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烏賊の經濟と經營に關する索引
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鮮度と商品價格の關係、流通地域の擴大に伴う産地市場の性格變化
解説 漁獲物は生鮮商品と仕て最終消費者に、亦加工原料商品と仕て加工業者に販賣されると謂う二重性格の商品で有る
が、此の商品が生産者から此等の者に移る迄の中間機構、商品の流通地域の擴大が産地(漁獲物の陸揚地)市場の性格を如何に變
えるか、更に此れが漁業經營に如何に作用するか等の諸問題を含む物が此處で謂う流通過程の意味で有る。總じて生鮮商品では食
品と仕ての一定鮮度が商品價値を左右する決定的条件で有る事は常識で有るが、此の鮮度は水産動植物が漁獲物に成った其の瞬間
から低下し始め(活魚は例外)、一定限度以下に成れば食品と仕ての商品性を失う。而も其れが極めて短時間で有る事が生鮮商品
の中でも特に水産商品を特徴附ける點で有る。從って經營規模擴大に伴い、漁獲物増加と並んで鮮度保持の爲の措置が必要と成っ
て來る。流通過程では漁獲物其の物は既に決定濟みの一定量で有り、如何にすれば此れから最大の販賣價額(正確には販賣經費と
比較した極大利潤)を実現し得るかが經營上の第一課題で有るにも拘わらず、流通時間の經過は鮮度を低下させる事に依り商品價
値を否應無く引き下げる様に作用し續けるからで有る。
今冷凍冷蔵等の鮮度保持措置が一切行われ無い單純生鮮商品を假定すれば(漁家の漁獲物は此れで有る)、漁場から陸揚地迄の歸
航時間と陸揚から消費者に販賣される迄の陸上時間の合計時間内に食品と仕ての保持されて居ると謂う事が絶對条件で有る。然る
に此の時間を短縮する事は其れ丈鮮度を高め、商品價格を高める事にも成る事から、一方では時間短縮、他方では鮮度保持の爲の
措置と謂う二の方法が行われる。漁船動力化の効果が高く評價される所以は操業範囲の擴大(沖合化)に依り漁獲量の一般的増加
の可能性を與えた許りで無く、歸港時間短縮に依る漁獲物の鮮度と商品價格への効果を含んで居るからで有る。鮮度保持措置と仕
ては活魚輸送、船内冷凍冷蔵の方法が採られるが、此れは更に、漁船自体に附いても速力、動揺度及び船艙と機關部の間の熱遮斷
等の面での構造の改良に反作用する。
漁家經營では漁場が主に狭い地先水面に限られ、日毎の出漁と漁獲物の販賣との聨續繰返しが經營再生産の内容で有るから、亦少
量漁獲物の故に費用を考えれば鮮度保持措置は必ずしも有利で無く、航行時間も總じて短い事から、漁船動力化の目的は主と仕て
自家勞働の節約に置かれる。漁家經營で鮮度問題が然して意識され無い理由は此處に有る。
操業沖合化が當面する第一の問題は、漁獲量の増加率と同率に鮮度が低下すれば(若し此れが正比例的に商品價格を低下させると
假定すれば)、沖合化の意味は無く成る。從って鮮度保持の爲に如何成る措置を採れば良いのかと謂う事で有る。一方では船内の
冷蔵(氷詰)から冷凍装置への進歩、亦此の装置が可能なのは鋼船丈と謂う處から木船から鋼船への転換(漁船の大型化と併せて
考えられる)、他方では仲積運搬船を併用した操業と漁獲物運搬の分業化、更に亦此の變種と仕て、以西底曳に一時試驗的に行わ
れた様に、二隻一組を三隻一組とし、其の一隻を順次交替の方法で運搬船の仕事に當たらせる方法等種々の形が有るが、其の孰れ
が適當で有るかは沖合化の程度、種目、操業規模に應じて必ずしも一様で無いに仕ても、鮮度低下阻止を目的に仕て居る點は共通
で有る。
第二は漁獲物陸揚地の問題で有る。漁場と陸揚地との關係を固定的な者にするのは地先漁場と漁村と謂う漁家經營の考え方に基づ
く者で有って、今日でも種目に依り陸揚地を指定した物も有るが、既に漁船漁業の上層漁家經營に觀られる様な縣外出漁、漁獲物
の他地陸揚は陸揚地選択、即ち漁場から陸揚地迄の航行經費、陸揚地市場の價格等の諸条件を考慮し、如何にすれば極大販賣價格
を実現出來るかと謂う問題を提起するからで有る。生鮮商品は一般的には陸揚地の魚市場で竸り賣されるが、冷蔵或いは冷凍商品
は魚市場での賣賈後更に、或いは魚市場を經由し無いで、他の消費地に積送される物も有る。從って陸揚量と其處の魚市場への出
荷量との間には次の關係が有る。
・市場出荷量=陸揚量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 産地型
生鮮商品では最も一般的な形、漁家經營は殆ど總て此れで有る。此れに對して陸揚地以外の魚市場では、
・市場出荷量=他地からの搬入量 ・・・・・・・・・・・・・ 消費地型
此れを綜合すれば、
・市場出荷量=陸揚量+他地からの搬入量−他地直送量
今魚市場出荷量が當日購入、當日消費の單純生鮮商品而巳で有るとすれば、此の商品の流通範囲は鮮度低下が其の食品の商品と仕
ての價値を喪失する迄の一定時間内に到達し得る範囲に限定される。生鮮商品に於いては輸送機關の發達が流通範囲擴大の決定的
条件で有ると謂われる所以は此處に在る。總じて漁家の生鮮商品が、漁獲量の少ない事も有るが、漁協魚市場を中心とする周邊町
村丈の流通範囲に限られ、地方的流通範囲さえ形成出來ず、而も沿海一帶に普遍的に存在する處から、此の漁家の生鮮商品が創り
出す狭い流通圏の聨鎖が恰も全國市場で有るかの様な錯覚を與えるので有る。
其れでは此の出荷量に對する需要は幾何で有るか。其れは此の流通範囲内の人口Nと所得の内生鮮商品に割り當てる金額Iの積で
表され、Nは生鮮商品の量を、Iは質を決定する条件と觀る事が出來る。從って價格Pは出荷量をQとするとP=N×I÷Qで有
る。所謂大漁貧乏とはQの著しい増加がPを崩落させ、採算割れを招來する現象で有る。逆に、Qが少なくPが高騰する場合には
需要は他の代替商品に向けられる爲にPには一定の限界が有る。此の様に上向力が弱く、下向力が強いと謂う事は食品と仕て一定
量は必要で有るが、然ればとて一定量以上は必要とせず、而も他に多くの代替商品が有ると謂う鮮度に左右される商品價格の持つ
特性で有る(此處では水産加工品の生鮮商品價格との關係は捨象する)。
然るに冷蔵冷凍技術の發達は、輸送機關の發達と相俟って、商品の遠距離積送を可能なら使め、地方的、全國的市場を形成する。
陸揚地(産地)と消費地の分離、陸揚量の大部分が他地に積送され、地元消費は極く一部に過ぎ無いと謂う所謂地方水産都市を創
り出すと共に、其の逆に、陸揚地と謂う點では水産基地で有るが、其の量よりも他地からの搬入量の方が多いと謂う都市、或いは
更に、他地からの搬入丈しか無いと謂う點では消費地で有るが、同時に亦周邊地域への積送の中繼集散地と謂う様な種々の型の都
市と魚市場の性格を派生する。
此の生成過程は、單純生鮮商品而巳で無く加工原料魚、冷凍商品の介入に依り更に一層複雑に成る。例えば、陸揚地が加工地で有
る場合と無い場合の差が此れで有る。
此の様に流通範囲の擴大が夫々れの都市と其の魚市場に及ぼす作用と謂う點から觀れば、漁家經營丈で形成される物は最も單純な
自足完了的生産・流通圏に過ぎず、其の小經濟圏の聨鎖型が巨大人口を擁する近代都市の發展に伴う莫大な水産商品需要の要請に
對應し得ないと謂う事実こそ漁家經營が流通面でも衰退せ非るを得ない根本原因で有る。東京一千萬の人口に一定時間内に生鮮商
品を供給する爲には一体何れ丈の漁家と輸送機關が必要で有るか、亦其れは可能で有るかを計算すれば良い。此の事は全國的には
沖合漁獲物と都市需要を軸と仕て流通を考え無ければ成ら無く成って居る事を示唆するが、『1962年版水産物流統計年報』の
漁獲物陸揚地から觀た消費地と謂う地域的距離關係の全國計の内遠隔縣及び六大都市の合計約60%は漁家經營が參加不能の者、
參加可能は精々地元と自縣内の合計33%に過ぎ無いからで有る。
此の様な六大都市への集中傾向が冷凍魚の増加を重點と仕て進んだ者で有る事は叙上の東京築地市場への近年の入荷傾向にも顯れ
て居る。
商品の流通構造の複雑化が立地条件をも含めて水産都市に夫々れ違った性格を與える事は、例えば著名な地方水産都市の陸揚、搬
入量、亦其の商品の用途別を比較すれば明らかで有るが、其れは概ね漁村型、加工地型、積送産地型、消費地型(集散地型を含め
て)に分類される。叙上の『1962年版水産物流統計年報』を觀れば、留萌は水揚の75%がホッケ、スケソウの様な塩干加工
原料魚で有り、典型的な漁村の擴大型で有る。此の漁村型の性格を殘存させ乍ら加工地型に移行しつゝ有るのが凾館で有る。此處
の加工とは烏賊の珍味加工で、搬入の60%、水揚の40%が此の原料烏賊で有り、搬入烏賊丈でも總水揚量を上廻る。鮮魚の仕
向が地元と自縣分で90%を占める事は鮮魚の流通圏が狭い事を示して居るからで有る。積送産地型は長崎で有る。遠隔縣及び六
大都市向けが75%を示す事でも解るが、此の型を保持し乍ら、周邊に漁港が多い事から搬入量も多く、而も仕向地も概ね平均化
して集散地型を示して居るのが福岡で有り、地元消費は極めて少なく、積送量が遠隔化する程漸増すると謂う長崎と並ぶ代表的な
積送産し型が下關で有る。此れに反して、大都市近接と謂う立地条件から特定魚の生鮮商品に強く傾斜して居るのは三崎で有り、
亦、大都市に比較的近距離で而も水揚量が三崎の三倍以上で有り乍ら、都市への積送量は同じで有り、且つ水揚量の半分が加工さ
れると謂う加工地型は銚子で有る。一方が鮪で有るのに對して此處では秋刀魚、鯖が主体と謂う相異が有るからで有る。
用途別に鮮魚消費と加工原料向けに分けると、長崎、福岡、下關は仕向地では加工向けで有っても、此處での市場取扱は鮮魚と仕
ての整理で有る(例えば、煉加工原料魚の冷蔵積送)。從って加工向けとは陸揚地の地元加工に成る。八戸、釧路は積送産地型か
ら加工地型に(冷凍向けを中間に介入させ乍ら)移行しつゝ在る事を示すが、進んで紋別に成ると、陸揚の70%以上が地元加工
と謂う完全な加工型に成る。長崎、福岡、下關と八戸、釧路、紋別の性格の差は西と北の漁業型(魚種の差も含めて)の相異の反
映でも有るが、孰れに仕ても産地即ち消費地の漁村型で無い點は共通で有る。
以上の比較から明らかな様に、水産都市の特徴は陸揚を主体とし、此れが積送或いは加工に分岐發展するのに對して、他地から搬
入を主とし、其の殆ど全部が地元乃至自縣内で消費されると謂う消費地型が廣島で有る。斯う仕て漁業基地=陸揚地=消費地の一
貫關係は漁業發展と共に崩壊するが、其れこそ將に漁村型に象徴される漁家經營分解過程の現象の一で有る。
『以西底曳は從來から漁獲物は生産者直送で有ったが、鮪延縄の船内冷凍品の消費地市場への直接水揚、或いは産地冷凍業者、加
工業者との直接取引は進んで居るし、近年の母船式の冷凍品は消費地市場へ直送される等、大資本經營を中心とする流通段階單純
化の傾向は今後も高まると思われる』(1963年版水産年鑑)と指摘して居る様に、鮮度を生命とする漁獲物が冷蔵冷凍技術の
發展に依り漁業生産擴大の可能性を得、一方では漁場擴大と漁船の大型化を招來すると共に、他方では陸揚量の増加と流通範囲の
擴大は既存の生鮮商品流通関係の變革を必然化する。漁獲物の中での加工原料魚の分離(漁業と加工)、陸揚地と仕向地、生産地
と消費地等々の分岐と複雑な組合せが夫々れの魚種、地域的な社會的經濟的条件に應じて創り出されるので有る。
叙上の流通構造、商品の質量兩面の流れの變動に對して戰後の水産物流通の研究は何の角度から接近したか、其れは『農村に於け
る水産物』需要の在り方、即ち食用と非食用の比率の問題から出發する。併し乍ら、水産物利用の中心課題は漁獲物の食用化率を
如何に高めるかで有って(非食用の漸減)、例えば非食用分が出たと仕ても其れは加工に依り飼餌料化される。亦、漁獲物を唯一
の肥料と仕た時代は既に過去に属し、今日では其の供給源は肥料工場に求められる。更に需要・流通市場の問題は常に價格問題で
有るが、其れは農漁村の狭い自足完了的な流通圏では無く、寧ろ都市の水産物價格の問題で有る。從って此の様な問題設定の仕方
は、局部的研究と仕ては意味が有ると仕ても、今日の水産業の中心問題からは完全に離れて居る。
流通問題の研究と仕ては、今日未だ『水産業の現状、1956・7年版』の『水産物の流通消費』程度の物に留まって居るに過ぎ
無いが、此處でも都市の水産物小賣價格上昇の原因をより高鮮度、高級魚への需要移動に求める丈で、流通の構造變化が如何に價
格に作用するかを觀て居ない。前掲公式P=N×I÷Qから容易に解る様に、Pを變動させる条件は幾つか有り、而も高鮮度、高
級魚の商品價格が高いのは特に此の条件を入れ無くても解る常識に過ぎ無いからで有る。此の考え方は個別魚種の一單位を例とし、
其れが陸揚から最終消費者の手に渡る迄の價格變動を個別に追跡調査すると謂う方法にも顯れて居るが、以上の比較的に代表的と
觀られる若干の研究からも解る様に、生鮮商品の(價格に於ける)鮮度、魚種、數量相互の關係、價格變動が出荷量に及ぼす反作
用、加工商品との価格關係等の複雑な諸条件を餘りにも單純化、或いは局部化した接近方法を採って居ると謂う點では未だ甚だし
く立ち遅れて居る。
水産食品價格決定の解析
解説 水産商品は鮮魚、加工品の孰れにせよ、其の主要用途は動物性蛋白質の副食品で有って、非食用の飼餌料又は肥料
等は漁獲物の食品利用の派生的用途の商品と仕て取り扱う事が必要で有る。此の主目的を失うか、兩種用途の重要度を混同すれば、
水産業の經濟的意義は全く變わるからで有る。
消費者が家計費の内の幾何を水産商品に割り當てるかは所得、生活環境、食習慣等の廣汎な社會的經濟的条件に依り變動するが、
此れは所得増加に伴う家計費の内の食糧割當比率逓減傾向(エンゲル法則)と共に此處での問題では無い。長期的に附いて觀れば
變動すると仕ても、短期間では一應此れを固定的と假定し、其の中での價格決定の諸条件を究明する事が漁業に於ける價格論理の
課題で有る。此の前提から出發すれば、前掲P=N×I÷Qの内N×Iは一定、從ってP×Qの關係に歸する事に成る。
生鮮商品たる爲には鮮度FをP決定の条件に入れる事が必要で有る。
P=f(F,Q)
然るに魚市場には幾種類かの魚が出荷され、夫々れ魚種に應じて習慣的に格附けされ、價格差を持つ處から、其の内の一商品の價
格は其れ自体のFとQ丈で無く、他の商品のFとQにも影響される(價格の代替作用)。此の作用は水産物の中での生鮮、加工の
兩種商品間、水産物と他の副食品(獸畜商品)との間にも存在するが、此處では水産商品而巳に限定する。猶FはPと正比例關係
に在るから、Qに依るPの變動を強化又は緩和する条件と觀れば、PとQ而巳に簡約する事も出來る。併し乍、個別的に二商品A
とBの價格を比較する場合、魚種各附と仕てはA>Bで有っても、Fa>Fbの時、AとBの孰れの價格が高いかと謂う場合には
Fは獨自の要素と成る。從って、
Q=q1+q2+q3+・・・・・(q1、q2・・・は異種)
PQ=p1q1+p2q2+p3q3+・・・・・
一商品の価格は、
p1=f(q1・p2・p3・・・)
然るに、前述のP=N×I÷QからP、Qと原價Cには右圖の關係が成立する。今、他の事情を總て一定とし、一商品の出荷量の
増減丈で当該商品價格が變動する場合を假定すれば、出荷量のx1→x2は價格をp1→p2に下向させる。p2が操業原價と一
致するとすれば、x2→x3はp2→p3を齎し漁業者の採算割れと成る。從ってB以下では生鮮商品と仕て販賣して損するより
も寧ろ此れを加工原料に振り替えた方が有利と謂う事に成る。此れは漁家經營が漁獲物を鮮魚販賣と加工向けに區分する考え方で
有って、其の限りでは加工は鮮魚價格の低落を阻止する爲の緩和処置とも考えられる。然るに漁家加工は殆ど設備費の要ら無い自
家勞働の餘暇を利用した作業で有るから加工費は零に近いとされる。漁家加工商品がp2を標準とし(p3→p2が努力目標)、
亦其れ故に出來れば鮮魚と仕て販賣すると謂う生鮮商品本位の經營方法を採るのは此れが爲で有る。二市場の選択も論理的には同
じで有る。
其れでは冷蔵冷凍の價格効果とは何か。叙上の價格低落が一時點に附いて行われる者とすれば、鮮度保持は此の出荷を長時間の間
に行う事を可能なら使める。一市場一時點に附いて觀れば出荷調整、全体的に觀れば幾つかの市場への分散(市場擴大)で有るが、
Pの低落を阻止する事は同じで有る。然るに當日出漁、當日出荷の漁家經營では少漁獲量の故に冷凍費は割高、他市場選択の餘地
も無い處から漁獲量は全部一市場に出荷せ非るを得ない。此れが鮮魚價格の激しい騰落を招來する原因で有るのに對して、鮮度保
持措置は多市場を對象とするが故に價格變動を緩和、平準化する事に成るので有る。
以上は生産側のQの増減而巳に起因するPの變動で有るが、生産事情に變動が無くとも(Qは一定)、消費側の事情、人口Nと所
得Iの變動はPを如何に騰落させるか、周知の様に水産商品が副食品で有る以上は、主食程の消費量の固定性は無いに仕ても一定
量の摂取は不可欠で有る反面、一定量以上は不要、亦他の多くの代替商品からの竸争も有ると謂う事はP低落の下限と上限を決め
る条件で、水産商品が非食品消費財から區別される根拠で有る。從ってNの増加は(人口の一般的増加よりも寧ろ移動に依る一地
域への集中)、此の定量増加を通じてPを一般的に上昇させ、Qの増加を促進する。併し乍、此のNの増加は如何成る所得階層の
増加に依る者かに應じて増加す可きQの種類を決定する。所謂大衆魚と高級魚、鮮魚と加工品の間の需要移動が消費傾向の變化と
謂われる者の内容で有るが、此の様な需給双方の諸要素が互いに變動し乍ら、一時點一市場に附いて集約された者が價格で有る。
此れから觀れば高鮮度、高級魚への需要移行と謂う一面的な事情の變動に而巳P上昇の原因を求める事は平凡な常識的一般論に依
り複雑な問題を解決し様とする者でしか無い。假令此の需要移行が有ったと仕ても、此れに對應する供給増加が有ればPは上昇し
無いからで有る。猶、P上昇の直接原因が此の需要移行だと仕ても、其れでは此の移行を齎した原因は何かを水産の枠の中で解明
する事が正しい方法で有る。然も無くば水産の問題を他の者に依り説明する事に成るからで有る。
次に巨大な市場出荷力を持つ大經營は果たして何の程度にPを左右し得るか、大經營と雖も所有ゆる魚種を出荷するのでは無く、
Pに對して比較的重要度の高い幾つかの魚種に限られるから、其のP影響力は(大經營の出荷をq1、q2とすれば)、
Q=q1+q2+q3+・・・ 即ち q1+q2/Q
此の場合、更に同一魚種内での竸争と異種魚間の竸争に區別されるが、以西底曳漁獲物の様に練加工原料魚と仕ては同質(個別的
に觀れば魚種の相異は有っても)と謂う場合にはQの一般的増減のPに及ぼす作用に單純化出來るのに反して、異種魚(生鮮商品
と仕て出荷される場合の多くは此の形で有る)間の竸争では需要側の買附態度が區々で有るから、必ずしも數量上の比率に相應す
るPへの作用を持つか否かは(P、Qの一般關係が作用する事は勿論で有るが)は疑問で有る。此れは大量出荷がN×Iに附いて
數量比率に相當する以上の分け前を齎すか否かの問題に還元され、若し齎さ無いとすれば獨占的効果は無い事に成るからで有る。
N×I×(q1+q2)/Q
總じてQの増加がPを低落させるとすれば、假令數量比率以上のN×Iの分け前を得たと仕ても、果たして其れが全体的に有利で
有るかは疑問で有る。從って大經營と仕ては市場の高値を狙う出荷調整方法を採る方が却って有利で有る。多數漁船と冷凍冷蔵に
依る鮮度保持は此れを可能なら使めるのに反して、一隻一經營では概して此の操作が困難だからで有る。市場心理から觀ても、價
格低落を出荷量減少に依り阻止し様とする消極的効果よりも價格上昇の時機、即ち賈い進む心理を利用(出荷増加は或る程度價格
上昇を緩和するに仕ても)する積極的効果の方が大きいからで有る。此れは自然的に生成した高値を利用する方法で、必ずしも出
荷調整に依り人爲的に高値を創り出す(逆に觀れば低落阻止)者では無いが、魚市場の様に多數の出荷者が有り、而も其の魚種、
數量が區々且つ未知と謂う事情の許では人爲的操作の効果は極めて薄いと判斷されるからで有る。
生鮮商品の市場出荷が總て委託竸り賣賈されると謂う事は、出來値に不滿が有っても、鮮度、品傷みの故に他市場に転送する餘裕
の無いと謂う事から、其處の出來値を最終決定的たら使める。市況判斷と市場選択が生鮮商品に特に重視される理由は此處に有る
が(貨車輸送途中の行先變更措置も選択の一で有る)、其れ丈に市場の高値を狙う出荷方法を採る方が危険率は低いからでも有る。
代替商品の多い非耐久的副食品と謂う性質が此の様な價格對應策を採ら使めるので有る。
生鮮商品では出荷量Qに不安定的要素が多い事から、PはQの増減に強く左右される傾向を持つが(例えば、暴風に依る操業難か
ら出荷量の激減、逆に異常な豐漁の場合でも、其の全漁獲物を一時に出荷せ非るを得ないと謂う兩極端の事情)、其れでは、此れ
に加工商品が參加すれば鮮魚價格Pは如何成る影響を受けるか。
加工商品の特徴は生鮮商品に於ける鮮度の様な價格を左右する決定的条件を持た無いと謂う意味では比較的耐久性商品だと謂う事
で有る。此の耐久性が物理化學的意味での絶對的な者で無い事は勿論で有るが、生鮮商品の価格が出荷現象に附いて極く短時間の
裡に決定されるのに對して、加工商品の価格變動は極めて緩慢で有り、從って亦、前者に比べれば一定と觀る事が出來るからで有
る。總じて漁家加工が、一方では生鮮商品價格低落の防波堤で有ると共に、他方では數量上の需給不均衡の調節瓣たる機能を持つ
とすれば、此の役割は總ての水産加工(食品)に共通の一般的性格と仕て賦與される者で有って、操業規模、加工品種の相異は加
工經營に於ける条件の差と仕て作用するに過ぎ無い。即ち原料魚供給、加工設備、勞賃、販路等の問題が此れで有る。此の點では
漁家加工は自給原料に依存し、設備、勞賃不要の最も單純な形態で有る。
然るに一定の設備と雇傭勞働を必要とする加工に成ると、設備費と操業費(原料魚を含む物件費と勞働を含む人件費の合計)に充
當せらる可き一定の資本並びに叙上の加工商品價格と原價の關係の二の条件を軸と仕て經營を考え無ければ成ら無く成る。即ち加
工に於ける自家勞働力の完全利用から資本利潤中心への經營の質的變化で有る。此の二の軸は形態的には一般製造工業と全く同じ
者で有るが、原料魚供給の質量の不安定が水産加工經營に一定の条件を附加すると謂う點では漁業を基底とする特殊な加工部門で
有る。
以西底曳漁業に典型的に觀られる様に、當初から練製品原料魚を目的とし、陸揚後も亦他の一般生鮮商品から截然と區別され、而
も周年操業、周年原料供給可能と謂う漁業を基底とする場合には、加工品の需要と資本を考えて加工規模を決定、機械化生産に進
む事が出來る。水産加工が戰後煉加工を中核と仕て發展した理由は此處に有る。此れに反して原料魚が同時に生鮮商品でも有るか、
或いは原料供給が量的に極めて不安定の場合には、前者では價格が最も低落する時期、其の價格並びに其の價格で入手出來ると思
われる數量の判斷の適否が操業規模と原價を決定する条件で有り、後者では一定量の原料の入手が確実に成ら無ければ操業規模は
勿論、原價見通しも立て難いと謂う条件が有る。孰れも原料の數量と價格に不安定的要素が多いからで有るが、此の事情は亦加工
に當たって設備を少なく仕て勞働力に、其の勞働力も亦常備よりも寧ろ臨時雇に重點を置くと謂う様な經營形態を採らせる事に成
る。
加工經營の在り方が此の様に原料魚入手事情に強く依存する事から、一方では加工業者が同時に魚市場仲賈人と仕て市場參加権を
持つ事を必要と感じさせると共に(加工と商人の結合)、他方では加工の周年操業の爲に原料供給の比較的確実な農産加工(特に
缶詰)との兼營を行わせる事にも成るが、亦、從來の國内漁獲物の加工と謂う既成概念を棄てゝ所要原料魚を外國に求めると謂う
傾向を生み出す。此の様な原料魚入手の特殊条件は商人的、兼業的たら使める反面、加工業と仕ての專門的獨立を困難なら使める
原因でも有る。
加工商品の種類の多い事、同種類の物でも形状、製造方法、包装、原料魚組合せ等の多岐に亘る事は一種商品に附いての加工の大
規模化を困難なら使め、此れが亦多數の中小經營を創り出す原因で有る。原料魚供給が整い、比較的機械化されたと謂われる煉加
工でさえ全國的には經營數々千に及ぶと謂う事実が此れを示して居る。
其れでは、加工商品は如何成る程度迄生鮮商品を補い、代位出來るか。一般的に生鮮、加工兩商品間に價格の齎す代替關係が有る
事は認められるが、其れは未だ論理的推定に留まり、計數的に証明されては居ない。單純生鮮商品が冷凍商品に置き換えられ非る
を得なかった原因が近代都市の發達と食生活内容の變化に在るとすれば、同じ原因が冷凍商品を更に加工商品に置き換えさせるか
は今後の問題に属する全く未触手の分野で有る。
流通機構、特に魚市場
解説 下層漁家に觀られる個別行商は生産者と消費者の直接売買で有って中間商人の介在する餘地は無い。然るに生産者
が一定の場所に集合して個別に賣賈するか(多くは地方自治体の設定)、或いは一定の仲介機關(魚市場)を通じて賣賈する様に
成ると、前者は一定の場代、後者は仲介手數料が必要と成る。此の費用は生産者から觀れば販賣の爲の必要經費で有るが、此の仲
介機關が生産者對消費者の間で有ろうと、或いは取扱量の増加に伴い生産者對仲介人、仲介人對小賣人、小賣人對消費者と謂う様
な階層を形成し、第一の面丈しか仲介を担當し無い場合でも、生産者から觀れば第三者的存在で有って、此の仲介機關と仲賈人か
ら小賣人に至る迄の中間商人階層とは總て流通過程の中の部分關節と觀る事が出來る。此の部分關節の内でも仲介機關と他の物と
の役割は違って居るが、生鮮商品の流通過程では不可欠の要素たる點では同じで有る。一方は賣賈の仲介者、他方は賣賈當事者と
謂う性格の差は生鮮商品から加工商品に移るに伴って前者が排除される傾向に顯れるからで有る。
地方町村に於ける漁協魚市場の特徴は漁家の少數多口の生鮮商品に對して賈手が小賣人、行商人、大口消費者、加工業者と謂う様
に混在して居る事で有るが、出荷量の増加と共に魚市場では一方では小口出荷者の排除、他方では賈手の一定有資格者への限定(
一定額の賣賈、保証金積立等)即ち專門の仲介人の確立が行われる。生鮮商品で有るが故に短時間に賣賈を完了させ無ければ成ら
無いと謂う事情が此の選別を行わせるので有るが、生鮮商品流通機構を理解し難くさせる原因は、中間機關に於ける二の要素の混
同と魚市場出荷量の増加に伴う賣手賈手の選別が必ずしも均等に行われ無い事から、個別的に觀れば魚市場機構が違うと謂う事を
識別し無い事に在る。
魚市場が仲介機關たる所以は、賈手が代金を支拂うか否かに關係無く、賣手に對して賣賈金額から一定の手數料を控除、殘額を支
拂う事を保証する事に成る。其れは制度上から大都市(消費集散地市場)の魚市場、地方陸揚地(積送産地市場)の魚市場(正確
には中央卸賣市場法に拠る魚市場)に、亦組織の面から漁協經營と企業經營に類別される。企業經營では地方自治体の提供した場
所と施設を利用して魚市場を經營する荷受機關(卸賣人)の形態を採る者が多いが、賣賈代金精算義務を持つ處から小資本では出
來ない經營で有る。現在大都市、地方の主要水産基地では獨占的大經營が生鮮商品担當部門と仕て系列下の企業に此れを經營させ
て居る者が多いが、此の場合には大經營自身の生鮮商品許りで無く、他經營の商品をも取り扱い、而も取扱量の増加に比例して手
數料収入も増加する處から、生産者からの出荷を誘引する爲に冷蔵用氷の供給、運搬船利用等の便宜を圖ると謂う様に單純仲介機
關から更に進んで、夫々れの荷受機關への生産者の系列化の端緒が觀られる。
魚市場の大小を判別する方法は前述の賈手の竸り賣賈參加資格の他に、市場取扱量の多少で有る。1962年丈に附いて觀ても、
全國生産地市場の總取扱量220萬屯餘の内、稚内、八戸及び下關の様に15萬屯以上の者も有れば、此等の百分の一にも達し無
い者も有って區々で有るが、漁協魚市場では漁家の漁獲物の殆ど總てが出荷されるのに反して、此處では魚市場を經由し無い直送
分も有るから陸揚地と仕ての大きさが其の儘直接に魚市場取扱量に反映するとは謂え無い。
鮮度条件の無い加工商品が今尚魚市場で賣賈されて居る事は、加工商品が生鮮商品に從属する地位に在った當時の慣行と公開取引
の場と仕ての利用と謂う便宜に過ぎ無い。魚市場で賣賈された生鮮商品が其の日の内に最終消費者の手に渡ら無ければ成ら無いと
謂う様な条件は加工商品には無いからで有る。加工商品の魚市場からの離脱は特に大經營の獨占的生産物たる魚肉ハム、ソーセー
ジに顯著に觀られる傾向で有るが、生鮮商品が鮮度、形状、荷揃い等の諸条件から現物取引を必要とするのに反して規格的耐久商
品では見本取引で充分だからで有る。大經營に依る取扱店系列化への動きは此の離脱の作用で有る。
其れでは魚市場機構は生鮮商品の價格決定に何の様な効果が有るか。出荷一口毎に一括公開竸り賣に依り最高附値に落札する魚市
場共通の方法は、出荷口數の多い生鮮商品と謂う条件が生み出した最も適當な方法で有るが、全國的に觀れば、六大都市の魚市場
を頂點と仕て全國各地に散在する地方の陸揚産地魚市場が此れを囲繞し、更に地方魚市場の周邊に衛星的小魚市場が存在すると謂
う配置は頂點市場の價格形成に如何に作用するかと謂う接近の仕方で究明せらる可き問題で有る。
輸送機關と鮮度保持技術の發達が生鮮商品の流通範囲を全國的に迄擴大した事は既に述べたが、常に高値市場を目指す商品の流れ
は(輸送費用は此處では不問とする)生鮮商品價格を全國的に平均化させ、高める作用をする。此の場合でも、全國各地に散在す
る多數出荷者の箇々別々の思惑に依り品薄豫想の魚市場に出荷が殺到して價格低落(或いは逆の場合)を生ずる場合が有る事は免
れ無いが、此の試行錯誤を含み乍らも價格平均化は大勢と仕ては進められる。併し乍、此の事は大都市に成る程高く成る中間經費
(仲介人から小賣人迄の階層化、交通經費等)の爲に末端消費者の入手價格は地方都市の場合よりも割高に成ると謂う問題とは別
で有る(地方都市でも中間經費は有るが、大都市程では無い)。此の事は末端消費者の入手價格が全國的に粗同じ(一般工業製品
或いは水産加工商品は此れで有る)で有る爲には、中間經費と魚市場價格とは如何に有る可きか、亦其れを實現する爲の生鮮商品
の流れ(魚種、數量、用途別、季節及び輸送費等の具体的諸条件を加えて)は如何に有る可きかと謂う問題接近の仕方が必要で有
る。今消費者價格をP、地方都市の中間經費をa、大都市をnaとすれば、魚市場價格は大都市ではP−na、地方都市ではP−
aで、此れでは大都市向積送の意味は無く成る。大都市の取扱數量の大きさが何れ丈商品一單位當りの中間經費を引き下げるかが
此處での問題で有るが、他方、地方都市では周辺の衛星的小魚市場(此れは大都市周邊に無い譯でも無いが、其の影響力は極微と
考えられる)からの影響が何れ丈P−aを更に引き下げるかと謂う問題と關聯を持って來る。漁家經營の生鮮商品の鮮度は他から
の商品の流入を阻止する武噐で有るが、然ればとて口數の多い少漁獲量では精々地方市場への進出に留まら非るを得ないと謂う事
情が地方市場價格をP−a−xに低落させる要因で有る。此れは出荷者側からは、此の低落要因に加えて、若し出荷總數が地元で
而巳消費され無ければ成ら無いとすれば、Qの増加は何處迄Pを低落させるかと謂う豫想に基づいて他地積送量を計算させる根拠
とも成るので有る。此の様な末端消費者價格と産地市場出荷者の價格計算との複雑な絡み合いは下層漁家の行商に觀られる直接賣
賈には存在し無い問題で有って、漁業生産の發展が齎した漁獲物取扱量の増加が、一方では生産者と消費者とを時間的、地理的に
隔離させ、他方では複雑な中間の流通機構を創り出した必然的結果で有る。而も此等の夫々れの部門の活動が總て生鮮商品の価格
に集約され、此れを中心と仕て旋回する處に水産經濟の特徴が有る。