廊下の向こうから足音が聞こえる。
振り返ると傷だらけの山本がいた。
体中傷だらけでいつものように学校に現れた山本は、いつもとは違った、少しさびしそうな顔で笑った。

「…随分とおおげさだね」
「俺もそう思う」

はは、と笑って、山本は眼帯の上から瞼を撫でる。
その手にも小さな傷がたくさんついていた。

「別にそんなに傷もひどくないんだけど、やっとけって言われてさ」
「そう、お大事に」

興味がない風に言って、ヒバリは踵を返して歩き出す。
少し離れて、後ろから足音が追ってくる。
ぺたぺたと足音が聞こえていたが、ゴツリという音と共に一度止まった。
ヒバリも一度止まって、くるりと後ろを振り返る。
山本は額を押さえて、床にしゃがみこんでいた。

「なにしてるの」
「いや、ちょっと片目なんで距離感が…」

手が離れた額は、少し赤くなっている。
立ち上がり、眉間に皺を寄せて必死に前を見ようとする山本に、ヒバリは近づく。
す、と手を伸ばした。

「なに?」
「手、」
「つないでくれんの?」

冗談のつもりで言ったのだけれど、ヒバリからは何の反応も返ってこない。
しばらく伸ばされた手を見つめてから、ヒバリの手に自分の手を重ねた。
そろそろと握って、ゆっくり立ち上がる。
それを見届けて、ヒバリはまた歩き出す。

「なんか優しいな。変な感じ」

笑うと傷だらけの手をぎゅううと強く握られる。
すぐに謝ると手から力が抜けた。
すたすたと歩くヒバリの背中を見てから、そろりと目を閉じる。
瞳の奥に、赤い水溜りが見えた。

(今は、あんまり、優しくしてほしくないのになぁ)

目を開けたら、ゆら、と視界が歪んだので、ヒバリに気付かれないように空いた手で目を強くこすった。