躰各部の名称
解説 烏賊類では腕の有る方を前方、鰭(ひれ)の有る方を後方とする。一般に胴と称して居る部分が外套膜(がいとうまく)で、甲
(骨格、内殻)の有る側を背面、漏斗(ろうと)の有る側を腹面とする。一般に外套膜背面は外套膜腹面よりも色素胞に富み、活烏賊では特有
の紋様を與えて居る。外套膜背面の後方部には鰭が生じて居る。
腕は10本有る。腕には吸盤が有るが、吸盤の有る側が内面で、反對側が外面で有る。背に最も近い左右の腕を左第1腕、右第1腕と呼び、
順次腹面に向かい左右の第2腕、第3腕、触腕(通常最も長大な腕)、第4腕と數える。第4腕は漏斗の直下に有る。第2腕、第3腕の外側に
は泳膜(キール)が、亦、内側には保護膜が發達して居る。触腕の先端部は稍(やや)膨張し大型の吸盤が觀られるが、此の部分を特に触腕
掌部と謂う。雄では右第4腕が交接腕(生殖腕)と成って居る。
外套膜腹面を切開すると、外套膜の開口部には外套軟骨が有り、亦、漏斗基部には漏斗軟骨噐が有るが、此等は其の周邊部よりも稍硬い。
茶褐色を仕て居る大型の臓噐は中腸腺で有る。其の側面には鰓(えら)が有る。此等の基部附近に鰓心臓、静脈小嚢、膵臓、胃が有る。
産卵期の物では、外套部後方に生殖腺が發達して居るのが觀られる。臓噐を除去すると、外套膜内面に縦に甲が附随して居るのが觀られる
が、甲の末端は鰭の末端に達して居る。アカイカ科、ジンドウイカ科等の烏賊類の甲は軟甲で、コウイカ科の烏賊類では舟型に發達した石灰
質の甲が有る。
別称 各部の別称(俗称)を下記に記して置く。
腕 | : 脚、足、ゲソ |
鰭 | : 耳、エンペラ |
外套膜 | : 胴、胴肉 |
漏斗 | : 潮吹き |
中腸腺 | : 肝臓、腑(ふ)、ゴロ |
胃 | : チュウ |
軟甲 | : 内殻、ペン、骨 |
墨汁嚢 | : 黒腑(くろふ) |
上顎板 | : 鴉(からす) |
下顎板 | : 鳶(とんび) |
圖版(外形各部名称圖)
圖版(内臓各部名称圖)
圖版(コウイカ類各部名称圖)
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躰各部の重量比
解説 日本近海のスルメイカ漁獲量の減少に伴い、世界の各海域で漁獲される烏賊が加工原料として利用されて居る。此等の烏賊
類の部位別重量比を下記に示す。
1978〜1980年 凾館水試事業報告、1978〜1985年 青森水産加工研報
種類 | 体重 (瓦) | 可食部 | 肝臓 (%) | 廃棄物 (%) |
全体(%) | 胴肉部(%) | 頭脚部(%) |
スルメイカ | 214 | 74.4 | 52.8 | 21.6 | 25.6 |
252 | 74.4 | 51.1 | 23.4 | - | - |
344 | 77.2 | 51.9 | 25.3 | 12.6 | 10.2 |
489 | 75.1 | 51.7 | 23.4 | 14.9 | 10.0 |
アカイカ | 490 | 81.6 | 55.2 | 26.4 | 6.3 | 12.1 |
893 | 79.6 | 51.6 | 27.7 | 8.1 | 12.0 |
1,079 | 77.0 | 49.3 | 27.7 | 8.6 | 14.4 |
カナダイレックス | 94 | 71.3 | 47.9 | 23.4 | 14.9 | 12.8 |
301 | 75.1 | 45.7 | 29.9 | 11.3 | 12.3 |
アルゼンチンイレックス | 545 | 72.8 | 42.6 | 30.3 | 12.8 | 14.5 |
732 | 63.9 | 41.7 | 22.3 | 14.2 | 20.2 |
トビイカ | 232 | 82.3 | 59.6 | 22.7 | 17.7 |
370 | 83.8 | 57.3 | 26.5 | 5.1 | 10.5 |
475 | 77.5 | 53.0 | 24.5 | 22.5 |
オーストラリアスルメイカ | 178 | 80.7 | 49.4 | 31.3 | 7.0 | 12.3 |
237 | 77.6 | 46.7 | 30.9 | 7.1 | 15.3 |
336 | 75.2 | 43.7 | 31.5 | 7.4 | 17.4 |
549 | 81.4 | 43.4 | 39.5 | 4.8 | 13.8 |
597 | 77.6 | 40.9 | 36.7 | 7.6 | 14.8 |
796 | 77.5 | 40.3 | 37.2 | 8.2 | 14.3 |
986 | 68.6 | 35.5 | 33.1 | 7.5 | 23.9 |
ドスイカ | 482 | 55.7 | 37.0 | 18.7 | 16.0 | 30.4 |
ツメイカ | 410 | 75.3 | 54.6 | 20.7 | 7.7 | 17.1 |
ニュージーランドスルメイカ | 55 | 81.0 | 57.0 | 24.0 | 6.9 | 12.1 |
83 | 78.3 | 54.2 | 24.1 | 8.0 | 13.7 |
153 | 82.4 | 56.4 | 26.0 | 8.3 | 9.3 |
339 | 85.6 | 53.2 | 32.4 | 7.4 | 7.0 |
401 | 76.5 | 49.6 | 26.9 | 23.5 |
479 | 77.3 | 46.4 | 30.9 | 8.4 | 14.3 |
556 | 79.8 | 45.3 | 35.4 | 5.8 | 14.4 |
592 | 64.4 | 37.3 | 27.0 | 9.3 | 26.4 |
1,055 | 70.0 | 35.9 | 34.1 | 6.0 | 24.0 |
全魚体に對する可食部の割合は、肝臓、及び、廃棄物(肝臓以外の内臓、内球、眼球、内殻を含む)の量に影響されるが、最高はトビイカの
83.3%、最低はドスイカの55.7%で有る。其他の烏賊は大部分が70乃至80%の範囲に在る。
全魚体に對する可食部の割合は、体重が増加するに從い減少する傾向が觀られる。可食部の内では、体重の増加と共に胴肉部の割合が
減少し、頭脚部の割合が増加して居る。
全魚体に對する可食部の割合、特に胴肉部の割合は烏賊の加工品を製造する際の歩留(ぶどまり)に影響する。他の烏賊類に附いても、更
に測定資料を蓄積する必要が有る。
亦、雄のモンゴウイカ、ハリイカ(コウイカ)、アオリイカ(各々12月11日分析、三尾平均)、及びヤリイカ(11月11日分析、二尾平均)に附いて
躰各部の重量を測定した結果を下記に示す。
1938年 波多腰ヤス氏測定(胴長は糎)
試料 | 胴長 | 全重量 | 胴部 | 頭脚部 | 甲 | 内臓 | 胴肉部 | 頭脚肉部 | 皮・鰭等 |
モンゴウイカ |
重量(瓦) | 22.2 | 915 | 450 | 272 | 67 | 128 | 296 | 213 | 214 |
割合(%) | 100 | 49.2 | 29.9 | 5.3 | 14.0 | 32.5 | 23.3 | 23.4 |
ハリイカ |
重量(瓦) | 15.8 | 324 | 135 | 106 | 19 | 58 | 89 | 77 | 66 |
割合(%) | 100 | 41.8 | 32.8 | 5.4 | 17.9 | 30.5 | 23.8 | 20.3 |
アオリイカ |
重量(瓦) | 18.1 | 376 | 203 | 102 | 1.6 | 58 | 144 | 70 | 90 |
割合(%) | 100 | 54.0 | 27.1 | 0.5 | 17.1 | 38.4 | 18.7 | 24.0 |
ヤリイカ |
重量(瓦) | 33.5 | 310 | 162 | 105 | 0.5 | 56 | 124 | 81 | 66 |
割合(%) | 100 | 50.5 | 32.8 | 0.1 | 17.5 | 38.8 | 25.4 | 19.1 |
此れに依れば、コウイカ科に属するモンゴウイカ、ハリイカは、ジンドウイカ科に属するアオリイカ、ヤリイカに比較して胴部の重量比が小さく、特
に大型の甲を除去した胴内部の重量比は明らかに小さい。内臓の占める割合はモンゴウイカが稍(やや)小さいが、他は大差が觀られない。
次いで、4月30日(産卵期前)と6月18日(産卵期)の雌雄各五尾のシリヤケイカ(コウイカ科)に附いて、躰各部の重量を測定した結果を下記
に示す。
1938年 波多腰ヤス氏測定(胴長は糎)
試料 | 胴長 | 全重量 | 胴部 | 頭脚部 | 甲 | 内臓 | 胴肉部 | 頭脚肉部 | 皮・鰭等 |
雄 |
4月30日 |
重量(瓦) | 14.5 | 254 | 116 | 64 | 10 | 62 | 85 | 44 | 56 |
割合(%) | 100 | 44.9 | 24.3 | 3.9 | 24.2 | 33.1 | 17.2 | 21.6 |
6月18日 |
重量(瓦) | 13.5 | 241 | 115 | 61 | 11 | 45 | 81 | 46 | 62 |
割合(%) | 100 | 47.8 | 29.0 | 4.6 | 19.6 | 33.6 | 19.2 | 25.6 |
雌 |
4月30日 |
重量(瓦) | 14.8 | 290 | 119 | 61 | 10 | 95 | 90 | 37 | 50 |
割合(%) | 100 | 41.3 | 21.0 | 3.5 | 32.8 | 31.3 | 14.4 | 17.0 |
6月18日 |
重量(瓦) | 14.4 | 298 | 127 | 71 | 13 | 86 | 90 | 49 | 61 |
割合(%) | 100 | 42.9 | 23.9 | 4.5 | 28.8 | 30.4 | 13.7 | 22.0 |
此れに依れば、産卵前の約50日間に胴肉部の割合は雄烏賊で33.1%から33.6%へ、雌烏賊では31.3%から30.4%へと僅かに變動
する。孰れに仕ても雌烏賊に於ける胴肉部の割合が小さいのは、内臓、特に卵巣の割合が高い爲で有ろう。
亦、スルメイカ、アカイカ、ツメイカ(各々12尾平均)、ニュウドウイカ(1尾)、タコイカ(10尾平均)、ドスイカ(12尾平均)に附いて躰各部の重量
を測定した結果を下記に示す。
1975年 佐々木政則・相沢悟氏測定(外套長は粍)
試料 | 外套長 | 体重 | 鰭 | 胴肉 | 頭脚肉 | 肝臓 | 其他内臓 | 甲 | 口球 | 眼球 |
スルメイカ |
重量(瓦) | 266.6 | 431.3 | 33.4 | 191.2 | 95.3 | 70.5 | 19.8 | 1.0 | 5.5 | 9.9 |
割合(%) | 100.0 | 7.7 | 44.3 | 22.1 | 16.3 | 4.6 | 0.2 | 1.3 | 2.3 |
アカイカ |
重量(瓦) | 324.2 | 1088.4 | 108.5 | 447.8 | 294.4 | 90.4 | 69.7 | 2.8 | 14.4 | 38.7 |
割合(%) | 100.0 | 10.0 | 41.1 | 27.0 | 8.3 | 6.4 | 0.3 | 1.3 | 3.6 |
ツメイカ |
重量(瓦) | 251.7 | 321.8 | 43.3 | 126.5 | 69.8 | 36.4 | 25.4 | 2.5 | 4.9 | 5.0 |
割合(%) | 100.0 | 13.5 | 39.4 | 21.7 | 12.3 | 7.9 | 0.8 | 1.5 | 1.6 |
ニュウドウイカ |
重量(瓦) | 780.0 | 6150.0 | 585.0 | 2250.0 | 1900.0 | 610.0 | 525.0 | 28.0 | 63.0 | 108.0 |
割合(%) | 100.0 | 9.5 | 36.6 | 30.9 | 9.9 | 8.5 | 0.5 | 1.0 | 1.8 |
タコイカ |
重量(瓦) | 251.0 | 431.0 | 35.2 | 176.3 | 98.1 | 53.0 | 29.3 | 1.4 | 10.3 | 11.5 |
割合(%) | 100.0 | 8.2 | 40.3 | 22.8 | 12.3 | 6.8 | 0.3 | 2.4 | 2.7 |
ドスイカ |
重量(瓦) | 229.3 | 378.8 | 54.9 | 133.1 | 95.2 | 39.6 | 38.8 | 1.1 | 6.7 | 8.0 |
割合(%) | 100.0 | 14.4 | 35.1 | 25.2 | 10.6 | 10.2 | 0.3 | 1.8 | 2.1 |
此れに依れば、胴肉重量比はスルメイカが大きく、頭脚肉重量比はアカイカ、ニュウドウイカが大きく、鰭(ひれ)重量比はツメイカ、ドスイカが大
きい。
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筋肉組織(概要)
概要 烏賊の刺身は粘質性の感触を持つが、噛み切るのは容易では無い。亦、煮ると良く縮むが、特に表皮が良く縮む爲丸く成る。
松毬(まつかさ)煮は、烏賊肉の縮みを表現した料理で有る。一方、烏賊を乾燥した鯣(するめ)は肉質が強靱で、横に裂けるが縦には裂け無
い。烏賊肉が此の様な性状を示すのは、烏賊の表皮、及び、筋肉が特殊な組織構造を持つからで有る。
猶、トビイカの様に發光噐を持つ烏賊も居るが、殆どの烏賊の組織はスルメイカの組織と基本的に類似して居る爲、此處ではスルメイカを例に
採り其の組織構造を記す。
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筋肉組織(外套部)
表皮 スルメイカの表皮は4層の組織から成る。1層目、及び、2層目の皮は餘り方向性の無い網状組織で、核を有す。3層目の皮
は、特に核に富む筋肉類似の網状組織で有る。4層目の皮は典型的な繊維性結合織で、縦方向に走る繊維が筋肉と強く結合して居る。烏賊
の胴肉を加熱すると表皮を内側に仕て丸まるのは、此の繊維が収縮する爲で有る。
内臓に接する内側にも、薄い繊維性の結合織が有る。表皮を完全に除去した胴肉を加熱すると、此の結合織が収縮する爲に内臓側を内に仕
て丸まる。猶、色素胞は1層目と2層目の間、又は、2層目の内部に存在して居る。
筋肉 筋肉には筋繊維が密に並んで外套部の全周を環走して居る幅の廣い筋繊維層A(假称)と筋繊維層Aに對して直角に走る幅
の狭い筋繊維層B(假称)とが交互に存在して居る。孰れの筋繊維も直径が3乃至7ミクロンで、核を有して居る。
各層の筋繊維を包括する様な結合織は觀られ無いが、直径が約0.2ミクロンの繊維が集合した太さ2乃至10ミクロンの結合織が筋繊維A層
と筋繊維B層の中に入り込んで居る。
外套部筋肉組織圖
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筋肉組織(鰭部)
表皮 表面(外套膜に接して居ない面)の皮は、厚みが夫々れ20乃至150ミクロン(1層目)、20乃至80ミクロン(2層目)、10乃至
50ミクロン(3層目)の3層、若しくは、4層から成り、色素胞は1層目と2層目の間、又は、2層目の内部に散在して居る。
裏面(外套膜に接して居る面)の皮は、表面の皮より薄く、厚みが夫々れ約20ミクロン(1層目)、約30ミクロン(2層目)、約30ミクロン(3層目
)の3層から成り、色素胞は1層目と2層目の間に散在して居る。
筋肉 鰭(ひれ)の筋肉は、中央に存在する隔壁C層(假称)に依り表裏對象に二分されて居る。C層は厚さが70乃至200ミクロンの
軟骨様組織で、其の表面には縦に走る小さな筋繊維の層(C’)と空洞が散在して居る。
隔壁C層に依り表裏に分けられた筋肉組織は外套部の筋肉組織と近似して居るが、外套部に觀られた様な筋繊維層(A層とB層)の厚みの相
違は觀られ無い。外套部の筋繊維層AとBに相当するA’層とB’層(假称)の厚みは夫々れ130乃至200ミクロンと100乃至150ミクロンで有
る。亦、外套部の筋肉と同様に筋繊維層A’とB’の中に繊維性結合織が存在して居る。
鰭部筋肉組織圖
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筋肉組織(腕部)
表皮 腕(脚)は10本で吸盤が有る。背に最も近い左右の腕を左第1腕、右第1腕と呼び、順次に左右の第2腕、第3腕、触腕(最も
長い腕)、第4腕と称呼する。
表皮は外套部と同じく4層から成る。1層目は50乃至150ミクロン、2層目は50乃至200ミクロン、3層目は100ミクロン、4層目は30乃至
50ミクロンの厚さで、色素胞は1層目と2層目の間、又は、2層目の内部に存在して居る。
筋肉 腕の中心には髄(神經繊維束)が縦走して居る。輪切りにすると、髄の周囲には横に走る筋繊維の層a(假称)と、a層を両側
より挟んでa層と直角方向に走る筋繊維b(假称)が觀られる。a層とb層は腕周邊部に於いて、更に縦方向に走る筋繊維層c(假称)に依り両
側より挟まれて居る。此の様に複雑な組織構造が腕の筋肉を強靱な物に仕て居る。
腕部筋肉組織圖
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鮮度變化(外觀的變化)
解説 漁獲直後の烏賊は透明感が有り、外套膜の脊部は黒褐色を呈し、表皮の色素胞は活動して居る。死後、時間の経過と共に
透明感が失われるが、未だ表皮は赤褐色を呈し、筋肉は硬直状態に在る。表皮が乾燥して湿気を失うと、色素胞は擴大した儘固定されるの
で体表は赤褐色を保持して居るが、湿潤状態に保持すると色素胞は次第に収縮して黒色の斑點状に成り、最後には消失(肉眼的に觀え無い
状態)して白っぽく成る。水氷處理、或いは、積み重ねて置くと白色化の進行が速い。
硬直期を過ぎると筋肉の彈力が失われて柔らかく成る。更に時間が經過すると表皮が赤褐色を呈し、異臭を發生して腐敗する。
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鮮度變化(化學的變化)
解説 ポリエチレン袋に密封した砕氷を發泡スチロール箱に敷き、其の上に凾館で9月に漁獲された水揚げ直後の活スルメイカを五
尾宛並べて詰め、密封して凾館から東京迄所要時間約11時間を懸けて航空便で輸送し、到着直後の状態を觀察した輸送と貯蔵に附いての
試驗結果を下記に示す。猶、輸送時に、試料Aは試料重量に對して55%の砕氷を、亦、試料Bは試料重量に對して25%の砕氷を使用し、氷
の殘量は試料重量に對する割合(%)を示す。亦、發泡スチロール箱には縦22糎、横32糎、深さ4.5糎の物を使用した。
試料 | 氷殘量 | 腹腔内温度 | 外觀 | 刺身評価 |
A | 14% | 1℃ | 色調、艷共極めて良好で胴部全体が濃紫赤色を呈して居る。 | 艷、透明感、食感共に極めて良好で有った。 |
B | 0% | 10〜13℃ | 一部の試料で色素が斑状に分布し白っぽい感じの物が觀られた。 | 艷、透明感が試料Aに比べて僅かに落ち、食感も幾分柔らかい感じで有るが、刺身として充分良好で有った。 |
氷の使用量の多い試料Aでは、烏賊重量の14%の氷が殘存し、腹腔内の温度も摂氏1度に保持されて居る。氷の使用量の少ない試料Bで
は、氷が完全に融解し、腹腔内の温度も10乃至13度迄上昇して居る。表皮の色調、及び、筋肉の透明感は試料Bの方が僅かに劣って居り、
亦、刺身に仕た場合の食感は試料Aに比較して試料Bの方が柔らかいが、其の差は僅少で、両試料共刺身用の烏賊と仕て極めて良好で有
るとの評価を得て居る。
亦、此の試料を引き續き摂氏2度に貯蔵してK値(鮮度の指標)の變化を調べた結果を下記に示す。猶、參考の爲、市場で購入した外觀的に
は極めて高鮮度のスルメイカのK値は36.7%で有る。
試料 | 漁獲直後 | 到着直後 | 1日經過 | 2日經過 | 3日經過 |
A | 6.8% | 18.5% | 39.5% | 53.5% | 56.9% |
B | 6.8% | 45.6% | 47.5% | 53.0% | 55.0% |
スルメイカのK値の變化は、一般の魚類に比較して速い様に思われるが、其れでも、充分に冷却するとK値の上昇を抑制する事が出來る。一
般に烏賊肉は魚肉に比較して揮發性塩基態窒素が増加し易い。此の原因と仕ては、烏賊肉がエキス成分に富み細菌が繁殖し易い事、トリメ
チルアミンオキサイドが多く、細菌酵素に依り還元されてトリメチルアミンを生成する事等が擧げられて居る。猶、腐敗した烏賊肉には、アンモ
ニア、トリメチルアミン以外に蟻酸、酢酸、イソ酪酸、カプロン酸等の有機酸と數種のアミン類が検出されて居る。
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鮮度保持(船上處理)
氷蔵 水揚地に近い漁場で操業する場合には、豫め氷で冷却して置いた海水に烏賊を浸漬して冷却する方法か、又は、砕氷を用い
て冷却する方法が採られて居る。砕氷を用いる方法には、敷き氷法と掛け氷法とが有る。猶、最近では、生簀(いけす)に入れて活魚と仕て
水揚げされる事も有る。
冷凍 烏賊釣船の釣獲作業は全自動で行われ、乘組員の大部分が漁獲物の處理作業に從事する。釣り上げられた烏賊は、樋(と
い)、スリップウェイ、コンベア等に依り作業場に移送される。樋、スリップウェイを利用する場合には、ポンプで汲み上げた水流が烏賊を移送す
るのに利用される。作業場では、水洗い、水切りを仕た後、銘柄(大小)の選別を行う。選別した烏賊は凍結皿(パン)に頭脚を揃えて詰め秤量
する。此の作業を『パン立て』と謂う。凍結はコンタクトフリーザー方式かセミエアーブラスト方式に依り摂氏氷點下45乃至55度で急速凍結す
る。凍結が終了すれば、烏賊の冷凍塊を凍結皿より取り出し(此の作業を『脱パン』又は『パン抜き』と謂う)、冷水に浸漬して厚さ2乃至3粍の
グレーズを懸ける。最後に重量、銘柄、及び、船名等を表示したダンボール箱に詰め、摂氏氷點下25乃至35度の魚艙に保管する。最後の箱
詰作業は陸上で行う場合も有る。猶、遠洋の烏賊釣船では、嵩張る爲、船上では箱詰めを行わず、烏賊の冷凍塊に銘柄(尾數)、船名を表示
したステッカーを直接貼り付けて魚艙に保管する場合が多い。
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鮮度保持(陸上處理)
氷蔵 氷蔵では餘り長期間の貯蔵が出來ない。魚に對する砕氷の割合と貯蔵期間との關係は、下記が一般的な目安とされて居る。
勿論、貯蔵場所の気温に依り氷の量を加減する必要が有る。
時期 | 烏賊に對する砕氷の割合 |
1:3 | 1:2 | 1:1 | 2:1 | 3:1 | 4:1 | 5:1 |
夏 期 | 3日間 | 2日間 | 1日間 | − | − | − | − |
春秋期 | − | 3日間 | 2日間 | 1日間 | − | − | − |
冬 期 | − | − | − | − | 3日間 | 2日間 | 1日間 |
冷凍 作業手順は船上の場合と同じで有る。併し、陸上の場合には鮮度の良い原料丈とは限ら無い。鮮度の異なるスルメイカを冷凍
貯蔵し、解凍時のドリップ量を測定すると下記の様に成る。猶、下記は、スルメイカを摂氏氷點下27度で24時間凍結し、摂氏氷點下17度で
7日間冷蔵した仕た後に測定した者で有る。
試料 | 揮發性塩基態窒素 | フリードリップ | 圧搾ドリップ | 全ドリップ |
1 | 8.2mg% | 7.5% | 11.0% | 18.5% |
2 | 12.3mg% | 9.5% | 11.8% | 21.3% |
3 | 15.0mg% | 10.6% | 13.0% | 23.6% |
4 | 21.0mg% | 11.1% | 13.4% | 24.5% |
5 | 33.9mg% | 11.8% | 15.4% | 26.2% |
上記で明らかな様に、鮮度低下の程度(揮發性塩基態窒素の増加)に比例してドリップ量が増加して居る。鮮度が良い場合でも、緩慢凍結や
保管中に温度が上昇したりするとドリップ量が増加する原因に成る。
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組成(筋肉)
一般組成 加工原料と仕て利用されて居る主な烏賊の筋肉の一般組成を下記に示す。
種類 | 部位 | 水分(%) | 粗蛋白質(%) | 粗脂肪(%) | 灰分(%) |
スルメイカ |
胴 肉 | 77.3-78.7 | 20.2-21.7 | 0.8-1.1 | 1.5-2.1 |
鰭 肉 | 78.6-79.1 | 17.3-18.1 | 1.1-2.5 | 1.4-1.9 |
頭脚肉 | 78.7-79.4 | 17.4-19.2 | 1.0-1.7 | 1.1-1.8 |
アカイカ |
胴 肉 | 76.8-78.2 | 20.7-21.4 | 0.9-1.0 | 1.7-1.8 |
鰭 肉 | 78.6-81.1 | 15.8-19.7 | 1.4-20. | 1.1-1.6 |
頭脚肉 | 80.0-81.2 | 17.5-17.6 | 0.8-1.5 | 1.2-1.6 |
カナダイ レックス |
胴 肉 | 77.3-78.2 | 19.9-20.0 | 0.8-1.1 | 1.5-1.8 |
鰭 肉 | 78.7-79.9 | 16.8-17.1 | 1.9-2.0 | 1.3-1.8 |
頭脚肉 | 78.1-79.1 | 17.5-18.6 | 1.1-1.3 | 1.3-1.9 |
ニュージーランド スルメイカ |
胴 肉 | 77.0-79.1 | 18.6-21.4 | 0.7-1.1 | 1.8-2.1 |
鰭 肉 | 76.0-79.3 | 16.5-20.1 | 1.3-2.0 | 1.8-2.4 |
頭脚肉 | 78.1-79.2 | 16.9-19.3 | 0.8-1.2 | 1.8-2.2 |
アルゼンチン イレックス |
胴 肉 | 78.3-78.9 | 17.8-20.0 | 1.0-1.3 | 1.8-2.0 |
鰭 肉 | 79.8-80.5 | 15.6-15.8 | 2.2-2.5 | 1.7-2.1 |
頭脚肉 | 78.4-79.5 | 17.2-18.6 | 1.1-1.3 | 1.5-2.0 |
トビイカ |
胴 肉 | 75.5-76.3 | 21.0-22.3 | 0.4-0.8 | 1.7-2.4 |
鰭 肉 | 76,6-78.0 | 19.0-20.3 | 0.6-1.3 | 1.5-2.0 |
頭脚肉 | 77.2-79.8 | 17.6-19.6 | 0.6-1.1 | 1.7-2.0 |
オーストラリア スルメイカ |
胴 肉 | 76.6-78.5 | 18.6-20.3 | 0.8-1.1 | 1.9-2.2 |
鰭 肉 | 78.3-79.5 | 16.4-17.5 | 1.5-2.3 | 2.0-2.2 |
頭脚肉 | 77.8-79.9 | 16.8-18.9 | 0.9-1.4 | 2.0-2.1 |
ドスイカ |
胴 肉 | 84.8-85.8 | 12.7-13.7 | 0.6 | 1.5 |
鰭 肉 | 86.3 | 11.8 | - | - |
頭脚肉 | 86.3 | 12.1 | - | - |
水分は凡そ75乃至80%、粗蛋白質は16乃至21%、粗脂肪は1乃至2%、灰分は1乃至2%で、種類に依り若干の差が有る。同一種内の
雌雄や大きさの違いに依る差は顕著では無い。亦、季節變化に關しても、シリヤケイカを測定した結果では産卵前は産卵後に比較して水分
が少なく粗蛋白質が多い傾向が觀られるが、凾館近海産スルメイカの筋肉に附いて7月から12月迄調査した結果では大きな變動は無い。
水分は、胴肉が少なく、鰭肉、頭脚肉に多い傾向が觀られる。粗蛋白質は、水分とは逆に、胴肉に多く、鰭肉、頭脚肉が少ない。粗脂肪量の
少ないのは烏賊肉の特徴で、含量は1乃至2%の範囲内に在り、種類に依る差は認められ無い。
烏賊類の此等の一般組成を他の水産動物筋肉の其れと比較すると、脂質含量の低い白身魚肉に良く似て居る。併し、烏賊類筋肉は白身魚
肉よりエキス窒素に富んで居る。
猶、ドスイカは測定例が少ないが、水分が多く粗蛋白質が少ない。此の爲、加工原料と仕ての利用價値も低く評価されて居るが、漁獲海域に
依り利用價値が異なるとも謂われて居る。今後更に検討する必要が有るだろう。
エキス分 細切り仕た組織に冷水や熱湯を加えると、各種の水溶性成分が抽出される。此の抽出液、又は、其の濃縮物をエキスと
謂う。抽出液中には蛋白質、グリコーゲン等の高分子成分やビタミン、色素等も含まれて居るが、此等の成分を除く遊離アミノ酸、低分子ペプ
チド、有機塩基、有機酸、低分子糖類等を一括してエキス成分と謂う。エキス成分は、動物の發生、成長、運動等の過程で生成した代謝生産
物で、体内に粗(ほぼ)一定のレベルで存在する物と考えられて居る。
エキス成分には窒素を持つ成分と窒素を持た無い成分が有るが、窒素を持つ成分の方が遙かに多い。窒素を持つエキス成分(主に遊離アミノ
酸、低分子ペプチド)の總量は非蛋白態窒素量で表される。主な魚介類の筋肉の比蛋白態窒素量を測定すると、サメ、エイ類が最も多く、烏賊
類、甲殻類、赤身魚類、白身魚類の順に少なく成る。併し、100瓦中にアオリイカは672瓱、スルメイカは862瓱と謂う様に、烏賊の中でも種
類に依り大きな差が有る。
ソデイカ、スルメイカ、コウイカ、ヒラケンサキイカ、ケンサキイカ、アオリイカの遊離アミノ酸を定量すると、美味な種類のヒラケンサキイカ、ケンサ
キイカ、アオリイカには遊離アミノ酸、特にグリシン、プロリン、アラニン等の甘味の有るアミノ酸が多く、比較的不味なソデイカ、スルメイカには
遊離アミノ酸が比較的少なく、トリメチルアミンオキサイドが多い事から觀て、グリシン、プロリン、アラニン等が烏賊類の食味と密接な關係に有
ると推定される。猶、ベタインは種類に依る含量に大差がなく、トリメチルアミンオキサイドは比較的不味な種類に多い事から、此等は孰れも食
味に直接関係し無いと考えられる。
遊離アミノ酸では、總ての烏賊に共通してグリシン、プロリン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、タウリン等が多い。亦、オクトピンも多いが、
此れは烏賊、蛸、帆立貝等のエキスに多い。
四級アンモニウム塩基と仕ては、トリメチルアミンオキサイド、ベタイン、ホマリンが定量されて居るが、特にトリメチルアミンオキサイドとベタイン
の含量が多い。猶、同一種類の烏賊でも非蛋白態窒素量、及び、箇々のアミノ酸量が異なる。此の原因には、漁獲海域、漁獲時期、或いは、
生長段階の相違等が影響して居ると推測される。
脂質 烏賊の脂質含量は1乃至2%で有る。スルメイカ胴肉のエーテル抽出物の性状を調べた結果、得られた脂質(沃素價108、鹸
化價117)は室温で半固体、淡黄褐色で、58.5%のアセトン可溶部と41.5%のアセトン不溶部から成る。アセトン可溶部(沃素價196、鹸
化價189)を鹸化すると主としてコレステロールから成る不鹸化物が約37%得られる。不鹸化物を除いた混合脂肪酸は35%の固体酸(沃素
價58)と65%の液体酸(沃素價249)から成る。アセトン不溶部は、レシチンを主成分とする68.5%のアルコール可溶部とケファリンを主成
分とするアルコール不溶部から成る。
スルメイカ筋肉、及び、肝臓脂質の組成、特に燐脂質の組成を調査した結果、筋肉では脂質の約三分の二を複合脂質が占め、中性脂質は少
ない。複合脂質の内、大部分は燐脂質で、燐脂質の内ではレシチンが約70%を占める。筋肉脂質中複合脂質が過半を占める例は、脂質含
量の極めて少ない魚類筋肉等でも觀られる。猶、肝臓には50%以上の脂質が含まれるが、大部分は中性脂質で有り、從って、筋肉と肝臓の
脂質含量の差は中性脂質含量の差に基づく者で、複合脂質含量には大差が無い。烏賊は筋肉に脂肪を蓄積し無いで、肝臓に多量の脂肪を
蓄積する。一般に、筋肉に脂肪を蓄積し無い魚介類の筋肉脂質には燐脂質が多い。
烏賊、蛸等の頭足類筋肉にはコレステロールが多く含有されて居ると謂われ、最近タウリンの存在が注目され意識改革が進行しつつ有るが、
依然動脈硬化の予防上此等の食品が敬遠される傾向に有る爲、烏賊類筋肉のコレステロール含量に附いて下記に示す。
ナポリ灣産ヨーロッパヤリイカ筋肉のステロール組成を分析した結果、ステロール中コレステロールが94.1%を占めて居り、亦、ガスクロマト
グラフィーに依る分析で、スルメイカ、モンゴウイカではコレステロール以外のステロールは検出されなかったと報告されて居る。
亦、多數の食品に附いて總コレステロール(エステル型と遊離型)含量を比色法で測定した結果、コレステロール含量は頭足類、甲殻類、魚
類の順に多いと謂う傾向が認められ、ヤリイカは特に多いと指摘されて居る。
此れに對し、從來用いられて來た比色分析法はコレステロールに對する特異性に問題が有り、3β−ヒドロキシステロールに高い特異性を示
すコレステロールオキシダーゼを用いる酵素法で多數の食品を分析すると、比色法に依る分析値より6乃至35%、平均17%も低い値が得ら
れると謂う報告も有る。此の方法に依る分析でも、烏賊類の値は魚肉に比較すると依然高い値を示すが、從來の報告値より著しく低い値を示
して居る。猶、ヨーロッパコウイカにはコレステロールの生合成能は無いと謂う報告も有る。
無機成分 烏賊肉の無機成分では、カリウム、ナトリウム、リンが多い。亦、烏賊肉には魚肉よりも多くの銅が含まれて居る。此れは
烏賊の血液中にヘモシアニンが存在する爲で有る。ヘモシアニンは烏賊類、海老・蟹類に分布する銅蛋白質で、ヘモグロビンと同じく酸素を運
搬する機能を有し、此等の動物の呼吸機能を担って居る。
猶、他の魚介類と同様に烏賊類にも水銀が検出されて居るが、其の値は0.01乃至0.09ppmで、孰れの種類も規制値(總水銀04ppm)を
下廻って居る。
ビタミン 烏賊肉のビタミンでは、レチノール(A)、チアミン(B1)、リボフラビン(B2)、ナイアシン、アスコルビンサン(C)等が有る。一
般に、水産動物の肝臓(肝油)には高濃度にビタミンAが蓄積されて居る。
蛋白質 烏賊類外套筋には20%前後の蛋白質が含まれる。此の蛋白質は、他の動物の筋肉蛋白質と同様に筋原繊維を構成する
筋原繊維蛋白質、筋原繊維の間隙を満たして居る筋形質蛋白質、結合組織を構成する筋基質蛋白質に大別される。スルメイカ外套筋の各蛋
白質の組成は、筋原繊維蛋白質が80%前後で最も多く、筋形質蛋白質が12乃至20%で此れに次ぎ、筋基質蛋白質は2乃至3%で最も少
ない。猶、魚類普通筋の蛋白質組成と比較すると、スルメイカ外套膜は筋原繊維蛋白質に富む。
酵素 烏賊類は外套筋を使い漏斗から水を強く噴射して遊泳するが、此の運動が炭水化物とアミノ酸の異化代謝で支えられて居る
事を、外套筋の解糖系酵素と關聯酵素の活性を調査する事に依り、指摘されて居る。
色素 烏賊類筋肉には外見上明瞭に認識される色素は一般には無いが、他の動物と同様に細胞呼吸に關與するシトクロム系色素
が存在し、其の内シトクロムCが高度に精製され、性状が明らかにされて居る。烏賊のシトクロムCは硫酸アンモニウムを飽和させても沈澱し
無い點が特徴的で有るが、吸収スペクトルは他動物の物と完全に一致して居る。
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組成(表皮)
一般組成 スルメイカ外套膜の表皮の一般組成を下記に示す。猶、比較の爲に、スルメイカの胴肉の一般組成も附記して置く。
種類 | 部位 | 水分(%) | 全窒素(%) | 粗脂肪(%) | 粗灰分(%) |
スルメイカ |
表皮 | 84.42 | 1.70 | 2.85 | 1.46 |
82.44 | 2.09 | 2.31 | 1.57 |
84.30 | 1.62 | 2.99 | 1.60 |
83.96 | 1.85 | 2.56 | 1.60 |
83.59 | 1.76 | 2.02 | 1.75 |
胴肉 | 75.09-76.92 | 3.12-3.43 | 0.15-1.72 | 1.34-1.55 |
水分は82乃至84%、全窒素は1.6乃至2.1%、粗脂肪は2.0乃至3.0%、灰分は1.5乃至1.8%で、筋肉に比較すると水分と粗脂
肪が多く、全窒素が少ない。全窒素の内18乃至19%が冷水可溶、42乃至43%が熱水可溶で有る。熱水可溶性窒素が多いのはコラー
ゲンの存在に依る者で、コラーゲン態窒素は全窒素の約20%を占める。星鮫、平目、鯉等の表皮ではコラーゲン窒素は全窒素の50乃至
70%にも及ぶので、此等に比較するとスルメイカの値は著しく低い。
皮と肉では、全窒素とエーテル抽出物に著しい差が觀られる。肉の全窒素は皮の約2倍に近く、皮のエーテル抽出物は肉の2乃至20倍に
及んで居る。
コラーゲン態窒素 水溶性成分を除いたスルメイカ外套膜から燐酸塩緩衝液(水素イオン濃度指數5.8)に依り摂氏90度、1時間
で抽出したコラーゲン態窒素を測定すると、全窒素に對するコラーゲン態窒素の割合は、肉が5.4乃至5.5%、皮が19.7乃至22.3%で、
皮の全窒素に對するコラーゲン態窒素の割合は肉の3.4乃至4.0倍で有る。
スルメイカの皮にコラーゲンが多い事に着目し、ゼラチン抽出の可能性に附いて検討した結果、色素胞は石灰漬けの工程で除去出來るので
障害には成らず、得られた膠は淡茶褐色で、粘度と接着力は市販品に匹敵するとの報告が有る。
色素 烏賊の表皮は四層から成り、色素胞は一層目と二層目の間、又は、二層目の内部に存在して居る。色素胞には黄色、橙色、
紫褐色等が有り、烏賊が活きて居る時には、色素胞を膨張させたり収縮させたり仕て体色を變化させる爲、烏賊全体が美しい桃色を帶びた
茶色を呈したり、白っぽく觀えたりする。併し、死後、色素胞は収縮するので、体色は白色と成る。色素胞は外套部丈で無く、頭脚部や鰭にも
分布するが、特に外套背部に密集して居る。
此の色素胞中の色素は有機溶剤では抽出され無いが、塩酸・メタノール混液で抽出される。亦、アルカリ性溶液で溶出され、酸性で沈澱す
る。此の色素はトリプトファンを出發物質とするオモクロムに属し、オミンと同定されて居る。オミンは節足動物、軟体動物(コウイカ、ヤリイカ、
スルメイカ、タコ)等の眼、表皮等に存在する事が知られて居る。
亦、烏賊類には体表で發光する種類が有り、發光烏賊と称呼されて居る。閉眼型の發光烏賊は發光細菌の共生に依る物が多いが、開眼
型の發光烏賊は体表に發光物質を有して居る。其の發光機構は、發光噐で不溶性物質と結合して居るワタセニア・ルシフェリンが酵素に依
りワタセニア・オキシルシフェリンに成り、次いで其のエネルギーが緑色螢光蛋白質へ移動し發光する。肝臓にはワタセニア・ルシフェリンの
前駆体と考えられるワタセニア・プレルシフェリンが存在するので、此れが血リンパを通って發光噐に運ばれると推測される。
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組成(肝臓)
一般組成 烏賊の中腸腺を一般に肝臓と呼んで居る。肝臓は体重の5乃至15%を占めて居るが、スルメイカの肝臓の一部が塩辛、
烏賊醤油等の食用に使用されて居るに過ぎず、殘りの大部分は肝油、飼肥料の原料にされて居る。加工原料と仕て利用されて居る主な烏
賊の肝臓の一般組成を下記に示す。
種類 | 水分(%) | 全窒素(%) | 粗脂肪(%) | 粗灰分(%) |
スルメイカ | 45.9 | 19.1 | 32.4 | 1.2 |
アルゼンチンイレックス | 37.4 | 11.1 | 50.4 | 1.2 |
ニュージーランドスルメイカ | 56.4 | 21.5 | 19.8 | 1.7 |
アカイカ | 63.3 | 19.2 | 15.7 | 1.7 |
ニセアカイカ | 70.6 | 16.5 | 9.1 | 2.1 |
上記から、水分の多い物は粗脂肪が少なく、水分の少ない物は粗脂肪が多い傾向が觀られる。此れは、漁獲時期の異なるスルメイカの肝臓
の一般組成を測定した結果とも合致する。猶、ニセアカイカとは、南西大西洋に棲息するアカイカ科の烏賊で、最近ではアカスルメイカと称呼
される事が多い烏賊の事で有る。
脂質 脂質組成では、トリグリセリドの含量が最も多く、スルメイカ、アルゼンチンイレックスでは全脂質の42乃至44%、ニュージーラ
ンドスルメイカ、アカイカでは全脂質の31乃至32%を占めて居る。次に多いのは遊離脂肪酸(18乃至25%)、ステロールエステルと炭水化物
(10乃至21%)で有る。
脂肪酸組成では、總ての烏賊に共通してドコサヘキサ塩酸が多い。亦、アカイカ以外にはエイコサペンタ塩酸も多い。
遊離アミノ酸 エキス態窒素は、ニュージーランドスルメイカ(約1400瓱)が最も多く、次いでアルゼンチンイレックス、ニセアカイカ(約
1150瓱)に多い。アカイカ、スルメイカ(約860乃至900瓱)のエキス態窒素は他と比較して少ない。
遊離アミノ酸の合計量はニュージーランドスルメイカ(約6350瓱)が飛び抜けて多く、次いでアルゼンチンイレックス、アカイカ、ニセアカイカ(約
3000乃至3700瓱)が多く、スルメイカ(約2600瓱)が最も少ない。猶、括弧内は孰れも試料百瓦當たりの重量を示す。
遊離アミノ酸の内ではタウリン、グルタミン酸、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニールアラニン、リジン、アルギニン、アス
パラギン、プロリン等が總てに共通して多い。
色素 スルメイカ肝油は濃い赤色を呈する。其の呈色物質をクロマトグラフィーで分離し、鹸化後得られる黒紫色の結晶の性状を調査
した結果、アスタシンと同定した。生体内では大部分アスタキサチンと仕て存在し、採油中、又は、分離中にアスタシンに酸化された者で有る。
酵素 烏賊の塩辛製造に其の肝臓が使用される事からも判る様に、烏賊類の肝臓は強い蛋白質分解活性を示す。スルメイカ肝臓の
蛋白質分解酵素の諸性質から、カテプシン系酵素、若しくは、カテプシン系酵素群から成ると推定される。
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組成(墨汁)
解説 頭足類の烏賊や蛸の外套腔には墨汁嚢と称呼される特殊な噐官が有り、外敵の攻撃を受けたり驚かされたりすると、中に貯
えて居た墨汁を噴出する事は良く知られて居る。此の黒色乃至褐色の色素はメラニンで、コウイカ類(セピア)から得られる物は属名に因んで
セピオメラニンと呼ばれて居る。
頭足類の墨汁メラニンは真正メラニン(エウメラニン)で、マグネシウムやカルシウム塩と仕て存在する。スルメイカの墨汁の色素成分と仕ては、
此の他少量のプテリンが検出されて居る。
墨汁は、頭足類が自分の躰を外敵から隠す迷彩に使用される者と考えられて居たが、蛸の墨汁にはウツボの嗅覺を麻痺させ、亦、蟹の感覺
を麻痺させて摂食行動を停止させる事が認められて居り、烏賊類の墨汁にも單に迷彩丈で無く、更に積極的な自己防御用に使用されて居る
可能性も有る。
烏賊の墨汁は古くから書用インクと仕て使用されて來たが、日本では富山縣で烏賊塩辛の黒造りに使用されて居る。塩辛に墨汁を加えるの
は主に嗜好に基づくと謂う説と、墨汁には防腐作用が有り、其れを加え無い白造りよりも味の良い製品が得られると謂う説が有る。此の點を
解明す可く、塩辛製造中の遊離アミノ酸量の變化に及ぼす墨汁添加の影響を調査した結果、白造りではプロリン、メチオニン、セリン、グルタ
ミン酸が減少乃至は消失するのに反し、黒造りでは大きな變化は觀られず、アミノ態窒素量が長期間安定して居るので、細菌の影響が白造
りよりも小さい者と推定される。
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組成(甲)
解説 コウイカ類の外套腔には楕円形、菱形、槍形等を仕た甲(貝殻)が有り、スルメイカ類やヤリイカ類には此の甲の石灰質を失い
更に退化したと觀られる薄く透明な角質状の軟甲(内殻)が有る。
スルメイカの軟甲の成分には、窒素成分が多く含まれ、亦、還元糖も可成り多い。亦、スルメイカの成長に伴い軟甲の重量が増加する事、其の
重量と全窒素量との間には比例關係が觀られる事、軟甲重量が約100瓱に達する迄はグルコサミン含量は増加して行くが其れ以上では一
定の増減傾向を示さ無い事、全窒素に對するグルコサミン窒素の割合は生体が或る大きさに達する迄は増加するが其れ以後は減少傾向を示
す事等が確認されて居る。
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組成(嘴・吸盤・軟骨)
解説 烏賊類は、俗に鳶(とんび)・鴉(からす)と称呼される鋭く尖った口噐を持ち、腕には吸盤が有る。亦、頸部には軟骨様組織が
有る。
嘴(くちばし)は多量の糖分を含み、水酸化カリウムで處理した殘査の酸加水分解からグルコサミンが得られる事から、キチン様物質が含まれ
る事が判る。烏賊の甲はβ−キチンより成るのに對し、嘴と歯舌はα−キチンから成ると謂う興味有る事実が報告されて居る。
吸盤と軟骨は熱水可溶性窒素に富む。ゼラチンを定量した結果、コラーゲンが可成り含まれると思われるが、吸盤は硫黄含量が高いので、ケ
ラチンに類似した硬蛋白質では無いかと謂う説も有る。
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組成(卵)
解説 産卵の爲に集結したアオリイカの卵巣卵の一般成分と蛋白質アミノ酸組成を分析した結果、虹鱒、鮭、油角鮫等の魚卵に比
較すると、水分と非蛋白態窒素が多く、脂質が少ない事、アミノ酸ではアスパラギン酸、ロイシン、リジン、スレオニン、チロシンに富み、プロリ
ンに乏しい事等が指摘されて居る。
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