てをつなごうどこへゆこう あなたのすきなところまで あなたがのぞむところまで 歌を歌いながら、ツナはザンザスの手を引いて歩いていた。 空は晴天辺りは爆音。 スキップになりそうな歩みはひどく軽快。 前を塞ぐ邪魔者は、真っ赤な炎がかき消した。 「さて」 トン、と急に立ち止まって、ツナは遠くの城の様な屋敷を眺める。 屋敷からは火が上がり、西側の壁が音をたてて崩れてゆく。 「いきなりどっかの馬鹿が人数そろえて強襲をかけてきました。絶体絶命大ピンチ!」 表情のない顔で、ツナは喋る。 そしてくるりと方向を変えると、もう跡形もないが、門のあった場所の前に立った。 足でざっと地面に線を引くと、ザンザスを振り返り、首を少し傾ける。 「さてさて。俺は今から馬鹿なことを言います。ここを越えるとお前は自由です。危ないことにも巻き込まれずに、平和に暮らせます。お前はこの線を越えなさい。自由になりなさい」 ザンザスの顔がすぐに怒った顔に変わる。 それでもツナは続けた。 「早くゆきなさい。どこか遠くへ。この爆音が聞こえないところへ。この場所で笑っている死神すら追いつけない場所へ」 ぐい、とザンザスの手を引き、線の前に立たせる。 手を離して、ドン、と背を押した。 ザンザスはよろけて、線の向こう側に出た。 「さようならザンザス。おまえが幸せでありますように。早くいろんなことを忘れられますように」 ツナはぺこりと頭を下げてから、ザンザスに背を向け、爆音が鳴り響く場所へ帰ってゆく。 歩くたびにツナの左袖がひらひらと風に舞う。 歩くたびに後に血が残る。 それをじっと見てから、ザンザスは走った。 走って、跳んで、ふらふらしているツナの背を両足で思い切り蹴った。 ツナはふっ飛んで、地面に倒れた。 ザンザスは倒れたツナに近づくと、残っていた手を掴んだ。 引っ張って立ち上がらせ、手を握って足早に燃え上がる屋敷の方へ歩き出す。 「違うよザンザス。お前が行くのは反対だよ」 「お前は、俺がいなくてやっていけんのか!」 無表情で言うツナに、ザンザスの怒号がとぶ。 その言葉に、ツナはきょとんとした顔をしてから、うんと頷いた。 「だいじょうぶ。お前がいなくても俺はいけるよ。俺はお前に死んでほしくないもの。だから早くここから出て、全部忘れて、生きてほしいんだ。俺のことも忘れたっていい。お前が生きてればそれでいい。だから早く外に出てっ、」 ゴッ、と鈍い音がした。 ツナは地面に口の中の血を吐く。 殴られた頬をそろりと撫でた。 「本当のことを言え」 ザンザスの言葉に、ツナは俯いてぽつぽつと言葉を零す。 「むり、だよ。お前がそばにいないなんてありえないよ。お前が俺を忘れるなんてありえないよ」 ぼろぼろとツナは涙を流す。 「なら、俺はお前と一緒にどこまででもいってやる」 「でも俺は逃げないよ」 「なら俺も逃げねぇぞ」 「でも俺は死ぬかもしれないよ」 「なら俺も死んでやる」 「ザンザスはホント俺のゆうこと聞かないね」 「聞いてやる義理なんざねぇ」 ぐずりと鼻をすすって、ツナはザンザスの手を握りなおす。 てをつなごうどこへゆこう あなたのすきなところまで あなたがのぞむところまで 歌いながら、二人は火の海に飛び込んだ。 |