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烏賊の形態と生態
漁撈(烏賊の漁場)に關する索引
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漁撈
烏賊の漁場
日本近海
太平洋
日本海
遠洋海域
南西大西洋海域
ニュージーランド海域
北西大西洋海域
遠洋漁場(南西大西洋海域)
棲息種
此の海域にはアルゼンチンイレックス、ニセアカイカ(アカスルメイカ)、アカイカ等のスルメイカ類が分布する。漁獲量はアル ゼンチンイレックスが壓倒的に多く、ニセアカイカは多獲される年も有るが通常は少ない。此の海域のアルゼンチンイレックスは遠洋海域での 最重要スルメイカ資源と成って居る。
アルゼンチンイレックスは、ウルグアイからアルゼンチン、更にフォークランドに懸けた南緯30度から55度の大陸棚、及び、大陸斜面域に分布 する。体長組成や成熟状況等から觀て、産卵期が異なる複數の群が存在する。此の内、南半球の冬期に産卵する群(冬産まれ群)が卓越し て居り、少なくとも南緯45度以南は実質的に同じ資源と看做す事が出來る。
冬産まれ群は季節的に大きく回遊する。初春には3乃至4糎に成長した幼烏賊がアルゼンチン沖の大陸棚の北部を中心に廣く分布する。夏か ら秋に急速に成長し乍ら分布域を南に擴げ、一部はフォークランド迄南下する。同時に深處に向かう動きも觀られ、大陸棚の縁邊部、更に大陸 斜面域へと移動する。此の時期の烏賊は成熟も可成り進んで居り、近い將來に交接を行い産卵すると考えられる。交接とは雄が雌に精子を 格納した精莢(せいきょう)を植え附ける行爲を謂い、植え附ける場所は種に依り異なるが、本種では外套内の鰓(えら)の附け根で有る。
稚仔はウルグアイからアルゼンチン北部に懸けた大陸棚の縁邊部で冬期に採集されるが、外洋域には出現して居ない。秋以降の親烏賊の 深處への移動と併せて考えると、冬産まれ群の主要な産卵場は大陸斜面域とするのが妥当で有る。此の他、夏にアルゼンチン中央部の大陸 棚上で産卵する群が居るが量的には少ない。
アルゼンチンイレックスの寿命は約一年で有る。成長を平衡石(へいこうせき)の日齢検定結果を基に推定すると、冬産まれ群の發生は5乃至 11月の長期に亘るが、其の盛期は7乃至9月で有る。雌は雄よりも成長が早く大型に成るが、成熟は雄の方が早い。亦、同性の個体でも、産 まれ月が遅く成る程成長が早く大型に成る。此れは、産まれ月が遅く成る程成長期の水温が高く成る、或いは、餌の利用度が高く成る爲と考 えられて居る。
冬産まれ群の他に、南緯44度以北の大陸棚上に分布する夏(11乃至1月)産まれ群が存在する。此の群は、大回遊を行う冬産まれ群に比 較して成長が著しく劣る。5乃至6月に冬産まれ群が深處に移動して烏賊釣船が漁獲出來なく成ると、漁場を大陸棚中央部に移動して夏産ま れ群を對象として操業を行う様に成る。猶、アルゼンチンイレックスは、此等の群の他にも産まれ月や産卵場の異なる群の存在が示唆されて 居る。
分布圖
資源量
斯うした單年性資源は、其の年に加入した群丈から成る爲、資源量が大きく年變動する傾向が有る。現在アルゼンチンイ レックスの主漁法で有る烏賊釣漁船の單位努力當たり漁獲量(CPUE)は、過去10年間に6乃至22(屯/日)の變動を示した。此の様に單 年性で親子關係が希薄な資源は、資源豐度が予想し難いが、漁獲が翌年の資源に直接影響し無い爲、漁獲壓に強いと謂う面も有る。現在の 資源管理は沿岸國で有るアルゼンチンやフォークランドが、漁期直前の加入量調査や漁獲量監視を通し再生産に必要な親烏賊の量を推定し、 其れを確保する爲に自國管理水域内の漁期や操業隻數を制限する方式が採られて居る。併し乍、本種は公海域でも漁獲されて居るので、將 來的には國際的に統一した管理が望まれる。猶、フォークランド紛争以來敵對して居たアルゼンチンとフォークランドが、1999年に協定を締結 し、漁業資源の共同管理を行う事を決定した。
漁業史
アルゼンチンイレックスを對象とする漁業は、1980年代に入り急速に発達した。以前は沿岸國で有るアルゼンチンとウルグ アイに依り年間數千屯が漁獲されて居たに過ぎず、其の大半はウルグアイとアルゼンチン北部の大陸棚上でメルルーサ類を目的とするトロー ル漁業に混獲された物で有る。1970年代末にアルゼンチンの漁獲量が一時的に増加した事も有るが、其の後は両沿岸國の漁獲量は少な い。
1980年代に入るとポーランドや日本等の遠洋漁業國のトロール船が本格的な操業を開始し、其の結果、アルゼンチンイレックスの漁獲量は 20萬屯前後に増大した。更に、1984年には台灣、1985年には日本と韓國の烏賊釣船が操業を開始した。1987年には十數箇國の漁船 が操業して70萬屯近くを漁獲し、其の内、日本は25萬屯を占めた。併し、1990年には漁獲量が一転して大きく減少した爲、資源に對する 漁獲の影響が懸念された。
アルゼンチンイレックスの夏から秋に懸けての分布域はウルグアイからフォークランドに懸けての廣大な水域に擴がるが、漁獲量の多くを占め る遠洋漁業國の漁船は1993年迄はアルゼンチン漁業専管水域(200浬内)で操業が許可され無かった。其の爲、南緯43度と47度で大陸 棚が200浬外に食(は)み出して居る公海水域と漁船の入漁が許可されて居たフォークランド諸島周邊水域に漁場が分かれて居た。
トロール船は、主に4乃至7月に公海水域の二箇處の漁場で、大陸斜面域の深處に移動して來た群を漁獲し、南のフォークランド水域では餘り 漁獲して居ない。此れは、フォークランド水域の烏賊が中層に棲息し海底を曳くトロール漁具に捕獲し難い爲で有ると推察される。1993年に 成ると、本種の主分布域で有るアルゼンチン漁業専管水域での烏賊釣船の入漁が可能に成り、トロール船の漁獲量の低下と相俟って、烏賊 釣りが漁獲の大半を占めるに至って居る。アルゼンチン漁業専管水域での操業が開始されると同時に、主漁場は其れ迄のフォークランド周邊 水域や公海水域から、アルゼンチン漁業専管水域へと變換した。
漁期等
烏賊釣船の操業は南半球の夏から冬に懸けて行われるが、アルゼンチン漁業専管水域、並びに、フォークランド水域では、 資源保護の爲に2月後半乃至3月前半迄禁漁と成って居る。此の爲、操業は大陸棚縁邊部に存在する二箇處の公海漁場から始まる。其の 後、アルゼンチン、並びに、フォークランドへの入域が始まると共に、漁場が南緯48度以南に形成される。此の漁獲對象は冬産まれ群で有る。
4乃至5月に成ると、冬産まれ群は産卵場に向けて北上回遊を始め、漁船も其れを追跡して北へと移動を開始する。漁船の動向や漁獲物の 解析から、此の冬産まれ群は大陸棚縁邊部から斜面域を通り北上する者と考えられる。5月後半乃至6月に成ると、烏賊釣船は冬産まれ群 の追跡を諦め、漁場を南緯40乃至45度に懸けてのパタゴニア大陸棚中央部へと移動させ、夏産まれ群を對象として7乃至8月迄操業を續け る。
月別漁場圖
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操業位置圖
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水温漁獲圖
遠洋漁場(ニュージーランド海域)
棲息種
此の海域にはニュージーランドスルメイカ、オーストラリアスルメイカ、ミナミスルメイカ、アカイカ等のスルメイカ類が分布する。 此の内漁業の對象とされるのはニュージーランドスルメイカとオーストラリアスルメイカで有る。両種は形態的に似て居り、市場では區別されず にニュージーランドスルメイカと称呼されて居る。
本海域に於けるニュージーランドスルメイカとオーストラリアスルメイカの分布域は、ニュージーランドの北島と南島の間で一部重複するものの、 比較的明瞭に分離して居る。ニュージーランドスルメイカは南島の大陸棚を中心に仕て東方や南方の海台に迄分布する。本種はニュージーラ ンドの固有種で有る。一方、オーストラリアスルメイカは北島周邊の大陸棚を中心に分布し、前者に比較すると暖海性で有る。亦、オーストラリ ア南部にも廣く分布する。
両種共淺深方向に移動する以外は大きな回遊は行わ無いと考えられる。幼烏賊が夫々れの親烏賊と同じ様に分布する事や、主要漁場が南 北方向に季節移動し無いからで有る。標識放流した烏賊が放流地點の近くで再捕獲された事や、近接する南島の南岸とオークランド島周邊で 漁獲される烏賊の大きさや熟度が異なる事も、大きく回遊し無い事を裏附けて居る。此の様にニュージーランド海域では、二種が漁獲される丈 で無く、夫々れの漁場の獨立性が高く相互の交流が少ないと考えられる。
成熟した雌が周年に亘り各地で漁獲される事から産卵場は前述した種の分布域に廣く存在すると考えられる。平衡石を用いた日齢査定結果 を基に推定された孵化日に依ると、産卵は二種共周年に亘って居ると推定される。併し、後述する様に漁期が存在する事からも判る様に發生 時期に依り其の豐度が可成り異なる。オーストラリアスルメイカでは6乃至7月に發生した者が、ニュージーランドスルメイカでは水域に依り若 干異なるが7乃至9月に發生した者が卓越する場合が多い。此の様に二種共冬期を中心と仕た時期に發生した者が比較的卓越する場合が 多いが、年に依っては他の時期に發生した者が卓越する場合も有り、資源構造を曖昧な者に仕て居る。
成長は、平衡石を用いた日齢査定に依り推定されて居る。二種の成長共ロジスティック曲線で表せる。發生した時期に依り成長は稍(やや) 異なるが、發生時期の異なる個体での成長を比較すると、何の日齢でも、其の時期水温が高かった個体の成長が最も良い。此の様に各日齢 での成長速度は異なるが、最大体長には大差が無い。寿命は二種共粗(ほぼ)一年と考えられる。成熟は、雄では200日頃から始まり270 日前後に頂點に達する。雌では其の頃から卵巣、輸卵管等の生殖噐官が急速に発達する。亦、交接も其の頃最も活發に行われる。
分布圖
資源量
斯うした單年性資源は、其の年に加入した群丈から成る爲、資源量が大きく年變動する傾向が有る。此の水域でも箇々の 資源は年に依り大きく變動して來た。烏賊釣船は其の年に豐度が最も高い漁場で集中操業する爲、其の主要漁場は毎年の様に變化したが、 ニュージーランド海域のスルメイカ資源は複雑で幾つもの單位から成り、海域全体と仕て觀ると豐度は比較的に安定して居る。
1978年の漁業専管水域(200浬水域)の施行に依り本海域のスルメイカ資源も當然ニュージーランド政府の管轄下に入り、當初、同政府は トロール漁業を漁獲量規制で、烏賊釣漁業を努力量(隻數)規制で管理した。併し、同じ資源に異なる管理方法を用いると謂う矛盾から、現在 では、烏賊釣漁業にも漁獲量規制を実施して居る。此れは、トロール漁業には混獲問題が有り努力量に依る規制が適用出來ない爲で有る。 現在の處、資源はオークランド島周邊と其他の漁場の二箇所に分けて管理されて居る。安全率を見込んだ管理を実施して居る事から、スルメ イカ資源への漁獲の影響は問題と成って居ない。
漁業史
此の海域のスルメイカ資源は1960年代迄は未開發で有った。1960年代末の日本近海のスルメイカの不漁を契機に此の 海域でも烏賊釣操業が試みられた。其の結果が良好で有った事や日本近海での操業の裏作に好適で有る事から、遠洋海域で初めて本格的 にスルメイカ類を對象とする釣り操業が行われた。其の後、烏賊釣船の隻數は急速に増加し、1970年代中頃には150隻前後と成り、漁獲量 も1.5乃至2萬屯と成った。トロール船も同じ頃にスルメイカ類の漁獲を開始したが、漁獲量は數千屯と餘り多くは無かった。
1978年に漁業専管水域が設定されると、トロール船に依るスルメイカ類の漁獲量は急伸し年間2萬屯前後に達した。此れは、底魚に比較し て規制の縵やかなスルメイカ類へ漁獲努力が移行した爲で有る。烏賊釣船も80乃至90隻が操業し2乃至4萬屯を漁獲した。最近は規制が 嚴しく成り、1990年には日本の烏賊釣船への割当量が無く成り合辧船而巳と成った。此の海域のスルメイカ類の漁獲量の6乃至7割を日本 が占めて居るが、ロシア、韓國、台灣も漁獲して居る。ニュージーランド自身の漁獲量は諸外國との合辧船を除けば少ない。
漁期等
主要漁場は烏賊釣船とトロール船で若干異なる。烏賊釣船は北島西岸と南島周邊で主に操業して居る。一方、トロール漁 場は西岸以外の南島周邊やオークランド島周邊等に形成される。最近の規制強化に依り、日本のトロール船は主として南島南岸とオークラン ド島周邊で烏賊操業を実施して居る。南島周邊は双方の漁船が操業するが、漁場と成る場所は異なる。烏賊釣船は殆どを漁場とするのに對 し、トロール船は稍(やや)深みの大陸棚縁邊部で操業する。猶、北島周邊を除くと漁獲物はニュージーランドスルメイカから成ると考えて良い。
漁期は基本的には南半球の夏から冬の12乃至6月で有る。烏賊釣漁業の盛漁期は1乃至3月と成る事が多い。通常、烏賊釣船の操業は南 島の北西岸から始まり、次いで其の年に最も豐度が高い漁場(例えば1989年は南島の東岸)での本格的な漁獲と成り、最後は北島の西岸 で終漁と成る。トロール漁業の盛漁期は、年に依り若干異なり、1月から5月に懸けての數箇月で有る。オークランド島周邊の漁期は南島南岸 より一箇月程遅く始まる事が多い。猶、日本の烏賊釣業界は自主的に漁期の開始を若干遅く仕て居る。
主要漁場圖
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月別漁場圖
遠洋漁場(北西大西洋海域)
棲息種
此の海域にはアカイカや數種のイレックス等のスルメイカ類が分布する。此の内カナダイレックス丈が商業的に漁獲されて 居る。1980年代に入るとカナダイレックスの豐度は極端に低く成り、特に加奈陀(かなだ)沖では殆ど漁獲が無かったが、1990年には久し 振りに可成りの量が漁獲された。亦、本種は水槽で産卵させる事に成功した數少ないスルメイカ類で有る。
カナダイレックスは、米國フロリダ半島東岸から加奈陀のラブラドル迄分布するが、ハテラス岬からニューファンドランドに多い。夏に産卵する個 体も觀られるが、大半は冬に産卵する。ハテラス岬以北に附いては、大きな回遊を行う一箇の資源で有ると考えられて居るが、管理の都合上 亜米利加(あめりか)沖と加奈陀沖に分けられて居る。
晩春から初夏に懸けてハテラス岬からグランドバンクに懸けた大陸棚の縁邊部に10数糎の小型個体が現れる。烏賊の分布は夏から秋には 沿岸域を含む大陸棚の全体に擴がる。此の間に急速に成長すると共に漁獲の對象と成る。秋の終わりに成ると、雄は稍(やや)成熟するもの の、雌は未熟の儘、大陸棚上から姿を消す。成熟した雌は此れ迄僅かしか採集されて居ない。
陸上の大型水槽で親烏賊を飼育し産卵させる事に依り、産出された卵塊や孵化直後の稚仔が詳しく觀察された。先ず、産卵前に交接が行わ れ、雄は精莢(せいきょう)を雌の外套腔内の鰓(えら)附近に植え附ける。數日後、雌の外套腔内で輸卵管から産み出された卵と精莢の精子 や纏卵腺から出たゼリー質の物質とが混じる。此れが外套腔の外に出ると多量の海水を吸収して急激に膨張し大きな卵塊と成る。産卵後に 雌は相当數の卵を卵巣に殘存させた儘死亡する。
卵塊は球の形を仕て居り、最も大きな物は直径が1米有る。非常に希薄なゼリー質から成り海水より僅かに重い。卵塊中には長径1粍の卵が 最高で10萬箇程含まれる。孵化日數は水温に依り變化し、摂氏13度では16日で有る。孵化直後の稚仔の外套長は1.1粍で、餌が無い爲 一週間で死亡する。自然界での稚仔は外洋域、特にメキシコ灣流の北縁に多く、大陸棚上には餘り出現し無い。外套長1乃至10糎の幼烏賊 がメキシコ灣流と大陸棚縁邊部の間の水域で多數發見されて居る。
以上からカナダイレックスの回遊は下記の様に想定される。主要な産卵場は、卵が正常に發生するのに必要な摂氏12度以上の水温が存在 するハテラス岬以南の大陸棚上か大陸斜面域で有ろう。産卵盛期は冬で有る。孵化した稚仔の一部は餘り移動し無い儘に米國沖の大陸棚 上で成長する。一方、稚仔の一部はメキシコ灣流に巻き込まれて外洋域に流される。其の後、メキシコ灣流から離れ、幼烏賊と成り大陸棚へ 移動する。夏から秋には米國北部からカナダ沖の大陸棚上で生活する。秋の終わりに成ると成熟し乍ら南下回遊し、産卵後に死亡する。
他の種と同様に体長組成の季節變化から成長が推定された。例えば、ニューファンドランドでは5月に外套長14糎程度の小型群が沖合のグ ランドバンク南部に出現する。其の後は季節と共に大きく成り、姿を消す直前の11月には24乃至25糎と成る。此の月別の平均体長に成長 式を當て嵌めて成長を推定する。20糎以上に成ると雌雄で成長が異なり、雌の方が大型と成る。翌年に大型個体が觀られ無い事から、寿命 は粗(ほぼ)一年と考えられる。
分布圖
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回遊圖
資源量
スルメイカ類は食う食われるの關係を通して海洋生態系の中で重要な役割を果たして居ると考えられる。先ず、食う方で有 るが、餌は成長と共に變化する。小型個体はオキアミ類等の小型甲殻類を餌とするが、大きく成ると魚や烏賊(同種が多い)を捕食する様に 成る。食われる方では、鱈(たら)類等の底魚、鮪(まぐろ)類、更に海豚(いるか)や鯨の重要な餌と成って居る。カナダイレックス資源の年變 動が大陸棚上の魚類資源に何う影響したかを研究した例も有るが、明瞭な結果は得られて居ない。
本資源は此れ迄大きな年變動を示して來た。最北の漁場で有るニューファンドランドでは、漁獲量が大きく年變動すると共に、豐漁や不漁が 續く傾向が有る。ノバスコシア沖でも1970年以降の豐度は20倍以上の變動を示して居る。一方、米國沖でもカナダ沖に粗同調した年變動 が觀られるが、其の變動幅は可成り小さい。カナダ沖で變動幅が大きいのは、加入する迄をメキシコ灣流に依存して居る爲で有ろう。近年、 米國沖には親烏賊が分布するものの、メキシコ灣流には稚仔が殆ど觀られ無い。カナダ沖の不漁は何等かの原因で稚仔がメキシコ灣流に 巻き込まれ無い爲で有ろう。
加入した烏賊の何%を漁獲して良いか、即ち最適開發率の計算が試みられた。尾數の減少、烏賊漁業の季節性、産卵後の大量斃死、親子 關係等に附いて種々の假定を置くと、最適開發率は粗40%と成る。多くの假定に基づく數字なので注意が必要で有るが、最近では他海域の スルメイカ類の管理に使用されつつ有る。漁獲量の急増に伴い漁獲量、操業日數、漁期等が規制されたが、特にカナダ沖で惡い状態が續い て居る。併し、資源が惡いのは自然要因と考えられて居る。
漁業史
カナダイレックスは加奈陀の沿岸で延縄(はえなわ)の餌等に古くから利用されたが、漁獲量は精々1萬屯で有った。1970 年代中頃に成ると漁獲量が急激に増加を始めた。1979年には最高と成り、ニューファンドランド近海では主に加奈陀の小型釣船が8.9萬屯 を、ノバスコシアの沖合域では遠洋漁業國の大型トロール船が7.3萬屯を漁獲した。併し、1980年代に入ると漁獲量は減少し、近年は殆ど 漁獲されて居なかった。1990年は久し振りに可成りの量が漁獲された。歴史的には豐漁が續く傾向が有る事から、資源の回復が期待され たが、其の後も資源は回復して居ない。
米國沖でも本種は餌と仕て古くから利用されて居たが、1970年代に入るとソ連、西班牙(すぺいん)、日本等が本種を漁獲する様に成った。 1976年、1977年に漁獲量は最高の2.5萬屯を記録したが、直後に米國が漁業専管水域(200浬)を施行し規制を強化した爲、漁獲量は 減少した。加奈陀沖程には資源が惡化し無かった事も有り、暫くは嚴しい規制の下で外國漁船の操業が續いた。併し、現在では全て米國漁 船に依り漁獲されて居る。
漁期等
主要漁場は加奈陀のニューファンドランド近海、ノバスコシア沖、及び、米國沖の三箇處に分けられる。此れは主として海底 地形に依る者で、資源はひとつと考えられる。ニューファンドランド近海は主として加奈陀の小型釣船の漁場で有る。但し、沖合の大陸棚縁邊 部にはトロール漁場も形成される。ノバスコシア沖では主としてトロール船が大陸棚の縁邊部で操業して來た。日本の烏賊釣船も一時期操業 したが、漁場はノバスコシア沖の大陸棚の粗全域に形成された。米國沖では主要なトロール漁場は大陸棚の縁邊部に形成される。
漁期は北半球の夏から秋の7乃至11月で有る。盛漁期は行状に漁場に依り若干異なる。ニューファンドランド近海やノバスコシア沖では、年 に依り變化は有るものの、8乃至10月が盛漁期と成る。此等の加奈陀沖漁場では、國際的な取り決めに依り漁期の開始が規制されて居る。 米國沖では、6月に本種を對象に操業する年が有る等、漁期の始まりが早い。其の後は努力量當たり漁獲量が一時的に低下する様で有るが 12月頃迄漁獲される。
主要漁場圖