早く大人になりたい。
氷漬けにされて、目覚めた日そう思った。
目覚めたとき自分は子供の姿で、周りと違うことが悲しくて、早く大人になりたいと。
どうにかして無理矢理成長を促して大人の姿になって、周りに溶け合って、ようやく安心していた。

(馬鹿々々しい…な…)

ふと、自分の掌を眺める。大きな手。あの頃とは違う、大人の手。
昔、マーモンが言っていた。
何年も止まっていた成長を、無理矢理促すなんてことをすると危ないと。
あまり、長く生きれないのだと。
多分、だけどね、と曖昧に笑ったマーモンが、忘れられなかった。

「なぁ…」

ぼんやりとしてきた視界で、辺りを見渡す。
家光が、困った顔で座っていた。何故、そんな顔をしているのかと訊きたかったが、喋るのが面倒でやめた。
何とか見えた手を、すがるように掴む。

「…なぁ、俺たちは次いつ会える」

今になって思う。どうして、と。
どうして大人になったのだろう。どうしてあの頃に戻れないのだろう。どうしてあの時、子供のままではいたくなかったのだろう。
そんなことすら思い出せない。
ぼろぼろと、勝手に涙が流れた。
なぁ、と、何度も繰り返す。

「俺たちは、いつ、会えるんだ」

必死に手を握りしめる。
ねぇ、俺たちはいつ会える?明日?それとも一週間先?一カ月先は嫌だな。もしかしたら一年先?そんなに長くも待てないのに。
ねぇ。
ねぇ。
ねぇ。

「お前は、いつになったら死んでくれるんだ?」

言葉に出してから、後悔した。
彼が死ぬだなんて。
彼とは一緒にいたい。けれど、彼に死んでほしいわけではない。

「ちがう。うそだ、死ななくていい。もっと生きればいい。もっともっともっと生きて、もう、いいかと思うまで生きてくれ」
「そこまで生きたら、お前に会いにいくよ」

家光の口から零れた言葉が、自分の上にぽたりと落ちて、広がった。
波紋ができてじわりじわりと浮き上がって、目からあふれた。

「泣くなよ」

また、家光の困った顔が見えた。
涙も拭わずに、なんとか腕を上げて小指を差し出す。

「ゆびきり?」
「お前が、約束するときは、こうするって、言ってた」

随分昔に言ったやつなのによく覚えてたなぁ、と家光は笑う。
笑って、小指を絡ませた。
何度も。何度も何度も何度も、約束を口にした。

「やくそく、やぶるなよ」

少しだけ口の端を上げて笑ったら、家光も同じように笑った。

「やぶらねぇよ」

嬉しくなって、また少し泣いた。
そしてふと、思い出したようにのろのろと口を開く。

「むかし、早く大人になりたいと、おもってたんだ」
「なんでだ?」
「おまえが、おとなだったから。おまえはすごくおとなで、おれは、すごくこどもで。そうゆうの、いやだったんだ」
「そうか」
「あぁ、そうだったんだよ」

知らなかっただろ。
くつくつと笑って、目を閉じた。
さようならは、言わなかった。