#1 雨の日、買い物帰りに近道で路地裏を歩いていた。 狭い道だったので、傘はさしていない。 じっとりと濡れた髪を時々かき上げて、ぱしゃりぱしゃりと水溜りを踏む。 次の水溜りに向かって軽く跳ぼうとしたが、じわりと水溜りに赤が広がるのが見え、足がぴたりと止まった。 視線を遠くに向けたが、そこは薄暗く何も見えない。ただただ血臭が漂っている。 すっと目を細くして、両手に持っていた荷物を片手に抱えなおす。 そうしてようやく一歩前に進んだ。 ぱしゃり、と赤く染まった水溜りを踏む。 それと同時に閃光が目の前を走った。 真っ直ぐに眉間を狙った鈍い光を頭を後ろにひいてかわし、次に心臓を狙ってきた光を手の甲でずらす。 ずれた光を壁に拳で叩き付けた。 動かなくなった光をぱっと手放した感覚がしたので、代わりに光を引っ張って手で持った。 「あぁ、いい剣だね」 少しの光だけで鈍く光る刀身を眺めてから、はい、と暗闇に剣を返す。 向こうからにゅっと手が出てきて、剣をばっと奪い取った。 ふ、と笑ってとことこと前に出る。 ようやく相手の顔が見えた。 暗闇にいたのは、銀色の髪をしたまだ若い少年だった。 16か、17か。それくらいだと思った。 「これは、きみがやったのかな」 ちら、と地面に倒れている血溜りと人を見る。 倒れている人物は、見たことのある顔だった。 以前少しだけ手合わせしたことがあった気がする。 割と強い、剣の使い手だった。 「きみ、小さいのにすごいね」 にこりと悪気もなしに言われた言葉に、少年の額にビキリと青筋が立つ。 「てめぇがデカすぎんだろうがぁ!」 初めて発せられた声は少し高めの声で。 あまりにも、大声だった。 少年は背を向けると、狭い路地を素早く走り去ってゆく。 きょとんとした顔をしばらく路地に向けていたが、急にぷっと吹き出した。 「確かに」 自分の身長は190以上ある。 少年の身長はせいぜい165センチくらいだろう。 「小さいの、気にしていたのかな」 今度会ったら謝ろうと思った。 そしてきっと、会えるだろうと、思った。 |
出会うたびに何度もきみに怒られたのを覚えているよ この日が一番怒っていたね |