「ヒバリ、笑って笑って」

ガラガラと扉が開いて馬鹿面が小走りで入ってきたと思ったら、急にぐいと引っ張られた。
彼の顔が近くにきて、顎を下から殴ってやろうかと思ったが、それよりも早く、目の前に携帯が掲げられ、カシャ、という音をたてた。
文句を言う前に、山本はくるりと携帯をまわしてヒバリに画面を見せる。
むっとした顔のヒバリと、満面の笑顔の山本が映っていた。

「待ち受けにしていい?」
「携帯潰されたい?」
「それはいやだなぁ」

山本は笑って画像を保存し、少し操作してから携帯をズボンのポケットにしまう。
そしてソファに向かうとごろりと横になり、目を閉じた。

「ちょっと、」
「1時間だけー」

それだけ言うと山本はすぐに静かになり、ソファから寝息が聞こえ始める。
どうしてこんなに早く眠れるのだろう、と思いながら、山本を眺めていたが、す、と立ち上がりソファの後ろに立った。
手を伸ばして山本のズボンから携帯を引っ張り出す。
黒い携帯を少し眺めてから、のんびりと携帯を開いた。
しっかりと先ほどとった写真が待ち受けにされていて、思わず携帯を逆に閉じかけた。
メキ、と携帯が軋むほど握り締めたが、途中で力を抜く。
もう一度画面をぼんやりと眺めた。
彼の笑顔と、あまり見たことのない自分の顔。

「…馬鹿面」(どちらが…)

ぽつりと呟いて、携帯を閉じる。
携帯を山本のポケットに直そうとしたが、手を止めてもう一度開く。
待ち受け画面を変え、画像を消してから山本の腹の上に投げた。