目を開けると、辺りはひどく暗かった。
いつの間にか眠っていたらしい。獄寺はソファから体を起こし、ぼんやりしている目をこする。
外を見ると雨が降っていて、重そうな雲の合間に縦に光が走るのが見えた。
チカチカとした光を受けて、思わず目を閉じた。

 だいじょうぶか?

突然ひたりと瞼に指先が触れる。
その手をとると、ゆっくりと指先に唇を寄せた。

 なんだ?
 目、どうかしたのか

心配そうな顔の了平に、獄寺は眉を下げて笑う。

 いや、光見すぎて目が疲れただけだ
 そうか、ならいい

安心した顔でほっと息を吐くと、了平は獄寺の隣に座った。
そして、光った窓の外を見て、いち、と数を数え始める。

 いち、に、さん、よん、ご、ろく、

六まで数えて、了平は言葉を止める。
隣で獄寺が首を傾げた。
空が光ると、また数を数え始める。

 なんだ、それ
 ん?雷がどれだけ遠くで鳴ってるのかと思ってな。やらなかったかこういうの?

ぶるぶると首を横に振る獄寺に、了平は外を指差す。

 光ってからゆっくり数を数えるんだ。音が鳴るまでの数が少ないほど雷が近いってことになる。子供の時親に教わった
 へぇ、そんなのわかるのか。俺、ガキの頃は雷が怖いとか言って、雷がなる度にベッドの下に隠れてた
 雷が怖かったのか?俺は外に出てはしゃいでいたらしいぞ
 そーいうことするのはお前だけだよ

二人は笑った。
けれど、急に獄寺がぼんやりとした目を外に向ける。
了平の手をぎゅっと握った。

 雷が怖かったことは覚えてる。けど、もう、雷の音なんて忘れた

どうでもいいことだけど、忘れると悲しい、と獄寺はひどく泣きそうな顔で笑う。
獄寺の手を握り返して、了平はそうだな、と頷く。
忘れたくないなぁ、と呟いて了平の肩に頭を寄せた。

 お前、鐘の音は覚えているか?

急にそんなことを言い出した了平に、獄寺はきょとんとした目を向ける。
家の近くにあった教会の鐘の音をなんとか思い出しながら、こくりと頷いた。

 鐘?教会のなら覚えてるけど
 それに似ている

にこりと了平は優しく笑う。

 雷の音は、それに似ている。本物の音を忘れたなら、それに似ている音を思い出せばいい。俺がいくらでも教えてやる

了平の言葉に、獄寺は目を見開く。
そして笑った。笑って、笑って、泣いた。
空が光る。
数を数える。

 今、鐘が鳴った




 愛おしいあの日々を思い出す