「骸が3人に見える…」

そう呟いてツナが倒れたのは、徹夜明けの朝のことだった。






「39度8分」

体温計の数字を見せられ、ツナは壊れてるんじゃないのか、という目で骸を見た。
壊れてませんからね、と言って、骸は体温計をしまう。
ツナの頭に冷たい濡れタオルを置くと、手を拭いてくるりとツナに背を向けた。

「どこいくの?」
「仕事です」
「なんで?」
「今日中の仕事が残っているからですが」
「うんやんなくていいまだいい。ここにいろ。これ命令」

言ってツナはビシッと椅子を指さす。
骸は口元を引きつらせてから、苛立たしげにどさりと椅子に座った。

「こんなことで命令なんて言葉使わないでいただきたいですね」
「だって、普通にお願いしたって、きっとお前はいてくれないもの」

そんなことはない、かもしれない、と言いかけて言葉を飲み込む。
10年に一度程度で甘えられるくらいなら、甘えられてもいいと思う。多分。
ごほごほと咳き込みながら言うツナに、早く薬が効いて眠ればいいのに、と思いながら骸は深く溜息をつく。
静かに椅子の背にもたれかかって黙っていると、ツナの手がこちらににゅっと伸びてきた。
骸の腕を掴むと、ぐい、と強く引っ張る。
そのままベッドの中に引きずり込んだ。

「やっぱり。むくろはつめたいね」

ぎゅうと抱きしめて、気持ちいいーと言いながらツナは笑う。

「ちょっと、放しなさい」

じたばたと暴れる骸をぎゅぅぎゅぅとさらに強く抱きしめる。

「ほんとにつめたい。死んでるみたいにつめたい。だからおれの熱をわけてあげる」
「要りません余計なお世話です」

骸の言葉にツナはふふと笑う。

「あったかい?」
「暑苦しいです」

しばらくツナはにこにこと笑っていたが、ゆるゆると強かった力が弱くなってきた。
ちらりと横を見ると、ツナはいつの間にか眠っていた。
イラっ、とし、思わずその額に頭突きをする。
それでもツナは起きない。大きく大きく息を吐いて、ふっと骸も力を抜いた。
10年に一度くらいなら、多分。多分。
そう繰り返しながら、ツナに抱きしめられたまま、ゆっくり目を閉じる。
次は10年後?
多分。

多分。




 次回は10年後にて