MOTHER






「あらーーツッくーん! 久しぶり! あら、ザンくんまで一緒じゃない!」
 ここは日本。綱吉がイタリアに移り住んでから、二人だけで日本に来るのはこれが初めて。この来日はごくごく一部の人間にしか伝えられていなかった。なんせボンゴレにはない誕生日休暇なんてのを無理矢理もぎ取ってきたのだ。綱吉は24才、ザンザスは34才になっていた。
「ただいま、母さん。大事な話があって。今、大丈夫?」
「大丈夫よー。皆があちこちに移り住んじゃって母さんいつも独りだもの。いつだって大歓迎よ!」
 居間に通されると、懐かしい匂いがした。綱吉が人生の半分以上を暮らした場所である。
「お茶、あ、コーヒーの方がイイかしら?」
「お茶でイイよ。ザンザスもお茶には慣れてるし」
「そう、こないだ御近所さんからお裾分けでイイものいただいたのよ。ちょうどよかったわ」
 奈々がお茶と菓子を持って並んで座る二人の前に置き、その向かいに自分の分を置いて座った。
「で、大事な用件ってなぁに?」
「母さん、オレ、これからの人生ずっと一緒に居たい人を、今日連れてきたんだ。もちろん、オレ達じゃ子供だって作れないし、日本の法律じゃ結婚だって認められないけど、それでも一緒に居たいんだ。母さん、オレ達を許して欲しいんだ!」
 綱吉が頭を下げると同時に、ザンザスも頭を下げた。
「あらー、よかったじゃない」
「えっ」
「………!?」
 綱吉とザンザスは奈々の返答にびっくりして、互いの顔を見た。
「私ねえ、ずっとツッくんが早く幸せにならないかな、って思ってたの。離れて暮らしてるとどうしてもわからないじゃない。それに、ザンくんは実はずっと前から気になってたんだ。あまり表には出さないけど、ツッくんを大事にしてくれてるんだな、ってオーラが見えててね。よかったじゃない、孫の顔なんか、ちょっと淋しいけど別にいいわよ。だって10年前はこの家に沢山の子供達が居たじゃない。大家族どころじゃないわよ。私はツッくんが幸せになってくれたら、それで満足なんだから」
「母さん………ありがとう!」
 綱吉は立ち上がって母の所に来て、久しぶりに子供みたいに抱きついた。ザンザスはその二人の様子を見て、二人に誓った。
「感謝する…綱吉を悲しませたりはしない、約束する」
「こちらこそ、私の大事な息子の伴侶になってくれて、ありがとう。何かパーティとかするんだったら、呼んでね」
「もちろんだよ!」
「一番に招待させていただく。綱吉を産んでくれた大事な母だからな」
「ところで」
「なあに、母さん?」
「父さんには二人のこと、話したの?」
「それが………」
 綱吉はしょんぼりして俯いてしまうので、ザンザスが事情を説明した。
「オレの力不足で、話にすらならなかった。逆に綱吉に処理出来ないくらいの見合い話を持ってくる始末で」
「もちろん、全部断ったよ! だけどさ! 父さん酷すぎるよ、ずっとオレとザンザスの事知ってた癖に…」
「あららー。でもしょうがないわ、父さんはそういう人だもの。母さんからも言ってあげるけど、なかなか父さんとも連絡が取れない状態だから………後もう少し待ってごらんなさい。年単位になるけど。二人がずっと一緒に居てくれれば、父さんも根負けするに違いないから、ね?」
 年単位、という言葉に綱吉はよけいにぐったりしたが、逆にザンザスは嬉しそうな顔をした。
「ザンザス?」
「面白え。家光と根比べか、オレは絶対負けないからな! 綱吉も諦めんじゃねぇぞ!」
「ザ、ザンザス!」
「わかったか!」
「は、はいっ!」
「うふふふ、いいわねえ」
 奈々が微笑む。この家では奈々の微笑みが一番の特効薬だ。
「頑張りなさいな。母さん、応援してるからね」
「うん、ありがとう!」
 プルルルルルルルルルルルルル!
「あっ、ごめん!」
 綱吉の携帯電話が鳴る。ダッシュで居間を出て、2階の自分の部屋へ。
「すまん、あいつも仕事が忙しくて」
 ザンザスが謝ると、
「二人でこっそり、出てきたんでしょう?」
 奈々には全てお見通しだった。
「全く誰にも秘密、と言うわけにはいかなかったが…」
 ダダダダダダダダダダダッ、バタンッ!
「綱吉!」
「ツッくん?」
 二人で居間を出れば、階段を早く駆け降り過ぎてすっ転んでしまった綱吉が居た」
「大丈夫か、綱吉」
 ザンザスが綱吉の身体を支え上げると、綱吉は大丈夫だよと自分で立ち上がる。
「ごめん母さん、今すぐ戻んなきゃいけなくなっちゃった。折角ゆっくり話がしたかったのに」
「いいのよ、また今度ね。生きていればいつだって会えるのだから」
「ありがとう」
「では、失礼する」
「気をつけてね、二人とも」
 本当に急いでいたのか、綱吉はザンザスの腕をとって引っ張るように家を出た。
「あの子も大人になったのね」
 ちょっとした淋しさを奈々は感じながらも、一つの大仕事を終えたのだなと肩の荷が少し降りた気がした。