりいか)の語源』

槍烏賊は、胴先(外套膜)の尖った形状が槍の穂に似て居る事から此の名が附いたと謂われて居る。

『甲烏賊(こういか)の語源』

甲烏賊は、胴内に石灰質の甲を持つ事から此の名が附いたと謂われて居る。

『ゲソの語源』

烏賊の脚(學術的には腕)を俗に『ゲソ』と謂うが、此れは『下足(げそく)』を略した者で、昔は大勢が一處に集まり下足が澤 山脱ぎ棄てられた時に、此れを整理する爲、十足宛集めて束ねたと謂う事で有るが、烏賊の脚が十本で有る事から、此の様に呼ば れる様に成ったと謂われて居る。猶、烏賊の脚は、昔の人が天下の廻り者で有る御金の事を、脚が有る様に彼方此方動き廻る事か ら『オアシ』と呼んだ事から、脚の多い烏賊は御金が多いと謂う事に繋がり、縁起が良いとされ、縁起を担いだ贈答品として用い られる。

『アタリメの語源』

鯣(するめ)の事を俗に『アタリメ』と謂うが、此れは鯣が『擦る目』に繋がり縁起が悪いと謂う事で、逆の意味の『當たり目』 と洒落たのが始まりと謂われて居る。猶、縁起担ぎの意味で、婚礼時の鯣は『壽留女』と書き表す。

『烏賊の季語』

俳句の季語で烏賊は夏の部に入って居る。5・6月頃釣れ出す麥烏賊(むぎいか)と謂うのは鯣烏賊(するめいか)の子供。外套 長25糎以下の育ち盛りが麥烏賊で、麥の穂が出る頃、相模灣の西から東に懸けて順々に釣れ出すので、此の名前が附けられた。

同じ烏賊でも、『花烏賊』と『櫻烏賊』は春の部に入って居る。此れは、孰れも甲烏賊(こういか)の別名で有り、高浜虚子の『 新歳時記』に『櫻の頃捕れる烏賊を謂う。産卵期に沿岸に近附く者で、櫻の頃はマイカが沢山獲れる。』と有る様に、櫻の季節に 成ると、沿岸の淺場に集まり、海底の藻等に木の実状の卵を産み附ける。花の咲く頃に獲れるので、此の様に情緒の有る名前が附 けられた。

『世界の巨大烏賊(ダイオウイカ)』

歐州で古來有名な海の怪物クラーケンは、專ら巨大な蛸(たこ)、或いは、巨大な烏賊(いか)が其の正体で有ると謂われて居る。 曖昧な記憶や口傳を基に仕た中世迄の巨大烏賊の物語には、船をも襲う物が有るとされて來たが、巨大烏賊が最初に學術的に記録 されたのは1857年の事で有る。

此れは、1853年12月、丁抹(デンマーク)のユトランド海岸に漂着した物で、荷車一杯に成ったと傳えられる生身は、家畜 の餌用に切り刻まれ、其の記録を行った有名な烏賊學者のステンストラップ博士が入手したのは、僅かに鴉(からす)、鳶(とん び)と俗称される顎板(がくばん)丈で有った。併し、其れ丈でも、長さ11.4糎、高さ8.2糎も有り、同博士に依りアーキ トゥチス・モナクスと命名された。モナクスは帝王を意味し、日本名のダイオウイカは此れに由來して居る。

其の4年後、シェトランド西岸に漂着した同一種は、外套膜(胴部)と頭部を合計した長さは2.13米、長い触腕を含めた全長 は7.01米有った。此れが其の全貌が學術的に記録された最初で有る。

1861年11月3日には、仏蘭西(フランス)船のアルクトン号が、11尾の巨大烏賊がカナリア諸島の沖合120浬の處を泳 いで居るのを發見し、砲撃を加え、更に銛(もり)で捕獲し様と試みたが、重過ぎて船に取り込む事が出來なかったと謂う。此の 時の烏賊は、外套膜の長さが4.57乃至5.48米、触腕以外の腕の長さは1.52乃至1.83米有ったと傳えられる。

ダイオウイカの類は、巨大過ぎて、科學者が其の全体を保存し、詳細に細部に亘り研究する事は困難で有る。全身標本に遭遇した 場合でも、其の運搬、保存が容易では無く、一應の想定値が得られれば良い方で、研究者が入手出來るのは精々顎板や腕の一部等 に限られて居た。此の爲、前述のモナクスを初めと仕て、幾つもの標本に夫々れ異なる學名が附けられて學會に報告されて居るが、 世界中に何種居るのか正確な處は判明して居ない。猶、ダイオウイカとは、日本近海にサンするアーキトゥチス・マルテンシと謂 う種に對して附けられた日本名で有り、大西洋や南氷洋等の巨大烏賊をもダイオウイカと呼ぶのは厳密に謂えば正しく無い。

此れ迄に、科學者の手に依り全身が測定されたのは、1878年11月22日、加奈陀(カナダ)のニューファンドランドのシン プルチックル灣に漂着した物で、外套膜と頭部を合計した長さが6.6米、触腕と思われる最長腕の長さが11.5米有ったと謂 う。ニューファンドランドは海流と地形の關係からか、ダイオウイカ類の漂着が多く、時には生存して居る個体が漁網に懸かる事 が有る。大西洋では、此の他に、バハマで捕獲された全長14.32米の物、西班牙(スペイン)北西で捕獲された全長9.5米 (重量256瓩)の物、葡萄牙(ポルトガル)沖で捕獲された全長8.2米(重量207瓩)の物等が有り、華盛頓(ワシントン) のスミソニアン博物館には、1980年にマサチューセッツ州プラム島の海岸に漂着した全長約10米の巨大烏賊の実物標本が展 示して有る。

南氷洋の捕鯨が盛んな頃は、烏賊を好んで捕食するマッコウクジラの胃の中から、丸呑みされた烏賊が出現する事が有り、其の當 時の記録冩眞を觀ると、人間の脊丈の二倍は有りそうな巨大烏賊數尾が、捕鯨母船の甲板に横たえられて居た。マッコウクジラは、 捕鯨砲で撃たれると苦悶の餘り烏賊を吐出する事が有るが、1952年6月に、英吉利(イギリス)のリー博士とマウル博士が実 見した鯨から吐出された烏賊は全長10米(重量150瓩)、亦、クラーク博士が実測した物は全長10.5米(重量382.5 瓩)有ったと謂う。

南氷洋と接するニュージーランドにもダイオウイカ類の漂着が多く、此の海域では、1887年に10月に發見された全長17. 3米と謂うのが最大と思われる。猶、此の海域の種にはアーキトゥチス・カーキとかアーキトゥチス・ロンギマヌスとか命名され て居るが、前述した様な事情で統一した分類學的研究が行われて居ない爲、本当に異種で有るのか判明して居ない。
日本で最初に記録されたダイオウイカは、1880年の外套膜の長さが1.86米と0.76米の物で、次いで1889年に千葉 縣館山沖で漁船に捕獲された外套膜の長さが0.72米の物で有る。日本の太平洋沿岸に於けるダイオウイカの漂着は餘り多く無 いが、千葉縣外房での外套膜の長さが2.93米の物、神奈川縣横須賀港内での外套膜の長さが0.55米の物が代表的で有る。 亦、1980年5月に小笠原南島に漂着した外套膜の長さが2米(全長4米、重量151.6瓩)の物が日本近海産と仕ては最大 級で有ると思われる。日本に於けるダイオウイカの漂着は、寧ろ日本海沿岸に多い。併し、此れを追跡調査した報告は殘念乍ら無 い。新潟大學の本間義治教授等が収集した佐渡から新潟縣沿岸の漂着記録には、1982年に能生に漂着した全長3.98米(重 量120瓩)の冩眞が掲載されて居る。

ダイオウイカが棲息する水深は正確には判明して居ないが、色々な根拠から、水深200乃至600米と思われる。然うすると、 日本海沿岸に漂着するダイオウイカは、日本海に棲息して居る物とは謂え無く成る。何故なら、正常なダイオウイカが、水深20 0米いせん以淺の對馬海峡を越えて日本海に進入して來るのは不自然だからで有る。寧ろ、ダイオウイカの棲息域は水深の遙かに 深い太平洋に在り、偶々(たまたま)生気を失い、浮沈の制御力を喪失した半死半生のダイオウイカが、對馬暖流で太平洋から日 本海に搬入された物が漂着したと考える方が自然で有る。

巨大なダイオウイカも、稚仔の時は小さく、此れ迄に記録された最小の標本は、1963年に知里(チリ)沖で調査船照洋丸に依 り採集された外套膜の長さが45粍の物で有る。

猶、ダイオウイカ類は、其の外見から、マッコウクジラと死鬪を演じる程の強い力を持つと思われて居るが、此の巨体を海中で保 持するには、塩化アンモニウム液に依る浮力に頼るしか無い。從って、実際には、ダイオウイカの筋肉は脆弱で、マッコウクジラ と鬪う事等到底出來ず、只一方的に捕食されて居る丈と思われる。ギネス・ブックの動物編には、1941年にフリータウン沖で 獨逸(ドイツ)潜水艦に撃沈された英軍輸送船ブリタニア号の生存者11人が筏(いかだ)で漂流中、其の一人が巨大烏賊に海中 に引き込まれたと有るが、果たして筏に乘った人間を、腕を海上に擧げて捕らえ、海中に引き込む力が有るかは疑問で有る。 圖版

『世界の巨大烏賊(ニュウドウイカ)』

オホーツク海等の寒冷な北太平洋周邊に外套膜の長さが1.5乃至2米に成る巨大烏賊ニュウドウイカが棲息して居る。ダイオウ イカより肉厚な烏賊で有るが、此の烏賊も、ダイオウイカ同様、巨体を海中で保持する爲の浮力を得る爲に多量の塩化アンモニウ ム液を肉内に含む烏賊で、北洋のトロール網にも屡々(しばしば)懸かるが商品には成ら無い。日本名はニュウドウイカと謂うが、 學術名はモロトゥチスと謂い、『死者の烏賊』と謂う意味で有る。如何にも其の皮膚の艷の無さを表した名前で有る。此の烏賊は、 稚仔の時は温暖海域の表層附近に棲息するが、成長すると、寒冷海域の深處に棲息すると思われ、マッコウクジラに大量に捕食さ れて居る。 圖版

『太平洋の大型烏賊(アメリカオオアカイカ)』

北米西岸から南米太平洋岸に懸けて、ジャンボ・スクィッドと俗称される大型烏賊が棲息して居る。此れは、アメリカオオアカイ カと謂う種で、其の名前の通り日本近海のアカイカ(通称ムラサキイカ)に近い種で、外套膜の長さが80糎位に成る。此の烏賊 は、ダイオウイカやニュウドウイカの様な脆弱な烏賊では無く、筋肉に富んだ種で有るが、矢張り大型種の特徴として、肉内に塩 化アンモニウム液を含んで居る。併し、加工技術が發達しアンモニア臭を除去する事に成功した現在、ダイオウイカやニュウドウ イカとは異なり筋肉質の烏賊で食用に供する事が出來る爲、商品化され、日本の烏賊釣船が此の種をペルー沖で漁獲して居る。

『烏賊の旨味』

烏賊の肉には、魚肉の旨味の素で有るイノシン酸が含まれて居ないにも拘わらず、獨特の旨味が有る。此れはイノシン酸の前段階 のアデニル酸が存在して居て、其れに烏賊肉に少量含まれて居るグルタミン酸が加わり、旨味が相乘的に増加する爲で有ると謂わ れて居る。此のエキス分は、スルメを貯蔵して置くと、表面に白い粉と成り吹き出して來る。從って、此れを白黴(しろかび)と 称して、食する時に洗い流すのは誤りで有る。此の白い粉の組成は、多い順に、

 タウリン      60.3%
 プロリン      16.3%
 アルギニン      7.4%
 グルタミン酸     3.9%
 アラニン       3.3%
 グリシン       2.5%
 セリン        1.4%
 スレオニン      1.2%
 フェニールアラニン  0.8%
 アスパラギン酸    0.7%
 バリン        0.6%

で有る。此の内、プロリン、アルギニン、グルタミン酸、アラニン等は呈味成分で、鯣(するめ)を囓めば囓む程旨い味が出て來 る源で有る。

『烏賊の食品的價値』

烏賊は從來コレステロールが多く、健康食品では無いと謂われて來ました。確かに水産食品の中でコレステロールの含有量は烏賊 が最も多く、次に海老(えび)・蟹(かに)、第三に魚と謂う傾向が認められるが、最近此の點に附いては大幅に見直されて居る。
即ち、烏賊には、血中のコレステロールを抑制するタウリンと謂う物質が多量に含有されて居る事が判明したからで有る。タウリ ンは、コレステロールを抑制する他、中性脂肪を減少させ、血壓を正常に保持し、糖尿病を予防する効果を有する善玉アミノ酸の 最たる者で有るが、食品中のコレステロール1に對してタウリン2以上の者が、血中コレステロールを上げない健康商品で有ると 看做されて居る。

烏賊の場合、此れが2.2乃至3.1で有り、牛肩ロース1.4、豚肉1.1に比較して良い値を示して居る。猶、更に高い値を 示す者には、蛤(はまぐり)14.3、牡蠣(かき)18.4等が有る。

亦、烏賊の蛋白質は約15%で、魚類の20乃至30%に比較すると稍(やや)劣り、亦、アミノ酸も魚類の70%位で有るが、 烏賊の蛋白質は非常に良質で有り、更に、魚類の約半分と謂う低脂肪と相俟って、ダイエット食品として最適の食品で有ると謂う 事が出來る。

『烏賊墨の防腐効果』

烏賊の墨汁の主成分は、セピオメラニンと呼ばれ、塩辛の中に混ぜて所謂『黒造り』とすると、塩分が比較的薄くても、墨汁を加 え無い『白造り』に比較して日持ちが良い處から、烏賊の墨汁には防腐効果が有る事が解る。

『烏賊の提灯(ちょうちん)』

新鮮なスルメイカは、良く觀ると表皮に附いて居る斑點が點滅して居る。此の現象を俗に『烏賊の提灯』と呼び、細胞が未だ生き て居る証拠で有る。透明感が有り、指で彈くと此の現象が現れれば新鮮で有る譯だが、此れ程新鮮な者は産地で無ければ觀られ無 い。

『竜宮の提灯』

富山縣特産の螢烏賊(ほたるいか)が海中で光る、又は、鮮度の良い様を謂う。此の烏賊は、別名『肥烏賊(こいか)』と謂い、 明治の頃には田畑の肥料と仕て、食の對象とは仕無かったと謂うが、現在では珍味として珍重されて居る。猶、螢烏賊は他の烏賊 以上に鮮度が命で有る。

猶、螢烏賊の愛称は『竜宮の使者』で、其の神秘的で可憐な發光の様を謳った俳句に『竜宮の提灯見せよ螢烏賊』が有る。亦、『 竜宮の素麺(そうめん)』は越中名物で螢烏賊の刺身(烏賊素麺)の事で有る。猶、『竜宮の使い』は袖烏賊(そでいか)の事を 謂う。

『富山灣の螢烏賊』

春から夏の初め頃に富山灣に集まって來る螢烏賊(ほたるいか)は、網の中で妖しい光を放ち觀光客の眼を樂しませる。勢い剩っ て陸上に身投げする個体迄有り、其等は儚い光を放ちつつ死に絶える。此の様に螢烏賊の大群の發光を間近に觀る事が出來るのは 滑川(なめりかわ)近くの富山灣に限られ、其の群遊海面が天然記念物に指定されて居る。此れは、産卵群が富山灣の海況と地形 の爲に濃密と成り、岸近くに押し寄せる現象に依る者で有る。

『朝烏賊、夜半(なんどき)烏賊』

烏賊が最も釣れるとされる時間帶。烏賊釣りは、夕刻に落日と共に開始されるが、汐帆(しょっぽ、パラアンカー)も安定し集魚 灯に依り烏賊が群集する夜半前、及び、夜が明け始める薄明時に最も良く釣れる事が多い。一般に釣り用語として使用される『朝 間詰(あさまづ)めに夕間詰(ゆうまづ)め』に同じ。

此等の時間帶に魚が良く釣れるのは、水中の餌が、自國に依り移動するからで有る。生物の食物聯鎖を觀ると、其の基本は植物性 プランクトンで、此れを動物性プランクトンが食べ、其の動物性プランクトンを魚の幼魚が食べ、幼魚を肉食性の小魚や中魚が捕 食し、更に大魚が此等の魚を食べると謂う順序に成って居る。此の出發點に成る植物性プランクトンは、光合成を行う爲、太陽の 光を求めて水面近くに在るが、此れを食べる動物性プランクトンは、太陽の光を嫌う。其の爲、日中は可成り海の深くに沈んで居 て、光が弱い時刻を見計らって浮上して來る。其れが日の出、日の入りの時と謂う譯で有る。此の動物性プランクトンを追い、幼 魚や小魚類も水面近く迄浮上し、更に中型魚や大型魚も餌を追って釣絲の届く處迄上昇して來るので有る。曇天や雨天が釣りに良 いとされるのも同じ理由で、太陽光線が弱い爲、日中も動物性プランクトンが海面近く迄浮上するので、魚も海中から上昇して來 るからで有る。

『イカサマ』

釣りは通常餌を附けた鉤で釣るが、烏賊の場合は、疑似針を使用して釣る。餌要らずで釣れる烏賊は烏賊様々(さまさま)で有る 爲に、此の様に騙して取る事をイカサマと称すと謂われて居る。亦、烏賊の墨で書いた証文は一年經つと字が消えて仕舞うからと 謂うのが語源で有るとも謂われて居る。併し、状態・方法等に附いて疑問の意を表す『如何様』が本來の語源で有ろう。
猶、『甲子夜話』にも、烏賊の墨汁で証文を書いて、數年經つと紙から字が消えるので『イカさまだ!』と騙される話が有る。併 し、実驗の結果、一年經っても字が消えると謂う事は無い。直射日光に晒して置けば何う成るかは解ら無いが、烏賊墨で書いた文 字は拾年を經ても消えて居ない。

『烏賊漁師』

貧乏の代名詞。其の昔、烏賊漁業は零細で、雇われる『乘り子』(漁師)は零細以下の状態で有った。更に、漁の好不漁で賃金が 變動し生活も不安定で有った爲、此の様な語が生まれた。

『師走の貧乏烏賊』

陰暦12月の烏賊は、小さくて味が落ちるので、和歌山地方では此の様に謂う。逆に、晩春から初夏に漁獲される鯣烏賊(するめ いか)の子供で有る麥烏賊(むぎいか)は味が良く珍重される。

『梅雨時に雨の多い年は蛸、烏賊が少ない』

一般に、蛸、烏賊が孵化するのは春で、梅雨に雨が多い年は、海水の塩分濃度が薄れ、稚蛸、稚烏賊が死に不漁と成る事が多い。 他の魚では、『梅雨時に雨が多ければ好漁』とか『水害の有る歳は鰯(いわし)の豐漁』と謂う様に、豐漁に恵まれる事が多いが、蛸と烏賊は 例外で有る。

『日田の紅烏賊(べにいか)』

大分縣日田地方は、山間の都市で海から遠く離れて居る爲、輸送の途中で鮮度が低下し色が赤く變色して到着したので、此の様に 謂う。『飛騨鰤(ひだぶり)』に同じ。最近では保冷輸送等が發達し最早死語で有る。

『竜涎香(りゅうぜんこう)』

烏賊が鯨や鳥や鮪に丸呑みされても、最後迄消化され無いのは口球内に在る鳥の嘴(くちばし)に似た顎板丈で有る。マッコウク ジラの腹の中には、長年に亘り蓄積された烏賊の顎板が何萬箇も見附かる事が有るが、此れが、同じ重さの金と同じ價値が有ると される『竜涎香』と呼ばれる香料の元で有る。

『烏賊の刺身』

日本では鎌倉時代から魚を刺身にして食して居たが、烏賊丈は気味惡いらしく生では食さなかった。大正の時代に成っても食べる 人は少なかったと謂う事なので、矢張り外見の気味惡さよりも傷み易いと謂う事が大きな原因で有った様で有る。

『烏賊の卵』

中國の山東省では、烏賊の卵を入れたスープ『會烏魚蛋(クエイウユタン)』が有り、亦、日本でも時折抱卵烏賊が販賣されて居 る事も有るが、烏賊の卵を鱈子(たらこ)の様に卵巣の形で販賣される事は殆ど無い。嘗てアルゼンチンイレックスが豐漁の時に、 烏賊子と称して販賣された事も有るが、餘り普及は仕て居ない。併し、醤油漬に仕て食すと、結構珍味で有る。

『烏賊の寄生虫』

烏賊の精子は、精莢(せいきょう)と呼ばれる容噐に収納されて居り、發条状体(ばねじょうたい)と呼ばれる発射装置の末端に 外部から刺激を與えると射出される。此の機能は、烏賊の死後も或る程度の期間は生きて居る爲、新鮮な烏賊を料理して居る時に、 精子が射出される事が有り、寄生虫と間違えられる事が有る。亦、精莢を貯蔵する精莢嚢が、加工中に破れ、恰も白い寄生虫の束 の様に觀える事が有る。此等は孰れも寄生虫では無いので安心して良い。併し、新鮮な烏賊の精莢や精莢嚢を口に入れると、精子 塊が射出され、舌や頬に刺さり、燒け附く様な痛みを覺える事も有るので注意を要する。尤も、新鮮な烏賊の精莢や精莢嚢を生で 食べる様な人は滅多に居ないと思われる。

亦、生や生干しのアカイカ(通称ムラサキイカ)の外套膜(胴肉)には、不透明な黄色味を帶びた糸状、又は、粒状の發光組織が 網目状に擴散して居り、一部では、寄生虫と思われて居るが、此れも、烏賊が躰色を變化させる爲の發光組織で有り、寄生虫では 無い。

『冷凍烏賊の味覺』

冷凍技術が進歩した今日では、冷凍烏賊と生鮮烏賊の味の優劣を附けられる人は居ない。其の証拠に、或るテレビ番組で數人の食 通に冷凍烏賊と生鮮烏賊の味の目隠し実驗を実施した處、食通達でさえ正確に區別する事は出來なかった。
此れは、烏賊の鮮度を失わ無い急速冷凍の技術が格段に向上した丈で無く、複數の烏賊を四角い塊に冷凍する『ブロック凍結』で は無く、一尾宛分離して冷凍する『一本凍結』の様な手間暇を懸けた方法が用いられると共に、解凍にも烏賊の旨味を逃がさ無い 工夫が普及したからで有る。

要するに、正しく冷凍し解凍した冷凍烏賊は、『朝獲れの烏賊』と同じ様に美味しいのだが、其れにも拘わらず、冷凍烏賊は美味 しく無いと謂う聲が有るのは、賣れ殘った烏賊を再凍結したり、流通過程で半解凍、再凍結を繰り返す内に、烏賊の旨味が抜けて 仕舞う爲で有る。

『切身に依る種の判定』

身が薄くて甘味が有る物は、スルメイカやヤリイカの仲間で、値段が飛び切り高ければアオリイカで有ろうと謂う程度の事は謂え る。併し、寿司屋等では、其の店の考え方も有るので、値段丈で一概に判定する事は出來ない。

食感で判定し易いのは、モンゴウイカとアカイカ(通称ムラサキイカ)の區別で有ろう。孰れも肉厚が1糎位有る烏賊で、刺身や 天麩羅に使用されるが、モンゴウイカの身は厚くても歯の通りが良く食べ易いが、アカイカの場合だと、身の下に硬い皮が有り噛 み切れずに食べ難い。アカイカは、外洋に棲む運動性の高い烏賊で有る爲、外套膜(胴肉)が良く發達して居て、其の内側に硬い 層、謂わば『皮』が有る。此の層は解凍しても火を通しても柔らかく成ら無い。此れに對して、モンゴウイカには、其の様な極端 に硬い層は無く、遙かに緻密な感じが仕て歯触りが良い。併し、アカイカの皮は、生身では剥ぎ辛いが、輕く茹でると比較的簡単 に剥ぐ事が出來るので、此の皮を剥いだアカイカとモンゴウイカの區別は餘程慣れた人で無いと難しい。

『タウリン』

タウリンとは、蛋白質を形成し無いアミノ酸(アミドスルホン酸)の一種で、蛋白質の構成成分では無く、遊離した形で人間の心 臓、脾臓、肺、脳、骨髄、母乳等に廣く分布して居る。タウリンの効用と仕ては、第一に、胆汁酸と結合し、脂肪の吸収を助ける。 第二に、血中コレステロール量や中性脂肪量を低下させる。第三に、コレステロールを原料と仕て出來た胆石の溶解に役立つ。其 他、脳の交感神經の抑制に働き、血壓降下、精神安定、脳卒中の予防、不整脈、心不全にも有効とされて居る。タウリン欠乏症に 陷ると猫は失明し、乳幼児、特に未熟児には必要とされる。タウリンは、動物性食品、特に甲殻類や貝類のエキス、赤味魚の血合 肉や内蔵に多く含まれる。

タウリンが体内で旨く働く爲には、タウリンとコレステロールとの比が大切で有る。鮪脂身(とろ)、雲丹(うに)、甘海老(あ まえび)、鳥獸肉はタウリンを含む者の、コレステロール値が高いので、其の比が低く成る。其の點、貝類、甲殻類、頭足類、魚 血合肉等は其の比が高い。


日本は世界で一番烏賊を食する国で、世界の消費量の約半分にも達すると謂われて居る。淡泊な味と使い勝手の良さから、烏賊は 日本人の食卓に登場する回數が最も多い魚種です。一時、烏賊はコレステロールを高めるとの風評が立ちましたが、全くの濡れ衣 で有り、事実は其の逆で、ふんだんに含まれるタウリンの御陰でコレステロールを低下させる食物で有る事が証明されて居る。亦、 ミネラルや必須アミノ酸が豐富で、更に脂質が少ない爲、ダイエットを志す人にも御勧めの食材です。

『コレステロール』

躰に惡いと盛んに謂われる所爲か、コレステロールは健康の大敵で有るかの様に考えて居る人も少なく無い。併し、コレステロー ルは我々が生命体を維持する上で不可欠の物質でも有るのだ。亦、一口にコレステロールと謂っても、実はHDLコレステロール とLDLコレステロールと謂う二種が有る。前者は、体内で餘ったコレステロールを回収して肝臓に運ぶ役割を果たすのに對して、 後者は、肝臓や小腸で造られたコレステロールを体中へ運ぶ働きをする。解り易く謂えば、HDLとは、血管内を掃除して下れる 善玉コレステロールの事で有り、LDLとは、動脈硬化の原因と成る余剰コレステロールを血管内に殘す惡玉コレステロールの事 で有る。HDLの値が増えれば、血管内は綺麗で細胞膜が弱る事は無い。亦、HDLは、長壽コレステロールと呼ばれる事からも 明らかな様に、其の値が高い人は、一般に長壽だと謂われて居る。逆に、LDLの値が増えると、血管は詰まって、動脈硬化を起 こし易く成るので有る。HDLとLDLの働きの違いからすれば、HDLを増やし、LDLを減らす食生活を心懸ける事が健康維 持の要點で有る事が判る。最も有効な方法と仕ては、先ず、肉や其の加工品の摂取量を減らす事。然して、野菜や豆類、海草を澤 山摂ると共に適度な運動を心懸ける事だと謂う。

『烏賊骨に止血や酸中和作用』

海で獲れる動物性生藥の内、最も使用量が多い物の一に烏賊骨が有る。コウイカの甲骨で、漢方では海ヘ蛸とも謂う。古代中國の 醫書『黄帝内經』には、四烏賊骨一蘆茹(茜草)丸と謂う処方が記載されて居り、今でも無月經等に用いられて居る。

波打ち際で拾った甲骨を粉末に仕て、血止めの藥と仕て使用した經驗の有る人も居るだろう。烏賊骨の主成分・炭酸カルシウムに は止血作用が有る爲、今日では生理過多や不正性器出血の他、鼻血、吐血、血便、血尿、外傷出血、抜歯時の出血等に幅廣く用い られて居る。細かく砕いて服用する方法も有れば、外傷出血や鼻血の場合には、烏賊骨の粉末を患部に塗布したり、鼻に吸入する 事で止血出來る。

亦、烏賊骨には酸を中和する作用が有り、慢性胃炎や胃酸過多に依る胸焼けやゲップ等の症状に有効で有る。更に胃粘膜を保護す る作用も有る爲、局部の血行を改善し、鎮痛作用の有る延胡索(ケシ科エンゴサクの塊莖)との併用で、胃潰瘍に用いられる。烏 賊骨と延胡索の二味から成る製剤に快胃片が有り、日本でも入手出來る。中國では、烏賊骨と貝母(アミガサユリの鱗莖)を組合 わせた烏貝散と謂う處方も有名で、矢張り胃潰瘍に用いる。烏賊骨は、二十年程前から喘息にも應用されて居り、粉末を1回3瓦 程服用すると、良い結果を上げる事が多い。猶、烏賊の肉も墨も藥で、肉は桃仁(モモの種子)と一緒に煮込んで無月經に、墨は 止血薬と仕て月經過多に用いる。

(袁 世華(中國・長春中醫學院教授)讀賣新聞日曜版『漢方漫歩』1996年12月1日)

『セピア色は烏賊の墨の色』

セピア色の思い出等と一寸気取った謂い方する事が有るが、此のセピアとは元々烏賊の墨から作成した繪具の事で有る。烏賊の墨 汁を乾燥させた物をアルカリ液に溶かして製造される。彼の真黒な墨からは想像し難い事で有る。

猶、此のセピア色の語源は、一説では、人の名前。中世の仏蘭西に実在した美しい女性の名前なのだ然うだ。彼女は既婚者で、日 本流に謂えば貞女の鑑だった。夫が十字軍遠征で家を留守にする事に成った時、自分の貞操の證と仕て、見送りの時に着て居た白 いドレスを、夫の歸宅迄着替え無いと固く決心したと謂う。處が當時の仏蘭西では、其れ程入浴の習慣が無かったから、セピアの 躰は何時も清潔と謂う譯には行か無かった。想像して觀て慾しい。殆ど風呂にも入らず、シャワーも浴び無いで、白い服を着續け て居たら何う成るかを。夫が歸國した時、セピアのドレスは、哀れ汗と汚れで茶色に變色して居たのだ。以來、此の女性の變色し たドレスの色を『セピア色』と呼び、貞女振りが長く称えられる事に成ったと謂う事で有る。

『烏賊料理−豆知識』

1. 壺抜した烏賊の中に野菜を詰め込み煮たり揚げたりすると切り口が綺麗で樂しく頂ける。
2. 輪切りに仕た烏賊をトマト、人參、玉葱等の野菜をオリーブ油でサッと炒めてトマトソースで煮れば、地中海風料理に成る(烏賊 は煮過ぎると硬く成るので注意!)。
3. 塩の利き過ぎて居る塩辛は、食べる時々で少量宛小鉢に取り、日本酒を少量加えて味を加減し乍ら食べると良い(日本酒を一遍に 全部の塩辛に加えると、日持ちが仕無く成るので、其の時に食べる分丈に加える)。

『烏賊を表す漢字』

烏賊を示す漢字には、下記の物が有る。此の内、コンピュータの日本語變換で表示されるのは、鯣(JISコード7248)丈で 有る。其他は、外字機能を使用する他は無いが、當然、其の外字が登録されて居ないコンピュータでは表示され無い。此處では、 画像を使用して下記の文字を表示して居るが、常用漢字、人名漢字合わせて2111字の中に魚偏の文字は、鮮、鯛、鯉、鮎、鯨 の5文字丈しか登録されて居ない現実では仕方の無い事と諦める他は無い。

亦、上記の様に漢字一字で烏賊を表す物以外には、此のサイトで通常使用して居る烏賊以外に、烏賊魚、柔魚、含墨、墨含魚、墨 魚、河伯、河伯從事、撰墨將軍、海苔白事小吏、伊加、以加等が有る。猶、河伯從事や小吏と謂うのは海神の秘書や書記と謂う意 味で、烏賊が墨で字を書くと謂う中國の寓話に依る。

『河豚を食べても中たら無い烏賊』

河豚(ふぐ)の毒はテトロドトキシンに依る物で、此れは神經を麻痺させる。人間が河豚の毒に中たると、食べてから廿分乃至四 時間程仕て、口や手先が痺れ、吐き気を催し、軈て躰全体が麻痺状態に陥り、呼吸困難と成って意識が混濁、死に至る。此の毒は、 人間に限らず、河豚を食べた魚の命も奪うが、烏賊は、貝、雲丹(うに)、海星(ひとで)等と共に、河豚の毒に中たら無い。此 れは、此等の動物が神經を持た無い爲、神經毒のテトロドトキシンが効か無いからで有る。

『大漁不漁も天候次第』

漁獲量が海流の影響を強く受ける事は良く知られて居るし、魚種に依っては何年に一度と謂う周期で大發生する物も有る。併し、 陸地の天候も沿岸漁業に大きく影響する。例えば、烏賊は、空梅雨の年は大漁だと謂われる。烏賊は、真水が大の苦手で、船上に 釣り上げた烏賊に雨水が懸かると白く變色したりする程で有る。併し、空梅雨だと、海に流れ込む淡水の量も少なく、烏賊は安心 して沿岸に寄せる事が出來る爲、良く獲れると謂う譯で有る。烏賊の他に、雨が少ない年に大漁が期待出來るのは、蛸(たこ)、 鰹(かつお)、鰤(ぶり)、鰆(さわら)、河豚(ふぐ)、等が有る。

逆に、颱風や豪雪等で降雨量が多い年は、沿岸に真水が大量に流れ込む。真水は海水より比重が小さく海面を覆うので、比較的淺 い處を游ぐ鰹や鰤は沿岸に近付か無く成る。亦、河から流れ込んだ水は、陸から高栄養分を運んで來る爲、プランクトンが大量に 發生して赤潮の原因と成り、魚介類に被害を及ぼす。併し、此の赤潮さえ發生し無ければ、高栄養の恩恵を受ける鰯(いわし)や 黒鯛(くろだい)等の魚許りか、貝類や海苔等の成長が早く成る。天候に左右されるのは、農業丈で無く、漁業も同じなので有る。

『空中を飛翔する水中生物』

海面から飛び出して來たと思えば、滑空する様に空中を移動し、亦水中へ。翅の様に擴げた胸鰭、丸で舵を取るかの様な尾鰭。ト ビウオの姿は、低空飛行する飛行機の様でも有る。確かに仕組みは飛行機と似て居り、トビウオは尾鰭で海水を蹴って推進力を得 ると、胸鰭を翼の代わりにし、空中に浮いて居る間は尾鰭の下葉で更成る推力を得て居る。

幾ら海が廣大と雖も、トビウオの様に空中を飛翔する海洋生物は居ないと思われ勝ちだが、他にも居るので有る。其れが烏賊。名 前も同じ様にトビイカと謂う。アカイカ科の烏賊で有り、御馴染みのスルメイカの仲間で有る。飛ぶとは謂え、滅多に觀られる光 景では無い。海面から一米位の處を空中飛行すると謂われて居る。嘗て發表された動物冩眞家が決定的瞬間を撮影した物を觀ると、 耳と呼ばれる鰭の部分を擴げ、十本有る脚の内の長い二本(触腕)を擴げて飛んで居る。此れもトビウオと同様に、鰭と腕を飛行 機の主翼と尾翼の様に使用して居る様に觀える。

『烏賊の數え方』

普通魚を數える時は匹(ひき)や尾(び)を用いるが、烏賊や蛸の場合は杯(はい)を用いる。勿論、烏賊や蛸に對しても、匹や 尾を用いる事も多いが、其の形状から考えても、正確には杯を用いるのが正しい。猶、鮪(まぐろ)や旗魚(かじき)等の大型魚 の場合は本(ほん)、白魚(しらうお)や細魚(さより)等の細長い魚の場合は条(じょう)、鰈(かれい)や平目(ひらめ)や 鯣(するめ)等の平たい魚の場合は枚(まい)、鯨(くじら)の場合は頭(とう)、貝類の場合は貝(ばい)と謂う數え方をする。

亦、鮭(さけ)や鰊(にしん)の取引には石(こく)が用いられた事が有り、鯣や身開魚等は拾枚で一聯(いちれん)、鰊は二百 尾で一束(いっそく)、海苔(のり)は拾枚で一帖(いちじょう)と數える。

『烏賊の頭は何處に在る』

烏賊の頭は、通称耳と呼ばれる鰭(ひれ)の附いた三角部分だと勘違いして居る人も多い。併し、其の部分には内蔵が入って居る ので、胴に當たる。其れでは、頭は何處かと謂えば、足の附け根の部分で、此處には眼や口が有るからで有る。烏賊は、頭足類十 腕目と謂い、頭から直接足が附いて居る事から此の様に呼ばれて居る。

猶、烏賊の足は、正確には腕と呼ぶ方が相応しいのかも知れ無い。因みに、普通烏賊は、拾本脚の内八本は躰より短いが、二本は 非常に長く、此れを触腕と謂い、餌を捕獲するのに役立って居る。

亦、烏賊が水中で游ぐのは、脚の動きに依るよりも、躰を伸縮させて腹の管(漏斗と謂う)から水を吹き出す勢いに依って居る。 此の管の向きを變える事で、前後左右孰れへも自由自在に泳げるので有る。

『烏賊は色を認識出來るのか』

蛸釣でも然うで有るが、得て仕て漁師は、烏賊が『赤い物(母ちゃんの腰巻きが一番良い)』と信じて疑わ無いが、最近の研究に 依ると、烏賊も蛸も、形の認識は或る程度出來ても、色彩の識別は出來ないと謂うのが定説と成って居る。烏賊は、腰巻きの赤色 に惹き附けられるのでは無く、ヒラヒラした布の動きで良く釣れるのかも知れ無い。

併し、其の反論も有る。つくば市に有る電子技術綜合研究所の松本元博士や日本歯科大学の斎藤忠義教授は、夫々れ神經生理実驗 用の動物と仕て烏賊を飼う必要に迫られて居るが、生餌を入手するのが困難なので、止む無く淡水魚の金魚を與えて、烏賊を長生 きさせて居る。處が、烏賊は赤い金魚丈を選択して喰い、黒色や白色の金魚は喰い殘すと謂う。此れは、烏賊が色を識別出來ない と謂う定説を覆す物で有るかも知れ無い。併し、此れも反射の問題では無いかと謂う説も有り、結局烏賊が色を識別出來るか出來 ないかは、烏賊に成って觀なければ判ら無いのかも知れ無い。

『烏賊の天敵』

烏賊は狩猟者と仕て海の食物聯鎖の中でも高い位置に在る。併し乍、世の中上には上が居て、烏賊は大型の魚類や鳥類、海獸類等 多くの動物に喰われて居る。更に、烏賊を食べる動物には人間も居る。

魚類では、鮪(まぐろ)や水魚(ヨロ)の様な大型の魚が烏賊を好む。元々鮪延縄漁船の漁師は、漁場に到着する前に、釣餌用に 烏賊を釣獲して居た者で有る。鮪延縄に懸かって來る水魚と謂う魚は、大きな口と鋭い歯を持って居て、魚も烏賊も丸呑みにする。 海洋生物學者から觀ると、烏賊の様に遊泳力の強い物は、調査船で曳く採集用の網は避けて仕舞うし、釣漁では大きい物しか採捕 出來ない爲、適當な採集道具(サンプラー)が無いので有るが、水魚等は然う謂う意味で、実に適當な採集道具と成る。例えば、 嘗て東海大學の久保田正教授が駿河灣の沿岸に打ち上げられたり刺網で捕らえられたり仕た水魚を採集し、胃袋の中の烏賊を調べ た處、約140尾の水魚から11科15種の烏賊が出て來たし、亦、東京水産大學の藤田清博士が集めて居た熱帶印度洋・太平洋 の鮪延縄に懸かって來た水魚150尾分の胃からは、10科27種もの烏賊が見附かったので有る。

海鳥も烏賊が好きで、北太平洋のウミガラスやフルマカモメ、アホウドリの類も澤山食べて居る。鳥類は鳥目で夜間は視力が弱い と謂われ、烏賊は何方かと謂えば夜間で無いと表層に出て來ないので有るが、何處に鳥類と烏賊の接點が有るのかと思われる。

南氷洋のペンギンも烏賊を食べて居る。南氷洋と謂えば、王者マッコウクジラの主食は烏賊で、オキアミを喰う髭鯨類とは食物の 上で全く竸合し無い。マッコウクジラ以外でも歯鯨類の多くは烏賊を好んで喰い、イルカやゴンドウクジラ烏賊の群を追って岸近 く迄來る事も知られて居る。

併し、何と謂ってもマッコウクジラの烏賊の消費量は抜群で有る。マッコウクジラの胃から出て來る烏賊は長年月に亘って研究さ れて居り、其れに依ると、マッコウクジラの捕食品目の中には14科約50種の烏賊が見附かる。捕鯨砲で撃たれたマッコウクジ ラが苦悶の餘り吐き出したダイオウイカには、全長10米と謂う可成り大きい物が有るから、マッコウクジラに取って可成り重要 な食物に違い無いが、喰われた烏賊の數から觀れば、南氷洋ではニュウドウイカ類が最も重要な物で有る。同じマッコウクジラの 食物でも、北太平洋ではテカギイカ科、大西洋ではクラゲイカ科が壓倒的で有るので、此れはマッコウクジラの嗜好の問題では無 く、夫々れの海域に棲息する大型烏賊類の多少を反映して居る物と思われる。

歯鯨類の他、海獸類も烏賊が大好物で、オットセイは其の代表で有る。一時オットセイ保護の國際条約との關係で、其の生物學的 研究が非常に詳しく行われたが、此の頃の資料から觀ると、日本近海に來るオットセイは、随分澤山のスルメイカ、ホタルイカの 他、タコイカ等も食べて居る。

烏賊の天敵の研究は、單に海の中の喰う喰われるの關係の興味から丈では無い。此れからの人口増加を支えて行く蛋白資源と仕て 觀た場合、烏賊は最も重要な動物と目されて居る。一例を示すならば、英國のクラーク博士は、南氷洋で消費される烏賊の量を、 歯鯨類が約1200萬屯、髭鯨類が200萬屯、アザラシ等の海獸類が700萬屯、アホウドリやペンギン等の鳥類が1400萬 屯、合計約3500萬屯と計算して居る事等を觀れば明らかで有る。

『烏賊の捕食品目』

烏賊は、自分自身の躰に比較して可成り大きい物を果敢に襲う。アオリイカの子供等は、遙かに大きなムギイワシを襲い、反對に 振り廻されて居る光景等も觀る事が出來る。

スルメイカが、イワシを捕食する處を觀察すると、触腕で捕らえて腕の中に抱き込むと、鴉(からす)鳶(とんび)と称呼される 上下の顎板で頭を千切り落とし、柔らかい身丈を、恰も人間が玉蜀黍(とうもろこし)を食べる要領で食べ、芯に相當する脊骨や 口に障る尾等は棄てる。イワシを食べ易い様に、拾本の腕を動員して持ち替え、或いは、順送りにする噐用さには眼を見張る物が 有る。

併し、集魚灯の許で觀察すると、スルメイカは、ハダカイワシの様な小さい魚は丸毎食べる。其の爲、烏賊の胃の中からは小魚の 脊骨や鱗や耳石も出て來る。イワシ位に成ると、骨や頭は硬過ぎて食べられ無いので有ろう。
或る水産試驗場の技師が、三陸沖の海底からトロール網で捕獲されるエゾイソアイナメと謂う底魚がイワシの頭許りを鱈腹食して 居る事を不思議に感じて居たが、其處が、スルメイカがイワシを大量に捕食して居る『大宴會場』の眞下で有る事を知り、納得し たと謂う嘘の様な本当の話も有る。

スルメイカは、魚も食べるが、何方かと謂えば小型の甲殻類の方を好む様で有る。日本海ではパラテミストと謂う端脚類(池に棲 むヨコエビや海浜で跳び跳ねて居るハマトビムシ等を含む小型の甲殻類)を專ら食べる。烏賊の大きさが20乃至30糎なのに、 体長5乃至6粍のパラテミストを何の様に大量に捕食するのか判ら無いが、其れを飽食出來るから、日本海のスルメイカは、他の 處の烏賊より大きいと謂う説を爲す人も居る。亦、三陸沖のスルメイカは、パラテミストも捕食して居るが、甲殻類では此の地方 でイサダと称呼されて居るツノナシオキアミを主体と仕て居る。

日本海での調査に依ると、一番の大喰い烏賊は、共喰いを仕た個体で、多い時には、何と体重の五分の一に當たる烏賊を共喰い仕 て居たと謂う事例も有る。猶、スルメイカが一番食慾が有るのは、日没直後の所謂『夕まずめ』の時間帶で有る様だが、昼間でも 眞夜中でも餌を食べて居る証拠も有る。

『海の狩猟者』

烏賊の捕食品目を觀ると、烏賊は徹底した肉食者で腕の良い狩猟者で有る。海底近くに棲息するコウイカ等は、蝦(えび)や蟹( かに)や小魚を好む。

烏賊が良い眼を有して居る事は良く知られて居るが、其の眼の良さは、餌を攻撃する時に本領を發揮する。コウイカは、普段游い で居る時は、腕を揃えて流線型を仕て居るが、餌を觀る時は、腕を下に下げる。然うすると、前方に腕と謂う邪魔物が無く成るの で、兩眼に依り立体的視野を得る事が出來る。

然して、躰を真直ぐに餌の方に向け(アテンション)、適切な距離に近附いてから(ポジショニング)、触腕を伸ばして餌を捕ら える(アタック)。觀て居ると、餌を見附けてポジショニングした時は、触腕を第三腕と第四腕の間に有る窪窩(ポケット)から 出して少し伸ばし懸けて居る。同時に第一腕を恰も昆虫か蝦の触角の様に伸ばすが、恐らく此れに餌の注意を惹き附けるので有ろ う。餌との距離の測定は正確を極め、触腕の繰り出しは眼にも止まらぬ速さで、而も百發百中で、絶對に逃がさ無い。

烏賊の餌の捕食は、他の無脊椎動物の様に臭覺や触覺で行うのでは無く、視覺に頼って居る爲、硝子(ガラス)の噐の中に餌を入 れても同様の攻撃を行う。コウイカを使用した実驗では、素早く伸ばした触腕が硝子に衝突し、餌を捕獲出來ない許りか、痛感を 覺える爲、何度か遣る裡に、此の餌は獲れ無いと謂う事を學習し、攻撃し無く成る。

触腕は、コウイカの場合、粗平行な狭い環(ループ)を作るが、多くの烏賊では、左右の手首に相當する部分を接着させ、掌に相 當する先端部をペンチの様な恰好に擴げて、餌を掴まえる。ホタルイカやツメイカの触腕を觀ると、触腕の手首に相當する部分に は、左右で吸盤が凸と凹が逆に成って居る固着噐と呼ばれる装置が在る。

餌は吸盤内に在る鋸歯状の角質環で聢り掴まれ、更に触腕が餌を捕らえて縮むと、他の八本の腕も應援して餌を掴む。ツメイカの 様に吸盤が鉤爪に變形して居る物等に、柔らかい躰の餌が一度掴まれたら、最早逃げる事は出來ない。

活溌に游ぎ廻る烏賊は、此の様に徹底した狩猟者で、肉を喰い千切る猛獣に等しいが、中層に棲息するムチイカやユウレイイカは、 素早い餌物を追跡攻撃する程の筋肉を有して居ない。此等の烏賊の触腕には微小な吸盤が密生して居るが、此れを使用して、極端 に謂えばモウセンゴケの様に、吸盤に觸れる微小な餌を粘着させて捕らえると謂う極めて怠惰な捕食法を採る様で有る。

亦、深海に棲息するトグロコウイカは、歯舌を持た無い唯一の烏賊で有る。物の本に依れば、此の烏賊は、發達した唇で餌を『舐 める』と記載されて居るが、一体何の様な食事をするのか謎で有る。

『烏賊釣りの知恵』

烏賊は水族館等で馴らさ無い限り生きた餌しか食べ無い。其の爲、昔の烏賊釣りは『天秤(てんびん)』と称して、擬餌を水中で 跳ねる様に仕て操り、烏賊を誘った物で有る。亦、烏賊が視覺に依り餌を掴む事を認知して居た漁師は、烏賊の好む色や形に工夫 を凝らし、アオリイカを主對象とする九州の擬餌は『薩摩餌木(さつまえぎ)』と謂い、一種の藝術品にすら成って居て、其の總 てを収録した原色圖譜が出版されて居る程で有る。

此れに對して現代の烏賊釣りは、遠隔操作に依るロボット運転で、船頭(漁撈長)一人で何拾臺もの自動烏賊釣機を操るのだが、 『蜻蛉(とんぼ)』と呼ばれる擬餌鉤を只上下させる丈では懸かりが惡い。其處で水中の擬餌鉤を魚に見せ掛ける爲の『しゃくり』 と呼ばれる不規則な上下の跳躍運動を自動烏賊釣機に組み込んだのが、成功の秘密で有る。現在使用されて居る自動烏賊釣機では、 何本もの擬餌鉤を聨結した釣絲を巻き上げる『太鼓』や『ドラム』と呼ばれる巻取機(リール)は、菱形に近い楕円形を仕て居る が、此れは同じ巻揚速度でも微弱な『しゃくり』を附ける爲の工夫で有り、亦、コンピュータ制御に依り巻揚速度其の物を様々に 變化させる事も出來る。

擬餌鉤其の物にも色々と工夫が爲されて居る。薩摩餌木程では無いに仕ても、當初は單に赤や鉛色の物位で有ったが、次第に白、 緑、黄色、縞模様と種類が豐富に成って居る。最近の擬餌鉤では、魚の鱗の様に光彩を反射する物、發光生物に様に光を放つ物、 更には『オッパイ鉤』と呼ばれる柔らかい素地で作られ、中空で小孔が有る爲に水中から出没する際に気泡が生じて魚群が存在す るかの様に烏賊を欺く物等、漁師と烏賊の知恵比べは益々熾烈に成って來て居る。

『烏賊の貝殻』

軟体動物には、躰に骨が無い代わりに、大きくて硬く重い貝殻を持つ種類と、全く持た無い種類が有る。游げ無い軟体動物、即ち 貝類は、敵に襲われた時の防御策と仕て硬い貝殻を授かった。然して、砂の中に逃げる事が出來る貝類が二枚貝で、逃げられ無い 代わりに岩礁等の蔭に隠れ敵も歯が立た無い様な厚くて硬い貝殻を持つのが巻貝で有る。反面、游ぐ事が出來て敵から逃げる事が 出來る様に成った爲、硬く重い貝殻が必要では無く成った軟体動物が烏賊、蛸で有る。孰れも身を衞る方法に基因して居り、遠い 昔の或る時期に、同じ軟体動物の貝殻を有する構成員が二分岐したので有る。

烏賊や蛸は、海と謂う環境を自由に游いで、敵から身を衞る爲、貝殻を造成する遺伝子を消滅させて仕舞い、柔らかい組織を造り 出す遺伝子を得たので有る。然して、貝殻を造成する時に炭酸カルシウムを分泌する外套膜を、烏賊や蛸では、身を保護する胴に 變えて仕舞ったので有る。同時に、烏賊や蛸は、護身用の貝殻を造り出す代わりに、眼と謂う物を識別する噐官を手に入れた。貝 類にも眼が有るが、此れは外套膜に在る原始的な感光性の細胞と同じ物で、此れが進化して彼の烏賊や蛸の目に成ったと謂われて 居る。

烏賊や蛸の眼は、地球上の動物の眼より人間の眼に最も近い優れた物で、物の識別が出來、色、物体を識別する事が出來るし、眼 を濳望鏡の様に出し入れ仕て對象物に焦點を合わせて見分けられると謂う。具体的な例は、烏賊が餌生物に接近し距離(触腕を伸 長した時に其れを捕捉出來る範囲)を正確に計測出來る事で、失敗の無い確度の高い摂餌技術を有して居る。

多くの無脊椎動物は、敵を感知するのに『匂い』や『味』と謂う化學的刺激に頼り、触角で相手に觸れる物理的認知に拠って居る。 處が、烏賊や蛸は、優れた眼で物を正しく識別して居る處に並々成らぬ精度の高い眼で有る事が伺える。

烏賊や蛸は、貝殻の代わりに眼を得て、海中を游ぎ廻って居る。重い貝殻を附けて居ては其れが出來ないからで有るが、甲烏賊の 仲間は海中を游ぐ爲の噐官を殘して居る。其れが貝殻の變化した『烏賊の甲』(槍烏賊の仲間では軟甲)で、化石のアンモナイト やオウムガイ類の動物が、烏賊や蛸が貝殻を有して居た太古の時代の姿と考えられ無くも無い。

オウムガイ類から烏賊や蛸が進化した動物と思われる名殘は、オウムガイの貝殻は螺旋形の殻で幾つもの室が有る。甲烏賊の甲を 觀ると、内側の柔らかい疎の部分が多室で、而も石灰質の物と仕て殘って居る。此等からも貝殻の名殘で有り、甲烏賊類が海中を 自由に游ぐと同時に浮力を得る爲に貝殻を變化させた進化の跡と謂え然うで有る。

『烏賊の墨と蛸の墨』

生物は、弱肉強食の世界の中で生きて居る。併し、弱者許りが損をし、強者丈が得を仕て居るかと謂えば、然うでも無い様で有る。 強者にも弱い處が有り、所謂天敵が存在する。其れで居て初めて生態系にピラミッド型の安定した姿が出來るので無いだろうか。

烏賊や蛸は、元々自身を衞る爲に貝殻を有し、躰を保護し、敵からの攻撃に備えて居た。併し、不便なのか、或る時代に此の貝殻 を脱ぐ事に仕た。創造の神は気を利かして、躰を衞る貝殻を脱ぐ代わりに、其れに耐え得る物を彼等に與えた。蛸には匍匐行動と ジェット噴射装置を、烏賊には游ぐ事の出來る鰭とジェット噴射装置を與え、共に一旦緩急有れば超高速で逃避出來る様に仕て遣 った。然して、更に兩者に敵を煙に巻く爲の墨汁を贈呈したので有る。

烏賊や蛸は、生きる爲に敵に對する防御態勢と仕て墨汁を有して居る。此れは、敵に襲われた時に、相手を煙に巻く常套手段と仕 た武噐なので有る。蛸は、肛門の處に墨汁嚢(墨袋)の口が開いて居て、緊急時には括約筋が開いて墨汁が漏斗から噴き出す仕掛 けに成って居る。烏賊も同様の機能が肝臓の腹面に有り、出口は漏斗に開口して居る。括約筋の意志的活動に依り噴出される様に 成って居るのは兩者に共通して居る。

噴出される烏賊や蛸の墨汁の成分は、セピオメラニンと呼ばれるメラニンの一種で、烏賊の墨汁には、此のセピオメラニンがマグ ネシウムやカリウムが附いた塩類化合物と成って居て、粘り気が有る爲、海中では直ぐに霧散する事無く塊状と成って存在する。 此の吐き出された墨の塊は多分に烏賊の姿に觀える處から、外敵に襲われた時のダミー効果で有ろうと思われて居る。一方、蛸の 墨汁の成分は、烏賊と同じセピオメラニンでアミノ酸の一種のチロシンが酸化酵素に依り酸化して出來た物で、墨汁の中に天敵を 麻痺させる特殊な成分が含まれて居る。敵に襲われると、思い切り天敵に向けて墨汁を吐き、煙幕状に仕て、自身は逃避して仕舞 うと謂う譯で有る。惡い事に執拗な敵に出逢うと、墨汁を吐き續けて邊り一面を暗黒に仕て仕舞い、墨汁が空に成る事も有ると謂 う。處が、此の補給は、躰を三十分間も休めれば、墨汁嚢は滿たされると謂うから、天敵から逃れる手段は盤石で有ると謂える。

『烏賊や蛸が健康に良い理由』

烏賊や蛸を一括して軟体動物と謂う。躰が柔らかく骨が無いからで有る。日本人が烏賊や蛸を食べた歴史は非常に古く、大阪地區 から弥生時代中後期の遺跡に蛸壺が出土して居て、蛸を漁獲し、食べて居た事が伺われる。

烏賊や蛸は、惡魔の魚(デビルフィッシュ)と仕て西歐では嫌われて居る。併し、日本人同様に良く食べる國民も有る。即ち地中 海沿岸の國々の國民が然うで有る。烏賊や蛸を食べ無い國民は、ユダヤ教やイスラム教の宗教圏の國民に多い。宗教的な物に起因 して居るとも謂われる。

烏賊と蛸は孰れも、多くの種類が廣く世界に分布して居る。日本の主たる蛸は、今の處アフリカ北西部の海域で漁獲されて居る眞 蛸(マダコ)系の蛸が輸入されて居り、其の主な用途は、酢蛸や茹蛸で、關西方面では蛸燒の具と仕ても利用されて居る。亦、烏 賊は、副食と仕て各種の料理に使用されて居り、或る調査に依ると、家庭で良く食べる魚介類の中で、青魚に次いで七位に位置附 けられて居る。

烏賊の旨味は、旨味の筆頭成分で有るイノシン酸では無く、分解過程のイノシン酸の一歩手前のアデノシン一燐酸(AMP)と謂 う成分が多く、其れにグルタミン酸が相乘して旨味を出して居る。榮養學的には良質の蛋白質を含み、低カロリーで有る處がダイ エット食品と仕ての價値を高めて居る。

水分は、烏賊が82%、蛸で81%で、魚の約65%に比較して多い。其の代わり、蛋白質は、良質では有るが、烏賊で15%位、 蛸で16乃至17%と、魚の20乃至30%に比較して少ない。

烏賊や蛸で最も決定的な榮養素はタウリンで有る。タウリンは含硫アミノ酸の一種で、高血壓や脳卒中の原因と成る血液中のコレ ステロールを下げる働きが有る事で注目されて居る。烏賊や蛸はコレステロールが非常に高いと心配されるが、タウリンの量が多 く、而もコレステロール値を低下させる事が判明した爲、急激に話題を撒いた成分で有る。

タウリンを含む食品の評價は、タウリンとコレステロールの比率(TC比)を求め、此の値が2以上なら、、假令コレステロール が多くても、其れを減少させる丈の効果が有るタウリンが含まれて居る事に成り、コレステロールの心配を仕無くても良い事に成 る。

例えば、食肉の代表で有る牛肩ロースではTC比が0.8、豚肩ロースで0.6で、兩者共、タウリンよりもコレステロールが多 い。併し、海産物と成ると、鯣烏賊(スルメイカ)で2.2、眞蛸(マダコ)で5.6と孰れも2以上で有り、タウリンが多い爲、 コレステロールが多くても心配無いと謂う事で有る。猶、極め附けは貝類で、蛤(ハマグリ)で13.0、牡蠣(カキ)と成ると 18.0と多量のタウリンを含んで居る。牡蠣(カキ)が食品と仕て秀でて居る理由は、此のタウリンに由來して居る。亦、魚類 では、眞鰺(マアジ)が3.6、眞鰯(マイワシ)が2.3、鯖(サバ)が2.7、秋刀魚(サンマ)が2.6と脊の青い魚にタ ウリンが多い。

『烏賊刺身を美味しくする方法』

烏賊の刺身の味は、肉の厚い烏賊、薄い烏賊で違い、亦、粘り気が有って歯當りに深みが有るかと思うと、ヤリイカの様に薄くあ っさりした味の物等、様々な旨味を持って居る。其の多様性の原因は、烏賊の持つ旨味の成分が豐富で、エキス分中の成分はグリ シン、アラニン、プロリン、タウリン、リジン、ベタイン等のアミノ酸類、核酸關聯物質(特にアデノシン一燐酸AMP)、糖類、 トリメチルアミンオキサイド等で有ると謂われて居る。

生きた烏賊や魚が元気良く游ぐ原動力の秘密は、核酸關聯物質(生理活性物質)の一種で有るアデノシン三燐酸(ATP)の分解 に依り生ずるエネルギーに依る物で有る。アデノシン三燐酸(ATP)は、生体内で分解すると、下記の様な反應を經て行く。

 アデノシン三燐酸(ATP)
  ↓
 アデノシン二燐酸(ADP)
  ↓
 アデノシン一燐酸(AMP)
  ↓
 イノシン酸(IMP)
  ↓
 イノシン(HxR)
  ↓
 ヒポキサンチン(Hx)

生きて居る魚のアデノシン三燐酸(ATP)の分解は、燐分解酵素の働きに依りアデノシン一燐酸(AMP)迄しか分解され無い。 其處でアデノシン一燐酸は榮養を補給してアデノシン三燐酸に戻る(サルベージ合成)。併し、魚が死に筋肉が分解する時には、 アデノシン一燐酸(AMP)からイノシン酸(IMP)更にヒポキサンチン(Hx)迄分解し、途中イノシン酸(IMP)と謂う 呈味成分を産出して魚の筋肉に旨味を出させるので有る。

處が、生きて居る時は、呈味成分のイノシン酸(IMP)が生産され無いので、生きて居る魚や釣りたての魚が旨く無いのは其の 爲で有る。例えば、鮪が死ぬと、死後硬直が始まり、アデノシン三燐酸(ATP)はアデノシン二燐酸(ADP)、アデノシン一 燐酸(AMP)へと燐分解酵素の働きに依り順次分解が進み、アデノシン一燐酸(AMP)にアデノシンデアミラーゼ(ADA) と謂う酵素の力が働いて、アデノシン一燐酸(AMP)はイノシン酸(IMP)に分解され、筋肉中に旨味の素で有る呈味成分が 多く蓄積されて、旨い刺身と成る。イノシン酸(IMP)が最高に達するのは魚が死後硬直から腐敗へと移る前で有り、イノシン 酸(IMP)からイノシン(HxR)に分解されると味も素気も無い筋肉に變わって仕舞う。

此の様な分解は、魚類の場合に當て嵌り、烏賊や蛸が死亡すると、死後硬直から分解へと移る過程で、アデノシン三燐酸(ATP) からアデノシン二燐酸(ADP)を經てアデノシン一燐酸(AMP)迄で、此れ以上先へと分解が進ま無い特性を持って居る。從 って、イノシン酸(IMP)に成ら無い爲、アデノシン一燐酸(AMP)の味しか無い事に成る。アデノシン一燐酸(AMP)と イノシン酸(IMP)とでは旨味では遙かに違う事は明瞭で有る。

何故アデノシン一燐酸(AMP)で分解が止まるかと謂えば、烏賊や蛸の筋肉中にはアデノシン一燐酸(AMP)を分解してイノ シン酸(IMP)へ移行させる爲のアデノシンデアミラーゼ(ADA)が無いからで有る。處が、此のアデノシンデアミラーゼ( ADA)と謂う酵素は、鮪や鰹等の赤身の魚に豐富に存在し、生体から死体へと變わった時に反應が円滑に進むので有る。

其處で、烏賊刺身をアデノシン一燐酸(AMP)より先へと分解させ、極力イノシン酸(IMP)を生産させる工夫をすれば良い 事に成る。此處で登場するのが鮪の刺身で有る。アデノシンデアミラーゼ(ADA)を澤山持つ鮪の刺身を叩いて細かく仕た物を 烏賊刺身と和えるので有る。然うする事に依り、鮪のアデノシンデアミラーゼ(ADA)が直ぐ様烏賊刺身に作用し、アデノシン 一燐酸(AMP)で足踏み仕て居た烏賊刺身をイノシン酸(IMP)に變化させ、呈味成分を引き出して下れるので有る。

『烏賊の冷凍保存法』

家庭で烏賊を上手に冷凍保存するには、先ず、内蔵を取り除いて輪切りにし、小匙半分の重曹で揉む。重曹で揉む事に依り、プリ プリした食感を其の儘殘す事が出來る。次に、魚介類特有の臭みを取る爲、300瓦に附き大匙1杯の酒を振り、更に、解凍後の 下味附けを省く爲に、同量に對して小匙半分の塩を振ってから、保存袋に入れ冷凍する。

『烏賊の吸盤と蛸の吸盤』

烏賊と蛸は似たもの同士で有る。外觀から觀られる決定的な相違は吸盤で有ろう。烏賊の吸盤は、腕から出た肉質の柄に支えられ たワイングラス型で、其の内側には角質の環が嵌って居る。此れに對して、蛸の吸盤に柄は無く、低い円筒型で、角質の環も無い。

蛸は、一般に八本の腕一本々々に二列の吸盤が附いて居て、頭寄り程大きく、先端程小さく成って居る。此の八本の腕で、蛸は、 素早く伊勢海老を捕捉し、亦、岩盤に固着して少々の力では剥がす事の出來ない鮑を最(いと)も簡單に剥がす能力を有して居る。 鮮やかな知惠と素晴らしい吸盤の力を併せ持つ蛸は、利口な動物と感嘆せ非るを得ない。

一方、烏賊は、游ぎ乍ら獲物を捕捉する。二本の触腕を隠して接近するや急に此れを伸長させて獲物を捕捉して仕舞う。獲物を逃 がす確率を小さくする様に、吸盤内の角質環には歯が有り、此れを獲物に喰い込ませて放さ無い知惠が有る。

『世界の烏賊の約6割が日本人の胃袋に』

一般に食用とされて居る烏賊は數える程だが、世界には500種類も烏賊の種類が有るとされて居る。日本は烏賊類の大消費國で 有り、世界の年間總生産量130万屯の内約80万屯が日本人の胃袋に入って仕舞うと謂う譯で有る。日本で最も良く食べられる 鯣烏賊(するめいか)の旬は夏から秋に懸けてだが、螢烏賊(ほたるいか)も夏ならではの味覺で有る。

『プリプリの食感と甘さが魅力の槍烏賊』

御刺身や天麩羅等日本料理には欠かせない烏賊は、古く遡ると8世紀の奈良時代から鯣(するめ)に仕て食べられて居たと謂う。 ヤリイカは『槍鳥賊』と書く様に、躰が細長く槍の穂先を思わせる事から附いた名前で有る。身が柔らかく、甘味が有るのが特徴 で有る。

『頭足類の話』

烏賊は蛸と同じ頭足類(とうそくるい)と謂う動物の仲間に含まれて居り、全世界で約650種類居ます。更に大きく觀ると、此 の頭足類は軟体動物門(なんたいどうぶつもん)と謂う大きなグループに属して居ます。此の軟体動物は、名前からも解る様に、 骨等無いクネクネ仕た動物です。浅蜊(あさり)、鮑(あわび)、栄螺(さざえ)、蝸牛(かたつむり)等の貝類も軟体動物です し、テレビ等で最近人気のクリオネ(標準和名はハダカカメガイと謂う)も巻貝の一種で立派な軟体動物です。クリオネの仲間は 浮遊性の巻貝で貝殻が退化して居ますが、一應巻貝です。

頭足類は讀んで字の如く、頭に足が附いて居る變わった動物です。軟体動物の中で、魚類と同じ位高度な運動能力を身に附けたの が烏賊や蛸の頭足類です。鯣烏賊(するめいか)を例に擧げると、九州西方の東支那海の暖かい海で産れた稚烏賊は、餌を腹一杯 食べて成長する爲に、態々北海道沖迄回遊し、亦々産卵の爲に九州西方の海迄歸って居るのです。骨の無い烏賊が、眞鰯(まいわ し)や鯖(さば)類等の骨の有る連中と對等に同じ様な事を仕て居るのです。此れは、結構凄い事です。

前述の様に烏賊や蛸の属して居る『頭足類』と謂う名前は、頭に直接足が附いて居る事から附けられて居ます。足の有る動物と謂 うのは、昆虫でも哺乳類でも、普通は頭が有り、其の頭に胴が附いて居て、其の胴に足が附いて居るのが一般的な形です。併し、 此の頭足類は讀んで字の如く、直接、頭に足が附いて居るのです。足が附いて居る反對側には胴が附いて居ます。足−頭−胴と謂 う様な順番です。俗に『蛸の頭』と謂って居るのは、實は胴の部分なのです。此の中には紛れも無く内臓が収められて居ます。動 物の圖鑑等では、一般的に頭の在る方を左側(又は上)にする習慣が有ります。魚類等では、頭の方を左側に仕て、尾鰭の方を右 側に仕ます。烏賊や蛸の頭足類では、足の在る方が頭なので足を左側に仕て、胴の方が後ろなので右にするのが普通なのです。

『軟体動物の証−鑢(やすり)の舌』

浅蜊(あさり)、蝸牛(かたつむり)や鯣烏賊(するめいか)は同じ軟体動物ですが、生活の仕方や住んで居る場所は全く違いま す。併し、皆軟体動物と仕ての共通點が有ります。軟体動物の口の中を調べて觀ると、『下ろし金』の様な物が有ります。此れは 歯舌(しせつ)と呼ばれる物で、軟体動物共通の物です。

鯣烏賊を例に採ると、足に囲まれた處に口が有ります。次に鳥の嘴(くちばし)の様な顎板(がくばん、通称カラストンビ)を開 けて觀ると、5粍×10粍程の長方形の『下ろし金』の様な物が出て來ます。此れが、『歯舌』です。触れて觀ると本當にザラザ ラ仕て居ます。

『烏賊の脚は10本?』

烏賊の足は何本でせうか?基本的には烏賊の足は10本で、蛸の足は8本と謂えます。烏賊の中でも、タコイカと謂う烏賊が居て、 此の烏賊の足は8本しか有りません。併し、若い頃は他の烏賊と同じ様に足が10本有る様ですが、獲物を捕らえたりする触腕と 謂う長い足が成長の途中で無く成って仕舞い、8本足に成る様です。

亦、スルメイカの仲間は、産れて暫くするとリンコトウチオンと謂う幼生に成ります。此のリンコウトウチオン幼生は、胴の長さ が5粍位ですが、足が未だ完全に形成されて居らず、2本の触腕がくっ附いて居る事から9本しか有りません。此の様に幼生の時 と、親に成った時に足の數が異なる事は、烏賊の世界では一般的な様です。

『スルメイカの獲り方』

スルメイカは、様々な漁法で獲られて居ます。一番多いのが矢張り『釣り』です。スルメイカは光に集まる習性が有る事から、一 般的に『烏賊釣り』は夜暗く成ってから行われて居ます。『烏賊釣り』の代名詞とも謂える集魚灯の光力は、どんどん強く成りま したが、現在は制限されて居ます。亦、省エネの意味や昼に働いた方が、漁師さんが樂と謂う事も有る様で、昼に釣る地域も有り ます。

『釣り』の他には定置網、巻網、底曳網等の漁法でも獲られて居ます。巻網や底曳網で獲った烏賊は傷附く事が多いので、釣った 烏賊よりも値段が安いです。

『スルメイカの卵塊、撮影成功(隠岐諸島周邊で世界初)』

海中に浮遊するスルメイカの卵塊の撮影に、北海道大學水産學部の櫻井泰憲助教授(海洋生物學)等が23日迄に成功した。鳥取 縣水産試驗所との共同調査で、同助教授に依ると、自然状態でのスルメイカの卵塊の撮影は世界で初めて。櫻井助教授は『スルメ イカの産卵、孵化場所に附いて裏附けが取れた。今後は其の分布や生存条件を調べ、天候や海水温に依る資源量の變動の豫測に役 立て度い』と話して居る。

同助教授は1995年、水槽内での産卵の撮影に成功して居り、其の延長と仕て共同調査を1998年から実施。2000年11 月7日から22日の調査で、島根縣隠岐諸島周邊の23地點に水中カメラ附ロボットを沈め、水深約100米、水温摂氏19度の 2地點で卵塊をビデオ撮影した。

スルメイカの人工授精の実驗結果から、同助教授は、産卵、孵化の適水温は摂氏15乃至23度と推定。卵塊は大陸棚地帶の海中 を浮遊し、約1週間で孵化するとの假説を基に調査して居た。

卵塊は透明なゼリー状で、直徑約80糎の風船の様な形を仕て居り、中に直徑1粍弱の卵約20萬箇が粗等間隔に並んで居る。ビ デオには、卵塊が潮流に乘ってカメラに接近し、ケーブルに觸れて壊れる様子も撮影されて居る。同教授等は4月上旬に神奈川縣 藤沢市で開かれる日本水産學會で報告、國際科學誌にも投稿する豫定。

(京都新聞2001年1月25日夕刊より)

『烏賊類の雄と雌の見分け方』

スルメイカの雄と雌の見分け方は、簡單なのは腹を開いて精巣が有るか卵巣が有るかで判別出來ます。卵巣は少し透明で、精巣は 白いです。其他、雄にしか無い噐官等からも判別出來ます。

亦、スルメイカの雄では10本の足の内、1本だけ吸盤の無い足が有ります。此れが交接腕と呼ばれる足(腕?)で、此の吸盤の 無い足を使用して、自分の精子を雌に渡します。此の吸盤の無い足は、烏賊の種類に依り決まって居ます。スルメイカで謂えば、 右第四腕の先の方には吸盤が無いので、雌雄の區別が附きます。

大きさで區別出來る物も有ります。烏賊類は、コウイカの仲間とツツイカの仲間に分けられます。此のモンゴウイカを始めとする コウイカの仲間では、基本的に雄の方が、雌より大きく、色も雄の方が派手です。ツツイカの仲間は、眼の上に膜の有る閉眼類と 眼の上に膜のない開眼類に分けられます。閉眼類は、ヤリイカやケンサキイカの仲間で、此の仲間では雄が雌より大きく成ります。 開眼類は、スルメイカやアカイカの仲間で、此の仲間は雌より雄の方が大きく成ります。

『烏賊調理の注意點』

色々種類が有りますが、最も多く出廻って居るのが鯣烏賊(するめいか)です。外套膜(胴体)が丸く張り、透き通って、海老茶 色懸かった光澤が有り、目が飛び出して居る物が新鮮。鮮度が落ちて來ると白っぽく成って、躰の張りが無く成り、目の部分も凹 んで來ます。烏賊の肉は加熱し過ぎると堅く成り、美味しさが逃げるので、呉々も注意が必要。亦、加熱すると身がクルッと縮ま りますが、鹿子切り、松笠切りで等間隔に切り目を入れると、此れを防ぐ事が出來る。