烏賊と電脳のホームページ

烏賊と電脳の綜合百科事典
烏賊の王様

烏賊の形態と生態

漁撈(海洋の環境)に關する索引

(赤文字の部分をクリックすると詳細説明が表示されます。)

  1. 漁撈
    1. 海洋の環境
      1. 概要
      2. 南西大西洋海域
      3. ニュージーランド海域
      4. 北西大西洋海域
      5. 北太平洋海域
      6. 總括


概要

説明 現在、日本の烏賊漁業で重要な種類と仕ては、スルメイカ類が擧げられ、其の世界に於ける1987年の漁獲量は約 120萬屯に達して居る。其のスルメイカ類の主な漁獲對象種は、スルメイカを始めアルゼンチンイレックス(商品名マツイカ)、 ニュージーランドスルメイカ、アカイカ、及び、近年漁獲量は低下して居るがカナダイレックス(商品名マツイカ)の5種から成る。

然して、日本近海のスルメイカを除く此等烏賊類の漁場は、其の種名が示す様に、南西大西洋アルゼンチン沖、南太平洋ニュージー ランド沖、大西洋カナダ沖、及び、北太平洋に形成されて居る。此等の漁法は、北太平洋に於ける流網を用いたアカイカを對象とす る漁業(1992年末で禁止)以外は、トロール及び釣りが用いられて居り、其等の操業は同じ海域で爲されて居るが、トロール漁 業は陸棚縁邊域、釣り漁業は大陸棚上と成って居る爲、同一海域に於いても兩者が竸合する事は無い。

此のスルメイカ類が属するアカイカ科の分布を概觀すると、北半球では極前線の延長で有る亞寒帶境界周邊が北限、然して南半球で は亞熱帶収束線附近が南限と成って居る。

極前線とは、寒帶又は亞寒帶水が亞熱帶水と接する水塊の不聨續線で、北太平洋では黒潮と親潮の境界、亦、大西洋では灣流(ガル フストリーム)とラブラドル半島沖を南下するラブラドル海流と潮境に當たる。一方、亞熱帶収束線とは、中緯度乃至亞熱帶海域に 觀られる表面流の収束線で、此の収束線は餘り明瞭では無い。然して、此等の極前線及び亞熱帶収束線は、粗(ほぼ)南、北緯40 度附近に在って、アカイカ科と同様に、ミナミマグロを除くマグロ類の分布限界と成って居る事は、動物の分布生態的な面に於いて 共通する何等かの制約要因が存在する事も考えられる。

南西大西洋域

説明 南大西洋の赤道附近以南を西に流れる南赤道海流は、南米沿岸沖で北上流と南下流に分岐するが、南下分岐流はブラ ジル海流と成り、顯著な高塩分水塊を形成して居る。然して、南緯約35乃至40度で亞南極水域から北上するフォークランド海流 と収束して亞熱帶収束線を形成して後のブラジル海流は、南大西洋海流(南大洋海流)と成って東に向かう。猶、ブラジル海流は弱 く、流速は表面に於いて1乃至2節(ノット)程度を示し、亦、其の南端は南半球の夏季に最も高緯度に達し、夏季と冬季に於ける 其の位置は、緯度に仕て約4度程度變動して居り、其の變動は此の海域に於けるトロール漁場に少なからず影響を及ぼして居る様で 有る。然して、ブラジル海流とフォークランド海流域の所謂(いわゆる)パタゴニア水域に於ける水産生物資源は、世界に於いて最 も開發餘地の有る海域の一と仕て注目されて居る

フォークランド諸島附近を北上するフォークランド海流は、亞南極表層水から形成されて居り、其の主な起源は南東太平洋を東向す る西風皮流が、南米太平洋岸南部から南下し、ホーン岬を迂回して東に向かうケープホーン海流に有り、其の流速は1.7節に達す る事が有る。

ケープホーン海流は、スターテン島の東で分岐流と成り、其の一が主流とも謂う可きフォークランド海流(マルビナス海流)と成っ て、パタゴニア大陸とフォークランド諸島間を北上して居り、他の分岐流は東北東へ向かい南大西洋を東流する西風皮流と合流して 居る。

フォークランド海流はパタゴニア水域に於いては水温、塩分孰れも低く、亦、水色もブラジル海流域の高い水色番号(番号が小さい 青系統)に對し、緑色系統の低い水色番号を呈して居る。流速は、一般にフォークランド諸島寄りの東側に大きく、然して、其の海 域に孤立低温域が形成されて居る。其の形成要因と仕ては、亂流に伴う渦動と考えられて居るが、急斜面を爲した大陸棚縁邊の地形 的要因も挙げられて居る。

一方、パタゴニア大陸に沿うフォークランド海流の流速は非常に小さく、亦、パタゴニア大陸寄りの沿岸域では南下流が卓越して居 る。其の結果、パタゴニア大陸に沿う水塊は、沖合の陸棚上に分布する水塊に比較して高温と成って居り、其の高温水塊はブラジル 海流の様な亞熱帶水塊とは直接関係無く、亞南極系水塊(フォークランド海流)の温暖化に依り形成された者と考えられ、古い陸棚 水と呼ばれて居る。

アルゼンチンイレックスを對象とする漁期は、12月に始まり、パタゴニア水域では2乃至3月に盛漁期を迎え、4乃至5月に漁獲 量は若干低下して居るが、6月に再び粗2月に相當する漁況を呈して居る。然して8月に終漁と成って居るが、漁期間中に於ける最 高漁獲量は2月に得られて居る。更に、南のフェゴ島周邊に於ける漁期は2月に始まり、盛漁期は4月、然して7月に終漁と成って 居て、漁期は高緯度に短く成って居る。此の漁場周邊域に於ける海況は、水温分布から明らかな様に、大陸寄りに典型的な舌状を呈 した暖水の南下が認められる。此の南下流は南大西洋の赤道附近を西に向かって流れる南赤道海流が起源と成って居るブラジル海流 で有る。

一方、同水温分布圖から其のブラジル海流の沖合を北へ向かって舌状形を成して等温線が分布して居る。此の北上流は、亞南極水域 に起源を有するフォークランド海流で、其の寒暖兩流に依り、等温線の水平傾度から明らかな様に、顯著な潮境(亞熱帶収束線)が 形成されて居り、其の表面に於ける指標水温は、夏季が接し4.5度、冬季が摂氏11.5度と成って居る。然して、其の北限は夏 季には粗南緯40度附近に有り、既述仕た様に其の位置の夏季、冬季に於ける差は、緯度に仕て4度程度有り、未だ調査及び研究は 爲されて居ないが、當然の事乍ら其の南北變動は、此の海域の烏賊を對象と仕たトロール漁場の形成要因と成って居る者と考えられ る。

亦、海洋水産資源開發センターの調査に依れば、南緯45度30分乃至46度、西經60度附近のトロールに依るアルゼンチンイレ ックスの漁場は200米等深線附近に掲載された小規模な湧昇に伴う冷水域の南側に存在して居り、其の冷水域の形成時期が早い場 合には漁場が形成される時期が早く成り、其の規模に依って漁場の規模も變化する傾向が有る。
一方、主な釣り漁場はフォークランド諸島の北側周邊のフォークランド海流域に形成されて居る。其のフォークランド海流は、南米 東岸南部から南下したケープホーン海流以外に、南米と南極大陸間に存在して居るドレーク海峡を東流する西風皮流にも起源を有し て居る。然して、ブラジル海流と衝合する事に依り形成された亞熱帶収束線は、偏西風の緯度帶を西風皮流と合流して南大西洋を東 に向かい、南アフリカ大陸の南に達して居る。

此の亞熱帶収束線を中心と仕た海域に於いて、大陸斜面以淺ではアルゼンチンイレックスやメルルーサ、更に其の外洋域では鮪類等 の有用水産資源が濃密に分布して居り、世界でも有數の漁場を形成して居る。

ニュージーランド海域

説明 漁期は12月から始まり、2月に最盛期を迎えて、5月に終漁期と成って居る。此の海域に於ける烏賊漁場は、北島 の北岸沖を除くニュージーランド全海域に形成されて居り、大きくエグモント岬沖、タスマン灣、南島北西岸沖、南島南岸沖スチュ ワート島附近、カンタベリー灣、及び、ニュージーランド東方チャタム諸島周邊に分ける事が出來る。

此等の漁場周邊に於ける主な表面流と仕ては、タスマン海流續流、イーストケープ海流及び西風皮流が擧げられる。

タスマン海を東へ向かって流れるタスマン海流の起源は、オーストラリア東岸を南下する東オーストラリア海流に在る。其のタスマ ン海流の續流は、ニュージーランド南島西方で、北上流及び南下流に分かれて居る。南下分岐流は、南島南端を廻り東岸に沿って北 上するサウスランド海流と成って居る。ニュージーランド北島東岸を南下するイーストケープ海流の流向は、チャタム海膨上に形成 されて居る亞熱帶収束線域に於いて東へ向かって居り、丁度三陸沖の黒潮に相當する海洋条件を呈して居る。

南島南端を廻って北上するサウスランド海流は、バンクス半島に迄達して居る。バンクス半島以北には、サウスランド海流の續流と 考えられるカンタベリー海流が、南下するイーストケープ海流の沿岸寄りを北上し、北島のイーストケープ附近に迄達して居る様で 有る。カンタベリー海流の一部は、クック海峡へも流入し、同海峡へ低温且つ低塩分水を輸送して居るが、其の西への張り出しは、 西から東へ向かう高温且つ高塩分のダーヴィル海流の影響を受けて居る。其のダーヴィル海流は、タスマン海流に起源を有して南島 西岸域を北上する。ウェストランド海流の一部がクック海峡への移流にも起因して居る。

既述の各漁場の主要な部分に附いての主な海洋環境の特徴を擧げるならば、南島西岸で南西季節風が卓越すると、西岸域に湧昇流が 形成される爲、其の現象が南島西岸沖の烏賊漁場を形成する大きな要因と成って居る。

此の様な陸岸域で風に依り起きる湧昇流、此れを風成湧昇と称呼するが、其の顯著な海域は、カリフォルニア沿岸、ペルー沿岸、ソ マリー海岸及びカナリー沿岸等が擧げられ、孰れも浮魚の好漁場が形成されて居る。タスマン灣の漁場は、ダーヴィル海流が運ぶ外 洋水とクック海峡の沿岸水との間に形成された潮境が、海洋環境の特徴と仕て擧げられる。エグモント岬漁場は、同岬沖で觀測され た低水温域が、湧昇流に起因した現象と考えられて居るが、否定説も出て居る爲、今後の研究が必要で有る。孰れに仕ても同海域の 漁場は、沿岸水と沖合水の潮境が、海洋環境の特徴と仕て擧げられる。

カンタベリー灣の漁場は亞熱帶収束線が海洋環境の特徴と成って居る。更に近年に於ける最大の漁場と成って居る南島南方の海域の 特徴も、タスマン海流續流が運ぶ亞熱帶水と西風皮流が運ぶ亞南極水との間に形成された亞熱帶収束線が擧げられる。

既述した様に、ニュージーランド周邊の漁場は、漁獲資料から區分すると、タスマン灣沖、南島北西岸沖、エグモント岬沖、カンタ ベリー灣と成る。此處で、タスマン灣沖と南島北西岸沖は、漁獲分布が聨續して居る爲、其の境界線を明確にする事は出來ない。猶、 此等の主漁場以外に、北島のイーストケープ沖、バンクス半島東方のチャタムライズ及びスチュワート島東方に於いても若干では有 るが漁獲が得られて居る。

1975年1月中旬に於ける漁獲資料及び表面水温觀測資料に基づく漁場と水温環境を觀ると、南島北西岸漁場は、摂氏21.4乃 至21.8度の範囲に形成されて居り、等温線の分布状態から、ウェストランド海流と關係の有る事が推定される。亦、カンタベリ ー灣漁場に於ける2月中旬の表面水温分布を觀ると、摂氏16度と17度の間に於ける温度傾度が大きい事から、同海域附近が亞熱 帶収束線域と考えられる。然して、其の海域から低温域に漁獲が集中して居た。更に、1974年12月から1975年3月に於け る旬別の漁場水温範囲と其の平均値を觀ると、南島北西岸沖に於ける漁期は12月中旬に始まり、漁場は漸次北へ移動する傾向が認 められ、此の漁場は1月下旬迄漁獲が續いて居る。然して、其の漁期を通じた水温範囲は摂氏16.7乃至23.5度に在り、亦、 其の範囲は盛漁期に大きく成る様で有る。

猶、此の漁場に於ける平均漁獲水温の季節變動は、タスマン灣沖及びカンタベリー灣に比較して大きい。即ち、其の範囲は12月中 旬に於ける摂氏17.7度から最高平均水温は1月中旬の摂氏21.4度に達して居る。南島と北島の間に在る海峡域に2月上旬か ら3月上旬に亘り形成された漁場の漁期間中に於ける水温は、各旬共摂氏18.0乃至21.5度の範囲に在り、殆ど變動は認めら れ無い。亦、好漁場に於ける水温も粗接し9,1乃至19.5度の範囲に在り、漁期間中の變動は無い。カンタベリー灣に於ける資 料は3月中旬及び下旬而巳で、季節變動に附いて検討出來ないが、水温の季節變動は、北島と南島の海峡域に比較して大きい様で有 る。猶、平均漁獲水温は、カンタベリー灣が最も低く摂氏15.6乃至16.2度で有ったが、此の現象は同灣全域が亞南極海系水 と成って居る事に起因して居る。

旬別の漁場水深を觀ると、南島北西岸漁場に於ける漁場水深の範囲は、100乃至140米附近に在るが、特に好漁獲が得られた漁 場の水深範囲は、概して140乃至210米附近に在った。然して、其の水深は概して漁期の進行と共に深く成り、盛漁期には最も 深く350米附近に迄達して居る。一方、漁場水深の最頻値は180乃至210米の範囲に認められた。併し、此の様な現象が一般 的傾向で有るか否か、現段階では不明で有る。從って、烏賊の生態をも考慮して、今後更に研究を進める必要が有る。カンタベリー 灣に於ける漁場水深は、南島北西岸沖に比較して淺い。即ち、2月中旬及び下旬の資料では有るが、水深の範囲は40乃至160米 の部分、然して最頻地は2月中旬に100乃至120米の範囲、下旬には70乃至120米の範囲に認められた。

北西大西洋域

説明 亜米利加(アメリカ)及び加奈陀(カナダ)の大西洋岸沖に於けるカナダイレックスを對象と仕た烏賊漁業は、19 79年には約18萬屯もの漁獲量を記録したが、近年では資源量の低下から其の漁獲量は1萬屯程度で、其の漁場價値は現在小さく 成って居る。カナダイレックスの漁場は、釣漁場がスコシア陸棚及びニューファンドランド沖のグランドバンク陸棚上に、然してト ロール漁場が陸棚縁邊域に形成されて居る。然して、此等の漁場域では、南の方ではガルフストリーム(灣流)と沿岸水との間に、 更に北の方では加奈陀沿岸を南下するラブラドル海流域に相當して居る。然して、南の漁場に於ける水塊は沿岸水、スロープウォー ター及び灣流に關與して居る處が大きい。特に烏賊漁場は、灣流其の物の流域には形成されて居ないが、灣流は此の海域の鮪漁場を 形成する上に大きい要因と成って居る様に、烏賊漁場にも間接的に及ぼして居る影響は大きいと考えられる。

其の灣流とは、フロリダ半島沿いに北上する暖流が、ハテラス岬から北東へ向かって流れる海流で、世界で最大の海流で有る。其の 大きさを具体的數値で示すと、海流の大きさの目安と仕て海洋學では海流の幅と深さと流速から流量と謂う單位時間(秒)當りの海 水が運ばれる量を求めて居るが、其の値を灣流100とすると黒潮65と成る。更に解り易く表現すると、黒潮は利根川の20萬倍、 詰まり灣流では30萬倍と成る。

灣流は、顯著な蛇行運動を呈して居り、其の現象が、鮪や烏賊等を主と仕た漁場を形成する上の重要な海洋条件と成って居り、其の 流軸は、概して200米層に於ける摂氏15度の等温線に依り追跡する事が出來る。即ち、ノヴァスコシア周邊の200米層水温分 布から、灣流の顯著な蛇行運動が把握されよう。其の蛇行現象は、ハテラス岬から東方へ行くに從って發達する傾向が有り、其の爲、 渦流を伴う複雑な潮境が形成され、灣流の流動は多重海流とも呼ばれて居る。

烏賊漁場と仕て考えられるノヴァスコシア附近の夏季の流動を觀ると、此の海域の流動は、ニューファンドランド及びノヴァスコシ ア又は其の周邊の海底地形等にも起因して居る者と考えられ、非常に複雑な様相を呈して居る。更に、冬季と夏季に於ける様式には、 若干の相違が認められ、夏季には特に局部的な渦流域が多く、此の様な海洋条件が、烏賊や其他の漁場形成要因の一と仕て考えられ る。

其の灣流の沖合には温度、塩分孰れも稍(やや)高いサルガッソ海、詰まり藻海が有り、其の藻海には此の海域にホンダワラが多く 集積して居る處から、其の名が生まれた。灣流の沿岸寄り、即ち陸斜面上に稍水温、塩分共に低いスロープウォーター、其の沿岸寄 りにラブラドル海流に起源を有する沿岸流が南下して居り、烏賊漁場はスロープウォーターと沿岸水の境界域に形成されて居る。
猶、スコシア陸棚からグランドバンク周邊の釣漁場に於ける流動は、小規模な渦流が海洋學的特徴と仕て指摘され、其等の渦流域は 日本の三陸沖に於ける好漁場の海洋構造と類似して居る事から、特に好漁場を形成して居る者と考えられる。

北太平洋域

説明 此の漁場は、親潮と黒潮に依り形成された世界でも有數の顯著な潮境を成した極前線の延長で有る亞寒帶境界周邊に 形成されて居る。其處で、亞寒帶境界の形成要因で有る北太平洋海流の形成過程を説明して置く。

太平洋の北半球の於ける冬の表面流は、中乃至低緯度に於ける貿易風及び中高緯度に於ける偏西風に起因する處が大きく、主な流れ は一般に赤道を挟んだ南北緯約25度の低緯度帶では東から西、中高緯度帶では西から東への流向が卓越して居る。然して、粗(ほ ぼ)中緯度帶を中心と仕て南北兩半球に於いて、孰れも大規模な永久的高気壓性環流が形成されて居る。

北太平洋に於ける烏賊漁場に關した主な海流は、北太平洋海流が擧げられる。其の北太平洋海流の起源で有る北赤道海流は、北太平 洋亞熱帶循環の一部と仕て中米沖合に於いて赤道反流とカリフォルニア海流の一部が合流して形成されて居り、粗北緯8乃至20度 の緯度帶を西に向かって流れ、其の流量は、西の方に増大して居るが、概して45Svと見積もられて居る。此の海流は、フィリピ ンの東方で二分して居て、一方は北上して黒潮と成り、他方は南下して赤道反流と成る。猶、流量とは、一般に海流の強さ、又は、 規模を示す目安と仕て用いる値で、流れに對して想定した一の横斷面を、1秒間に流れる流体の量(質量又は体積)で表して居る。 実際の計算は、海流の流速、幅、深さを用いて爲されるが、普通は深さ、水温及び塩分から海流を推定する力學計算に依る者で、飽 く迄も相對値で絶對値では無い。亦、其の單位はスベルドラップ(Sv、1秒當りの百萬立方米)で表される。

太平洋の代表的な海流で有る黒潮は、北赤道海流に起源を有して居る。即ち、北赤道海流の續流は北部フィリピン東方に於いて、緯 度變化に起因した地球自転効果の變化に依り大洋の西側に於ける海流が強化される所謂西岸境界流が形成され、黒潮と成って居る。 其の黒潮の流量は65Svで、世界第二の規模を有する海流と成って居る。猶、65Svを具体的に説明すると、利根川の流量が毎 秒300立方米で有るから、黒潮は利根川の約20萬倍の規模と成る。本州南方を東に向かう黒潮は、本州東方向に於いて、顯著な 蛇行現象を呈し乍ら黒潮續流と成って粗正東方向へ流れ、北緯35乃至40度の緯度帶を北太平洋海流と成って亜米利加(アメリカ )沖に迄達して居る。其の北太平洋海流は、北側の亞寒帶水との間に形成された亞寒帶境界域が、アカイカの粗分布北限と成って居 る。

東經171度線に沿う南北方向の水温斷面分布に依れば、アリューシャン列島の南側に湧昇域が形成され、北緯40度附近から北側 に水温の不聨續面が存在して居る。其の不聨續面が亞寒帶境界に相當し、北側の亞寒帶水の特徴と仕て極小層を觀る事が出來る。其 の極小層を中冷水と呼び、其の様な海洋構造上の特徴を有する海域が所謂北洋で有り、鮭の分布域と成って居る。猶、亞寒帶境界で は摂氏10乃至16度附近に於ける水温の水平傾度が最も大きく成って居り、烏賊流網調査船の資料に依れば、摂氏14乃至16度 の水温域で最高の漁獲量が得られて居る事から、亞寒帶境界がアカイカの好漁場と成って居る事が判る。

更に、亞寒帶境界の北寄りに移行領域が存在して居る。此れは黒潮前線と親潮前線との謂わば混合域で、其の領域は三陸沖では南北 方向の幅は小さいが東に向かうに從い大きく成って居る。然して、アカイカ漁場は概して亞寒帶境界から移行領域に形成されて居る 事が判る。

只、此のアカイカ漁場の海域は、北太平洋に於いてはベーリング海よりも、亦、ベーリング海峡の北側に在るチュクチ海よりも觀測 資料が少なくて、最も未知な海域と成って居り、漁場の海洋環境には不明な點が非常に多い。併し、1962年に、亞寒帶境界の位 置の年變動が明らかにされて居り、其の現象は、風の應力の周期的變動に依り生ずる黒潮續流の流軸の周期振動の存在を示して居る。 併し、風の應力の變動と亞寒帶境界の位置との間に高い相關は無いとも指摘されて居る。一方、1967年には、長年に亘り得られ た水温データを解析して、亞寒帶境界の位置が4乃至5年の周期で變動して居る事が報告されて居る。孰れに仕ても、北太平洋のア カイカ漁場は、黒潮及び其の續流との關係を究明する必要が有り、更に、北太平洋に於ける海洋學では最も空白と成って居る海域の 知見を求める意味でも、此の海域の將來に於ける海洋調査を強調して置き度い。

総括

説明 以上、南西大西洋、ニュージーランド、北西大西洋、北太平洋に於ける烏賊漁場の海洋環境に附いて概觀したが、要 約すると北半球では亞寒帶水域から南下する水塊と温帶水域から北上する水塊が接する潮境、即ち極前線域、然して南半球では亞寒 帶域から北上する水塊と温帶水域から南下する水塊との間の潮境、即ち亞熱帶収束線域が海洋環境と仕ての特徴と成って居る。

更に、アカイカ漁場を除く烏賊釣漁場は陸棚域、然してトロール漁場は陸棚縁邊域が海底地形の特徴と成って居る。