烏賊と電脳のホームページ

烏賊と電脳の綜合百科事典
烏賊の王様

烏賊の各論と詳細

ニセアカイカ
Martialia hyadesi


別称 ニセスルメイカ、アカスルメイカ、大西洋ムラサキイカ、Black squid、Short-finned squid(英國)−贋赤烏賊

形態 外形はアカイカ属のアカイカに酷似し胴長30糎に及ぶ。鰭は横長の菱形で、鰭頂角は44乃至46度。鰭の長さは脊外套長の 45乃至47%、鰭幅の76乃至78%。外套膜は筒型で、中間部は前端部と粗同じ太さ。頭部は外套部よりも細く、頭幅は脊外套長の約15%。 漏斗溝後端には弱い縦溝が有る。外套膜と漏斗を繋ぐ軟骨噐はT型。眼は中康で眼球は露出して居る。囲口膜と第2腕基部は薄膜で繋がる。 腕の吸盤は2列で鉤を持た無い。吸盤の角質環の外縁には約7本の小歯が有り、基部側は無歯。腕の吸盤は寧ろ小さく、第3腕の最大吸盤 径は脊外套長の1.3乃至1.5%。各腕の吸盤基部は肥大し、肉質突起を持つ。第3腕の泳膜は稍発達する。雄の右第4腕が交接腕と成る。 触腕は短いが、筋肉質で強い。触腕掌部は長く、脊外套長の51乃至58%に達し、腕の基部近く迄吸盤が有る。中央部の吸盤は4列で中央 の2列が大型化して居るが、寧ろ小さく、其の最大径は脊外套長の1.8乃至2.1%で、其の角質環には13乃至16本の鋭歯が板状歯と交 互に並ぶ。外側の2列の吸盤は小さく、其の基部には肉質突起が有る。触腕掌部の基部側の吸盤は2列で、矢張り肉質突起を持ち、最も基 部には約4對の肉質突起而巳が有る。外套脊面中央に太い暗褐色の縦縞が有る。アルゼンチンイレックスに比較して躰色は濃い。亦、アカイ カに比較して、躰型が細身で有る。吸盤基部に肉質突起を持つ事が本種(1属1種)の特徴で、アカイカ科の他種から容易に區別される。

生態 亞熱帯収束線以南(約南緯38度以南)のアルゼンチン沖合、チリ南部沖合、フォークランド諸島周邊の海域に分布する。亦、 サウスジョージア島附近にも棲息すると謂われて居るが未開發で有る。此の海域の大陸棚(水深200米以淺)にはアルゼンチンイレックスが 棲息して居り、ニセアカイカは其れよりも沖合の水深が深い水域に分布して居る。亦、漁期は、4乃至6月頃(南半球の秋期から冬期)で、アル ゼンチンイレックスの漁期と重複する爲、時折、日本の烏賊釣漁船が利用して居る。

備考 肉質は柔らかく刺身としても食する事が出來るが、日本近海で漁獲されるスルメイカに比較すると歯應(はごたえ)が無く、味 は數段落ちる。亦、時期に依り水分が多いらしく、鯣(するめ)にすると歩留が惡い事が有る。

補足 此の種は、1882年に、ロシュブルンとマビルと謂う學者に依り學界に新種と仕て報告された。其の時の標本は、只一箇体丈 で、後に巴里(パリ)の自然史博物館に納められた。100年以上も經過したアルコール漬標本で、現在は觀る蔭も無いが、其れでも此の烏賊 は他種の孰れとも異なり、100年間、他に一箇体も發見されず、『幻の烏賊』と称され續けて來た。
併し、遠洋水産研究所の畑中寛博士の当該種開發經緯報告に依ると、1882年の發見後、初めて本種を捕獲したのは西獨の調査船で、19 56年にアルゼンチン沖で十數尾を採集した。日本船の場合は、1978年が初めてで、四尾を採集した。パタゴニア大陸棚全域の大規模な調 査にも拘わらず僅か四尾と謂う事で、『幻』の呼称は消えたが『稀種』とされた。
其の後、1985年にアルゼンチン沖からフォークランド諸島海域に出漁した日本の大型烏賊釣漁船22隻が、僅か一箇月間に、1400屯も漁獲 して、『稀種』も開發對象種と成った。猶、1989年には、海外大型いか出漁者組合(OSA)所属の大型烏賊釣漁船2隻が、フォークランド諸島 政府の要請に依り、同政府派遣の調査員と共に、サウスジョージア島海域に於いて、同種の調査を実施したが、時期的な問題も有り、充分な 成果が得られ無い等、此の資源は未だ充分な調査が行われて居ないが、有望種の一と看做されて居る。