「あ゛ー…」

目に痛いほどの青い空を仰ぎながら、獄寺は喉から妙な声を出す。
ジワジワといたるところから蝉の鳴く声がする。
ちら、と携帯の時計を見たが、まだツナたちの補習が終わる時間ではなかった。
山本とツナの補習が始まった頃は一緒に教室にいたのだが、あまりの暑さに耐え切れなくなった獄寺は、そそくさと屋上に逃げてきていた。
真夏の教室は窓を全開にしていても風通しが悪い。
心の中でツナに謝りつつ、すがる様に屋上に上がった。

「暑い…」

影ができたコンクリートの上はひんやりと冷たいが、熱気がひどく暑い。
その上、目の前では太陽の真下で汗をだらだらと流しながら、了平が軽くステップを踏んでいる。
暑苦しい光景だが、ひどく楽しそうに拳を出す了平から目を離せない。
獄寺は手を伸ばして、近くに置いてあった水の入ったペットボトルを掴むと、それを了平の方に投げた。

「飲めよー…脱水症状で倒れるぞー…」

投げられたペットボトルを受け取ろうと手を伸ばしたが、それは了平の手から滑り落ちた。
ゴトンとコンクリートにペットボトルがぶつかる。
ひゅぅひゅぅと了平は肩で息をしている。

(言ったそばからかよ…)

見ていると、了平はのろのろと落ちたペットボトルを拾おうと膝を折ったが、そのままぺたりと熱いコンクリートの上に座り込んでしまった。
獄寺はくそ、と小さく呟いて、重い体を起こす。
影から出て、ペットボトルを拾い上げ、蓋を開けて水を自分の口にふくむ。
下を向いたままぜぇぜぇと荒い息をしている了平の顎を掴むと、上を向かせ唇を重ねた。
ぬるくなった水が、了平の喉を鳴らす。
残った水はペットボトルごと了平に渡し、獄寺は了平を担ぎ上げる。
影まで引きずると、ぽいと下に投げた。

「休めばかやろう」
「うむ。すまん」

にぃーと笑いながら謝る了平の額をゴツリと殴る。

「くそー暑ぃー」
「心頭滅却すれば火もまた涼しだ!」
「涼しいわけねぇだろ!」

暑い!と獄寺は空に向かって吠えた。




 焼けるコンクリート 吠える犬