仕事が一息ついてからすすったコーヒーは、胃が死滅しそうな味がした。
ごほ、と咳き込んでから涙目で、斜め前に座っていた山本に助けを求める。

「これ、なに、コーヒー?!」

ずい、と山本の方に差し出して、飲んでみろと言うが、ツナの様子を見てしまっている山本は苦笑いで首を振るだけだ。
ツナは涙目でカップの中身を睨みながら、この殺人的なコーヒーは誰が淹れたのだろうと首をひねる。
いつもは獄寺が淹れてくれていた。
けれど今日は出かけていて獄寺がいないため、守護者の誰かが淹れたのだろうが。
はっきり言ってこの味はなかなか出せるものではない。いっそ天才だ。
そう思いながら、ちら、とクロームを眺める。

「私じゃありませんからね」

にこ、とクロームが笑う。
また骸が出てきているのか。骸ならばもう少しマシなものを淹れるだろう。
山本ではないだろうし、ランボの淹れるコーヒーは案外美味しい。
了平はコーヒーを淹れれないし、ヒバリが淹れてくれるはずもない。
一体誰がこの胃が死滅しそうな味のコーヒーを淹れたのか。
とりあえず目に入らないようにカップを山本の方に押しやろうとした瞬間、バァン、と大きな音がして扉が壊れる勢いで開いた。
ぱっと顔を上げると、ザンザスの形相が見えた。
ひ、と一瞬体を後ろに引いたが、どんどんと形相は近づいてくる。

「ななななな、何か用なのっていうか顔怖いからザンザス…!」

びくびくと悲鳴に似た声を上げるが、ザンザスは足早にツナの隣に立つとバン、と机を叩いた。

「飲んだのか」
「は、?」

ギロリとザンザスの赤い目がツナを睨む。

「これを飲んだのかって訊いてんだ!」
「ののの飲みました飲みました飲みました…!」

ザンザスが言っているのが先ほどのコーヒーの事だとわかり、ツナはがくがくと首が痛くなるくらいに頷く。
チッ、と舌打ちし、ザンザスはコーヒーが残ったカップを手荒に取り上げた。

「え、なに、やっぱりなんか入ってたの…?」

さぁっと顔が青くなるツナに、後ろからついてきていたルッスーリアがからからと笑って手を振る。

「違うわよぉ、それ自分で飲むためにボスが淹れたんだけど、ベルが勝手に持って行っちゃってねぇ。ボスの淹れるコーヒーね、ボスは美味しいみたいだけど、アタシ達には胃が死滅しそうな味な」

最後まで言わないうちに、ルッスーリアの体が廊下まで飛ぶ。
廊下の壁にぶつかると、がらがらと壁が崩れた。
それを呆然と見ながら、ツナはザンザスが持っているカップにそろりと手を伸ばす。

「それ、ザンザスが、淹れた、や、つ?」

返事がくる前に、ツナは素早くザンザスの手からカップを奪い返す。
取り返そうとしたザンザスの手をかわし、ツナは冷めたコーヒーを一気に飲み干した。
頭が痛くなって、胃が焼けるように熱くなったが、笑顔を作ってザンザスの手にカップを戻す。

「ごちそうさま。また飲みたいから、今度淹れて」
「―…っ不味いなら飲むなうぜぇ!」

苛々しながら叫び、ぶん、とツナにカップを投げつけると、ザンザスは来た時と同じ速さで部屋から出て行った。
バタン、と大きな音と共に扉が閉まると同時に、ツナの頭が机に落ちる。

「山本…水…水をリットル単位で…」

ツナの言葉に山本が慌てて立ち上がる。
ばたばたと水を取りに部屋から出て行った。
胃の辺りを押さえて丸くなっているツナにクロームの可愛らしい笑い声が降ってくる。

「愛、ですねぇ」

クロームの面白そうな声が、ひどく遠くで響いた。