「例えば、俺が山本武でなかったら。 例えば、アンタがγじゃなかったら。 俺達は、どうなってたかな」

ぼんやりと曇空を眺めながら言われた言葉に、γはつまらなさそうな目で同じ様に空を見上げた。

「例えば美女が女ではなかったら。 例えば美女が出会ったのは野獣ではなかったら。 さぁこの話はどうなる」

空を見上げたまま、山本はうーんと首をひねる。

「どうなるっていうか、話始まらなくね…?」
「それと同じさ。 俺たちだってきっと、何も始まらなかった」

γの言葉を聞いて、山本は嬉しそうな顔を向ける。

「ならさ、始まった話はハッピーエンドへ向かうよな!」
「話の全部がハッピーエンドになるとでも思ってるのか?」
「そりゃぁ全部とは思ってないけど、結構ハッピーエンドになってるし」

俺達もハッピーエンドになればいいのにな、と言った山本に、γは曖昧な笑顔を向けた。




















  

    野






















空は曇り空だった。
手を精一杯伸ばして、空に向ける。

(ほら、言っただろう)

ゆら、と視界が揺れた。
涙が瞳に溜まる。

(全部がハッピーエンドにはならないって)

血溜まりに涙がこぼれ落ちた。