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烏賊と電脳の綜合百科事典
烏賊の王様

烏賊の形態と生態

漁撈(漁船の生活)に關する索引

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  1. 漁撈
    1. 漁船の生活(船凍烏賊釣船の船内勞働過程)
      1. 概要
      2. 漁撈勞働過程
      3. 船内生産過程
      4. 乘組員の生活
      5. 總括


船凍烏賊釣船の船内勞働過程−概要

解説 南西大西洋海域での烏賊釣操業を目的と仕て1980年代中頃から出現した最新式の大型烏賊釣船凍漁船は、徹底した船舶 運航の衛星航法化と漁撈装置の自動・装置化(自動烏賊釣機の集中制御等のシステム)が施されると共に、漁獲物の冷凍處理過程でのマニ ュアル化を一段と進めて來た。船凍烏賊は、珍味加工、惣菜加工等の加工原料と仕て需要を伸ばして來た商材で有り、船内での漁獲物處理、 冷凍加工に當たっての商品化勞働過程が、市場での商品評価に直結して來た業種でも有る。注釈1

大型烏賊釣船凍漁船での運航、漁撈機噐の装置・システム化に依り釣漁業の生産力は此處數年の間に飛躍的に増大した。大型烏賊釣の漁 業生産力を擴大させた要因に、南西大西洋の烏賊資源が處女資源に近い恵まれた資源・漁場的条件に在った事は謂う迄も無いが、漁業技 術・勞働の視點からは、大型烏賊釣船凍漁船の生産・勞働過程に於ける自動化とマニュアル化に依る勞働生産性の擴充・擴大が圖られた事 は見逃せ無い。

烏賊釣漁船での自動烏賊釣機の導入・普及は、烏賊釣甲板作業過程其の物を大きく變貌させた。烏賊を釣ると謂う漁獲活動は烏賊釣機が自 動的に行い、甲板員の勞働は自動化装置の監視と生産工程で發生する絲絡まりや機噐の故障等の異常事態に對處する修理・修復勞働が 中心と成り、從來の漁獲活動を中心と仕た甲板勞働からは開放された者と成った。併し、烏賊釣勞働自体は、自動烏賊釣機の装置化された 生産システムに組み込まれる事に依り新たな監視・修復勞働等の精神的緊張感の高い勞働様式(ロボット化に依る勞働様式の變化)へと變 貌したので有る。注釈2

更により基本的な船内勞働過程の變化は、漁船の船凍化に伴い齎された。凍結烏賊の製品規格化に依り、船内勞働の主体が漁獲物の選別 ・凍結處理・加工勞働等の漁獲物の商品價値を高める勞働へと移行した事に在る。漁獲物の處理・加工勞働は、從來は漁船勞働全体の中で は補助的な勞働と仕ての位置附けでしか無かった。其れは、漁船漁業に於ける生産・勞働過程に對する評価が海洋の對象資源を如何に經 濟的に効率良く漁獲するかと謂う漁獲生産技術を機軸と仕た生産力論に偏重して居たからで有る。併し、漁船漁業に於いても單に漁獲を量的 に確保すると謂った生産形態から、市場での流通、及び、消費形態を意識した品質面での商品管理を船上での生産過程に求められる時代と 成った。

漁撈勞働過程−概要

解説 今日の大型烏賊釣船凍漁船では、烏賊を釣獲すると謂う基本的漁獲行爲は自動烏賊釣機が行い、乘組員は自動烏賊釣機の 監視とトラブル等の異常事態發生に際しての修復作業と、釣獲した烏賊を選別・冷凍する漁獲物の處理(製品化=商品化)作業とから成って 居る。此處では、漁獲行爲に入る迄の資源探索・認識過程から、甲板作業で有る自動烏賊釣機の監視・修復勞働を、烏賊の流れに沿って整 理して觀る。

漁撈勞働過程−情報の集中・集積と職務の專門化

解説 漁船が漁場に近附くと、漁撈長は水温計、魚群探知機が知らせる海況・資源情報の入手・分析に專念する。情報分析には自 船で集めた情報丈で無く、他船漁撈長との交信で得た情報をも參考に仕て釣針を投下する地點を絞り込んで行く。亦、通信長の行う内地との 交信で得られる各船別の水揚等の漁獲情報やファックスで送られて來る気象情報も、漁場分析には欠かせ無い重要な情報で有る。

投下地點が決まり操業に入ると、自動烏賊釣機の稼働状況や漁獲報告が船長、及び、甲板長から報告され、其れに基づいて機噐等の監視・ 修復要員とパン立て等の漁獲物處理要員の配員を漁撈長が決め、船長等の甲板部責任者に傳えられる。漁撈長自らも船橋(ブリッジ)から甲 板上の作業を監視する。

漁獲物が船上に自動烏賊釣機に依り釣り揚げられると、サイズ毎に選別されて水産物と仕ての商品形態に冷凍・加工處理される。冷凍加工 を初めとする商品生産は、漁船の發電能力と凍結庫の収容力に規定される事から、發電機等の機關部の運転責任者で有る機關長が指揮・ 監督する。從って、機關長は商品別生産量、品質等の商品管理情報を把握し得る立場に在り、漁撈長に此等の商品情報を報告する。

船内での、漁撈長を中心と仕た幹部船員(船長、機關長、通信長、甲板長)間の情報の流れと仕事の分担を圖式化したのが下圖で有る。情 報のネットワーク化を進める事で、各パートの分権化と共に漁撈長への情報の集約を円滑に行える体制と成って居る。

船内情報は總て漁撈長に集まる様に成って居り、漁撈長以下の幹部船員の任務は明確に專門分化して居て、專門情報は漁撈長を經由して 相互に交換出來るシステムが作られて居る。漁撈長と幹部船員との情報交換は船團内の漁撈長間情報と違い、總て他の一般船員が同席す る食堂等で開放的な状況で行われる。漁撈・生産情報を公開する事で、生産意慾を鼓舞し乘組員同士の團結・士気を高める効果が一方で期 待されて居る。此れは從業員全員參加の日本型勞務管理システムを取り入れた者で有り、漁獲量等の量的生産情報丈で無く、商品形態(ラ ウンドの儘で烏賊を凍結するか、壺抜きやロールに仕て凍結するか等)から、冷凍・品質に至る商品情報全般に亘って情報が交換される仕組 みと成って居る。

冷凍機噐の管理を行う機關長は、烏賊の鮮度を損なわずに効率良く處理し凍結保管を行う品質管理者でも有り、船内に於ける地位も烏賊釣 漁船の船凍化に伴い、船長を抜き漁撈長に次ぐ第二の位置と成る。機關長は自船の凍結及び魚艙の収容力を判斷し、釣獲した烏賊の處理 作業手順を決めて行く。處理された烏賊の製品・品質は逐次漁撈長に報告されると共に、通信長を通じて内地の船主に漁獲量や品質等の商 品情報も報告される。注釈3 船内情報網圖

通信長は、漁船と内地及び外國機關や外地の支援機關(駐在事務所や代理店)等の外部との通信聯絡を行う。通信聯絡業務には、船舶運 航情報や気象情報と共に、漁獲情報等(暗号化されて居る)の船團内交信(QRY)も有る。其の爲に、自船の漁獲量及び製品の生産情報を 通信長が管理して居り、内地の烏賊市況等の情報と併せて、生産管理一般の情報を把握して居る。漁船が船凍化し、船上で作られる冷凍水 産物の品質・サイズが統一・規格化された事に依り、加工・在庫機能を有した漁港で有れば全國何處へでも水揚げ出來る様に成る。洋上での 転載(仲積)に際しては、仲積船の入港先、時期に依り烏賊の産地價格も違う事から、在庫・市況動向に依り何の港に向かう仲積船が最適か 選択する必要が有り、烏賊市況を常に入手して置くのも通信長の重要な任務と成る。

船長は、漁船運航(船位測定、航海日誌記載等)及び入出港手續等に係わる船舶職員法上の法的責務と共に、烏賊釣漁船では、操業及び 漁獲物の處理・運搬等の甲板作業全般に亘る作業管理者と安全管理者も兼ねて居る。甲板作業は、漁獲した烏賊の選別等の處理能力と漁 船の凍結(船凍)能力に依り作業手順及び作業量が決まる事から、凍結關係を統括する機關長と協議して作業手順を決めて居る。

漁業生産に於ける自動化・情報化・附加價値生産の在り方に對應した大型烏賊釣船凍漁船での漁撈(漁獲)勞働の變化を觀ると、以下の通 りと成る。

  • 航海・情報機噐の發達に依り、漁撈長、船長、通信長三者の役割と分担が、実質的にも機能分化を深化させると共に船のネットワークを形成 する。漁撈長は、各種情報のコントロール機能を強化させ、マネージメントシステムを確立させる。
  • 船長は、往復航時の運航と入出港時の法的責任者では有るが、操業中は、甲板作業の安全管理者と仕て專念する。
  • 通信長は、内地及び外地との通信聯絡を任務とし、気象情報及び漁獲情報等の操業情報の入手と共に、内地市況や經營・管理情報を漁撈 長に傳達する。情報機噐の發達と情報化した操業形態に在って、其の任務は重要と成って居り、電信船(直接海外と交信する船)では、船長 を抜いて船内では機關長に次ぐ第三の地位と成る。

操業・烏賊釣機の監視及び針喧嘩(絲絡まり)等のトラブルの修復勞働

解説 漁場探査が行われ操業地點が決まると、パラアンカー(シーアンカー、汐帆)の投入と自動烏賊釣機の起動と成り、烏賊釣の 操業に入る。操業準備は、漁船が停止すると、船長若しくは甲板長の指揮の許に船首からのパラアンカー投入に依り始まる。投入が終了する と、走航中には起こして立て懸けて居た烏賊受流台(ネット)を海側に突き出す様に倒して行く。パラアンカーとスパンカー(艫帆)で船脚が止ま ると、自動烏賊釣機を初めは一臺置きに、烏賊が釣れ出すと順次總ての機械を始動させる。漁場探査と操業準備は、漁場探査・情報交換・パ ラアンカー投入・烏賊釣機始動の四行程から成り、此の過程は、漁撈及び漁獲物の處理過程を準備する段取り等の前處理過程と謂える。

其他の準備作業には、針結び等の釣絲作成、漁獲物の選別等で用いるパン(魚凾)の整理、自動烏賊釣機及び諸機械類の整備點検作業等 が有り、此等の作業は日本の基地を出港して海外基地乃至漁場に到着する迄の航海中に行われる。

自動烏賊釣機が回転を始めると、上甲板では船の船首(おもて)側に2乃至4名、船尾(とも)側に2乃至3名の總勢5乃至7名の乘組員が配 置に就き、自動烏賊釣機の監視と針喧嘩等の修復作業に當たる。下圖は、ニュージーランド200浬内操業船での午前2時に於ける乘員配置 を示して居る。昼勤の船長A、機關長B、見習二航士Eの3名は各自室で睡眠中。上甲板では、一航士Dが船橋(ブリッジ)下の右舷で作業 者の監督並びに手動烏賊釣機の運転を、甲板長Gは左舷船首で、司廚長Hと機關員1Nは左舷船尾で、機關員2Oは右舷船尾で烏賊釣機 の監視とトラブル修復等の漁獲作業に從事。下甲板では、一機士F、甲板員1I、甲板員2J、甲板員3K、甲板員4L、冷凍長Mの6名が、 烏賊の選別・パン立てに從事。船橋では、漁撈長@が烏賊の釣獲状況と、作業全般に亘る指揮を執り、通信長Cは無線室(自室)で船團内 交信に從事して居る。
操業中乘組員配置圖漁撈過程作業工程圖

船長や通信長、甲板長、一等航海士等の幹部船員は、操舵室下の兩舷に設けられた手動烏賊釣機を廻し乍ら、甲板員を監督すると同時に、 自動烏賊釣機の監視をも行う。

針喧嘩(絲絡まり)等のトラブルが發生すると、幹部船員が甲板員に大聲で指示を與えると共に、自らも率先して修復作業に當たる。修理・修 復に時間が懸かると其れ丈遊休機械が増え生産効率は低下する事に成り、修復作業は其れ丈に時間との竸争と成る。

自動烏賊釣機は、入力した針の深度、回転數等豫め決めた設定条件の許では長時間烏賊を釣り續ける事は得意で有る。併し、豫定外の鮫 や潮流の豫測せ非る變化に對しては受け容れる餘地が自動化装置と雖も機械で有る丈に無い。從って、一寸した条件の變化でもトラブルと 成り、トラブルの修復作業は總て人手で行われる。相當な力で回転するドラムを相手に行う爲、機械に巻き込まれる等の事故の危険が常に附 き纏って居る。

甲板部の漁撈過程と並行して機關部では、操業に備えて發電機及び冷凍機等の整備點検が漁場に到着する迄に行われる。冷凍船での烏賊 釣操業では、烏賊資源を集める集魚灯の光力確保と漁獲した烏賊の鮮度を保持し商品價値を維持する冷凍は必要不可欠で有り、其の兩者を 管理・運營するのが機關部の任務と成って居る。從って、漁撈操業の合間にも機關長を始め機關部員は、發電機及び主機、冷凍機等の保守 點検を随時行い、冷凍庫温度等の計噐類の點検も欠かせ無い者と成る。

船内での商品生産過程−概要

解説 自動烏賊釣機の導入は、船内勞働の比重を漁獲活動中心の勞働体系から、釣獲した烏賊をサイズ毎に冷凍パン(魚凾)に詰 め凍結する選別・パン立て等の漁獲物の處理過程(商品化勞働)へと移行させる技術的契機と成った。

船凍烏賊は、食品加工される加工原料が主体で有り、食品加工業の生産規模、生産規格に適合したサイズ及び品質の統一が要求され、其 の統一基準に從い漁獲物の處理が行われて居る。

因みに、ニュージーランド釣烏賊の統一基準をサイズ別加工用途に分けて觀ると、1凾30尾以下が生食用及び鯣(するめ)、一夜干し(燒烏賊 等)の加工原料用、31乃至40尾が惣菜用のIQF及び加工原料用、41乃至50尾が餌料用及び加工原料用(烏賊飯)、51尾以上が加工原 料用(燒烏賊、塩辛)と成って居り、此の加工用途に從って船内處理が行われて居る。

選別・パン立て(凾詰め)勞働過程

解説 選別は、烏賊のサイズを揃えてパン(魚凾、冷凍凾)に詰める過程で同時に行われる。サイズの大小に依りパン中に入る烏賊 の尾數が決まって居り、1凾10尾以下から100尾以上迄、5尾又は10尾單位で15段階にも肌理細かくサイズが區分されて居る。15段階に も細分化されて居ても、実際の操業に於いては、同一資源では烏賊のサイズに其れ程の開きも無く、多くても5段階位に纏まって釣獲されて 來る。

パン詰された烏賊は秤に懸けて計量され、パンの中の烏賊を減らしたり増やしたり仕て、同一重量(8乃至10瓩)に仕て行く。計量と同時に、 パン中の尾數を示す船名入ステッカーを烏賊の上に貼って行く。ステッカーに船名が入る事で、生産者が明示され、産地市場取引での船側責 任と船の商品に對する技量を評価する事が出來、品質の統一化を進める結果と成った。
漁獲物處理過程作業工程圖

烏賊の内蔵と頭脚部を抜き取るチューブ(壺抜)やロール(烏賊の胴体を開いてロール状に丸めた物)等の加工工程は、パン立てを行う前の段 階で行われる。壺抜(つぼぬき)等の加工を加える事で、船凍烏賊製品の商品價値を高める事が出來、而も、其の儘の状態で有るラウンド(丸) より嵩が低く成るので、其の分多くの製品を船に積載する事が出來る爲、漁獲量の多い南西大西洋操業船では烏賊處理作業の基本と成って 居る。

加工用の冷凍水産物で有っても、食用で有る事から、冷凍烏賊商品の見榮えは鮮度と共に産地價格(浜建て)の重要な決定要因で有り、パ ン立てに對する乘組員の熟練度が烏賊の鮮度と船全体の烏賊處理速度を規定する爲、パン立て等の商品化過程が機械化・自動化されずに 勞働集約的に行われて居る現段階に在っては、漁獲能力と共に斯う仕た處理技術(商品化技術)に習熟した熟練勞働力の確保が船間格差 の要因と成って來る。

冷凍庫入れ作業

解説 選別・パン立てされたパンは、ローラー(算盤)を用いて凍結庫に入庫するが、入庫前に1凾宛尾數を讀み揚げ帳面(野帳)に 記録される。記録は主に通信長の仕事で有り、サイズ毎の製品量が毎日無線で日本(内地)の會社に報告される。

凍結庫内の温度は摂氏氷點下40度で、凍結庫内の棚にパンを並べる乘組員は、防寒帽、防寒服、防寒ズボン、防寒靴の完全装備で作業を 行う。防寒着を装着しての勞働は躰力を消耗させる爲、船内でも躰力の有る若年者を中心と仕た作業要員で構成されて居る。

凍結に入ると機關長を始め機關部員は、凍結温度の管理に追われる。充分な凍結を確保し無いと、緩慢凍結と成り、保冷中の烏賊ブロックが 變形したり、乾燥したり、鮮度が失われる爲で有る。冷凍庫入れの作業中も、機關長、若しくは、冷凍長は、冷凍庫及び凍結庫内温度の監視 と凍結された烏賊ブロックの硬度検査を随時行う。凍結庫内の烏賊は5乃至7時間で凍結するが、凍結時間の時間差は、凍結庫に既に入庫 して居る量と、集魚灯に使用する電気量に依り異なって來る。
漁獲物處理過程作業工程圖

脱パン作業、及び、冷蔵庫収納作業

解説 凍結パン(魚凾)は、ローラー(算盤)を用いて凍結庫から出され、海水を通した脱パン噐の中で海水に浸し、凍結した烏賊ブロ ックを冷凍パンから取り出す過程を脱パン作業と謂う。

摂氏氷點下40度で凍結されたパンは、脱パン噐を通過した丈では簡單に離脱し無い爲、脱パン噐から出て來た凍結パンを、手首の反動を利 用して作業臺の上に叩き附けて外して行く。此の作業は、一般に船長、甲板長、通信長等の熟練者が行う。動揺する船内での作業でも有り、 凍結して滑り易い烏賊ブロックを、手元の狂いから足元に落とす危険が有る。

猶、現在では、ローラー上にシャワーを設置し、裏返しにローラー上に置かれた冷凍パンの上下から海水を吹き附け、周囲に護謨を巡らした回 転盤で冷凍パンの底部を壓迫する事に依り脱パンを行う方式が主流と成って居る。此の方式では、脱パン作業に依る乘組員の躰力の消耗を 輕減し、更に、冷凍パンを破損し無いと謂う利點が有る。

脱パンされた烏賊ブロックは、下甲板下の魚艙(冷凍艙)に収納して行く。魚艙内での積附作業は、一等航海士が責任者と成って5乃至6名 で行われる。操業船では船体動揺に依る重壓で船底の烏賊ブロックが變形して商品價値が失われ無い様に烏賊ブロックを立てて積附ける等 の工夫を凝らして居るが、烏賊ブロックを縦に積み上げても耐えられる凍結硬度が要求され、其の事が亦、冷凍・凍結に於ける品質管理条件 の一でも有る。
脱パン・積附過程作業工程圖

乘組員の生活サイクル−概要

解説 ニュージーランド及び南西大西洋水域での烏賊釣操業は昼夜の區別無く行われるが、烏賊釣漁業は集魚灯に集まる烏賊の習性を利用する爲、集魚効果の高い夜間に操業の重點が置かれて居る。從って、乘組員は夜間勤務を主体と仕た昼夜二交代制が採られて居る。

・夜間勤務(13名):操業の主体、午後5時乃至午前8時(約15時間勞働)
 ・甲板部:漁撈長、通信長、一航士、甲板長、甲板員4名、司廚長
 ・機關部:一機士、冷凍長、機關員2名
・昼間勤務(3名):當直が主体、午前4時乃至午後7時(約15時間勞働)
 ・甲板部:船長、二航士
 ・機關部:機關長

但し、船に依り配員は若干異なり、昼烏賊(ひるいか)が良く漁獲される時には、昼間勤務が増員され、船長の許で漁撈活動が行われる事も有る。此の場合、人員を要するシーアンカー(汐帆)の投入は行わず、機關操作と舵操作に依り船を風上に向けて同一地點に留めて釣獲を行う 舵取り(かんどり)操業が行われる事が多いが、漁獲が多い時には、釣獲された烏賊を迅速に處理し鮮度を保持する爲に、就寝中の他の乘組員も一時的に臨時召集される事も有る。
乘組員生活時間構成圖

夜勤組の船内生活

解説 夜勤組の勤務時間帶は午後5時頃から翌朝8時頃迄の約15時間で有る。併し、其れは飽迄も漁の良し惡しに依り變動する。 朝に勤務が終わると、風呂に入る者と、食事を摂る者とに分かれ、風呂に1人10分、食事に20乃至30分を要して身支度と食事が濟まされ、 各自室に入り休息若しくは睡眠と成る。勤務明けの朝食時に輕く一杯酒を呑み、雑談を仕乍らの食事と成る事も有る。

漁船乘組員と謂えば、暇さえ有れば船内でも酒を呑んで居る様に觀られ勝ちで有るが、然う仕た姿は一昔前の、而も作られた虚像で有る事が 多い。今日では、漁撈長若しくは會社の管理が行き届いて居り、無茶な呑み方をする者は少ない。船内での飲酒と謂えば、仕事が終了しての 朝食時に麦酒や葡萄酒等の酒精類を輕く呑む程度で有る。亦、自室での寝酒に仕てもコップ一杯程度で有り、深酒と成る事は無い。

時には、30分程自室でビデオやテープレコーダを樂しむ者も居るが、殆どは横に成ると直ぐに眠りに陷り、夕方16時30分頃の操業準備開始 (スタンバイ)迄熟睡する。

夕方16時30分頃に起床すると、先ず朝處理した凍結烏賊の脱パン作業が下甲板で行われる。脱パン作業に約1乃至2時間を要し、作業が 終了してから夕食と成る。夕食は18時30分頃から遅い時には21時頃を過ぎる事も有る。夕食は此れからの夜勤に備えて腹ごしらえ仕て置 く必要から比較的時間を懸けて食べる者が多い。1人當り約45分と謂う統計も有る。夕食が濟むと、朝の8乃至9時頃迄仕事に就く。漁が良 く仕事が忙しく成ると夜食(握り飯等)差し入れられる事も多い。

昼勤組の船内生活

解説 昼勤組は、午前3時から午後6時迄の約15時間が勤務時間帶で有るが、夜勤組同様、漁に依り勤務時間に長短が出て來る。 午前3時頃に起床すると、先ず夜勤組と一緒に夫々れの場所で仕事に就く。朝食は、午前9時か10時頃に、夜勤組が濟んでから摂る事が多 い。此の場合、一日の仕事を終えて寛ぐ夜勤組を尻目に、15分から20分程度と早めに朝食を濟ませる。

昼勤組の仕事と仕ては、他船との異常接近や衝突を防止する爲の監視(甲板部)や冷凍機を初めとする諸機械の整備點検(機關部)が主体 で有るが、夜の操業に備えての準備や補助的な作業、例えば、夜の操業で傷んだ漁具の補修や自動烏賊釣機の整備等も行う。

昼食は、12時から15時迄の間に摂り、インスタントラーメン等を各自が見繕って濟ませる。17時頃からは夜勤組と一緒に働き、夜勤組が夕 食を濟ませた後、21時から22時頃に夕食を摂る。此の夕食は、昼勤組には一日の仕事を終了しての食事で有り、麦酒や葡萄酒等の酒精類 を呑み乍らの寛いだ食事と成る。時間的にも多少長引き約1時間前後と成るが、餘り長く成ると、睡眠時間が無く成るので、遅く共、11時迄に は切り上げて就寝する。

漁撈長(船頭、親爺)の一日

解説 漁撈長には決まった睡眠時間は無い。烏賊釣操業は夜操業が主体で有る爲、漁撈長の生活は當然夜漁に比重を懸けた物に 成って居る。從って、昼間に眠り夜に起きると謂う生活様式で有る。併し、無線では四六時中、漁撈長同士が交信を行って居り、他船漁撈長と の情報交換の爲に起こされる事が多い。

夕方の15時頃に起床し、先ず昼間の漁模様を船長から聽き、更に他船漁撈長からの情報を収集して漁場選定を行う。漁場調査と同時に、夜 勤組をブザー(スタンバイベル)で起こす。漁場が決まると、パラアンカー(汐帆)が投入され操業と成る。

自動烏賊釣機が回転し操業が始まると、漁撈長は船橋(ブリッジ)から乘組員の作業や漁模様、針喧嘩(絲絡まり)、機械の運転状況等を監 督・監視する。針喧嘩等の異常を發見すると、大聲を張り上げ甲板上の乘組員に修復を命じる。鮫、潮流等に依る針喧嘩が多發すると、自らも 甲板に出て修復作業に參加する。

漁獲が順調に進んで居ると、船橋で漁撈長仲間と無線に依る情報交換を頻繁に行う。漁が惡いとパラアンカーを揚げて、再度漁場調査を行う 事に成る。休息中も今後の作戰を練る事が多く、脳裏からは漁の事が離れる事は無く、内地に帰港する迄は精神的に休まる事は無い。

休息時間の過ごし方

解説 休息時間は一日の勞働が終わり、風呂や食事を濟ませ、後は寢る丈と成った乘組員に取って最も自由な時間帶で有る。下圖 は乘組員の操業中の生活時間構成を、勤務時間、睡眠等の生理的時間と自由時間で有る休息時間の三要素から、其の構成比率を觀た物で 有るが、操業中の乘組員の自由・休息時間が如何に短いか知る事が出來る。尤も、航海中は、航海・機關當直者以外は殆どが自由・休息時 間となり、時間構成は逆転する。

休息時間の過ごし方と仕て、各自自室で何も仕無いで只過ごす事が一番多い。次いで讀書で有る。多くは漫画・雑誌等の週刊誌類を眺める 程度で有る。中には、推理小説を持參して居る者も居るが、推理に興奮すると寝附け無く成る事から、操業中は餘り讀ま無いと謂う。

次いで多いのが、食堂での食事後の雑談で有るが、其の殆どは食事中に行われる。話の内容は多岐に亘るが、船内での会話でも有り、他人 を傷附ける様な内容は慎まれる。陸(おか)での生活や自慢話、昔話等が多く、亦、男性社會を反映した会話も盛んで有る。

亦、自室でのビデオやテープレコーダの鑑賞が有る。ビデオの内容と仕ては、各自の嗜好の問題も有り、多岐に亘るが、アダルトビデオ等は 操業中に觀る事は少なく、航海中の船内作業が比較的少ない時に鑑賞される。亦、家族のビデオも里心が附く爲、操業中は餘り觀られ無い。 但し、往航及び復航中は、兩者共盛んに鑑賞される。乘組員に歡ばれるビデオと仕ては、家族がテレビから録画した歌謡番組、映画等が有る。 合間々々に放映される出身地の地元放送局の宣伝が、何とも気持ちを落ち着かせるらしい。

現在大型烏賊釣漁船では、幹部船員(漁撈長、船長、機關長、通信長等)は個室、一般船員でも二人部屋で、各部屋に箇人所有のビデオを 設置し、亦、ファックスに依り内地の情報が頻繁に送信されて來る爲、船内に於ける休息時間の利用方法は多様化して居る。
乘組員生活時間構成圖

船凍烏賊釣船の船内勞働過程−總括

解説 船凍化に伴う烏賊釣漁船の船内勞働過程に於ける基本的な變化は、漁獲物の處理・加工過程の位置附けの高まりと、其れ に伴う冷凍烏賊製品の規格、統一化に依る品質管理等の商品化勞働に對する新たな評價が、船内の生産現場で生まれて來た事に顕れて 居る。

船上での漁獲物の商品化は、水産物商品流通に於けるスーパーマーケット等の量販店及び外食産業等の需要サイドの擴大に伴い、水産物 商品の供給形態が規格、定型、定價格化へと移行して來た事と相俟って、其れを技術的に支えた1970年代後半期以降の漁船の船凍化に 依り更に顯著な物と成った。特に、需要を伸ばして來た冷凍烏賊漁業は、加工食品を中心と仕た大口需要に對應した商品サイズ及び品質の 規格化、定型化が急速に進められた分野でも有った。

海洋の漁業資源を、生産對象と仕て認識する過程が魚群探索で有り、其の上で漁船自体と船上の漁撈装置を合目的的に稼働する事で對象 資源を漁獲し、經濟的價値物と仕て初めて人間の手に依り船上に資源を取り込むのが漁獲過程で有る。此の段階では、未だ漁獲物を經濟的 資源と仕て取り込んだ丈で、消費に耐えられる使用價値と市場で流通出來る價値を有する水産物商品に迄商品價値は形成されて居ないので 有る。

從來の漁船での生産及び勞働過程論は、物的生産性に眼を奪われて居た爲に、對象資源の探索活動と資源情報の入手、並びに漁獲活動を 中心と仕た漁撈機噐と其等の容噐で有る漁船、及び其の運航及び運転に係わる物に限定されて論じられて來たに過ぎ無いと謂っても過言で は無い。

漁獲物が水産物商品と仕て市場流通して行く爲には、漁獲した資源を、魚種の選別、サイズ合わせ、更に鮮度保持等が行われて初めて消費 の需要に適合した水産物商品と成る。其の過程が漁獲物の處理過程で有り、漁獲物の商品化勞働過程と謂う事に成る。

水産物商品の流通・消費面での技術革新は、漁業生産に漁獲物と仕ての量的確保から價値生産と仕ての社會的使命を求める時代を創り出 し、船内の漁獲物處理に際しても品質管理等の附加價値生産を優先する勞働が要請されて居り、其の具体例と仕て大型烏賊釣船凍漁船で の船内勞働と生活から実証的に考察して來た。


注釈(1) 300屯級の新型南西大西洋專用烏賊釣船凍漁船は、新測度法では299屯前後と從來船より數字の上では小さいが、魚 艙の搭載能力は10萬凾(800屯)以上も有り、一回の凍結能力に仕ても4千凾と從來船型400屯級の二倍以上の能力を有して居る。從來船 型の標準搭載能力に5萬凾(400屯)を超える物は無く、新造船と同量の漁獲を揚げても船腹が小さい爲、仲積船(冷凍運搬船)への転載回 數が増え、生産効率は低い。凍結能力も、從來船型では一度に凍結出來るのは1500凾で、多量に漁獲しても處理する能力が無い爲、品質 低下を來たし價格面で不利と成る。南西大西洋漁場の烏賊資源はニュージーランド水域と比べ資源量が桁違いに大きい爲か、漁船に設置さ れた自動烏賊釣機の臺數や性能から來る漁獲能力格差よりも、漁船の持つ凍結能力と船腹及び選別・パン立て等の乘組員の漁獲物の處理 能力(熟練度)が、漁船間の漁業生産性格差と成って顕れる。從って、南西大西洋專業船では、凍結・船腹能力の増大を竸った新船建造が續 いたので有る。

注釈(2) 烏賊釣漁業は、他の釣漁業と同様に、單一資源而巳を選択的に漁獲する漁法で有り、漁撈装置も對象資源の特性に合 わせた特化された物と仕て開發されて來た。其の爲、自動烏賊釣機自体の動きはコンピュータで制御された人間勞働に近い複雑な動作を行 う物と成って居る。併し、自動烏賊釣機を支援する周邊機噐の開發は現在の處、殆ど發達して居らず、自動烏賊釣機單体而巳が高度化した。 漁獲物の處理過程に於いても、單一資源の處理で有り、選別と謂っても、魚種毎の選別は無く、サイズを合わせる丈の單調な者で有る。

注釈3 職務別生産奨励金歩合(1987年出漁船)は、下記の通りで有る。
八戸船三崎船
職名歩合職名歩合
船長兼漁労長1.9船長兼漁労長2.10
漁労長1.8漁労長2.00
船長1.3船長1.50
機關長1.6機關長1.70
通信長・電信1.4通信長1.50
通信長・電話1.3  
一等航海士1.2一等航海士1.35
一等機關士1.2一等機關士1.35
  二等機關士1.30
  二等航海士1.25
甲板長1.2甲板長1.40
操機長1.2操機長1.30
  操舵手1.10
  操機手1.10
冷凍長1.1  
司廚長1.1  
甲板員1.0甲板員1.00
機關員1.0機關員1.05
  未經驗0.80