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烏賊と電脳の綜合百科事典
烏賊の王様

烏賊の形態と生態

資源に關する索引

(赤文字の部分をクリックすると詳細説明が表示されます。)

  1. 資源
    1. 漁業から觀た有用烏賊一覧
    2. 資源量の査定
      1. 世界的な烏賊類の生産現況から推定した資源量
      2. 生物群集構造と重量比から算出した資源量
      3. 計量魚探に依るスルメイカ資源量の把握
    3. 未利用資源と開發(種目別)
      1. コウイカ類
      2. ヤリイカ類
      3. スルメイカ類
    4. 未利用資源と開發(海域別)
      1. 烏賊の資源
      2. 東南アジアは有望
      3. 手附かずのオーストラリア周邊
      4. 太平洋の烏賊
      5. 大西洋の烏賊
      6. 南極は烏賊の寳庫
      7. 烏賊資源に關する総括


漁業から觀た有用烏賊一覧

コウイカ類、ヤリイカ類、スルメイカ類を主とし、現在漁獲されて居る中・大型の主要種や、開發中の有望種、及び、大資源の潜在が認知されて 居乍ら何等かの理由に依り未利用・低利用の開發期待種を纏めると下記の様に成る。
  • コウイカ類圖版1圖版2

    1. ヨーロッパコウイカ(モンゴウイカ)
      外套長30糎、大西洋沿岸トロール漁獲對象魚種。
    2. トラフコウイカ
      外套長40糎、印度洋から中西部太平洋沿岸に懸けてのトロール漁獲對象種。
    3. カミナリイカ(モンゴウイカと混称)
      外套長40糎、南支那海のトロール漁獲對象種。
    4. コウイカ
      外套長20糎、日本、東南亞細亞諸國沿岸と東支那海のトロール・釣り・籠・網漁獲對象種。
    5. コブシメ
      外套長50糎、印度洋から西太平洋に懸けてトラフコウイカと重複分布するトロール・釣り・見突き等漁獲對象種。
    6. シリヤケイカ
      外套長20糎、日本南海域から東支那海、南支那海沿岸に懸けてのトロール漁獲對象種。

  • ヤリイカ類圖版

    1. ヒラケンサキイカ
      外套長30糎、台灣から南支那海沿岸、暹羅(シャム)灣等に懸けての釣り重要漁獲對象種。
    2. ケンサキイカ
      外套長35糎、日本東支那海、南支那海、比律賓(フィリピン)で釣り・定置網漁獲對象種。
    3. カリフォルニアヤリイカ
      外套長20糎、北米太平洋岸バンクーバー島からカリフォルニア半島に懸けての掬網・ランパラ網漁獲對象種。
    4. ヤリイカ
      外套長40糎、日本本州の釣り・定置網・底曳網漁獲對象種。
    5. アメリカケンサキイカ
      外套長20糎、北米東部沿岸で大型トロール漁獲對象種。
    6. ヨーロッパオオヤリイカ
      外套長45糎、地中海を挟み大西洋北東乃至中東部沿岸でトロール・定置網漁獲對象種。
    7. アジアジンドウイカ
      外套長15糎、東南亞細亞から印度洋に懸けての代表的漁獲對象種。南支那海では旋網漁獲對象種。

  • スルメイカ類(大陸・島嶼周邊型)圖版

    1. ヨーロッパスルメイカ
      外套長75糎、地中海を挟んで南北大西洋歐州側でトロール・定置網漁獲對象種。未利用部分の多い開發有望種。
    2. スルメイカ
      外套長27糎、日本を中心と仕た北西太平洋一帶(オホーツク海から南支那海)で釣り・定置網・底曳網最重要漁獲對象種。
    3. ニュージーランドスルメイカ
      外套長40糎、ニュージーランド周邊で釣り・トロール漁獲對象種。
    4. オーストラリア(タスマニア)スルメイカ
      外套長40糎、オーストラリア東南沿岸からタスマニア島に懸けての釣り・トロール開發有望種。
    5. カナダイレックス
      外套長30糎、北西乃至中西部大西洋の北米沿岸で釣り・トロール漁獲對象種。
    6. ヨーロッパイレックス
      外套長25糎、地中海を中心とする歐亞沿岸でトロール(アフリカ沿岸)・各種漁法(地中海)漁獲對象種。
    7. アメリカオオアカイカ
      外套長60乃至200糎以上、南北米太平洋のカリフォルニア半島からホーン岬に懸けての釣り漁獲對象種。

  • スルメイカ(大洋横斷型)圖版

    1. アカイカ
      外套長40糎、赤道を挟んで太平洋全域・大西洋過半域・印度洋半域で釣り(北太平洋)重要漁獲對象種。
    2. トビイカ
      外套長30糎、赤道を挟んで南北太平洋半域と印度洋全域で釣り(沖縄附近)漁獲對象種。

  • スルメイカ(廣分布型)圖版

    1. ドスイカ
      外套長24糎、冷水性中・底層種。北太平洋北縁沿いにバンクーバー島からアリューシャン列島、カムチャッカ半島、千島列島、三陸海岸に帶状分布する開發期待種。
    2. ソデイカ
      外套長80糎、暖水性表層種。赤道を挟んで南北太平洋・大西洋過半域と印度洋全域で樽流し・釣り(日本海西部)漁獲對象種。開發有望種。
    3. ツメイカ
      外套長30糎、冷水性中層種。北太平洋北半域でトロール・釣り混獲種。大資源が推定される未利用の開發有望種。
アカイカ、トビイカ、ソデイカ等の汎世界的分布をする暖水性表・中層種が赤道を挟んで大洋を横斷する様に南北太平洋、南北大西洋の大部 分の水域に分布し、印度洋全域に波及して居る。其の外側に、ドスイカ、ツメイカ等の冷水性中・底層種の分布帶が形成されて居る。亦、大 陸周邊型の分布をする種類に附いて觀ると、スルメイカ類が南北に最も長い縦長の分布帶を形成して大資源を成すが、コウイカ類は南北米 大陸沿岸に棲息せず、ヤリイカ類と共に赤道を挟んで東南亞細亞沿岸水域、中央アメリカ水域、メキシコ灣からカリブ海沿岸水域に、歐州で は地中海を中心とする大西洋外延部に、印度洋では紅海、ペルシャ灣を中心とする外延沿岸水域に、集中的で狭長な分布帶を形成する。

巨視的に觀ると、赤道を挟んで南北緯10度迄の間は烏賊類の不毛水域、10乃至30度迄の間はコウイカ類やヤリイカ類の様に生活圏が 小さく資源量も小さい多種類が共存する雑居的共棲水域、30乃至50度迄の間が循環海流の主幹を利用して大陸沿岸で縦走的に廣大な 生活圏を成し大資源を形成するスルメイカ類の少種類の競争的分棲水域と看做す事が出來る。

世界的な烏賊類の生産現況から推定した資源量

説明 烏賊の資源量を見積もる事は、日本産スルメイカに附いて國内漁業が長期安定的に營なまれて居り、長期計画的な漁獲統計 が整備され、綿密な漁海況観測が繰り返し実施されて居てさえ容易で無い事から觀て、諸外國の資源に附いては雲を掴む様な話の様に考え られる。手懸かりすらも得られ無いと謂うのが実状で有るが、其れでも資源量を見積もるとすれば、日本産スルメイカの漁獲量と漁獲努力量の 漁場や漁業の特性を勘案して見積もられる資源量推定法に出來る丈近い方法で、斷片的情報をも組み合わせ類推して行く方法に依ら非るを 得無い。

1976年の時點では、世界の烏賊類漁獲量の過半(70乃至80%)は日本のスルメイカに依り揚げられて居る。日本以外では韓國が第2位を 占める。烏賊類漁獲量全体の四分の三はスルメイカ類で、殘りがヤリイカ類とコウイカ類の順序と成り、資源量が大きい順に觀ると、スルメイカ 類、ヤリイカ類、コウイカ類の順位に在る。

現在迄に、世界の水域別烏賊漁獲量、國別烏賊類漁獲量、水域別種類別烏賊類漁獲量等を整理分類して資源量の推定を行う試みも爲され たが、此等の漁獲量丈では資源量を推定するには不充分で有り、有用な結果は得られて居ない。

其處で、基本的な生物生態學的条件、即ち、烏賊自体の生活圏の擴がりと其の棲處の飼料豐度の特徴や其處への烏賊類の適應能力等か ら印象を纏めて觀ると、沿岸種のコウイカ類で効果的な漁業開發が行われれば、大体各種夫々れ數千屯程度の漁獲が揚げられ、亦、ヤリイ カ類では同様に1萬屯程度の漁獲が揚げられる資源量(漁獲量の數倍以上)が有ると考えられる。外洋種のスルメイカ類では日本漁業と同質 同量の努力が投下されるとすれば、各種類共大体50萬屯程度の漁獲量を維持出來る資源量(250乃至400萬屯)は有ると考えられる。上 記以外の小型種に附いては、現状では、推定不能で有る。併し、孰れに仕ても烏賊類資源は世界的に觀て低利用で有り、特に大資源種に未 利用の物が多い。

生物群集構造と重量比から算出した資源量

説明 水産動物、例えば魚類、海老・蟹類、烏賊・蛸類は多くの種類が組み合わさり、時期、場所等の特性に應じて粗(ほぼ)定まっ た群集構造(組成)を作り社会生活を營なんで居る。水産動物の群集特性を質と量の面から觀て行くと、其の種類數と單一種の資源量は緯度 から謂えば、高緯度水域では少種類多量、低緯度水域では他種類少量と謂う相對的差違が認められる。

熱帯水域、特に赤道附近に位置して直接大洋循環する海流に接触して居ない閉鎖水域では、実例と仕て南支那海を採ると、魚類總量の五分 の一相当が烏賊類の存在量で有ろうと謂う經驗則(ガーランド、1972年)が立てられて居る。此れから觀ると、烏賊類は赤道附近では多種類 小資源で有る様に様に想像される。地理的に觀て、南北米回廊部のカリブ海沿岸や東南亞細亞のジャワ海、バンダ海、セレベス海等の閉鎖 多島海では、外洋性で廣い生活圏を持ち競争的に棲み分けて大資源を形成するスルメイカ類は本來的に生活が出來ないが、コウイカ類やヤリ イカ類等の沿岸性小資源種が多數共棲して行く環境と仕て適当なので有ろう。

計量魚探に依るスルメイカ資源量の把握

要旨 近年日本周邊でのスルメイカ漁獲量は高い水準に有るが、1998年度は各地で大幅に減少し今後の動向が注目されて居る。 スルメイカは1998年からTAC對象種に指定され、其の合理的な利用には、資源量の的確な把握と精度の高い漁況予測が不可欠で有る。併 し乍ら、スルメイカは單年生の爲、漁獲統計資料を用いた通常の方法に依る資源量評価が難しく、此れ迄は、漁期前の試験操業によるCPUE (烏賊釣機1台1時間當たり漁獲尾数)や幼生の分布調査の結果等、相對的な指標に基づく評価・予測が中心で有った。

東北区水産研究所では、1996年から計量魚群探知機(計量魚探)を用いたスルメイカの資源量把握手法の開發に着手し、魚探反応の魚種 判別や、此れ迄情報が少なかった烏賊1尾當たりの超音波の反射の強さ(TS:ターゲットストレングス、標的強度。標的−此處ではスルメイカ 1箇体−からの音波の反射強度を表し単位はデシベルdB。)を自然状態での測定に取り組んで來た。1998年からは水産庁によるTAC關聯 基礎研究の一環として実用化に向けた研究を進め、同年8月には、三陸沖の大陸棚海域を對象に資源量を推定すると共に、烏賊釣りが行わ れて居る時の群の密度の時間變化に附いても、日本で初めて実測に成功した。調査海域のスルメイカの平均密度は100平米當たり3.9尾で、 資源量は9.9万屯と推定され、予備的に行われた1996、1997年の調査結果の二分の一程度に留まり、三陸沖での漁獲量の減少が、此 の海域へ來遊する資源量の減少に依る者で有る事が示唆された。

本研究の成果に依り、漁獲對象と成るスルメイカの資源量が直接且つ迅速に評価可能に成ると共に、釣り漁業のCPUEから資源量を把握す る可能性が開かれた。今後は、自然状態でのTSの測定事例の蓄積に依り評価精度の向上を圖る事が必要で有る。

研究の脊景 大平洋側を回遊するスルメイカは、夏秋季には東北海域(千葉乃至青森縣)の大陸棚周邊(水深100乃至300米)に 來遊し、釣りや底曳網等で漁獲される。大平洋側での漁獲量は近年は年間11乃至27万屯で、此の内東北海域では3乃至12万屯が漁獲さ れて來た。1998年には大平洋全体で7万屯、東北海域でも2万屯と前年迄に比べて大きく減少し、今後の動向が注目されている。

1998年からスルメイカもTAC對象種と成り、資源評価や漁況予測の一層の精度向上が急務と成って居る。スルメイカは壽命が1年に限られ る事から、通常の漁獲統計資料に基づく資源量の評価は難しく、直接的な現存量評価を考える必要が有る。近年、日本でも計量魚探に依る 現存量評価が廣く試みられて居る。其處で、スルメイカを對象に計量魚探に依る資源量評価手法を開発した。

研究の方法 1998年8月に仙台灣から青森縣尻屋埼に至る水深100乃至300米の海域を對象に、豫め定めた測線上を航走し乍 ら計量魚探(カイジョウKFC−2000型)で、スルメイカ群からの音波の反射の強さ(SV:体積散乱強度。單位体積當たりの標的群体−此處 ではスルメイカ群−からの反射強度を表し単位はデシベルdB。)を測定すると共に、適當な群を對象に、停船して1尾當たりの音波の反射の 強さ(TS)を測定した。併せて、魚種の判別の爲に烏賊釣機に依る漁獲試驗や水中ビデオカメラに依る烏賊の分布状態を観察すると共に、烏 賊釣機に依る漁獲試驗を行った。得られた資料を解析して分布密度を計算し、此れを調査海域に引き延ばして資源現存量を推定した。

結果の概要 スルメイカではTSに關する知見が乏しい事から、此れ迄殆ど行われて居ない自然状態の許での測定を試み、商業漁獲 物のサイズである外套長18乃至24糎の範囲に附いてTSを明らかに仕た。

スルメイカは主と仕て水深150乃至250米の大陸斜面に分布した。得られたTSを用いて計算されたスルメイカの分布密度は、100平米當た り最大26尾程度、平均では3.9で有り、調査海域全体での資源量は9.9万屯と推定された。豫備的に行われた1996、1997年の調査結 果と比較すると、分布密度は平均で二分の一程度に減少して居り、1998年の東北海域での漁獲量の減少が、此の海域への來遊資源量の 減少に依る者で有る事が示唆された。

亦、烏賊釣の對象と成った群の密度の時間變化の測定を試み、開始時に1平米當たり10乃至20尾で有った者が2時間後には80乃至120 尾迄變化する様子を観察する事に成功した。此れは、日本で初めての観察事例で有ると共に、今後烏賊釣のCPUEから資源現存量を推定す る手法の開發に道を開く者で有る。

今後の展開と課題 本研究の結果から、計量魚探に依る直接的な現存量推定は、TAC制度の許でのスルメイカの資源量評価や漁 況予測の爲に極めて有効な方法で有ると期待される。今後、評価手法と仕ての完成度を高める爲、漁獲量やCPUEとの比較の積み重ねに依 り現存量推定値の妥当性を検証すると共に、自然状態での測定事例を増やしてTSの信頼性を向上させる予定で有る。

補足 當研究報告は1999年7月13日に水産庁資源生産推進部研究指導課の許に水産庁資源生産推進部参事官安永義暢氏と 水産庁東北區水産研究所八戸支所川端淳氏に依り發表された者で、本件の詳細照会先は、水産庁東北區水産研究所企画連絡室長浮永久 氏、八戸支所資源生態研究室研究員川端淳氏、又は、水産庁資源生産推進部研究指導課研究調整班迄。

未利用資源と開發(コウイカ類)

説明 世界に於けるコウイカ類の1978乃至1987年の漁獲量は19乃至27萬屯の範囲に在る。1982乃至1984年に韓國及び台 灣で顯著な漁獲量の増加が有り、其の後は其等も減少して1987年には19萬屯と成った。主要な漁獲水域は、北西太平洋(韓國、台灣)、 中西太平洋(タイ、ベトナム)、中東大西洋(モロッコ、モーリタニア)及び地中海(イタリア)で、合わせて全体の88%(1987年の漁獲量)を占 める。逆に、南東大西洋と印度洋一帶の漁獲量が低い水準に留まって居り、資源の利用度も低いと思われる。但し、阿弗利加(アフリカ)の東 西沿岸は過去に日本のトロール漁船が相當詳しく調査して居り、纏まった未利用資源は無い可能性が強い。他方、濠太剌利(オーストラリア) を含む東部印度洋に附いては情報が少なく、未利用資源の存在する可能性も否定出來ない。猶、南北亜米利加(アメリカ)沿岸にはコウイカ類 は全く分布し無い。

孰れに仕ても、コウイカ類は沿岸性で資源の規模も小さく、一つの資源或いは一つの水域からの漁獲可能量は數千屯から數萬屯の單位で有 り、資源開發が行われたと仕ても大幅な漁獲の増加は見込め無い。亦、既開發資源は多くの場合、強度に利用されて居るか、或いは過剰漁 獲に陷って居り、新資源の開發が有ったと仕ても世界的に觀て總漁獲量は横這いを續けるで有ろう。

叙上の様に、コウイカ類とヤリイカ類は資源の規模も小さく、且つ高度に利用されて居る者が多い事に加えて、此等は一般に一尾當たりの産 卵數も少なく、卵塊の形で卵を海底に附着、或いは放出する事が多く、資源の利用、開發に際しては、再生産を確保する爲に着底トロールは 寧ろ避ける可きで有ろう。

未利用資源と開發(ヤリイカ類)

説明 ヤリイカ類の漁獲量は他の烏賊類と込みで報告される事が多く、正確な處は不明で有る。特に、日本、韓國、中國等は其他の 烏賊類と仕て報告して居り、分離不能と成って居る。此等を除き、ヤリイカ類と仕て一應計上出來る物は、全世界で15乃至18萬屯(1978乃 至1985年)の範囲に在ったが、1086年から26萬屯に増加した。此れは南西大西洋のフォークランド周邊の資源の開發に依る者で有る。水 域別に觀ると、中西太平洋(インドネシア、フィリピン、タイ)、中東太平洋(米國)及び南西大西洋(アルゼンチン、フォークランド諸島)が多い。 逆に、印度洋西部、カリブ海、南東太平洋等が少ない。

ヤリイカ類に附いても、コウイカ類と同様に、漁獲が少なく、且つ情報も少ない海域に未利用資源が有る者と考えられる。アフリカ沿岸は過去の 調査も有り、亦、カリブ海(メキシコ灣)に於いてはヤリイカの開發も考慮した調査が行われて居り、今後資源の開發される可能性は低いと思わ れる。從って、印度洋の亞細亞沿岸と南東太平洋の可能性が高いと思われるが、特にフォークランド諸島周邊で最近特筆す可き開發が行われ た事を考慮すれば、同一種が分布するチリのパタゴニア沿岸での調査が望まれる。猶、ヤリイカ類も資源の規模は小さく、且つ多くの資源が強 度に利用されて居り、コウイカ類と同じく、世界的に觀た漁獲量の變動は餘り大きく無いと考えられる。

叙上の様に、コウイカ類とヤリイカ類は資源の規模も小さく、且つ高度に利用されて居る者が多い事に加えて、此等は一般に一尾當たりの産 卵數も少なく、卵塊の形で卵を海底に附着、或いは放出する事が多く、資源の利用、開發に際しては、再生産を確保する爲に着底トロールは 寧ろ避ける可きで有ろう。

未利用資源と開發(スルメイカ類)

説明 全世界を合わせた漁獲量は、1978乃至1986年では62乃至83萬屯の範囲に在ったが、1987年にはアルゼンチンイレック スの漁獲の急増に依り133萬屯に達した。コウイカ類やヤリイカ類と異なり、スルメイカ類は僅か5種(スルメイカ、アカイカ、ニュージーランドス ルメイカ、カナダイレックス、アルゼンチンイレックス)で全漁獲量の95%前後を占める。亦、此等5種の分布域は温帶から亞熱帶に懸けた水域 に在る。此等の条件を考慮すれば大規模未開發資源と仕て、南東太平洋のアメリカオオアカイカ、北東大西洋のヨーロッパスルメイカ、南東大 西洋のアンゴラスルメイカ、及び印度洋西風皮流域の數種(ミナミスルメイカ)等が擧げられよう。

スルメイカ類は底魚類と同じ様に陸棚上でトロールに依り大量に漁獲される物と、表中層に而巳分布し、釣漁、或いは流網に依らねば漁獲され 無い物が有る。世界の陸棚上では餘す處無くトロール漁業が行われて居るが、烏賊釣漁船が操業して居る海域は限られて居り、表中層性の 烏賊類が未開發の儘殘されて居る可能性が高い。

未利用資源と開發(烏賊の資源)

説明 世界中に烏賊の專門家は數える程しか居ないが、世界の海に何の位の烏賊の潜在量が有るかと謂う事を、各人各様 の推定を仕て居る。嘗て、國聯食糧農業機構(FAO)に居て『世界の海洋漁業資源』と謂うマクロスケールの資源評價に關する 原典とも謂う可き報告書を出したガーランド博士は、外洋に於ける潜在烏賊資源は、2千萬屯から一億屯と推定して居る。此れに 對して、英國のクラーク博士は約5千屯、アメリカのヴォス博士は1乃至3億屯と推定して居る。

クラーク博士の見積では、全世界で75種の烏賊が食用にされて居ると謂うが、烏賊の資源を考える場合は、沿岸性のコウイカ類 とヤリイカ、ケンサキイカの仲間を含む閉眼類と、沖合性のスルメイカ、アカイカの仲間を含む開眼類の、大きく二類に分けて考 える必要が有る。

コウイカ類は、全世界に凡そ130種程居て、其の約半數の60種前後が日本を含む印度・太平洋域に居る(日本産は24種)。 約40種がオーストラリア周邊、15種が南アフリカ、殘りが歐州沿岸に成り、南北アメリカ大陸にはコウイカ科は1種類も居な い。世界中でコウイカ科は凡そ20萬屯漁獲されて居る。

ヤリイカ、ケンサキイカの仲間は、世界に凡そ60種位知られて居るが、新旧大陸共熱帶域に集中して居る。大西洋・地中海域に 4種、アメリカ大陸西岸に4種、東岸に7種位で、殘りは總て印度洋から西太平洋で有る(日本産9種)。全世界の此の種の漁獲 量は50萬屯と推定されて居る。

沖合性のアカイカ類は、世界に21種居るが、マツイカやスルメイカの様に繁殖の時、或る程度陸地に接近し、稚仔も沿岸水を頼 りに育つ半外洋性の物と、トビイカの様に一生陸地を必要と仕無い純外洋性の物と2種類が居る。現在、世界では、其の兩者を一 括したスルメイカ類(アカイカ科)を100萬屯漁獲して居る。1985年の統計に依ると、全世界の頭足類の漁獲量は167萬 屯で、此の内、タコ類は11%、コウイカ類14%、ヤリイカ類14%、殘り60%(約100萬屯)がスルメイカ類と成るが、 其の内83%は僅か6種で占めて居る。

未利用資源と開發(東南アジアは有望)

説明 日本の烏賊漁業は徹底して居る。此れは魚食民族日本人の仕事で有るから、烏賊に限られた事では無い。魚では8 50種以上、烏賊・蛸合わせて30種以上を捕獲し、其の漁獲生産は漁場1平方粁當たり1.8屯。太平洋全部の漁獲平均が1平 方粁當たり0.2屯、北西太平洋丈を對象と仕ても1平方粁當たり0.9屯で有るから、其の漁場開發の徹底振りが判ろうと謂う 物で有る。

日本に隣接した東南アジア地域に附いて觀ると、最近東南アジアから日本に輸入される烏賊が増加したが、丸の儘より、ロールと 呼ばれる鰭を取り除き皮を剥いた外套膜丈の物か、ゲソと呼ばれる脚丈にされた物で有る。

タイの漁村には正眞正銘の天日干しの剣先鯣(けんさきするめ)が處狭しと並べて賣られて居るのを眼にする事が出來る。亦、ジ ャカルタの魚市場パサルイカンでも色々な種類の烏賊が並べられて居て、東南アジアの現地では、思いの他、多くの烏賊が市場に 出て居る。孰れも沿岸の零細漁業で、沖合の大資源は手附かずで有る。國聯食糧農業機構(FAO)に長く勤務されて居た千國史 郎博士に依ると、東南アジアから印度洋に懸けて現在漁獲されて居る烏賊・蛸は總計30萬屯に登るが、此れは可能生産量の四分 の一位だと推定されて居る。

未利用資源と開發(手附かずのオーストラリア周邊)

説明 オーストラリアの周邊はコウイカ類、ヤリイカ類、スルメイカ類等、孰れも潜在量が多い。特にコウイカ類は、日 本と同様、大小の種類が多く、オーストラリアコウイカは、コブシメやトラフコウイカと並ぶ巨大種で有る。

日本がニュージーランドスルメイカの資源を開發した餘勢で、タスマニア島周邊のオーストラリアスルメイカ資源を開發し様と仕 た1983年頃、オーストラリア資本も、日本と合辧で、烏賊資源開發に一枚加わったが、オーストラリア側は、其の後、恒常的 な大規模漁業に發展させた様には見受けられ無い。ニュージーランド近海の許容漁獲量は10乃至12萬屯とされて居る。

未利用資源と開發(太平洋の烏賊)

説明 廣大な太平洋の内、南北赤道海流と其の續き(北半球で謂えば黒潮と其の續流)の水で覆われた謂わば常夏の環境 には、トビイカの大資源が有る。併し、トビイカは、滅多に濃密な群を作ら無い。莫大な個体群でも疎らに居るのでは、漁業と謂 う經濟活動に見合わ無い。僅かな漁業が沖縄と台灣で行われて居るが、多大のエネルギーを費やして廣い海原からトビイカを掻き 集めるより、寧ろ、其れを食べるマグロ類の肉に變換された形で利用する方が得策で有る。

アカイカ(紫烏賊)も分布の様子は、トビイカと似た様な事情に有るが、北太平洋では、北へ索餌回遊を仕た後、冷水との境迄行 くと、其處に集積する性質が有るので、漁業對象に出來るので有る。ソ連の學者に依ると、太平洋のアカイカ資源は、北半球と南 半球の2群に分かれて居て、赤道に沿って空白地帶が有ると謂う。確かに西太平洋では南北赤道海流が赤道の北側と南側を通って 居るので、南北半球のアカイカ群には交流が無い様に觀える。併し、太平洋の東方では、黒潮の末路は冷えてカリフォルニア海流 に成り、強い海流に依る垣根も無い様に思えるので、南北半球のアカイカ群を繋げる回廊が、若しかすれば、此の邊りに有るので は無いかとも考えられて居る。

アカイカと良く似た姿を仕たアメリカオオアカイカ(ジャンボスクイッド)は、東太平洋、即ち、チリ、ペルーの沿岸丈に棲息す る。餘り沖合には分布し無いが、時々大量に海岸に打ち寄せられて海浜に烏賊の堤防が築かれると謂う傳承が有り、場所柄エルニ ーニョの影響も有ってか年々の變動は大きい。此の資源も何の位有るかは実体は判明して居ないが、數拾萬屯は有ると思われる。 1980年に日本とメキシコの合辧事業で2.2萬屯を釣獲して居る。亦、1990年代に入り、本格的な開發が進められ、現在 は、南西大西洋に出漁する大型烏賊釣漁船が裏作と仕て此處で操業を行って居る。

アメリカの西岸には、カリフォルニアヤリイカが棲息し、2萬屯位の漁獲実績が有るが、日本の市場には充分な量とは謂え無い。 北米大陸でも北域のアラスカ灣からベーリング海に懸けては寒海種、中でもドスイカの資源が有る。其の昔、此の海域でスケソウ ダラを自由に漁獲出來た時代には、網に懸かったドスイカを投棄して居た物で有る。現在では、ベーリング海中央の極めて狭い公 海でスケソウダラを捕獲して居るが、周邊にはドスイカの大きい個体群が眠って居る。

未利用資源と開發(大西洋の烏賊)

説明 アメリカ大陸の大西洋岸では、アメリカケンサキイカ、アメリカヤリイカ、フクロジンドウイカ等の開眼類が常に 有望視されて居る。現在、大規模に漁獲されて居るのは、アメリカケンサキイカとカナダイレックス(松烏賊)で有る。此の内、 カナダイレックスは、今の處、許容漁獲量は15萬屯とされて居る。併し、此の種の個体群量の年變動の幅は非常に大きく、10 0倍の單位と謂う學説も有る。現在の漁場は、ノースカロライナ州のハテラス岬からカナダのニューファウンドランド沖で有るが、 其處から更に離れたニューファウンドランド東方の北大西洋中央部に、眠れる大きな資源が有るのでは無いかとの豫想も有る。

南大西洋では、アルゼンチン沖のフォークランド諸島周邊からパタゴニアの陸棚に懸けての烏賊資源が有名で有る。元々アルゼン チンの漁民が少量漁獲して居たアルゼンチンヤリイカも居るが、何と謂っても1978年以降に開發されたアルゼンチンイレック ス(松烏賊)が有名で、近年は約17箇國の漁船が犇めき、漁獲量は50萬屯を超えると豫想されて居る。此れが最大許容量なの か、其れ共、未だ餘力が有るかに附いては定説は無い。

大西洋の東側、即ちヨーロッパ、アフリカ沿岸では、ヨーロッパコウイカが大量に漁獲され、資源荒廃の兆しが無かった譯では無 いが、現在は沿岸諸國が資源の保護に關心を寄せる様に成って居る。ヤリイカ類とスルメイカ類も棲息するが、孰れも潜在量を推 定する根拠と成る様な調査が行われて居ない。併し、現在の様に2乃至3萬屯と謂うのは極めて低開發と謂える。南アフリカでは、 アンゴラスルメイカ等が何千屯の單位でしか報告されて居ないが、此の邊りにも未開發の烏賊が棲息して居る事は間違い無い。

未利用資源と開發(南極は烏賊の寳庫)

説明 人類に最期迄殘されるかも知れ無い烏賊の資源は、『吼える40度』と呼ばれる暴風圏より更に南の南極周邊の烏 賊かも知れ無い。併し、此處にはヤリイカ類やコウイカ類の様な暖海性の沿岸種は全く居ない。外洋性の開眼類丈で有る。19世 紀末から20世紀初めに懸けて、列強に依る動物相調査が行われ、少數の烏賊の報告が有り、マッコウクジラの胃から出て來る様 な大きな烏賊が大量に棲息する事は判っては居たが、本格的な南極の烏賊研究は、戰後、南極が科學調査研究對象とされてからと 謂える。

日本の烏賊研究の権威奥谷喬司博士が、ニュージーランドスルメイカの資源調査に於いて、日本のスルメイカに酷似した新種の烏 賊を發見した同時期に、カリフォルニア大學のスクリップス海洋研究所のウォームス博士と米國自然史博物館のローパー博士も、 南米大陸南部で同種を採集し、亦、ベルギーの烏賊研究の権威アダム博士が、南アフリカ沖で同種を捕獲した。此の新種の烏賊が、 現在ミナミスルメイカと呼ばれる烏賊で、上記の事から、此の種が、ニュージーランド、南米大陸南端、アフリカ大陸南端を結ぶ、 南極海より少し北側の亞南極域に環状に分布する事が判明した。亦、地球の南半球は水球で、太平洋、大西洋、印度洋は繋がって 居る爲、南米産と思われて居た嘗ての『幻の烏賊』即ちニセスルメイカ(アカスルメイカ)がニュージーランド附近にも分布する 事が、其の後、判明し、同様に、大西洋産と信じられて居たニセイレックスが印度洋で繋がってオーストラリアにも棲息する事が 明らかに成った。

上記の様に、亞南極域には、ニュージーランドスルメイカ、ミナミスルメイカ、ニセスルメイカ、オーストラリアスルメイカと開 發有望な烏賊が4種も同居して居るので有る。夫々れの資源量は、未だ良く判ら無いが、日本のスルメイカやアルゼンチンのアル ゼンチンイレックスの資源の大きさと同じ位とすれば、潜在的には夫々れ數拾萬屯は有ると思われて居る。

南極の烏賊資源に附いては謎が多い。南極では大きな個体群を持つクジラ類、アザラシ類等の海獸類、ペンギン類等の海鳥類が、 大量の烏賊類を捕食して居る事が知られて居る。マッコウクジラに捕食される烏賊を調査した英國のクラーク博士に依ると、鯨一 頭の胃から時には8千箇もの烏賊の顎板(鴉、鳶)が出ると謂う。其の主体は、体長10米に及ぶと思われるメソニコトゥチスと 謂うホオズキイカ類の一種が凡そ四分の三を占め、殘り四分に一の大部分は、此れも可成り大型に成るニュウドウイカ類で占めら れて居る。アザラシ類や海鳥は、少し異なる種を捕食して居るが、其等を合算して觀ると、南極で捕食者に消費される烏賊は少な く見積もっても3千萬屯、恐らく1億屯にも達すると思われる。世界の總漁獲量が7千萬屯程度の事と思い合わせると、如何に南 極に潜在的な烏賊資源が有るかが明らかで有る。

其れにも拘わらず、南極海では、假令集魚灯を點灯しても烏賊が誘われて游いで來る事は無いと謂われて居る。亦、大型の採集用 網を曳いても其れ程の大量の烏賊は捕獲され無い。南極の生物調査を國際的に指導して居る東京大學海洋研究所々長の根本敬久教 授は、南極海で大きな位置を占める筈の烏賊が人間の眼に触れる事が餘りにも少なく、其の烏賊は一体何處に居るのかと仕て、南 極の生態系に關する講演の際、大きな疑問符を附けた圖を掲げられたのは、南極の烏賊の謎を象徴する物で有った。

未利用資源と開發(烏賊資源に關する総括)

説明 現在の烏賊類總漁獲量は、約100萬乃至150萬屯で有るが、沿岸に棲息するコウイカ類、ヤリイカ・ケンサキ イカ類は、東南アジアを初めと仕て、未だ未だ開發出來る物が殘存して居る。一方、沖合性の物は、更に大きな烏賊資源が殘存し て居り、若しかすれば、現在の總漁獲量に匹敵する位、或いは其れ以上かも知れ無い。

食用と仕て觀た場合、此の様に巨大な潜在力を祕めた烏賊資源でも、肉の質や經濟性の問題が有り、直ちに漁獲對象に成る譯では 無いし、烏賊の儘より寧ろ天然の食物聯鎖を通じて烏賊を食べる魚の肉に變換された物を摂る方が味が良くて經濟効率も良い場合 が有る。併し、烏賊が、醫學用や工業用の原料と仕ても食用に優る價値を祕めて居る事が明らかと成った現在、烏賊には大い成る 未來が開けて居ると謂っても過言では無い。若し、其の利用が烏賊と謂う愛す可き生命の冒涜で無いと仕たら、烏賊は人類の英知 を試す爲に創られた神の創造物にも思えて來る。