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烏賊と電脳の綜合百科事典
烏賊の王様

烏賊の形態と生態

漁撈(烏賊の漁法)に關する索引

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  1. 漁撈
    1. 行動と漁法
    2. 漁具と漁法
      1. 日本の烏賊漁業
      2. 烏賊釣漁業に於ける漁具・漁法の發達
      3. 烏賊釣漁具の有効利用と漁獲効果
      4. 烏賊釣漁業に於ける集魚灯の有効利用


行動と漁法

動物は環境の變化が刺激と成り行動を開始する。例えば、魚類は棲息して居る環境に水温の變化が生ずると、其の好む水温を求めて移動を 開始する。此れは適温回遊と呼ばれる魚類の行動で有り、此の場合、行動を開始させる刺激は水温の變化で有る。水温は魚類に取り外部的 環境で、水温の變化は行動を開始される爲の外部刺激で有る。此の様に外部刺激に依り生ずる行動を反應的行動と謂う。其れに對し、魚類が 餌を求める行動を開始させるのは空腹と謂う内部的環境の變化、即ち内部刺激が主な原因で、其の行動は自發的行動と呼ばれる。尤も、此の 場合、原因を外部刺激、或いは、内部刺激と明確、且つ、一面的に區別する事は無意味で有る。何故なら、適温回遊の様な外部刺激に誘發さ れる行動でも、先ず水温の變化を受け止める受容噐が魚類には有り、更に一定の反應を招來する体制が魚類の内部に存在してこそ初めて發 現するからで有る。亦、自發的な索餌行動に於いても、受容噐を刺激する餌の存在に依り誘発される場合も有り、自發的行動と雖も様々な外 的環境条件の影響を受けて居るからで有る。

漁法とは魚類を捕獲する方法で有るが、主として光線、音響、餌料、漁具等の人間が自然環境に加えた外部刺激に依り生ずる魚類の反應的 行動を利用する者で有る。併し、其の場合でも魚類の自發的行動を利用する事が多い。例えば、魚類の生活の場に餌を與えても、魚類に餌を 求める自發的行動が無ければ漁獲に結び附か無いし、人工漁礁に魚類を集めるに仕ても、魚類に物体に接近、或いは、物体に接触しようとす る自發的行動が無ければ、無意味で有るからで有る。

漁法とは此の様に魚類の自發的行動と反應的行動を利用して魚類を捕獲する事で有る。換言するなら、自然環境に於ける日常の魚類の行動 や人工刺激に對する魚類の行動を漁獲に結び附ける方法で有る。

日本の烏賊漁業

日本周邊海域の烏賊漁業 烏賊漁業の主体で有る烏賊釣漁業は、日本周邊海域では主に沿岸で操業する中・小型船と、急速凍結 機を装備し日本海、太平洋沖合域で長期間操業する專業中型船、及び100屯以上の大型船と多様な操業形態を呈して居る。主力の中型烏 賊釣漁船(20乃至100屯船)の漁撈体數は、1983年以降も減少傾向が續き、1993年では1983年の1011隻に對し、176隻と十分の一 近く迄激減して居る。

烏賊釣漁業の主對象は此れ迄スルメイカで有ったが、減少したスルメイカの代替資源と仕て1974年にアカイカが漁獲對象と成った。更に19 78年にはアカイカを對象と仕た流網漁業が開始された。翌1979年以降は、北緯20度以北、東經170度以西の海域で流網の操業禁止措置 が執られた。併し、東經170度以東の海域では大型船を中心に操業が行われたが、1993年からは公海での操業が停止された。其の爲、流 網の代替漁法が検討されたが、表・中層トロールに附いては代替漁法と仕て急速に成立し難いと考えられた。一方、流網からの転換が容易な 釣漁業も、對象と成る2瓩以上の大型アカイカは從來の近海のアカイカ釣と異なり、漁場環境や生物的条件の相違、漁業生産技術上の課題が 有った。其の爲、北太平洋の大型アカイカを對象と仕た釣漁業の開發試驗が1990年度から進められて居る。

烏賊類を漁獲對象とする漁業種類は、南方トロール、以西底曳網、沖合底曳網、小型底曳網、烏賊流網、烏賊刺網、烏賊釣、大型定置網、小 型定置網、其他と多いが、1993年度の烏賊類漁獲量から漁獲割合を觀ると、主体を成す烏賊釣が大きく80.1%を占めて居る。此れは此の 年から公海での操業が停止された流網の代替漁法と仕ての遠洋、及び近海烏賊釣に依るアカイカが増加した爲で有る。次いで、大型定置網 5.5%、沖合底曳網4.7%、以西底曳網2.5%の順と成って居る。

日本の海外烏賊漁業 日本漁船の海外烏賊類の開發利用に附いては、日本近海のスルメイカが豐漁で有った1950乃至1960年 前半はトロール漁船に依りモンゴウイカやヤリイカを對象と仕て居たが、日本近海のスルメイカ資源の減少に伴い、日本漁船に依る海外烏賊 類資源の開發が行われる様に成り、トロール漁業では大西洋カナダ沖合、アルゼンチン沖合、ニュージーランド沖合で操業が行われた。釣漁 業では1969年神奈川縣船が、ニュージーランド諸島周邊で試驗操業を実施したのが始まりで、1971年海洋水産資源開發センターが同海 域での調査を実施して以來、日本の烏賊釣漁船が多數出漁する様に成った。次いでニューヨーク沖合乃至ニューファンドランド沖合に懸けても 試驗操業が行われ、開發センターでも1973年より4年間調査を実施して居る。オーストラリア海域では1971、1972年に開發センターの調 査が行われたが、一時中斷し1977年より調査と試驗操業が再開され、1979年には82隻の烏賊釣漁船が出漁した。此の他、一定期間の 調査や試驗操業が行われた海域は、アルゼンチン、エクアドル、ペルー、メキシコ、カナダ太平洋岸各沖合等で有る。此の様に海外烏賊漁業 は過熱化した時期が有ったが、1977年以來各國の漁業專管水域(200浬水域)設定の影響を受けて、現在、大型烏賊釣漁船が操業する 海外烏賊釣漁場は200浬内のニュージーランド、フォークランド、アルゼンチン、ペルー沖の各海域、及び、北太平洋海域で有る。此等海外烏 賊釣漁場に於ける漁況の年變動は大きく、魚價の維持、及び中長期的な安定入漁が課題と成って居る。

ニュージーランド海域へ出漁する大型烏賊釣漁船は300屯級船が主体で、全船の45%を占めて居る。集魚灯の光力は150乃至400キロ ワットと使用範囲は廣いが、300乃至350キロワットが主体で20%を占めて居る。灯質はハロゲン灯が主体で有ったが、1982年からは省 燃費性の高いメタルハライド灯(放電灯)が全船に普及して居る。烏賊釣機臺數は300屯級船で約35臺装備して居る。南方トロール船は 3000乃至5000屯級船で、水深1000米の深海迄操業される。此の南方トロール船は以西トロール船等が大西洋のアフリカ沿岸とニュー ジーランド沖に転換された者で有る。

烏賊釣漁業に於ける漁具・漁法の發達

烏賊釣漁業の變遷 烏賊類が何時頃から捕獲されて來たかは、縄文期の貝塚よりコウイカ類の甲羅片が相當數出土して居る事から、 烏賊類の漁獲の歴史は新石器時代迄遡ると考えられる。併し、貝塚から發見される骨製釣針は概して大型で、烏賊類を捕獲するには不向き で有り、此の頃の烏賊類が釣りに依り捕獲されたか何うかは明らかで無い。

古代に成ると『出雲風土記』等に烏賊の名が現れ、『延喜式』には朝廷への献上品と仕て烏賊は重要な産物で有ったと記されて居る。具体的 にスルメイカを對象と仕た漁具・漁法と仕て今日に傳わる物は、中世に入ってからの佐渡の口碑で有る。此れに依ると、現在の烏賊の疑似針 の原型とも謂う可き、針を旭光形に束ね其の中心軸部に鉛錘を密着させた群鉤錘を使用した烏賊漁具が、長禄2年に佐渡の両津港で創始さ れたと有る。小規模に行われて居たスルメイカ漁が、産業的規模に發達したのは明治時代で、重要な沿岸漁業と成り、其の中心地は佐渡地 方で有った。佐渡では、手釣りで底層(60乃至105米)のスルメイカを釣り乍ら上層へ誘う天秤状の『ソクマタ』、竿(1.2米程度)に釣絲(1 5乃至23米前後)を附け其の先の群鉤錘1箇で、中層のスルメイカを表層へと誘い乍ら釣獲する『トンボ』、全長約1米の二股の竿先に夫々れ 釣絲と群鉤錘を附けた表層釣り用の『ツノ』の3種の釣具が、スルメイカの遊泳層の深淺に應じて使用された。此等佐渡地方の烏賊釣漁業 技術は全國各地に傳わり、隠岐島周邊、富山灣を中心に、五島列島、陸中海岸、凾館地方で盛んに行われた。

北海道では、明治以前から烏賊漁が行われたが、明治10年代に佐渡を初めとする北陸地方からの入稼漁民が『ハネゴ』(佐渡地方の『ツノ』 に相當する)や『トンボ』釣漁法を凾館地方に傳え普及した。其の後、凾館はスルメイカの傳統的な取引地と仕て位置附けられ、夏から秋に懸 けての道南海域はスルメイカの主要漁場と成った。此の時代は磯舟等で、獨人又は數人が乘り込み、錨を投じて位置を變えずに釣ると謂う操 業方法が、大正9年頃迄續いた。其の後、石油發動機を備えた船が徐々に増加し、釣り子が拾數名乘り込む船も出て來た。昭和13年頃から 動力船に依る漂流操業が主流と成り、地先沿岸而巳成らず漁場範囲も擴大した。斯う仕て動力船の使用と漂流操業の導入に依り漁獲量も増 大したが、此の時代に於いても、烏賊釣具は1本の釣絲に1箇の疑似針と謂う基本的な構成に變わりは無かった。

現在用いられて居る1本の釣絲に複數の疑似針が聨結された形の烏賊釣具が使用される様に成ったのは昭和26年頃からで有る。此の聨 結式釣具の一は淺利式と呼ばれ、天秤の両腕の釣絲に複數の疑似針を装置し、最下端の針の下方を1本のテグスで結び、其の先端に錘 を附けた物で有る。一方の聨結式はスズラン釣りとも謂われ、天秤の両腕に左右5本の疑似針を聨結したテグスを附けた物で、烏賊が懸かる と、釣り上げ、片手で最下端の針を握って逆さにすると烏賊が外れる方式の釣具で有る。

更に、昭和33年頃からは、釣絲1本に疑似針拾數箇から30乃至40箇の釣具を、ドラムに依る人力で巻取る手動烏賊釣機が使用され始め た。自動烏賊釣機が実用化し普及したのは昭和39年頃からで、現在では殆どの烏賊釣漁船が自動烏賊釣機を装備して操業して居る。
此の自動烏賊釣機の普及は、烏賊の釣獲機構に變化を齎(もたら)した。即ち、スルメイカを海面近くに浮かせて人力で釣る事が主体で有った 釣り方からスルメイカの棲息域迄疑似針を降ろして巻き上げる事を繰り返す漁法に變化した。

現在のイカ釣漁業 現在、烏賊釣漁船が使用して居る漁具の内、烏賊角(いかつの)は1本の釣絲に通常30箇程を、大体1米間 隔に自動烏賊釣機の左右のドラムに1本宛取り附けられる。操業の際は釣機の作動に依り、釣具が上下運動を繰り返す。現在の烏賊釣機は コンピュータが内蔵され、左右舷別々の段差運動、シャクリ運動も自由に調節出來、亦、測深機と聨動する等、色々な機能を備えて居る。烏 賊釣漁船の主体を成す99屯級船では烏賊釣機を20臺前後、19屯級船では12臺前後、10屯級船では10臺前後を装備して居る。猶、南西 大西洋海域で操業する國際屯數1000屯前後の大型烏賊釣漁船では、烏賊釣機の臺數は50臺にも及ぶ。

烏賊角は、近年ソフト針(中空弾性針、通称オッパイ針)の利用度が高く、両津の10屯級船では從來のベーク針とソフト針の使用割合は40對 60、凾館の19屯級船では27對30とソフト針の使用割合が高い。テグスの太さは、両津船では16乃至50号と太さの使用幅が大きく、凾館 船では18乃至40号の間で太さを3段階に分けて使用して居る。此れは、1本の釣絲に多數の烏賊を釣獲した場合、釣元の部分に大きな張 力が懸かる爲、釣元を太いテグスを、先に行くに從い細いテグスを使用して居る譯で有るが、切れ易いと謂う事を除けば、細いテグスの方が釣 獲率は良い。

烏賊釣用集魚灯は、此れ迄主と仕て白熱灯が使用され、99屯級船の總光力は150乃至200キロワットで有った。近年では省燃費を目的と 仕た經濟性の高いハロゲン灯や放電灯(メタルハライド灯)が実用化され普及し、現在では、中・大型船の殆どが放電灯を使用して居る。昭和 63年の調査では、19屯級主体の両津船は平均總光力99キロワットで、白熱灯、ハロゲン灯、放電灯の多様な使用船が多く、10屯級主体の 凾館船はハロゲン灯(平均8箇)と放電灯(平均36箇)との併用船が多い。400屯級の海外出漁船では1灯3キロワットの放電灯150箇を装 備する船も現れて居る。此の放電灯の導入は、燃費の増大を抑える解決策と期待されたが、実際には光力増大に拍車を懸ける結果と成り、特 に小型烏賊釣漁船では設備投資費用を含め經營的に大きな問題と成った。其處で、全國漁業協同組合聯合會(全漁聯)では、平成5年度か ら『小型烏賊釣光力適正化検討事業』と仕て、小型烏賊釣漁船の光力実態調査及び実証調査を実施して居る。

亦、烏賊釣漁船では、近年操業期間が長期に亘る爲、急速凍結機を設備した船が増加し、現在、中型承認船の内、80屯級船以上では56. 2%、50乃至79.9屯級船では29.7%が設備して居る。此の急速凍結機を設備し、1箇月以上聨續操業可能船は469隻を數え、全体の7 2.6%を占めて居る。

猶、平成2年現在、中型烏賊釣承認船646隻の内、專業船は過半數の333隻で有る。兼業船は313隻で其の主な者は沖合底曳網、鮭鱒流 網、秋刀魚棒受網、大目流網、烏賊流網漁業等で有る。

烏賊釣漁船の操業方法は、烏賊群を探索し、漁場を選定した後、集魚灯を点灯する。シーアンカー(潮帆、通称パラアンカー)とスパンカー(艫 帆)を用いて船位を保ち、烏賊釣具を烏賊群の釣獲層に達する様に烏賊釣機の深度を調節した後、作動させ、夜明け迄釣獲を續ける。

烏賊釣漁具の有効利用と漁獲効果−概要

概要 烏賊釣漁業に於いて釣具は集魚灯と共に重要な漁獲要素で有る。烏賊角(いかつの)に附いては色、材質、大きさが、テグス に附いては汚れや太さが漁獲に影響を及ぼす者と考えられる。亦、烏賊釣機に附いては漁獲機構が重要と成る。此處では、烏賊釣具の有効 利用と其の漁獲効果に關する研究報告を取り纏めて説明する。

烏賊角の漁獲効果

烏賊角の色 烏賊釣漁船の多くは、ベーク烏賊角(いかつの)では赤色か緑色を主に使用して來たが、烏賊角の色に附いては、色の 3属性(色相、明度、彩度)の面から漁獲効果が検討されて居る。色相と漁獲との關係に附いては、色相の異なる5種類(赤、橙、夜光、緑、青) の有彩色と2種類(白、黒)の無彩色の間では、赤と橙が良好で、緑と夜光は不良、青と白は漁場に依り異なる結果が得られた。明度と漁獲と の關係に附いては、緑色(4種)、赤色(3種)、無彩色(4種)の3色系に附いて、明度の違いに依る各色系毎の單獨試驗では、色系に依り異 なる結果が得られ、統計的検定で有意差が認められたのは緑色系丈で有った。彩度と漁獲との關係に附いては、色相の異なる場合は黄の彩 度6が惡く、色相が同じ場合には緑色系の彩度8が、赤色系では彩度の最も高い14が、夫々れ良好で有った。亦、ベーク烏賊角で利用度の 高い赤色と緑色では、餘り釣獲差が認められなかったと謂う比較試驗に依る報告も有る。

烏賊角の大きさ 烏賊角の大きさと釣獲との關係に附いては、大(18号、角の長さ54粍)、中(16号、角の長さ48粍)、小(14号、 角の長さ24粍)の烏賊角を對比して試驗した結果、小の烏賊角が最も高い釣獲率を示した。此の試驗の時期は、小型スルメイカの多い初漁 期で有ったが、釣獲されたスルメイカの外套脊長の平均及び組成に殆ど差が認められ無かった。此の様に烏賊角の色や大きさに依り、漁獲に 影響を及ぼす事が判明して居る。

特殊烏賊角 烏賊角の漁獲効果を上げる爲、ベーク烏賊角の他に、中空弾性針(ソフト針、通称オッパイ針)、全夜光針、貝殻附等の 特殊烏賊角が使用された。青森水産試驗所では中空弾性針と從來の烏賊角との比較試驗の結果、中空弾性針は、單位當りの釣獲尾數では 中位の成績に有った事から、從來の烏賊角より漁獲効果の高い事を認めて居る。更に、同試驗所では、此の実驗を1976年にも実施したが、 スルメイカを對象と仕た実驗では從來の烏賊角より釣獲が良いとは思われ無かった。併し、アカイカを對象とした試驗では、中空弾性針の方が 稍(やや)上廻る傾向を示した。試驗を通じて中空弾性針が稍優ると觀られるが、更に実驗の積み重ねが必要で有ると仕て居る。

亦、ベーク緑色烏賊角を基準と仕て、11種類の烏賊角との比較を仕た試驗結果では、貝殻附烏賊角が最も成績が良く、白色及び反射光を伴 う銀色系統の烏賊角は不良で有ったと報告されて居る。更に、從來の烏賊角と貝殻附、中空弾性、全夜光の特殊烏賊角を對比させた実驗で も、特に優位を示したのは貝殻附烏賊角で有った。此の他、從來の烏賊角と螺旋(らせん)式及びステンレス發条(ばね)式烏賊角との比較試 驗の結果では、漁獲割合から觀ると螺旋式が最も良く(39.9%)、次いで發条式(29.2%)で有り、其の優劣は釣獲尾數の多いときに明確 に顕れたと報告されて居る。併し、釣機の一聯宛を異なる烏賊角で對比すると、様々な結果と成る爲、此の種の烏賊角は使用法に工夫が必 要で有ると仕て居る。

近年の傾向と仕ては、中空弾性針の利用度が高く、現在では角の部分に蛍光色素を入れ、針先は超硬質ステンレスと仕、特殊成型芯枠に依 り針先が回転せず、釣り落としの少ない中空弾性針や螺旋パイプ入りの中空弾性針、海中では鱗状に光る烏賊角、笠針がローラ面に接触し 無い構造の烏賊角等が開發され市販されて居る。

烏賊角と烏賊の脱落 ニュージーランド海域で釣獲されるミナミスルメイカはスルメイカと比べて大型な爲、從來の烏賊角では脱落が 多かったので、海洋水産資源開發センターでは、1973年に三段針式の改良烏賊角の試驗を実施した。釣獲効果は、プラスチック三段針(角 及び針先が長く笠針が三段式)が最も良く、次いでステンレス三段針(前者と同じ形状で角はステンレスパイプ)が良かった。此の様に改良烏 賊角は脱落防止に効果が觀られたが、針先が長い爲、テグスを損傷する事や、角が長い爲、ドラムに對して曲げのモーメントが加わるので、 ストックの両端が欠損し易く成った等の欠點が指摘された。

アカイカ釣りで最も問題に成ったのは、アカイカがスルメイカより大型で体重が大きい爲、脱落率が高い事で有った。1977年に目視に依りアカ イカの脱落を觀察した報告に依ると、水中から釣針が引き上げられる瞬間の衝撃で脱落する場合と、水中から引き上げられ前車に接触して脱 落する場合が特に多い。脱落状況は175尾の内71尾(41%)が脱落し、其の内、水中脱落が44尾(57%)、前車脱落が27尾(43%)と謂 う結果と成り、脱落防止が今後のアカイカ釣漁業に於ける重要課題の一に成ると指摘された。1978年には、前年度の脱落調査の結果から、 前車に依る脱落率を減少させる爲、幅廣い前車に改造してアカイカの脱落を調査した處、脱落率は33.6%(前年度43%)と謂う結果が得ら れ、アカイカ用の幅廣い前車は、脱落防止に効果が有る様に思われると報告して居る。

1977年に実施された他のアカイカ脱落調査でも、脱落數は風速、風浪の影響に依り鋭敏に増減し、風速5米で四分の一が、9米では過半数 が脱落した。脱落の主要因は触腕の切斷に依る者で有った。針掛かり部位を調査すると短腕57%、触腕33%、口噐周邊8%と謂う結果で有 った。亦、1979年にアカイカの針掛かり部位と脱落状況に附いて調査した結果、針掛かりの部位に依り脱落率や脱落状況が異なり、全体の 脱落率は39%に達した。脱落状況を觀察すると、10本の腕で針を捉えて居る者が55%と最も多く、釣獲された81尾の内10尾が前車等に 接触して脱落した。次いで2本の触腕而巳で針を捉えて居る者が34%で、針を捉えた50尾の内43尾は既に水中に脱落し、触腕丈が釣獲さ れた。10本の腕と口部で釣獲された者は11%で、1尾も脱落が觀られ無かった。以上の結果から、アカイカ脱落の原因は、主と仕て触腕切 斷で有る事が明らかで有ると報告されて居る。

現在では、アカイカの脱落防止の爲、針先を從來のスルメイカ用より大きく仕て接触面を擴大したり、烏賊角と針先との間の首廻りを良く仕て 衝撃を緩和したり仕た改良烏賊角が使用されて居る。針先の長さも、スルメイカ用では0.8乃至1.2粍で有るが、アカイカ用では1.2乃至 1.4粍と長く成って居る。

發光釣具 烏賊釣漁業では、山陰地方で1953年頃電気ビシが使用されて來たが、近年は化學發光する發光体(ケミカルライト)や 乾電池又はネオン管を使用した水中ライトが補助漁具と仕て使用されて來た。

ケミカルライトは、円筒形のポリエチレン容噐内に在るA液とB液を化合させて、化學反應する發光体で有る。1973年に此のケミカルライトを 烏賊角の間に附けた釣機と附け無い釣機との漁獲効果を検討する実驗が実施された結果、ケミカルライト附きの釣機の方が1.33倍の釣獲 が有った。船上からの觀察では、烏賊の釣獲が餘り多く無い時に、漁獲効果が認められた。釣獲の多い釣絲の部位と仕ては、ケミカルライト 取附位置より1乃至2箇離れた烏賊角附近で有る。此の様に發光体を利用した烏賊角は、釣獲の増加を或る程度齎(もたら)すのでは無いか と報告されて居る。

水中ライトは、電源に1.5ボルトの乾電池が1乃至2箇使用され、一般には一聯の釣絲の下部に2箇程度附けられる。此の他、ネオン管式 の水中ライトは、各種の色ランプを使用する事が出來、耐用時間も長い。1980年に乾電池式及びネオン管式の水中ライトを附けた釣具と水中 ライトを附け無い釣具とを對比させて釣獲実驗が実施されたが、水中ライト附きの釣具の間には餘り釣獲差が觀られ無かった。併し、水中ライト を附け無い釣具と比較すると、水中ライトの漁獲効果が稍(やや)高い事が認められた。

1975年に、釣絲が上下すると、烏賊角も發光体も上下に移動するから、烏賊は此等の目標に視覺運動反應を起こし追從する事が考えられ ると仕て、円形水槽にアクリル透明円筒を入れ、円筒上に光源を廻す回転装置を置き、移動發光体に對するスルメイカの視覺運動反應に附い て比較実驗が行われた。猶、光源と仕ては、水中ライト、ケミカルライト及び赤色懐中電灯が用いられた。実驗結果を觀ると、全体的には光源 の明域に集まる傾向は弱い様で有り、此れは光源の低照度がスルメイカの走光性を不安定に仕て居るとも考えられた。光源が毎秒40糎で移 動すると、懐中電灯の赤色及び孰れの光源にも5尾の烏賊は群を作り良く追従し、水中ライトでは2灯より4灯の方が良い追従を示した。此の 様な移動光源に對する反應は、恐らくスルメイカの走光性と共に視覺運動反應に依る者で有ろうが、静止光に對する走光反應が鈍かった事を 考えると、移動光に對する視覺運動反應は顯著な様に思われると考察して居る。

烏賊角の動きと烏賊の行動

觀察結果 烏賊釣漁業に於いて、烏賊類が上下する烏賊角(いかつの)の動きに對して、何の様な行動を示すのか、亦、烏賊角は 水中で何の様な動きをするのか、烏賊角の色は何の様に觀え、何の位の距離迄觀えるのか、水中觀察等から得た知見は、烏賊釣漁業に於 ける漁獲機構を解明する上で重要な事で有る。

水中觀察に依る烏賊類の行動に關しては、此れ迄に幾つかの知見が得られて居る。即ち、1956年には深海探測球に依り、烏賊角に飛び附 くスルメイカの行動が觀察されて居る。觀察中のスルメイカは、上下する針の1米附近で一度停止する様に觀えた瞬間、機敏な行動で針に飛 び附き、伸びた二本の触腕で烏賊角を掴む事が視認されて居る。其の敏捷さは遊泳中の小魚を充分捕捉出來る程で有ると報告されて居る。
1967年に對馬周邊の烏賊漁場で水中テレビを深度10米に下げて觀察した處、上下に運動して居る烏賊角は1乃至3米の距離からでは、針 の部分丈が反射して白く觀えるが、角の部分は全く視認出來なかった。亦、引き上げられる烏賊角を追い一尾のスルメイカが急上昇した後、反 転して下降して行くのや、針に捕捉された烏賊が外套部を下に仕て、一部の脚で針に絡み、他の脚は四周に充分開いた形で、殆ど運動する 事無く引き上げられて行く等の觀察結果が報告されて居る。

1965年には加奈陀(カナダ)のニューファンドランド海域で操業中の漁船の近くで、スキューバ潜水に依り、カナダイレックスの行動が觀察され て居る。觀察中、烏賊角の周邊に烏賊群が多い時、一尾が攻撃を始めると他の烏賊群も攻撃を起こし混亂状態と成る。然うして、一尾が針に 掛かり水面に引き上げられる中に、他の烏賊群は四散して仕舞う。亦、攻撃中の烏賊は明らかに烏賊角を生餌と間違えて居るが、光線の明る い時は必ずしも騙され無い。單獨の烏賊の典型的な攻撃法は、烏賊角に気附いた烏賊は4呎許り通り過ぎる様に仕て下手廻りを仕た後、烏 賊角に向かい鰭を先に仕て泳ぎ、或る瞬間停止し、鰭を使用して頭の方から緩っくりと烏賊角に向かい、2呎の處で烏賊は攻撃に入る。此の 時、漏斗から出る海水噴射に依り素早く前方に動き、最後の瞬間腕と触腕を擴げて烏賊角を捕まえる。烏賊角に捕捉された烏賊は、釣絲が 巻き上げられると、直ぐに危険を感じて大半は逃げる事に成功するが、針先が周口膜に掛かって居ると殆ど逃げる事が出來ず、藻掻いて墨を 吐き出す事が觀察されて居る。

1974年には日本海沖合水域に於いて兵庫水産試驗所新但馬丸に依るスキューバ潜水、及び、東京水産大學青鷹丸に依る潜水觀測筒に依 り、烏賊角に對するスルメイカの行動や烏賊角の動き等が觀察された。観測結果を纏めると、烏賊角に對するスルメイカの行動に附いては、

1. 釣獲された烏賊は視程外の深水層で捕捉されるらしく、下方から引き上げられて來た。從って、視界内(水深10米程度)に於いてスルメイカが 烏賊角に捕捉された瞬間を視認する事は出來なかった。
2. 烏賊角に捕捉されて來る烏賊の多くは口噐附近に針が掛かって居る様で、10本の腕は花瓣の様に擴がって居た。亦、釣機に依り引き上げら れた烏賊は水面に達する迄、1乃至2度墨を噴射するのが觀られた。
3. 針に捕捉された烏賊が引き上げられる時に限り、3乃至5尾内外の烏賊が追随して上昇して來るのが觀られた。此等の烏賊は、針に捕捉され た烏賊が水面に引き上げられると四散するが、其の多くは船底下の陰影暗部に入り、一時縵やかに停止する。次に上昇して來る烏賊角に接 近し、約1米位から急速に攻撃を試みるが、不成功に終わると強い噴射を行い一気に下降するのが觀察された。

烏賊角の動きに附いては、

1. スキューバ潜水に依り船底下中央部、水深3米位から烏賊角を觀ると、ベーク烏賊角の内、赤と緑の色彩識別は餘り判らず、角の部分丈が 黒い形象物と仕て觀えた。觀測筒からの觀測では白色の物は明らかに視認出來た。
2. スキューバ潜水で船外(船より水平距離10米、水深6米)の光域側から釣具を觀ると、烏賊角は殆ど視認出來なかった。
3. 觀測筒から烏賊角の動きを觀察すると、際だったシャクリ運動は目立たず、粗(ほぼ)一直線に上昇して來る様に觀えた。下降時も同様に一 直線に下降し、鐵錘が木の葉返しに成る様な運動は觀られ無かった。
4. 昼間時に作動及び静止状態の烏賊角の水中視程(透明度24米)を觀察したが、作動中の烏賊角は水深5米、水平距離3米では色の識別 が出來た。静止中の烏賊角では水深5米の處で、水平距離12米迄視認出來たが、色の識別は出來なかった。

1978年に海洋水産資源開發センターの調査船が、北西太平洋に於いて、スキューバ潜水に依りアカイカの行動に附いて觀察して居る。觀 察結果では、下記の様に報告されて居り、總じてスルメイカとアカイカの烏賊角に對する行動は類似して居る様に思われる。

1. アカイカ群は水深20米以深に多く觀られ、烏賊角の上昇の際に單獨で追い懸けて行く烏賊も觀られた。
2. 此の觀察では、烏賊角に捕捉される瞬間を觀察する事は出來なかったが、恐らく水深25米以深で索餌行動が行われて居ると思われる。
3. 表層で直線的に烏賊角を攻撃する烏賊や浮き烏賊が竿釣りに依り釣獲されるのを何回も觀測した。
4. 塩漬烏賊を巻いた竿釣りの烏賊角に掛かる場合、直線的に攻撃する者と、烏賊角の手前で様子を伺い乍ら腕を開閉して機会を待つ者との二 種の様式に分けられる。
5. 水深15米で手釣りのステンレス製烏賊角に掛かる瞬間は、3米離れた處から、水平に攻撃した。
6. 烏賊釣機の烏賊角に全く關心の無い烏賊も、手釣りの擬餌の動きには可成り關心が有る様に見受けられた。
7. ドラム式手動釣機に捕捉された烏賊は、巻き上げ速度が落ちると同時に逃げ出す等の脱落状況を數回視認した。

此の他、1978年には水槽内で生餌や擬餌に對するスルメイカの行動が觀察されて居る。觀察結果に依ると、スルメイカは生理状態の違い( 空腹度の相違)に依り生餌や擬餌への反應が異なる。即ち、空腹時には此等の餌が水中を縵やかに沈降し續けて居る時でも、静止して居る 時でも、良く捕捉する。其の捕捉行動は水槽の端から急速度で接近し其の儘捕捉する場合や、急速度で接近して一旦停止した後に少し後退 してから再び接近して捕捉する場合、或いは遅い速度で接近して緩っくり10本の脚を擴げて捕捉する場合等、様々な捕捉行動が觀察された と報告されて居る。

音響の利用と烏賊の行動

觀察結果 音を利用して魚を集めたり脅したりする漁法が昔から行われて來た。1970年頃に成ると水中放聲装置が開発され、淡水 魚やハマチ等に對する集魚効果に關する基礎実驗が行われた。此等の基礎実驗の成果に依り音響漁法へと実驗が進められ、鯖釣漁業や定 置網漁業等で音響を利用した実用化実驗が行われた。烏賊釣漁業でも、1972年に音響利用の集魚効果試驗が行われて居る。

集魚効果に附いては、15乃至30分間隔で放聲と無放聲を繰り返し、1分間當りの釣獲尾數で比較すると、放聲時の方が19%多い釣獲が觀 られた。併し、各試驗毎に觀ると、釣獲の高い回數は放聲時、無放聲時共同數で、相半ばする結果と成った。各放聲音の効果は、600ヘルツ 純音、船舶の前後進音、ハマチ捕食音の順で有った。更に、翌年も繼續して試驗が行われたが、其の効果判定は時間帶別に依る釣獲状況か ら觀ると、烏賊釣漁業では或る一定の周期で漁獲が有り、其の間の釣獲状況は非常に複雑で有る。從って、放聲、無放聲の時間の取り方に 依り非常に變動が有る爲、其の選択に依り漁獲が何方にも偏る傾向が觀られる。次に放聲音種と漁獲の關係に附いては、放聲、無放聲孰れ の場合も漁獲差が餘り觀られ無かった。即ち、漁場が一定で一定の周期を以て操業されて居る場合、音種の變化に依る漁獲の優劣は効果判 定が難しい。以上の様に兩年の試驗結果を併せ、釣獲時間帶等から再検討すると、烏賊釣漁業に於ける釣獲状態の複雑性からも、音響の利 用に依り漁獲の増大を期待する事は非常に難しいと報告されて居る。

山形水産試驗所でも、1974年から1976年に掛けて、水中放聲機に依り音響を利用した烏賊釣漁獲試驗が行われた。1975年の試驗結果 では、昼、夜間共水中放聲音丈では烏賊の集魚効果は認められ無かった。1時間1臺當りの釣獲尾數からは放聲時0.95尾、無放聲時0.5 7尾と放聲の有無に依る釣獲差は餘り觀られ無かった。只、集魚灯の點灯後、魚探反應が觀え始めた頃に放聲音を斷續的に行うと、烏賊群 に刺激反應が觀られ、短時間で有るが釣獲率の良い時も有った。續いて1976年の試驗でも、1時間1臺當りの釣獲尾數は放聲時0.71尾、 無放聲時0.5尾で、無放聲時に比べハマチ捕食音や純音に依る放聲時の方が幾らか釣獲率は高かった。此の年も前年同様、放聲發生直後 に一時的に良好な釣獲が觀られたが、長時間に亘る放聲効果は餘り無かったと報告されて居る。

テグスの漁獲効果

概要 烏賊釣漁業では烏賊角許りでは無く、テグスの汚れや太さも漁獲に影響を及ぼすと考えられる。其處で、1974年及び1975 年に使用履歴の異なるテグスに附いての漁獲効果実驗が行われて居る。

テグスの汚れ テグスの汚れに附いては、太さが同一(40乃至30号)の未使用テグス、及び、4、8、20昼夜使用したテグスを用い、 烏賊角は赤色のベーク烏賊角を用いて一聨20箇と仕て実驗した結果、テグスの使用履歴に依り釣獲に差が觀られた。特に未使用テグスと 使用履歴の有るテグスでは大きな釣獲差が觀られ、未使用の新しいテグスの方が優位を示した。併し、使用履歴の有るテグス間では餘り釣 獲差は觀られ無かった。供試テグスを顯微鏡冩眞から調べて觀ると、使用履歴が古く成る程、汚れや傷、毛羽立ちが多く觀られた。亦、供試 テグスの分光反射率分布を調べて觀ると、テグスの太さに關係無く新しいテグスの方が高い反射率を示した。

テグスの太さ テグスの太さに附いては、太さの異なる50乃至40号、30乃至26号、26乃至20号の未使用のテグスを用い、烏賊 角はテグスの汚れの場合と同じに仕て実驗した結果、テグスの太さに依り釣獲に差が觀られた。特に太いテグス(50乃至40号)と細いテグ ス(26乃至20号)の間には明らかな釣獲差が觀られ、細いテグスの方が優位を示した。

研究課題 実驗結果を検討すると、テグスの汚れや太さは烏賊釣漁業に於いて、漁獲に影響を及ぼす物と思われるが、今後は何故 烏賊が此の様な選択をするのか、光感覺に關する電気生理學的な解明が必要で有ると考えられる。

烏賊釣機の漁獲機構と漁獲性能

漁獲機構 烏賊釣機の機構を解明し、能率の良い烏賊釣機を設計する爲の基礎実驗が色々と行われて居る。1968年には釣針の 運動と巻き上げドラムとの關係に附いて、烏賊釣機のシャクリを機構學的に解析され、シャクリの状態を釣針の餘り大きく無い上下運動と考え た場合、現用の巻き上げドラムの形状と運動からは、シャクリは生じ無いと考えられる。次に錘に附いては、錘が水中で上下運動する際に、釣 絲が絡み合わ無い様にする爲には、左右に振らずに鉛直に落下する方が望ましいので、錘は紡錘型より球型の方が適して居ると考察されて 居る。亦、1973年には釣針速度と釣獲との關係に附いても検討されて居る。即ち、釣針の速度變化も重要な漁獲要因で、手釣機と機械釣機 の釣針速度を測定した結果、手釣りに依る釣針の速度變化は機械釣りよりも複雑で大きい。此れが薄群時に於ける手釣りの有効性を示す者 と考えられて居る。更に、1974年には釣絲の絡みと錘の運動との關係に附いても検討されて居る。実驗では鐵製縦型の円形水槽を用い、実 用されて居る700瓦の錘を自由に落下させ、十分の一秒毎の位置を測定し、釣絲に拘束され無い錘の運動に附いて調べた結果、水中での錘 の自由落下は木の葉返しの様に落下する事が確認されたと報告されて居る。1978年にも此等の実驗が繼續され、小型烏賊釣漁船で使用さ れて居る手釣機、及び近年機構の發達した自動烏賊釣機の釣針の運動が比較検討されて居る。実驗ではドラム回転角速度を一定に仕て、八 角形ドラムと板状ドラムに依り釣絲を巻き上げると、下圖1の様に成り、此れに對して菱形ドラムでは下圖2の様に成る。此等の圖を比較すると、 八角形ドラムは寧ろ等速運動に近く、菱形ドラムは明らかに板状ドラムの運動に近似し、シャクリ入り手巻き(下圖3)の運動も同様に近似して 居る。此れに對して自動烏賊釣機に依るシャクリは下圖4の様に圖形が更に複雑で有る。巻き取りドラム一回転に依り巻き上げられる釣絲の 長さは巻き取りドラムの大きさ、形状に依り異なるが凡そ1.3米位で、一回転に要する時間は約1乃至3秒で有る。此處で釣針の最大速度と 最小速度の比を取り、此の値の大小に依り釣針運動の良否を判定する事が可能と思われるので、夫々れの釣針運動に附いて計算して觀ると、 シャクリ入り手巻きが5.1と大きな値を示すが、手巻き操作に依り値が異なる爲、特に手巻きが良いとは判斷出來ない。次にシャクリ入り釣機 の中速度の値は4.3と成り、シャクリ入り手巻きと同じ様な効率を有して居ると思われる。從って、自動烏賊釣機装備船で手釣機を併用して居 るのは、自動釣機を一臺増加させた事に成ると考えられる。烏賊釣機の機構に附いては、烏賊角に對する行動が充分明らかで無い現在、徒に 機構を複雑に仕たり、高價な物は止め、取扱が容易で故障破損が無く、安全な機械が望ましいと提言して居る。

漁獲性能 1962年から1968年の間に自動烏賊釣機の漁獲性能に關する試驗が、日本海側の各縣水産試驗所で行われた。196 8年の新潟水産試驗所の試驗結果では、手釣り100に對して機械釣りは44の釣獲率で有ったと報告されて居る。亦、青森水産試驗所の試 驗結果では、手釣りに依る單位漁獲効率(一人一日當り)は71.2瓩で有るのに對して機械釣りでは76.5瓩で有り、手釣り比は107.5%と 優位を示した。操業条件に依る單位漁獲効率に附いては、量的に觀ると手釣り機械釣り共に大型船程大きい。此れは船型が大きいとローリン グが少なく、機械の安定度が高く、亦、光力が強いので集魚効果が大きい爲で有ると考察されて居る。漁場水深との關係では、スルメイカの 釣獲水深を3種に大別して調べると、0乃至14米の場合には機械釣りは手釣りの207%、15乃至44米の場合には125%、45米以深の場 合には92%を示し、漁獲水深の淺い程漁獲効率が高い。魚群の密度との關係では、魚群が比較的濃密の場合には機械釣りは手釣りの112 %、希薄の場合には104%を示し、機械釣りは魚群の濃密な場合に漁獲効果が高い傾向を示した。魚体の大小との關係では、大型の場合に は機械釣りは手釣りの114%、中型の場合は125%、小型の場合は91%と成り、魚体が中型以上の場合に漁獲効率が高い事が報告され て居る。1969年にも試驗時の釣獲状況から魚群密度と漁獲性能の關係が調べられて居る。即ち、魚群が濃密且つ遊泳層が深層に及ぶ時、 漁獲性能は大と成るが、淡く浮上する場合には最低と成る。亦、釣機の回転方向との關係に附いては、隣接釣機と同時同一方向の回転は漁 獲性能が低く成り、交互異方向の回転は漁獲性能が高い傾向と成る事が判明した。富山水産試驗所では、1968年に魚群の密度と烏賊釣 機の回転數との關係を調べた結果、烏賊群の密度が極めて薄い場合は、回転が速く針間隔の大きい方が良い結果が得られた。群が薄い場 合は、針間隔36糎の時、400回転の釣獲尾數は480回転の32%増、45糎の時は兩回転共同率で有った。併し、群が厚い場合は、針間隔 が45糎、75糎共に、480回転の釣獲尾數は400回転の9乃至20%増で、回転數と針間隔は烏賊群の密度の濃淡と可成り深い関係が有る と報告されて居る。

1979年には、アカイカ釣りの漁獲効率向上を圖る爲、自動釣機と手釣りの比較試驗が行われて居る。試驗結果は、單位當り釣獲尾數から觀 ると、釣機6.25、ステンレス針手釣り1.16、中空針手釣り4.79で有った。亦、烏賊角1箇1時間當りの釣獲尾數では3種類の内、中空針 手釣りが最も効率が良かったと報告されて居る。茨城縣内の小型烏賊釣漁船では竿釣りと機械釣りで、アカイカを主對象に7乃至9月は機械 釣り主体、11乃至1月は全船が竿釣りで操業して居る。此れ迄の釣獲状況から、アカイカの魚体が大型に成ると竿釣りが有利に成ると考えら れたので、1979年の漁期に漁法別の釣獲試驗を実施した處、機械釣りではアカイカの脱落が40%に達し、竿釣りの釣獲尾數より下廻った。 試驗結果に依り、漁法別の効率の分岐點はアカイカの胴長25糎前後と推定されて居る。操業船の着業状況を觀ると、魚体が小さく分布密度 の高い時期は機械釣りで、魚体が大きく分布密度が低い時期には竿釣りで操業すると報告されて居る。

流網の代替漁業と仕て北太平洋のアカイカを對象と仕た釣漁業の開發調査が1992年度に開始され、1993年度からは海洋水産資源開發 センターに依りアカイカ好漁場探索調査が実施されて居る。此の調査の中で大型アカイカに對する釣針及び釣獲方法に附いて、色々検討して 居るが、釣機の漁獲性能に附いては、大型アカイカの釣獲水深は130米より深く設定する必要が有り、潮汐が惡い時の針喧嘩を避ける爲に は片ドラム而巳の操業でも相當な漁獲が揚げられた。亦、漁獲性能を高める爲には、釣機丈で無く前ローラや流し等を含めた釣りシステムと 仕ての検討が必要で有ると水産庁及び海洋水産資源開發センターは提言して居る。

前記の海洋水産資源開發センターの調査に於いて、水中集魚灯を水深180米で點灯した昼間の操業実驗から、大型アカイカは水深240乃 至300米の無光層から釣獲された。釣獲水深や魚探反應等から、昼間の大型アカイカは少數箇体群で遊泳して居る者と推察される。大型ア カイカ釣りでは積極的な探魚過程が必要と成るので、釣獲特性から觀ても水中集魚灯を利用した昼釣りでは、大型アカイカの探索と夜間操業 への聯携に應用可能で有る事が示唆されたと報告されて居る。

現在の烏賊釣機の機構はコンピュータが内蔵され、漁期・漁場に應じた最適なプログラムが選択出來、烏賊角の上下運動速度は3段階に、 シャクリも自由、右舷・左舷別の段差運動が出來る等の新機能と成って居る。

烏賊釣漁業に於ける集魚灯の有効利用−概要

概要 烏賊釣漁業用の集魚灯は、自船周囲のより廣い海域から出來る丈多くの烏賊を船下の釣具操作範囲に集め、釣獲に結び附 ける事を目的に使用されて居る。

現在、日本周邊の沿岸、沖合域でスルメイカを對象と仕て一般的に行われて居る夜間操業では、撒餌や釣餌を使用せず、集魚灯の灯光と擬 餌針の操作に依り漁獲過程を進行させる爲、集魚灯の灯光は漁獲の効果を左右する重要な要素と考えられて居る。亦、一方では集魚灯の光 力増大竸争と、其れに伴う設備費、燃油費の膨張が産業上の大きな問題と成って居る。

此處では集魚灯の効果を決定する要因を

1.光を放射する光源に關わる要因
2.媒質と成る海水の光學的特性等の漁場環境要因
3.光を感知し對光行動を發現する烏賊の生理・生態的要因

の3条に大別し、各々の面から合理的な集魚灯と其の利用方法に附いて考察する。

集魚灯光源と其の適性

觀察結果 烏賊釣漁業用の集魚灯は、古くは篝火(かがりび)から現在主流と成って來たメタルハライド灯迄、人工光源の發達を脊 景に變化して來た。此等の集魚灯光源の發光原理は篝火からアセチレン灯迄の燃焼發光、白熱灯・ハロゲン灯の白熱發光、及び、メタルハ ライド灯の放電發光で有る。此の中で燃焼及び白熱發光は孰れも大きな熱放射を伴い、光のエネルギーの大部分は赤外線領域に在る。赤 外線は海中に入ると直ちに海水に吸収され、而もスルメイカの眼には光と仕て感じ無い波長で有る。

200ボルト乃至3キロワットの白熱集魚灯とハロゲン集魚灯に夫々れ200ボルトの定格電壓と240ボルトの過電壓を入力した場合の分光分 布特性を觀ると、共にタングステンフィラメントから發光する白熱灯とハロゲン灯の分光分布曲線は粗(ほぼ)相似形で、放射光のエネルギー の大部分が赤外線領域に在る爲、集魚灯と仕ての効率は低い。最近ではメタルハライド灯の普及が著しく、ハロゲン灯や白熱灯を主要集魚 灯と仕て装備して居る烏賊釣專業船は殆ど觀られ無く成った。

2キロワットの白色系及び緑色系のメタルハライド集魚灯の分光照度を測定すると、白色系のメタルハライド灯は波長350乃至700nmの間 に幾つかのピークを持ち、放射光は殆どが海中に透過する波長範囲(380乃至760nm)に在る。亦、緑色系では535nm當りの波長に顯著 なピークが在り、此の部分の放射照度はハロゲン灯の約45倍と成る。此の爲現在使用されて居るメタルハライド集魚灯の放射光の海中透過 率はハロゲン灯に代表される白熱發光灯に比べ格段に高く成って居る。併し、メタルハライド集魚灯は電源電壓の變動に依るランプ特性の變 化が大きく、光色も變化する爲、各灯專用の安定噐が必要で有る。

漁場海水の光學的特性

觀察結果 スルメイカは回遊性の半沖合性種で有り海水が比較的清澄な海域に漁場が形成される。日本海沖合の大和堆漁場及び 津輕海峡の凾館沖漁場に於ける昼光下の海中分光放射照度の測定結果に依れば、孰れも波長450乃至500nmの間に透過率の極大が在 る外洋水型で有る。從って、烏賊釣漁場に於ける海水の分光透過率を考慮すれば、集魚灯は波長450乃至500nmに放射光のエネルギー が極大を持つ様に設計する事が一の目安と成る。

スルメイカの光感覺と對光行動

觀察結果 スルメイカの眼は組織學上優れた光感覺噐で有る事が知られて居る。亦、昼間の棲息域が100米以深に及ぶ事からも 低照度環境に適應した眼を持つと考えられる。スルメイカの網膜はヒトや多くの魚類の網膜とは異なり、明所での視覺を受け持ち、色を識別す る事の出來る錐体細胞に相當する物が無く、暗所で機能する感度の良い感桿と称呼される棒状の視細胞が一様に高密度で立ち並んだ構造 を仕て居る。光に對する感度の調整は感桿内部の黒色色素が露光に應じて移動する事に依り行われるが、此の明暗順應の調節は瞬間的に は機能し無い爲、暗所から明所への急激な光環境の變化には對應出來ない。此の様な状況では、スルメイカの水晶体表面の虹彩をスリット 状に絞り眼球内への入光量を制限し、時には眼瞼に相當する角膜を閉じて一時的に視覺が機能し無い状態に成る事が觀察されて居る

集魚灯下で釣獲したスルメイカの網膜の順應状態を調べた結果、殆どが暗順應状態で有った。此の事から、操業船下のスルメイカは網膜の 感度調整が即座に對應出來ない様な明るい環境に長く滞留する事は無く、暗順應状態で視覺が有効に機能する低照度域で、擬餌針を捕捉 して居る者と考えられる。亦、水槽に行ける對光行動実驗でも暗順應状態のスルメイカは光の直射域よりも陰影部に滞留する傾向を示して居 る。從って、船上集魚灯に依り作られる船下の陰影部はスルメイカが暗順應状態の眼で視覺を機能させる爲に重要な役割を持ち、其の陰影部 で擬餌針を操作する事はスルメイカの光に對する生理・生態を有効に利用して居る事に成る。

併し、集魚灯の光力が近年著しく増大した結果、嘗ての低光力操業時に良く觀られた漁船周邊にスルメイカが浮上し群泳・滞留する現象が殆 ど觀られ無く成った。亦、集魚灯の光力増大と共に、時季を問わずスルメイカの釣獲水深が深く成って來た。此の爲、集魚灯の大光力化が釣 獲効率を高める爲に有効な唯一の方法で有るとは謂い難い。

2キロワットの白色メタルハライド集魚灯42箇を點灯した19.6屯の操業船の擬餌針の降下ラインに沿って測定した海中分光放射照度を觀る と、海面上では光源のスペクトル特性に對應した分光放射照度を示すが、海面から水深1米迄の間で擬餌針は降下ラインは船体の影に入る 爲、各波長共エネルギーが著しく低下して居る。亦、深く成るに聯れ550nmより長波長側の減衰が著しい。此の時のスルメイカの釣獲層は 40乃至50米で、此の測定結果から計算した釣獲層の放射照度は透過率の高い480nm附近の波長で、ヒトの視覺が機能し無い様な低照 度環境でスルメイカは擬餌針を捕捉して居る事に成る。

集魚灯に關する課題

觀察結果 最近の烏賊釣漁船ではメタルハライド集魚灯の普及で分光特性や光力の面は著しく改善され、從來の烏賊釣漁船より 廣範囲のスルマイカに灯光を感知させ得る様に成った。併し、此の灯光に誘引されて來たスルメイカは暗順應状態の視覺が制限される高照 度域には接近出來ず、漁船近くの明るい光域を通過して船下の擬餌針に向かう事も妨げられる。亦、操業船下の陰影部はスルマイカが暗順 應状態の視覺で擬餌針を捕捉する行動に重要な役割を果たして居る者の、自動烏賊釣機普及以來の集魚灯光力の増大に伴い、此の陰影 部に於けるスルメイカの釣獲水深も次第に深く成って來た。以上の事を考え合わせると、烏賊釣漁業に於ける集魚灯が集魚灯で有ると同時 に釣獲促進灯と仕ても機能する爲には、大光力化に依りマイナス面が生じる可能性が有る。

國聯決議に依り1992年末で一時停止(モラトリアム)と成った北太平洋のアカイカ流網の代替漁業と仕て、外套長30糎以上の大型アカイカ を對象と仕た釣漁業の開發試驗が、1996年に水産庁に依り行われ、企業化の目途が附いた。此の一聯の調査・試驗の中で、昼間操業に 於ける水中集魚灯の利用効果が確認された。即ち、釣獲許りで無く、船下にアカイカの存在を確認して操業位置を決定するミクロな漁場探索 やアカイカの釣獲水深の淺化と船上集魚灯に依る夜間操業への円滑な移行にも水中集魚灯が有効に機能する事が明らかに成った。烏賊釣 漁業に於ける水中集魚灯の利用は、釣具との絡みの防止等の解決す可き操法上の課題は有るが、船上集魚灯の大光力化竸争に依る機材 と燃油の投入を抑制する爲に一の方法と仕て注目されて居る。