11.ああ、それはオレのだろ





舌の上、甘い酒を転がす。立ち上る、竜舌蘭の蒸留酒特有のくせのある甘い香りが心地好い。目を細めながらそれを含むと、傍らに座る綱吉と視線が絡んだ。
飴色の瞳がゆるく笑むのを見つめ、再び、ゆっくりと酒を含む。舌と喉を甘く焼くそれの香りが唇から漂い、オレ自身の鼻先をくすぐった。
指を伸ばし、綱吉の髪に這わせる。ソファーの背に肘を置いて襟足を爪の先でくすぐってやれば、年下の男は服越し、ゆるりとオレの腿を撫でた。綱吉の膝に投げ出している脚に、布越しに感じる指先がもどかしい。けれど今は、そのもどかしさこそが心地好い。
耳の後ろの髪を弄ってやりながら、視線でくちづけを誘う。この酒を飲んでいる時に綱吉と交わすキスは、悪くない。オレの粘膜から酒気が移るのか何なのか、唇を離した時の表情がいつもよりとろけているのが、なんともそそる。
「ザンザス、やらしい顔してる」
……どっちがだ。
とろりと蜜を垂らすような声音で囁きながら、絡めとるように見つめて来る癖に。初めて出会った頃の幼い面影を残しながらも、頬や顎先がずいぶんすっきりと大人びた。仕事に集中している時などは、厳しく整って見える事もあるほどで。
童顔なくせに時折鋭さを感じさせるこの顔をすぐ間近で眺めるのは、なんとも言えず良い気分だ。良い気分のままに、小さなその鼻をかじってやる。
「いたっ」
色気のない声は、かじった鼻先にキスする事で黙らせた。チュ、と音を立ててやれば、くすぐったげに首を竦める。もう一度、そこにキスをして。
「……naso」
囁くと。目を丸くして、見つめ返して来る。そんなに見開くな。目玉が落ちるぞ。
「え、うん。鼻がどうかした?」
「日本語で発音しろ」
「えっ?ザンザスそんなの知ってるじゃん。てか、ネイティブ並みに喋れるでしょ」
今更そんな基本単語……と呟く口を、掠めるようなキスで黙らせ。
遊びに付き合えと囁けば、かすかに小首を傾げて綱吉は唇を開いた。畜生、可愛い顔しやがって。キス責めにしてやりてぇ。
「はな?」
何で疑問形なんだ?まあいい。よくできた、と頭を撫でて。今度は下唇を食んでから、歯でゆるくくわえて引っ張ってやる。ふに、としたその感触の心地好さを堪能して、ゆっくりと下唇を解放してやる。吐息が触れる距離でこれは?と問いかければ、綱吉は囁くように、くちびる、と返して来た。そんな風に、みみ、まぶた、ほほ、のど、と。子供の戯れのように繰り返して。
飴色の甘い瞳を覗き込みながら、そのシャツのボタンをひとつ、ふたつ、外していく。ゆるやかな筋肉の流れに沿って、滑らかな肌に指を滑らせる。中心より少し左寄り、ちょうど心臓の上辺りに指を置き。
「ここは?」
「しんぞう」
指先に、鼓動が響く。その答えに、ただじっと見つめる事で答えると。
「……こころ?」
少し困ったような、照れたような顔付きで、また小首を傾げる。だからそういう可愛い顔をするんじゃねえよ。その顔に、よくできた褒美にキスをひとつ。
「……それはオレの、だろう?」
唇が触れる距離でそう囁けば、年下の男は一瞬、虚を突かれたような顔付きになり。次いでとろけるような甘さで笑み崩れ、蜜を垂らすような声音で囁きを返した。
「そんなの、おまえに初めて会った時からずっとだよ。この心臓も、こころも、おまえのものだって……わかってるくせに」
上出来だ。
その答えに満足し、片手に持ったグラスから、喉を焼き絡み落ちる酒を一口。その甘さと熱に目を細めて。
「なら、オレのものの味を確かめさせろよ……」
この酒以上の甘い熱を味わう為、オレは目の前の男を、柔らかなソファーの上へゆっくりと押し倒していった。