目を開けるとそこに分かれ道があった。 左は地獄。右は天国。 黒い髪の男は、迷わず左の道へ進もうとする。 その手に小さな手がふたつ触れた。 「どこに行くんれすか?」 「地獄へですよ」 つんつんした髪の子供が訊くので、男は素直に答える。 子供は、そっか、と頷く。 「ひとりでゆくのですか?」 「そうですよ」 眼鏡をかけた子供が訊くので、男は素直に答える。 子供はぶるぶると首を横に振った。 反対側を見ると、つんつんした髪の子供も、首を振っていた。 「ひとりは駄目です」 「おれたちも一緒にいきまふ」 子供達の言葉に、今度は男が首を横に振る。 「お前たちが一緒に来る必要はないんですよ。お前たちのゆく道はあちらなのだから」 男は言って右の道を指差す。 けれど子供達は右の道には行こうとしない。 ぷぅ、と頬を膨らませて、つんつんした髪の子供が言った。 「むくろさんは忘れてまふ。おれたちとの約束を、すーっかり忘れちゃってまふ」 「約束?」 「あなたが地獄へ落ちるなら、一緒に俺たちも落ちると、約束しました」 ぎゅぅと眼鏡の子供が男の手を強く握った。 もうひとりの子供も強く握る。 「だから、ひとりは駄目です」 「俺たちも一緒れす!」 二人は笑って、握った手をぶんぶんと振った。 そしてゆっくりと道を歩き出す。左の。地獄への道を笑顔で。 男は歩きながら、泣きそうな顔で首を傾げる。 「そんな約束しましたかねぇ」 「したれす!むくろさんが覚えてないだけれす!」 子供がまたぷぅと頬を膨らませる。 けれど、本当に約束なんて知らなかった。 きっと、ただの言葉遊びでこぼれ落ちた言葉なのかもしれない。 彼らが勝手に約束をしたと思っているだけなのかもしれない。 それでも。 それでも、あるか無いかの約束で、こんなにも幸せになれるのならば。 ぼくは笑って地獄への道をゆこう |