※獄寺の耳が聞こえない、了平の左目が見えないという捏造ひっついてます






しん、と静まっている世界の中で、街を歩く人間の口がぱくぱくと動いていた。
なんだか変な光景だなぁ、と何度も見ているはずなのに、不思議な気分になる。
煙草の煙を吐き出しながら、ぺたりと耳に触れてみる。
ぽんぽんと叩いてみたが、別に何も変わりはしなかった。
相変わらず世界は静かだ。

爆音せいで耳が聞こえなくなる。
そんなことはいつかおこると気付いていた。
けれどどうしてか、慣れた戦い方を変えてまで、聴覚を守りたいとは思わなかった。
ツナの右腕どころか、傍にいることすら邪魔になるかもしれないのに。

(まぁなんとかなるだろ、と思ってただけだけど)

思っていた通り、耳が聞こえなくても戦闘においては何も変わらなかった。
少々気に食わないが、後ろにはいつも山本がいたから後ろを気にする必要もないし、そもそも誰かと一対一で戦うようなこともあまりない。
大勢を一気にふっとばす。これに聴覚なんて必要なかったからだ。

(ホント楽な戦い方してんなぁ俺)

はぁ、と息を吐いて、短くなった煙草を地面に捨てる。
ぎゅっと靴の先で踏み潰してから顔を上げると、ぜぇぜぇと息を切らせて立っている了平と視線が合った。

 すまない、待たせた!

ゆっくりと了平の口が動く。
返事をする(と言ってもほとんど頷いたりするだけなのだが)代わりに、空になった煙草の箱を了平に渡す。

 ゴミなんぞいらん

獄寺はぶる、と首を横に振る。

 …わかった…。遅れてきた俺が悪かった。一箱奢る

にぃ、と笑う獄寺に溜息をついて、了平は煙草の箱を握り潰してゴミ箱に放る。
けれど箱はゴミ箱の中には入らず、数センチ前でぽとりと落ちた。
了平は少し困った風な顔を作りながら、小走りで箱を拾い今度はゴミ箱にきちんと落とした。

 まだ、慣れないものだな

帰ってきた了平がぽつりともらす。
獄寺はのんびりと手を伸ばして、ぺたりと了平の左目に触れた。

 大変だな、見えないと

ちゃんと言えたかはわからないが、獄寺は了平に言う。
獄寺の言葉に、了平はふ、と笑った。

 お前だって大変だろう。両耳とも聞こえないのだから
 接近戦タイプのあんたよりマシだ。左、苦手なんだろ
 まぁ、な。まったく迷惑ばかりかけるな沢田には…

少ししょぼん、とした表情をした了平の頭に、獄寺はすこんとチョップをいれる。
怒り出す前に了平の左側にまわり、黙って手を掴んだ。

 ったく、しょーがねぇヤツだな。そんなことで落ち込むなよ。お前の左くらい俺が守ってやらぁ。つまんねーことで落ち込んでねぇで、お前はいつもみたいにつっぱしってりゃいいんだよ!

ぽかん、とした顔の了平が見えて。
それから、にぃ、と、笑顔が見えた。

 ならばお前の背中は俺が守ってやろう
 ばか!守られるほど弱くねーっつーの!

言って、笑って、そのまま手を繋いで歩いた。