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烏賊の經濟と經營に關する索引
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生産調整の効果の検討
解説 ニュージーランド沖及びアルゼンチン沖の漁場の開發は、日本の烏賊類供給量を増大させ、烏賊類の價格暴落に繋がった。
嘗ての産地の状況で有れば冷蔵在庫の許容量が小さかったので、大量供給が爲されると其の年の内に價格暴落を起こして需要調整が爲さ
れ次の年の需要には影響し無かった。例えば1980年は、日本の烏賊供給は其れ迄の供給に比較して過剰に供給された爲、價格暴落を起
こし烏賊の殆どは其の年度中に生鮮食用、加工用に廻され消費された。
併し、1987年の過剰供給は、冷蔵庫庫腹量が巨大に成って居ると謂う點で1980年とは異なる状況に成って居た。其の爲、供給過剰は取
り敢えず在庫を増大させて、需給調整は先送りされた形と成った。1980年の場合は、冷蔵在庫も少しは有ったが、寧ろ次年度も供給過剰が
續き暴落する事が考えられ、先行きの不透明感から在庫投資は控えられた。1987年、1988年の場合は、庫腹量の増大を脊景に、1980
年度に一部の在庫投資が成功した教訓も有って、各社の在庫投資慾を擴大させた。例えば、日本水産は約2萬屯のアルゼンチンイレックスを
保有して居た。此の様な在庫投資と引き續いて起こる豐漁が時間差を置いて價格暴落を引き起こす事に成った。
前節ではスルメイカの價格構成機構を重回帰例証で示したが、此處では此の例証を用いて過剰供給、價格暴落が何の様な条件で収束する
のか実証的に明らかにする。業界では休漁を実施して生産調整を圖り、魚價の回復を意圖して居る。例えば、1990年のアルゼンチン、ニュ
ージーランド沖の漁獲量は生産調整が機能した事と漁況が惡い事も有って、從來20萬屯の漁獲量が14萬屯に迄減少すると謂われて居る。
前節で使用したデータは51漁港の水揚量で有り、其の殆どがアルゼンチン、ニュージーランド沖の漁獲物で占められて居るので、6萬屯30%
の減産は概ね其の儘冷凍スルメイカの減少と考える事が出來る。此れに依る價格上昇効果は、他の價格条件が一緒で30%の減産で有ると
すると、供給の弾性値に掛け合わせて四半期で13.8%の價格上昇が見込まれ、1989年第四期の價格は実質144.8圓で有るから、30
%の減産で164.7圓に成る事が予想される。此の他に在庫量の減少も考えられるので、其の影響に依る價格上昇も繼續した形で期待出來
る。
下圖は、水揚量の減少と在庫量の關係を計測した物で有る。1989年第一期の在庫量(3箇月合計)は現状水揚量では38207屯と成る。若
し生産量が30%少なければ36304屯の在庫量に減少し、生産量が半減すれば32599屯に成る。第一期での生産調整に依る在庫量の減
少は顯著では無いが、減少した在庫が次期にも引き續くと謂う點で在庫減少効果は大きい。
冷凍スルメイカの生産調整に依る在庫量の變化圖
生産調整の在庫減少効果は、上圖に觀られる様に第一期には其れ程大きく無い。併し、第二期、第三期、第四期は前期の在庫減少に當期
の生産調整効果が加わるので在庫は更に減少する。上圖では第一期より後期に成る程直線の傾きが強く成って居る事が判る。以上の様に、
水揚量の減少は若干の價格上昇効果を齎すが、其れよりも長期に亘る在庫量減少の價格引き上げ効果の方が大きいので有る。
下圖は、水揚量の減少と在庫の減少が價格の上昇に何の程度の効果を齎すか、産地冷凍スルメイカ價格から推定した物で有る。現状と有る
のは1989年第一期で、價格は1瓩當り169圓で有った。此れに對して、水揚量が30%減らされるなら價格は188圓に回復する。更に此の
時點で在庫量も30%減少して居れば價格は222圓迄上昇する。其の年の水揚が第一期から減少すれば、在庫量は第一期から減少し始め、
第二期、第三期と影響して行くので、在庫量を30%減少させる事は不可能な事では無いので有る。
冷凍スルメイカの水揚量と在庫量が變化した時の推定価格圖
此の様な事から、冷凍スルメイカの生産調整効果は、水揚量が30%減少するなら169圓の價格を188圓に引き上げ、更に在庫量が30%減
少するなら222圓に迄引き上げる。此の爲、兩者で31%の價格引き上げ効果が有るので有る。
1988年以降の價格下落は、供給過剰が慢性化し、高水準の在庫を維持して來た爲に起こった。此の間、原魚を抱える會社は大きな痛手を
受け、2萬屯の烏賊在庫を抱えると謂う日本水産は、他の鮭等が円高に依り魚價下落する事も重なり、大幅な減収に追い込まれたので有る。
在庫過剰と價格暴落の解消は、次の様な二箇の収束が考えられる。第一の収束は、其れが2乃至3年の供給増大と在庫繰越に依り問題の
先延ばしが行われて來たので有るから、不漁と謂う自然的な生産減少や生産調整と謂う人爲的供給調整が行われ解決される者と思われる。
過剰生産が2乃至3年の間に亘り構造的に作られたので有るから、調整も其の様な期間を取ら非る得ない。具体的には1983年から1986年
邊りが適正在庫と考えると、1988年の在庫は其の二倍に達して居るので、適正水準に戻るには2年以上懸かると考えられるの有る。第二の
収束は、末端價格が大幅に下落して消費が此れ迄以上に擴大する事で有る。現在の消費地價格は産地價格が下落した程には下落して居な
い。其れはスーパーマーケットに附いては低價格魚を大量に販賣しても賣上利益に貢献せず、寧ろ肉類や他の水産利益商材と竸合を起こして
利益低下に繋がる爲に下げられ無いので有る。併し、若し産地で金利、倉敷料の壓迫に耐え切れ無く成った業者が、在庫品を經費割れで大
幅に放出した場合や、スーパーマーケットが取扱經費を引き下げ特賣等の戰略商品と仕て位置附け大量安價に販賣した場合には大量消費
が可能で有る。亦、價格竸合が極めて強い業務用消費は消費地卸賣價格が引き下げられれば追随して消費を拡大すると思われる。