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烏賊の經濟と經營

烏賊の經濟と經營に關する索引

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漁家經營の骨格

解説 經營類型と仕ては水産業の中で取り扱われる可き者、亦、其れで充分な筈の漁家經營が何故、同時に亦、厚生對象 と仕て取り扱われるのか、此れが漁家經營の第一の問題で有る。社會發展の歴史から觀ると、未開社會の漁撈、或いは、狩猟から 農耕に移行するのが一般的で有るが、其れは農耕に伴い他の物が必ずしも消滅すると謂う意味では無い。此れが社會的重要度の差、 從って亦、社會的地位の差と仕て現れたのが日本の場合で有る。漁業を原始産業と觀る俗説は、操業の形態が同じで有る事を理由 に、未開社會の漁撈を今日の漁業に當て嵌め様とする考え方で有って、何を捕獲するかでは無く、如何にして捕獲するかと謂う生 産用具を軸と仕て發展を考えると謂う經濟學の常識から觀ても素朴な謬見に過ぎ無い。社會的重要度の差が典型的に現れた者は徳 川時代の重農主義に基づく漁業觀で有って、漁民を所謂『四民の外』の民と仕た考え方が此れで有る。明治以降の有資産階級制度 は身分、及び、職業の平等と自由を認めたが、漁業に對する政府の旧慣尊重政策は、事実上、前時代からの漁業を獨立の産業とす る丈の社會的、經濟的根拠を與えて居ない。殆ど總てが漁家經營で有り、從來の種目と操業規模を墨守すると謂う發展の無い經營 の在り方を漁業本來の性格とする限り自然条件の好転に依る豐漁を期待する途しか無いからで有る。殊に漁業が主副の孰れで有る かを問わず、漁業を營なんで居ると謂う事実さえ有れば、此れを總て漁家經營の中に入れたと謂う有資産階級的形式論は獨立の産 業と仕ての限界を曖昧にし、失業者を粉飾する隠蓑的役割を漁業に負わせる途をさえ開いたからで有る。漁家の専門化、半専門化 と謂う事は屡々謂われて居るが、此の場合資本主義の許で分解する漁家經營からと、本來漁業の範疇に入れる可きで無い部分から の物が混同されて居ると謂う事を注意す可きで有る。此れは漁家を一方では漁業の末端經營と觀ると同時に、他方では社會政策、 厚生政策と仕ても觀なければ成ら無い根拠と成る點で有って、嘗て『四民の外』とされた漁家觀は明治大正期に繼承され、依然と 仕て其の痕跡を今日猶殘して居る。徒手空拳海浜で海草を採取、販賣する丈でも漁家經營に成るとすれば、漁獲物の早い換金性と 相俟って、全く無資本の失業者でも即日漁家經營者と成る事が出來ると謂う様な条件では漁家經營の下限が不明確に成る事は避け 難いからで有る。其れでは、漁家經營に何の様な種目が含まれるか。自家勞働而巳に依存する經營が行う種目は總て此れに属する 筈で有るが、自家勞働は家族數の多少に依り差が有る爲に、家族數を平均五人程度と觀、其の範囲で操業し得る種目、例えば、漁 船漁業では五屯未滿の動力船、一般無動力船、更に小型定置、淺海増殖業の諸種目を列擧し、次に此等諸種目を營なむ漁業經營と 觀ると謂う決め方を一般的に行って居る。併し乍ら、此れは夫々れの種目の所要勞働力からの逆算的概括に過ぎ無い爲に、個別的 に觀れば、大家族數の處では遙かに大規模な種目を經營する場合も有れば、小家族數の場合には漁家經營種目と觀られる規模の物 でも、他人を雇傭せ非るを得ない事も有り、亦、後の場合でも、其の他人が少數、而も親戚、友人で有るか、或いは、臨時的、季 節的雇傭の場合には、事実上、其れは家族数の擴大に等しく、近代的勞使關係を生み出す端緒とは成り得ない。殊に此の場合には 自家勞働と雇傭勞働の比率の程度と仕て現れる殊が多いからで有る。概念的には雇傭勞働の有無に依り生業と企業とを區別出來る と仕ても、実際問題と仕ては兩者の限界が複雑に絡み合い曖昧に成って仕舞うからで有る。生業と企業夫々れの經營分析を曖昧に し、生業經營の考え方を企業經營に迄擴大する誤りの原因は此處に有る。

漁家經營は所得を基準と仕て周年漁業を營なむ爲に其の所得が總て漁業から生じる者を専業、一年の内の或る期間他産業に關係す る爲に其の方からの所得が有る場合を兼業とするが、兼業の場合には漁業所得と他産業所得の孰れが多いかに依り前者が多い場合 を第一種、少ない場合を第二種に分類するのが一般的方法で有り、大雑把には専業は約15%、兩種兼業は概ね同比率と謂うのが 從來の統計數字で有る。然るに此處で注目す可き點は、漁業では經營者も雇傭從事者も一括漁民、亦、漁民は即ち漁家、故に從事 者生計も漁家經營所得と仕て計上され、從って漁業では從事者で有り他産業でも出稼勞働に觀られる様に雇傭勞働者で有る者が漁 家經營と仕て整理されると謂う事で有るが、此の兼業漁家經營が大部分を占める處から、漁家經營は漁業から丈で無く、他産業か ら影響を受けて消長すると謂う事で有る。専業經營は漁業内部での經營竸争で盛衰が決まるのに反して、兼業經營では此の經營竸 争の結果が他産業からの影響に依り或いは加速され、或いは相殺される場合も生じて來る。漁家經營の中での經營者と從事者との 混同も然る事乍ら、漁家經營の他の半分を捨象し、漁業面丈を採り上げて、非業部分を含めた漁家經營全体を取り扱うと謂う事は 漁家經營が漁業の中で獨立の地位を占めるに至って居ない事の証拠で有る。漁家經營數の年々の増減が著しい原因を漁業而巳の事 情に歸せ使める事が誤りで有る理由は此處に有る。

漁業には盛閑の兩期が有ると謂う自然的条件から農業の盛閑期と組合わせた形の農業兼營が最も一般的で有り、亦此れが自家勞働 力の周年活用と謂う點からも最も合理的、經濟的で有る。殊に自然条件に左右される産業では兼業の一部分が不況の場合でも他の 部分に依り此れを補う事が出來ると謂う經營上の強靱性を持つ利點が有る反面、他の部分への依頼心から一つの部分への専心度が 低下すると謂う欠點も有る。他の部分を持つが故に一つの部分而巳で獨立し難いと謂う事情も結局は此の依頼心からで有る。漁業 が經營不安定の故に兼業を必要成ら使めたとすれば、逆に其れは漁業經營と仕ての獨立化を阻止する条件でも有る。斯う仕て兼業 は不況に耐える力が強い反面、漁業經營と仕ての發展の推進力と仕ては弱いと謂う結果を齎すが、此れを裏打ちする要素と仕て漁 業生産に於ける經驗と勘の技術的性格に基づく固執的考え方が有る。

漁家經營は日本沿岸各地に普遍的に存在するにも拘わらず、個別的には夫々れの地域の海況、對象魚の相違、從って亦、漁法の相 違に加えて、同地域の漁業企業、他の諸産業との關係に依っても漁家經營の具体的状況は異なる。漁家經營を單純に概括するか、 或いは局部的地域丈の觀察に囚われると謂う誤りを犯し易い原因は此の普遍的存在と謂う一般性と個別的相違と謂う特殊性の相關 關係を觀落とすからで有る。農村地帶に囲繞(いにょう)された漁村の中に在る漁家、工場都市近傍に在る漁家、漁業大企業の中 に在る漁家では夫々れ經營の在り方、兼業部分の構成は變わるが、他方、專業漁家に附いても、海況良好で盛行して居る場合も有 れば、漁業不良にも拘わらず、周邊に何等の産業も無い處から不得止漁業丈で生活して居る場合も有るからで有る。

漁家の日常經營活動が、小規模經營の故に漁場も地先水面、或いは以遠に限定され、日帰りの操業範囲で有ると謂う事は勿論で有 るが、共通點は其の漁獲物を生鮮商品と仕て販賣すると謂う事で有る。鮮度が商品價格決定の重要条件で有る事から小漁獲量と相 俟って、短時間の販賣、流通地域の小は其の必然的結果で有るが、短時間の裡に商品を賣盡して操業經費を回収出來ると謂う事か ら、一方では所要資本を總て生産用具に投下すれば良い。逆に流通経費の極小と謂う採算の考え方を、他方生鮮商品が中心で有る 處から、賣殘商品を不得止加工する事、亦、此れから生鮮商品と仕て販賣し易い種目の操業を主とし、加工は漁撈の從属部門に過 ぎ無いと考え、更に進んでは、生鮮商品價格の調整辧と仕て加工を觀ると謂う漁業と加工の關係を生み出して來る。而も此の加工 も亦自家勞働を基礎とする漁家經營の許で行われる處から、加工設備の極めて簡單な、漁撈の餘暇、或いは家族分業の形で老人婦 女子が操作出來る程度の、技術的にも容易な塩干加工の程度に止まら非る得ない。此れが漁家經營に於ける漁業と加工の結合で有 る。

水産加工經營躰數(陸上加工)を觀ると、種目別では全く漁家經營に属する海草が壓倒的に多く、素干、煮干が此れに續き、亦、 加工經營でも漁業との兼營、殊に其の原料を自家漁獲物而巳に依存する物が壓倒的で有る事、其の反面に練(ねり)加工の様な高 度の加工に成ると、大部分が加工專業化して居る。

漁家經營相互間の經營竸争に附いて考察すると、漁協の協同漁業権が行使規則に依り均等の利用と利益を與える様に配慮されて居 ると仕ても、漁家の家族數と構成、操業種目と時期、更に專兼業等の事情の爲に、現実には漁業所得に差を生じ、直接には同種目 を營なむ漁家の間での操業規模擴大竸争と仕て現れる。一方では無動力船の動力化、動力船の大型化、他方では有利な種目への着 業転換、例えば小型定置の様な静態漁業から漁船漁業に、或いは漁業から淺海増殖への移行が此れで有る。此の場合、經營者個人 の經驗、漁業生産の不安定性と其の反面での次期への過度の期待、行使規則に依る移行の難しさ等の事情も有り、其の具体化には 紆余曲折が有る事は免れ難いが、操業規模擴大に依り有利な条件を獲得し様とする努力は、永年の經過を通じて觀れば、零細、小 規模の漁家經營にも明らかに看取出來る。

漁家經營の企業經營に對する竸争は漁獲量では少ないが、鮮度で強いと謂う形で現れる。其れは數量を價格で補う者と仕て經營の 下降に對する抵抗力では有るが、上昇への推進力には成り得ない。此れを決定的たら使めた者は戰後の社會經濟の構造變化で有る。 近代工業の發展と大都市の形成、大都市に於ける生活様式の變化に伴う水産商品消費構造の變化、其の反面での地方町村人口の相 對的絶對的減少が招來した漁家經營の流通領域の一般的弱体化で有る。漁家經營が供給する生鮮商品の様に一口と仕ては少量、口 數が多い爲に総量と仕ては大きく成ると謂う形態では、一定時間内での巨大人口の需要に對應出來ない事は物理的にも明らかで有 るが、此の様な社會經濟的趨勢に即應出來ないと謂う經營構造の故に漁家經營は孤立、自壊せ非るを得なく成るので有る。此れに 拍車を驅けた他の事情は生鮮商品に於ける漁家唯一の武噐で有った鮮度が冷凍技術の發達に依り著しく減殺されたと謂う事で有る。 然るに叙上の事情を近代産業が發達の爲に必要とする沿岸地帶利用の齎した沿岸漁業資源の減少と謂う生物學的要因に結び附けて 漁家經營の没落を説明するのが一般的で有る。從來漁場と仕て而巳利用されて居た海面に巨大船舶が頻繁に往來する場合にも猶以 前と同程度の操業が可能と謂うのは寧ろ例外で有る。孰れの利用を優先させるかはより高い次元で考慮す可き問題で有り、假に巨 大船舶の往來を優先させ、其の爲に資源減少を生じたと仕ても、其れ故に叙上の漁家經營自体の持つ構造的欠陥を見落とし、一切 の原因を資源と謂う生物學的要素に而巳歸せ使める事は誤りで有る。異常な豐漁に恵まれたと仕ても、漁家經營を更に大規模の企 業經營に變える、換言すれば、漁家經營の自己否定を伴わ無ければ、此れに對處する事とは出來ない筈で有る。假令資源事情に變 化が無く共、漁家經營が其の構造的欠陥の故に發展出來ないとすれば、資源事情の惡化は只其れに拍車を驅ける一要素に過ぎ無い からで有る。

漁獲統計は漁場別に沿岸、養殖(含内水面)漁業、沖合遠洋漁業とし、夫々れの種目を分類して漁獲量を算出して居る爲に、沿岸 漁業の中にも生業・企業兩經營が含まれて居る處から、漁家經營而巳に漁獲量を求める事は出來ないが、大部分が漁家經營と推定 される沿岸・養殖漁業の漁獲量が横這いか緩慢な上昇で有るのに對して、總てが企業經營と觀られる沖合遠洋漁業の上昇率は遙か に高い。此れは漁家經營の相對的劣惡化の間接的指標とも考えられるが、若し漁家の經營構造を不變不動の前提と仕なければ成ら 無いとすれば、資本主義の法則其の物を否定する結果に成る。家族経営形態しか存在し無い米麥農家と其の離農現象丈を農業問題 の總てと考え、他の企業經營的農業部門の生成現象を見落とすならば、資本主義の許での農業の構造的變化を理解した事に成ら無 いと同様、生産と經營形態の間の一定の對應關係を見落とし、經濟から離脱する事に成る。漁家或いは農家の様な自營形態は資本 主義が出發した時期に既に存在して居た者では有るが、其れ故に此れが資本主義の許でも不變不動で無ければ成ら無いと謂う事に は成ら無いからで有る。

然れば漁家經營には如何成る發展の途が有るかに附いては、自家勞働を基礎とする經營で有る以上、其の勞働力を如何に多く漁業 に充当出來るか、其の方法は何かが、解答を求める筋で有る。所謂周年操業化が此れで有るが、此の場合にも底曳漁業の様に同一 種目を周年操業する場合と、個別的に觀れば季節的で有るが、此れを適宜組合わす事に依り周年操業化する場合とが有る。亦、操 業規模の擴大が一般的に有利で有ると謂う原則に基づいて生産用具を改良、擴大する事は經營竸争に於いて既に行われて居る方法 で有るが、更に同一時期に同一種目を孤立、分散的に操業する個別經營を集合化し、此れを統一的指揮の許に置き、可能な場合に は此れを一經營とする方法も有る。前者は生産用具の擴大を前提とする者で有るが、後者は現有の生産用具を前提と仕乍ら、協業 の有利性を追求する者で有る。所謂共同化と總称される者は此れで有るが、其の集合化の方法にも幾多の場合が有る。猶、生産組 合は形態的には共同化の一種で有るが、出資と組合員の一定數が常時從事する事を条件と規定する丈で叙上の協業条件を具備し無 い小資本の集合に過ぎ無い。生産組合不振の原因は此の集合化を資本の面に求め無かった事に有る。

他の方法は從來の『捕る漁業から作る漁業』即ち漁業から増殖への移行で有る。沿岸から沖合、更に遠洋への外延的發展は專ら漁 船規模と漁場の擴大を前提に仕た者で有って、自家勞働で可能な漁船規模と地先漁場の利用を前提とする漁家經營とは全く對遮的 進行の途で有る。此れに對して若し一定漁場を内面的に利用する發展の途が有るとすれば増殖以外には無いからで有る。此の場合 には生産用具の内容が漁船、漁具等から増殖設備に、重油から種苗、飼料等に變わって來る。最近の淺海増殖の發展は其の初歩的 現象で未だ海苔、牡蠣、昆布或いは生鮮魚と仕て販賣される比較的高価な魚を對象とし、其の設備も小規模、簡單な物に限られて 居るが、釣竿一本で足りると謂う漁撈に比べれば、假令小規模でも相当の資本を要し、其れ丈經營可能の最低限度が引き上げられ る結果に成る。現在、増殖は農業の副業と仕て個別に行われて居る者が大部分で有るが、若し此の經營規模擴大の爲に共同化が必 要だと仕ても、如何に仕て此れを実行するか、亦其れが可能で有るか何うか、副業から周年操業の專業への転換が可能で有るか何 うか、増殖は漁撈と異なり一定の生物學的基礎を必要とする丈に、転換し始めた許りの漁家經營が叙上の資本問題と共に、此の新 しい分野を如何に開發するかは今後の研究課題で有る。

地區漁業協同組合

解説 地區漁協の持つ協同漁業権の利用行使が漁家經營成立の基礎で有ると謂う事からすれば地區漁協は漁家經營の地域 綜合体で有る。明治以來の水産政策が漁協の漁業自營を認めなかった事は此の漁業権管理機能を漁協の最も本質的な者と考えたか らで有り、1933年の改正以後現行法に至る迄一定の条件の許で而巳漁業自營を認めて居るに過ぎ無い事も亦同様の考え方を基 礎とし、漁協本來の職能も漁家經營を、直接的に漁撈面で無く、間接的に信用、購賈、販賣及び設備利用の經濟事業、或いは、教 育情報等の非經濟事業面で援助する事に有ると認めて居るからで有る。從って漁協と漁家とは相互依存で有り乍ら、經營と仕ては 相互獨立と謂う二重の關係に成る。例えば、漁協の四種の經營事業を觀ても、信用は漁家の事業と生計(總じて自營では兩者は不 可分で有る)に必要な資金の貸附と漁家の貯蓄受入で有り、其の融資源は漁協への出資、組合員貯金の自己資本、或いは外部借入 で有る。借入と貸附の利子の差は取扱手數料と仕て漁協の利益と成るのに對して、漁家は此れ以外に融資の方法が無いか、或いは 他から借入するよりも利率で有利で有るかの孰れかの理由に依る者で有るに仕ても、利子の受拂に附いては兩者對等、利益相反の 取引で有る。購賈は漁家の必要物資を外部から仕入れ、漁家に販賣し、其の差を手數料収入とする事、販賣は漁家の漁獲物、又は 加工品を漁協經營の魚市場で竸賣するか、或いは賈受人を斡旋して一定率の手數料収入を得る事、利用は漁協所有の設備、例えば、 倉庫、冷蔵庫、運搬用具、充電設備等を利用させ一定の手數料収入を得る事で有り、此等の手數料収入が漁協經營に要する管理費 に充當されて過不足の無い事が漁協經營の理想的な形で有るが、此等の漁協事業が必ずしも組合外の者の參加利用を認め無い譯で 無く、亦、組合員相互間に利害相反の關係が生じる事を否定する者では無いからで有る。例えば、漁協魚市場での販賣で、賣手が 漁家、賈手が同様組合員で有る加工業者、行商人の場合が此れで有る。一方は出來る丈高値を期待するのに對して、他方は其の逆 と謂う關係、或いは其の賣賈價格が漁家に何の様な損益に成ろう共、其れに關係無く賣手から一定率の手數料を徴する事等が此れ で有る。此の事は漁協が外部から有力な賈手を賣賈に參加させ、漁獲物が全般的により高値に賣賈される事を通じて漁家經營の一 般的向上の爲に努力して居る事実を否定する者では無いが、兩者の相互依存と相互獨立を最も明らかに示して居る。

以上の事情から漁協自体の經營の良否は四經濟事業が円滑に進行するか否かで決まるが、事業別取扱金額から觀れば、信用及び販 賣兩部門の成績が決定的で有るから、即ち販賣は漁家の全生産活動の成果を示し、信用は將來をも含めて漁家經營活動の基礎、例 えば漁船建造費等に充當されるのに對して、購賈及び利用は經營の一部分に過ぎ無いから、此の面の円滑な進行を阻害する要素は 何かを明らかにし、其の對策を講ずる事が漁協經營上の重點と成る事は明らかで有る。其の要素は、信用では期日に元利金が返濟 され無い事で有り、販賣では賈手の代金不拂で有る。此の事は購賈の賣掛金焦附と共に漁協の資金回転を阻害する處から、漁協と 仕ては、等しく漁家を對象と仕乍ら、阻害を生ぜ使め無い様な漁家を選別する事を余儀無くされる。漁協側からする不良漁家經營 の切捨て現象で有る。

他方、漁協の漁家援助は漁家經營を夫々れの種目毎に發展させ、軈ては企業經營に転化させる事にも成る。此れは等しく漁家經營 と仕て出發し乍ら、此れから生業と企業に分解して行く發展の必然的結果で有り、漁協組合員を階層別に、

1.經營者組合:30屯以上の動力船、大型定置の様な企業経営者及び其の雇傭者が總組合員數の70%以上を占める迄に成った漁協
2.小生産者組合:殆ど漁家經營者而巳の組合
3.混合組合:全二者の中間に在り孰れにも分類し難い組合

と區別した方が漁協の性格を理解し易い事も、漁協の一般的性格と仕ては同じ物で有り乍ら、發展の結果、具体的様相を異にする 迄に變化したからで有る。此の事は亦別の視角から、漁家經營活動の具体的相違と其の比率に基づいて、漁協の型を、

1.漁港型:外來の漁船が入港、即ち他からの漁獲物が漁協魚市場で竸賣される者
2.縣外出漁型:組合員の縣外出漁が有る者
3.業種型:單一種目での組合員漁獲量が總量の80%以上の者
4.組合自營型:漁協で漁業自營を行う者
5.漁業権型:免許漁業の漁獲量が大部分で有る者
6.其他:叙上の孰れにも分類し難い者

に機能別に分類出來る事も夫々れ異なる立地条件の許に置かれた漁協經營では其の發展の方向と程度も異なら非るを得ない必然的 結果で有る。孰れに仕ても、漁家經營が企業經營に發展し、漁獲物も自漁協で無く、他漁協の魚市場に出荷する事を寧ろ有利とす る様に成れば、漁協の販賣手數料収入は減少し、更に若し操業基地を他地に移す事にも成れば、漁協からの離脱で有る。斯う仕て 漁協の職能は一般的には漁家經營の助長で有ると仕ても、或る程度以上に漁家經營が發展すれば、今度は漁家經營の側から漁協か ら離れると謂う結果に成り、從って漁協自体が包含し得る漁家經營には一定の下限と上限が有る事に成る。此れは兩者間の相互依 存と相互獨立の關係から起こる事で、漁協と仕ては上下兩限の孰れに重點を置くかが具体的經營業務の差を生ぜ使める原因で有る。 若し下限に重點を置くとすれば、焦附處理、事業収入と管理費の不均衡に苦勞するで有ろうし、逆に若し上限に重點を置くとすれ ば、漁家經營の爲の資金調達部門化する傾向を持つ事に成るが、亦漁協立地の差に依り、僻遠の地に在る程漁家經營の地域總合体 の性格が強く、逆に都市近接地では四經濟事業が都市の同種事業に依り弱められる爲に信用事業を通じての融資機関化する傾向を 免れ無い。

漁協は戰前の問屋と漁家の關係、即ち仕込融資(現金、現物)と全漁獲物の一括問屋納入の關係を漁家一般に擴大し、地區毎に此 れを統合したと謂う點では問屋機能の近代化した者で有るが、1948年の水協法が漁協を專ら漁家經營而巳の集團と仕た爲に、 漁家經營の骨格の項で詳述した漁家經營基礎の一般的弱体化の影響を受けて漁協自体の經營が弱く成った事、更に戰後の民主主義 の歪曲觀が漁協の細分化を招來した事等の原因から漁協對策が專ら其の補強工作に終始せ非る得なかった事は事実で有る。195 1年の農林漁業組合再建整備法に始まり、1960年以降の沿岸漁業構造改善政策、更に其の立法化と仕ての1962年の沿岸漁 業等振興法に至る一連の措置が此れで有るが、元來、明治以來地理的には全く變化して居ない地先水面を基礎と仕た協同漁業権を 中心に漁家經營を統合すると謂う事は漁家經營の漁獲量に大した變動が無く、從って亦生鮮商品中心の經營方法にも變化が無い事、 若し此れに變化を與えるとすれば、他産業からの外來的事情に俟つ他は無いと謂う事を予想させる。1962年の水協法が漁協組 合員の枠を擴げ沿岸漁業構造改善が一方では漁協合併を促進、他方では同一漁場の利用方法を『捕る漁業から作る漁業に』と転換 させつつ有る事は此の不變的と觀られる面を漁業内部で政策的に構造變化させ様とする措置で有るが、此れが漁家經營の種目別發 展を促進して漁家經營の階層別分解を速めて漁協の性格を變えると共に、外來的事情との絡み合いが此の變化に何の様な影響を與 えるか、此れが漁協の將來を決定するで有ろう。若し漁協が下限、即ち下層漁家經營に重點を置く總合体たる可く進むとすれば、 寧ろ外來的事情の方がより強く作用するで有ろう。

更に此れと併行して、漁業大企業が漁協に融資、此れと協同經營する形を採り乍ら、事実は漁協を下請化し、漁家を協同經營の許 での雇傭勞働者化する方法が進められる。漁協の資本を上廻る融資は漁協への資本進出で有るが、漁業法が此れを外部資本の漁協 支配とは認め無いと解釈する以上(漁業法第38条第4項参照)、亦、其れが漁協の自己資本では到底不可能な操業規模を実現す る方法でも有るとすれば、外部資本は有利な種目に協同經營の形で任意に進出出來る筈で有る。經營規模の大小に依る經營竸争の 勝敗が相互獨立の經營間の關係で有る事を前提とするのに對して、此れは一經營内部での資本力の大小と謂う資本の論理に依る漁 協の被支配化、漁家經營分解の一つの形でも有る。

沿岸漁業構造改善政策

解説 沿岸漁業を構造的に變える事が政策と仕て具体化したのは1961年で有る。其れ迄の措置は、前節で觸れた様に、 不良漁協の建て直しを主と仕た者で、其の意味では國民經濟の中での沿岸漁業、特に漁家經營の在り方を考慮した者では無かった。 然るに國民經濟が1960年代の重化學工業を軸と仕た高度成長に伴う農漁村からの勞働人口移動を契機と仕て農業と共に前資本 制的な經營が今尚大部分を占める漁業の産業と仕ての在り方を再検討する必要を感じさせるに至ったからで有る。所謂格差是正の 標語の許で漁家經營の編成替えを政策と仕て推進する事が此れで有る。漁業では『農業の様な女子勞働力をも含む家族勞働力を單 位と仕た自立経営の規模を設定する事は困難で有るし、亦、漁場には土地の様な制約も無いから、構造改善政策の目標は家族經營 形態の枠に囚われ無いで考える可きで有る』とし、全國の沿海都道府縣を一縣一地域(但し北海道は4、長崎縣は2地域)とし、 1961年から1967年迄に順次地域を指定して調査、地域毎に夫々れの地域の新産業都市計画や産業振興計画等と關聯を持つ 沿岸漁業構造改善計画案を作成、此れに基づいて今後の5年間に、(從って全國的には1972年迄)実施させ、此れに對して、 政府が投資(此れは政府、縣及び地元負担から成る)と融資に依り資金的裏附けを行うとする者で有る。

今對象資源をR(此の資源は絶對量では無く、一定の成長度に達し、商品價値を持つに至った部分で有る)、漁獲量をC(正常の 場合はR>C、逆にC>Rの時は濫獲)、此のCが正常に販賣された場合の所得をIとすれば、R→C→Iの聨鎖關係が考えられ る。亦、此れが幾つかの經營Nの合計で有るとすれば、箇々の經營の平均所得はI/Nで有る。從って、I/Nを高める爲に次の 方法が採られる。
1.Rを増加する措置 漁場改良造成が此れで、魚礁設置、増殖施設等を含む。

2.Cを増加する措置 漁場利用方法の転換が漁業から増殖への転向に現れて居るが、此れを政策的に推進する外に、漁 船漁業では装備の近代化、例えば、無動力船から動力船への転換、或いは屯數増加、綿網から合繊網への切替、魚探、通信機の装 備等に依る操業能率、安全度向上の爲の措置が有るが、今漁場範囲を一定とすれば、装備の近代化はより少數の漁船で以前と等量、 或いはより多量の漁獲を得るので無ければ、操業經費丈が加重されて採算的には却って逆効果と成る。從って、増殖と漁業の孰れ に重點を置くか、漁業では一定の漁場範囲と謂う条件、装備近代化と隻數減少の關係を如何に仕て均衡させるか、此れが計画化を 規定する軸に成る。

3.I/Nを増加する措置 漁業から増殖への転換ではNの減少を必ずしも絶對条件と仕無いが、漁船漁業では2の項で 述べた様に隻數減少即ち經營數減少を豫想し無ければ実現出來ず、I/Nの増加を目的とする爲には漁家經營の内所得の少ない下 層部分を除去しなければ平均所得を高める事は出來ない。此れが一部漁家の転業或いは漁家間引きと謂われる者で有る。然るに漁 業では多數の種目が複雑に交錯して居る爲に、下層漁家經營で有っても、何の種目の何の下層部分が此れに該當するかを算出する 事が困難で有る事に加えて、転業するか否かは經營者自身の自由意志決定に挨つ外は無く、其の意味決定も、個別的には、經營者 の年齢、家族數、転業す可き新業、生活立地等の諸条件に依り左右される。此の様に増殖ではNの減少を必ずしも絶對条件と仕無 いのに反して、漁船漁業では絶對条件と仕乍も、其の実現には叙上の様な極めて複雑な条件が有るとすれば、此れを如何に調整す るかは問題で有る。諸縣の構造改善計画が漁家の自然減少率(工業及び他産業の發達、技術進歩に伴って農漁業の様な第一次産業 人口が相對的に減少する事は經濟的自然法則で有る)を前提とし、其れが政策実施に依り何の程度迄促進或いは防止出來る筈で有 るかに觸れて居ない事は、計画立案段階では計算し難いと仕て居るからだと考えられる。
R→C→I/Nは此の様に相互に關聯を持ち乍ら、而も夫々れの部分が異なる具体的措置を採る事を前提に仕て初めて最終目的た るI/Nの平均的上昇を達成出來ると謂う者で有るが、計画單位で有る各道府縣で、亦夫々れの中でも地域毎に漁業自体の内部構 造と周囲の条件が違う爲に、一般的には同じで有っても、具体別、個別的には相違する筈で有る。或る地域で成功した種目と方法 でも此れを其の儘他に適用出來るかは疑問で有り、漁船装備に仕ても、或る地域では既に完了して居る綿網から合繊網への転換、 魚探の備附が他地域では漸く着手した許りと謂う様に發展段階の差が有り、漁民の季節出稼に仕ても、或る地域では此れが実施的 には他産業への転業の意味を持つ迄に至って居るにも拘わらず、他地域では漁閑期利用の一形態と仕て未だに漁家經營内部の重要 構成部分で有ると謂う様な種々の事例が認められる。此の事は政策に於ける一般的指示に對して各地域が自主的に判斷して取捨選 択す可き事を豫想せ使めるにも拘わらず、稍もすれば總花的に網羅された措置を一律に実施しようとする事から、此の地域的相違 に基づく重點が不明確に成り、此れが恰も構造改善計画自体の欠陥で有るかの様に解釈される傾向を生み出す原因と成って居る。

第二の點は、R→C→I/Nの内、R、Cは其の効果が現れるのに長期間を要し、其の間の自然条件の變化も有る爲に、政策の具 体的成果が確認され難いのに反して、I/Nは直接的に其の影響が現れる處から、政策の成果を後者而巳から判定しようとする傾 向が有る事で有る。転業對策が現役經營者の転業で無く、漁家の後繼者の他産業への就業教育の形で行われる場合には漁家下層部 分の經營數を現実に減少させる事に成ら無いで、漁家經營の勞働力基礎を弱め、漁家經營を老人婦女子の營なむ者とし、漁船漁業 では操業の範囲と種目を縮小させ、所得の上昇で無く、却って低下を招來するからで有る。此れは転業對策の難しさと重點の置き 方の誤りに基づく者で有るが、其れが亦転業對策を放棄する事に跳ね返って來る。

併し乍、転業對策が樹てられるのは他産業で此の勞働力を吸収する餘地が有る事を前提とするからで有る。他産業と漁家經營とが 著しい所得格差を示す限り、特別な転業對策が無くとも漁家經營人口の一部は自然發生的に他産業に流出するで有ろうし(自然減 少率)、逆に格差が陥まれば流出も亦緩和される筈で有るとすれば、他産業の伸長度と漁家經營所得の上昇度との關係で流出の程 度は決まる。然るにR、Cが長期的、不確定要素で有り、從って、漁家經營所得の上昇度も不確定的たるを免れ難いとすれば、転 業對策はより確定的な他産業を基礎に仕て樹て非る得ないと謂う事に成る。此處に転業對策自体は漁業内部の問題で有り乍ら、実 質的には他産業に依り決定される問題、換言すれば、工業對農漁業、都市對村の關係に歸着する問題と成って來る。

更に転業に關聯して注目す可き點は、漁家經營に專業と兼業の別が有る事から、転業對策が一般的には漁家經營下層部分で有ると 仕ても、專兼業の孰れを對象とするかで意味は變わって來ると謂う事で有る。第二種兼業では漁業部分は主經營に對して單成る副 業に過ぎ無いから、漁業部分の廃止が直ちに流出人口に成るとは考えられ無いが(主業が他産業の雇傭勞働で有り乍ら、漁業部分 が漁業從事者では有るが漁民なるが故に漁家經營とされると謂う様な特異の場合は除く。此れを漁家經營と仕て居る現在の分類方 法は誤りで有る)、專業では漁業の廃止は直ちに他産業への流出と成ら非るを得ないからで有る。前の場合は漁業經營數の減少は、 程度の多少は別と仕て、I/Nを高めるにも拘わらず、他産業の勞働力需要には殆ど寄與し無いのに反して、後の場合は直接的に 他産業の勞働力需要に應じ得る事に成るが、他方、兼業經營では兼業部分に制約されるが故に漁業部分を自由に發展させ難い事情 を持つのに反して、專業經營は漁業を主業から更に企業に迄發展させる爲の漁家經營の基幹部分でも有る。若し專業漁家經營が他 産業に転じるとすれば漁家經營は最早獨立の産業部門たる可き地位を完全に喪失する事に成る。漁家經營下層部分と謂う事が漁業 所得分の低い事を意味する者とすれば、間引き、廃止される可き者は兼業漁家の漁業部分で有り、若し兼業所得分をも含む漁家の 總所得の意味に解すれば、專業漁家の相當分が此れに含まれる事にも成るで有ろう。孰れに仕ても、此れは構造改善の目的を、生 業から企業經營に發展させ乍ら、漁家經營を一段高い經營に發展的に解消させる反面、此の条件を充たさ無い部分は、此れを切り 捨てる事に依り漁家經營をも漁業の中での獨立部門とするか、其れ共所得格差の是正を漁家總所得の上昇を目標と仕た者と仕て考 えるかの二者択一に歸する。

此の事は結局、從來の漁家人口の自然減少率と漁家經營數との關係を如何に解釈するかと謂う問題に突き當たる。漁業生産の上昇 率以下の漁家經營數の増加率、換言すれば、生産を一定と仕た場合、經營數が減少する事は其れ丈生産効率を高め、經營規模擴大 にとって有利な条件で有るが、農漁業を含めた前資本制經營に觀られる分解の日本的形態、即ち家族の一部が他産業に転出し、実 質的には漁家經營が基礎とする自家勞働力を弱体させ乍ら、而も名目的には經營數は變わら無いと謂う家族分業的分解現象に基づ く經營數不變は実質的には經營規模を縮小させる不利な条件で有る。自然減少率は此の兩条件の綜合結果で有るが、此れを解決す る途は、一報では經營數を減少させ乍ら、他方では自家勞働を確保する事、亦、其の爲には漁家經營の維持と謂う概念で無く、企 業經營概念に基づく勞働力の結集と謂う形(此れには漁協自營、協同經營、漁民會社等の種々の者が考えられる)で編成替する方 法しか無いであろう。

猶、所得格差の是正を標語とする限り、構造改善が漁家經營所得、或いは他産業に於ける勞働所得を上廻る丈の成果を擧げ得なけ れば、此の格差は何時迄も並行的か、逆に却って擴大する事に成る。此の格差是正を當面農家所得との比較に於いて考えるのが一 般的で有るが、此の農家自体構造改善の對象に過ぎず、結局對象間相互間で優劣を竸う事に終わる怖れが豫想される。問題設定、 解決方法に附いての考え方の甘さも然る事乍ら、夫々れの地域での漁家經營実態の研究の立ち遅れを改めて露呈して居るのが此の 政策で有る。