ぽたり、ぽたり。
地面に血が落ちる音が聞こえる。

(くそ…)

チ、と獄寺は小さく舌打ちをする。
仕事で刃物を久しぶりに使ったせいか、思いきり返り血をあびてしまった。
裏通りを足早に歩きながら、真夜中でよかった、と思った。
こんなところ誰かに見られたら叫ばれて人が集まってしまう。
家の裏口につくと、溜息をつきながら静かに扉を開いた。

「う、わっ!」

誰もいないと思っていた。だが、扉を開いた先に了平が立っていて、驚いて思わず叫んでしまった。
慌てて口を押さえるが、手についていた血が顔についたのに気付いてすぐに離す。

「それは、」

了平はのろりと口を開いて、じっとこっちを見てくる。

「お前の血か」
「まさか」

ぶるぶると首を振る。
了平は、そうか、と言って少し安心したような顔をした。
頷いてから、了平の隣をすり抜けて中に入る。
扉を閉めてから、床に座り込んだ。

「久しぶりに刃物使ったから、しくった」

血まみれの上着を脱ぎながら獄寺は言う。
ポケットの中身をだして、血で使えなくなった煙草の箱を潰していると、隣でずっと立ったままだった了平がぽつりと口を開いた。

「こんなことを言うのは、きっとだめなのだろうが、」
「なにがだよ、」
「俺は今、おまえがひとごろしで、よかったと、思った」

ライターがまだ使えるかどうかを試していたので顔を上げなかった。
きっと、了平は泣きそうな顔で笑っているに違いない。
大量のダイナマイトを床に放り出しながら、眉を下げて笑った。

「あぁ。俺も10代目も山本も雲雀も骸もランボも。みんなみんな、ひとごろしだ。お前だけじゃねぇ」
「うん」
「だいじょうぶ、お前だけ、よごれてるわけじゃねぇよ」
「う、ん」

ぼろりと了平の目から涙が落ちた。
そこでやっと上を向いて、両手を広げた。

「血まみれでいいなら」

言うと、了平が倒れるように抱きついてきた。
ぎゅうと強く抱きしめられた。了平の服がじわりと赤く染まる。
シャツの肩の辺りが、涙で濡れていくのがわかった。





 

 彼