上着も着ずに白い息を吐きながら、ザンザスは冬の空を見上げていた。
時々きらりと光りながら流れる星を見つけては、それをじっと見て、祈るように静かに目を伏せている。

「風邪ひくよ、」

後ろからぽいと上着を投げてやると、ザンザスはやっと寒さに気づいたように、もそもそとそれに袖を通した。
マフラーもついでに渡してから、隣に立って、同じように空を見上げる。
星がまた、遠くできらりと光りながら流れた。
隣をちらりと見ると、相変わらずザンザスは目を伏せていた。
わりと睫毛が長いなぁ、などと思いながら、そろりと彼の手を握る。

「さっきから、流れ星に何かお願い中?」

問いかけると、すぐにザンザスは首を横に振った。

「最期を看取っていた」
「なんの」
「星の。流れ星は、空で生きていた星が死ぬ瞬間なのだと言っていた」
「誰が」
「家光が」

また父さんか。と、心の中で呟く。
ザンザスは家光のいうことなら大概の事は鵜呑みにする。

「最後に精一杯光って消えるのだから、その時は最期を看取ってやれと。安らかに眠れるように祈ってやれと。そう、言っていた」
「俺にはそんなこと言ってなかったのになぁ」

ため息をついてから、ふ、とザンザスを見る。

「ザンザスはさ俺が死ぬ時も、祈ってくれるの?」
「無理だな」

即答だった。落ち込んだ。
けれど、

「お前が死ぬときは俺も一緒に死ぬんだ。祈る暇なんかねぇよ」

そう、ザンザスが当り前だろうが、という顔で言うものだから。
嬉しくて涙が出そうになった。
それを隠すように空を見上げて、握った手に力を込める。

「じゃぁ今から祈っておこうか。 どんなに残酷で、どんなに苦しい死がザンザスに訪れても、最後にはどうか、いとおしくやさしく、安らかな眠りの中で眠れますように」

にこ、と笑うと、ザンザスも手に力を込めた。

「お前にどんなに苦しい死が訪れても、最後には必ずお前の傍に俺がいますように」

ザンザスの言葉に、思わずぽかんと口が開いたままになった。
ザンザスはこちらを振り返って、それで十分だろう、と笑った。
思わずくしゃりと顔が歪む。

「なんなの、今日なんかおかしいよザンザス。ちょ、俺、なんか泣きそう」

熱くなった目頭をぐっと押える。
泣くのをこらえる隣で、ザンザスはずっと、いとおしそうに笑っていた。





 明

        死