07:いつか君が花になる




マーモンは広い部屋の中にぽつんとある赤いソファに寝転びながら、灰色の天井を見上げていた。
のろのろと起き上がって、少し遠くで背を向けているヴェルデに落ちていたナットを投げた。
それをひょいとかわして、ヴェルデは机の端から飴をとるとぽいとマーモンの方に投げる。

「暇ならそれでも食ってろ」
「甘いものは嫌いだよ」

一度受け取ってからヴェルデに投げ返す。
そうか、と言って、ヴェルデは返ってきた飴を自分の口に放り込んだ。
しばらく黙って飴を舐めていたが、ヴェルデは思い出したように口を開く。

「俺はたいがいのものは直せるが、お前のは無理だぞ」

ぽつりと呟くヴェルデに、マーモンはそう、と言葉を返す。

「今後一切幻術を使うな、と言ってもお前は使うんだろうな」
「それが僕の役割だからね」
「お前は、何年もひどく幻術を使いすぎた。六道骸のように強い精神力を持っていないお前が、そんなに何度も、何年も普通に幻術が使えるはずがない。 …マーモン、」

ヴェルデがマーモンの方を向いて大きく息を吐く。

「このまま幻術を使い続ければ、近々お前の脳は、壊れる」
「別にいいさ。この世界に未練なんて無い。あぁ、でも金がなくなるのは嫌だな」

くつくつと笑って目を閉じる。

「いつか壊れるってことくらい知ってた。だから別に、いいんだ」

後悔も。未練も。なにもない。
なにもないから。壊れたって、別にいい。

「いいわけねーじゃん」

真上から降って来た言葉に、マーモンはにこりと笑う。

「いいんだよ」

言って目を開ける。天井の電球の光を受けて、きらきらとティアラが輝いているのが見えた。
いつの間にかヴェルデはデスクから消えている。

「いいんだ」

静かに言うと、ぽたりぽたりと上から水滴が落ちて頬にあたった。
上からは、よくないよばか!という言葉と水滴が降り注いでくる。
のろりと手を上げて、なるべく優しく、金色の髪を撫でた。