ずるずると水音が床を這う音が聞こえる。
音は扉の前で一度止まった。

「…入ってくるな」

ザンザスは扉に向かって声を投げるが、扉は勢いよく開いて水音は部屋の中に進入してくる。
床の絨毯に水が落ちてじわりと広がった。
ちら、と顔を上げると、それはにや、と笑う。

「海に落ちた」

言いながら、ベルは濡れて重くなったコートを床に脱ぎ捨て、歩きながらシャツとブーツも脱ぎ捨てると、ソファに座っていたザンザスの上にどさっと座った。
ごそごそとザンザスの上着の中に手を差し入れる。

「遊んでたら落ちちゃってさァ。寒いんだよねー」

ぎゅう、とザンザスを抱きしめて、首筋に頭を寄せる。
じわとザンザスの服が水で湿った。

「わぉ、シャツ透けてる。えろーい」

けらけらと笑って、ベルはザンザスの後ろに回していた手をばっと上げる。
ザンザスの上着がゆっくりと床に落ちた。

「寒いからさ、やろーよ」

ちゅ、と音をたててザンザスに口付ける。
口付けた後、ぺろりとザンザスが唇を舐めた。
いつも寄っている眉間の皺がさらに寄る。

「…塩辛い」
「甘ったるいよりいいじゃん」

ザンザスの言葉にベルは声を上げて笑った。