ここでは、アナログ・シーケンサーでアナログ・シンセを、シーケンス・ドライヴさせてみましょう。
アナログ・シンセを外部から駆動するには、単音あたり最低二つのケーブルが必要です。
・CV を伝えるケーブルと、
・トリガー信号を伝えるケーブル
です。
これは、オシレーターのピッチや、キーフォローかけたカットオフなどを規定するものです。
MIDI で言う、ノートナンバー(C4 とか)に相当し、ただしアナログ電圧ですから、半音以下の細かいピッチでも、無限に規定できます。
CV には大きく分けて2つの規格があり、両者に互換性は全くありません。
・Hz/V :「へるつ・ぱー・ぼると」 YAMAHA, KORG
・Oct/V:「おくたーぶ・ぱー・ぼると」 Moog, ARP, E-mu, Oberheim, Roland, Sequential
Circuits 他
で、
・アナログ・シーケンサーの CV out 端子と、
・シンセのVCO の CV in 端子 とを、
・パッチ・ケーブルでつなぎますと、
オシレーターが音階で鳴るのです。
ただし、端子の表記の仕方は、Voltage Out 、FREQ in, FM in
等、機種により、まちまちです。
疑わしき端子は全て試す。これぞモジュラー・シンセの、醍醐味です!
英語でトリガーとは引き金の事で、起爆スイッチです。
トリガー信号、またの名をゲート(gate)信号、時にはクロック(clock)信号とも呼ばれるこの信号は、ほんとうは微妙に異なる定義が各々あるのですが、ここでは同じに考えて下さい。つまり
MIDI で言うノート・オンです。ノート・オフがどうなったかは、あとまわし! 今は聞くで無い。
で、このトリガー信号は、通常、フィルター・エンベロープとアンプ・エンベロープとを駆動するのに使います。
・アナログ・シーケンサーの Trigger out 端子と、
・シンセの EG (envelope Generator) の Trigger in 端子 とを、
・パッチ・ケーブルでつなぎますと、
トリガー信号を受信するやいなや、エンベロープが作動し、VCF や VCA がそれに従い開きますので、VCO の音が外部へ音として聴こえて来ます。
ただし、これも端子の表記の仕方は、Multiple Trigger Out 、Gate
in 等、機種によりまちまちです。
疑わしき端子は全て試す。これぞモジュラー・シンセの、醍醐味です!
3. ほな上記2つで、壮大なオーケストラの打ち込みとかでけるんー?
というわけで、上記2つの信号が同時に受信されないと、アナログ・シンセは外部から駆動できないわけですが、ここで注意してほしいのは、これでも駆動できるのは、単音、すなわちモノフォニックであるということ。
和音を出そうと思えば 2×ポリ数 の分だけ、ケーブルが必要です。
普通のトライアドですと3音ポリ必要ですね。3音ポリ分のアナログ音源を駆動しようとすると、
2×3=6
で6本のケーブルが必要です。つまり3本の CVケーブル, 3本のトリガー・ケーブルですね。
しかも、アナログ・シンセに、ボイス毎の入力端子がないとダメです。この場合ですと3個のCV入力端子と、3個のトリガー入力端子がシンセにないと、ダメなのです!
たいがいのアナログ・ポリシンセには、そんなたくさん端子がありません。せいぜい CV
入力1つ、トリガー入力も1つだけ。だから手弾きの時はポリ・シンセでも、シーケンス駆動するときゃモノ・シンセとしてしか、使えないのです!!!
これで壮大なオケを録音するには、冨田勲になるしかありません。
モジュラー・シンセの場合、実に様々なパラメーターが電圧駆動できます。これをアナログ・シーケンサーで駆動すると、通常の MIDI シーケンスが、じつに狭い世界に思えるくらい、突拍子もないパラメーターをシーケンス・ドライヴできるのです。
例えばシーケンス・フレ−ズの1音ごとに、LFO の周期を変える事ができます。
例えばシーケンス・フレ−ズの1音ごとに、パルスウィズの幅を変える事ができます。これにより、リング・モジュレーターへ全然違う倍音を送り込む事で、ピッチとは無関係な音色変化を創りだせます。うぉー!!! 秘技や秘技!!! なんちゅー地味なよーな複雑怪奇なわざや!!!
例えばシーケンス・フレーズ全体のテンポを、LFO で制御したり、鍵盤で制御したりも出来ます。
これはトミタのわざですが、アナログ・シーケンサーを高速駆動させて、重低音オシレーターにしたそうです。私もやってみましたが、こればかりは、なかなか微妙で難しいものです。
アナログシーケンサーには、ステップ入力もアリアルタイム入力もありません。ツマミが全てです。本体のツマミをいじるあるのみ! で再生ボタンを押すだけ。
デジタルシーケンサーになると、メモリ−が搭載されますので、例えば打込みという概念が発生します。
デジタルシーケンサーにも何種類もありました。
・デジタルになっても入出力は CV/gate方式:MC-8, MC-4、オーバーハイムとか
シーケンシャルとかにも、ありました。
・DCB シーケンサー:これはレアですよ。JSQ-60 やったっけね?
・MIDIシーケンサー:もはや説明不要ですね。
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もはや誰にも止められん。王蟲の暴走のごとき CV/Gate 講座は、まさにゲイトウェイを目指してワープ速度まで加速する!
電源さえ入っておれば、VCO は、鍵盤を弾く弾かないに関係なく、四六時中、鳴りっぱなしなのです。じつわ。
でも普段は、VCF, VCA のエンベロープが閉じているから、音が聞こえないだけです。ジャンキーなアナログ・シンセだと、時々、音が漏れて聞こえる時があります。
で、鍵盤を弾くと、鍵盤からのトリガー信号を受信した EG によってエンベロープが作動し、VCF, VCA が開くから、VCO
の音がマジで聞こえる、と。
そんなわけで、エンベロープの立上がりはアナログ・シンセのイノチです。ここで反応が悪いと、
「この機種はブラスにゃえーけど、シンベにゃ使えへんなぁ」
となります。逆に言えば、エンベロープの反応さえ良ければ、簡単に胸がすくようなレスポンスの良さを発揮しますので、アナログ・シンセは、未だにシンセ・リードなどに愛用されます。音の太さだけじゃないのよん。
PCMシンセだと、これがトリガー情報とともに波形を読み出すべく「あ、津軽三味線の波形を最初から鳴らさなあかん!」と CPU がアセりますので、どうしても反応がおそくなります。これをいかに瞬時に演算してまうかによって、PCMシンセの評価が変わります。
ハモンド・オルガンも同様で、トーン・ホイールは常に発振しています。ですから各社のモデリングも、よくできているものは常に発振状態をシミュレートして続けています。
MIDI で言うノート・オンとノート・オフの両方をつかさどる事ができる、すぐれものです。アナログでも、えらいじゃん。
シンセの鍵盤は、電気スイッチです。
・普段は電気が流れないのですが、
・鍵盤を打鍵しますと、その瞬間に電気が流れ始めます。
・電気は鍵盤を押し続けている限り、流れ続けます。
・で、離鍵すると、はじめて電気は途切れます。
この打鍵・離鍵に応じて流れる電気が、ゲート信号です。打鍵した瞬間を "Gate On"、離鍵した瞬間を "Gate Off" と呼びます。「ゲートが開く」「ゲートが閉じる」とも言います。
ゲート信号を受信したエンベロープ・ジェネレーターは、さっそくアタック→ディケイ→サステインへとエンベロープ・カーヴを描き、ゲートが開いている間中は、ずっとサステイン・レベルを維持します。で、ゲートが閉じるとリリースへなだれ込みます。
上がエンベロープ、下がゲート信号って、分かる?
ゲートを応用すると、おもしろい事ができます。たとえば昔のエフェクターには、ゲート入力端子をそなえたものがあり、これを使うと、ゲート信号を受信してエフェクトのOn/Offを決める事ができます。ここぞ!という時にディレイを飛ばしたりする、くっさい演出が可能です。しかもそれをキーボードで打鍵して制御するねんから、ぞくぞくしまっせ。
初級篇にて、起爆スイッチであると申しました。すなわち、オンしかありません。オフはありません。「今だっ!」 ちゅどーん! これです。
何が「これです」やねん!? なにがどないやねん!?
はい。(^^;
トリガー信号は、打鍵すると一瞬だけ出るパルスみたいな電気です。つまり、ある瞬間しか出ないので、ゲートのように離鍵するまでのあいだ
On になり続けるような事はありません。ゲートのように On が持続しますと、「打鍵したで。んんんんんんんんと、あ、いま離鍵しよったわ。」とか「はい息を吸って〜。止めて〜。はい吐いて〜。」などとOn/Off
を明確に表現できますが、トリガー信号は一瞬だけなので「今や!」という一瞬しか表現できないのです。つまりタイミングのみを決める信号ですね。
これを受信したエンベロープ・ジェネレーターは、とりあえずエンベロープを起動させますが、すぐさまリリースに入ってしまいます(強制的に全てのステップを再生するタイプの EG もあります)。だからドラム音源には便利です。ドラム音ですから、アタックは一瞬で終わるし、あとはリリースしか無いようなもんです。もちろんトリガー信号そのものはモノフォニック仕様なので、複数のリズム音色を個別に鳴らすためには、それだけの数のトリガー端子とケーブルが必要になります。スネアとベードラの2音色で「どん、ぱん、どんどんぱん」とダルいリズム刻ませようと思ったら、スネア用のトリガーとベードラ用のトリガーとの2つが必要です。
上記は楽器音を一発だけ鳴らすためのトリガーですが、さらに、周期的にトリガーを出すことで、テンポを表現しようという試みもありました。周期が早ければテンポも早い。というわけで昔のリズムボックスには、これが良く装備されてました。これらのリズムボックスでは、「この端子で受信したトリガー信号のテンポに合せて、内蔵のリズムパターンを鳴らせてくれ」という設定がなされていたのです。そのトリガー端子は、テンポ専用の端子となったのです。つまり、楽器音そのものはリズムボックスに内蔵されたリズムパターンに従ってリズムボックスが自主的に鳴らすのですが、そのテンポだけは外部から制御しようというわけです。従って外部から楽器音を個別に鳴らすことはできませんが、同期演奏は出来ました。
で、もうお分かりでしょうが、テンポを表現するために周期的にトリガー信号を出す場合を、クロック信号と呼ぶ場合があります。まさにテンポ情報そのものであり、デジタルになった今、MIDIクロックや SMPTE などの様々なデジタルなクロック情報が存在します。アナログ時代では、なんの付加価値も無い、ただ周期的にパルスが出るだけでした。
アナログ時代のクロックが画期的だったのは、機械が解釈できさえすれば、どんな信号でも良く、すなわち手作りの音色でクロックを自作可能だったという事です。シンセで、チョー短いディケイの音色をつくり、自分で同じ鍵盤をポンポン弾いてテープへ録音すれば、それがテンポ・トラックになりました。だからリズムボックスにクロック入力しかなくても、自作のテンポ・トラックでもってリズムボックスとカセットMTRとを同期できました! が、クロックを手弾きするのは、機械になる喜びを見出せる人でないと地獄でした。リズムボックスをヘッドフォンで聞きながら、それに合せて単調なクロックを演奏する。シーケンサーがあれば楽でしたが、シンセとリズムボックスとカセットMTR
買えば、もうすでに結構な金額したもんねー。
でもこれを応用したのが冨田やYMO で、人間がヘッドフォンで聞いて分かるように「キッコッコッコ、カッコッコッコ」とピッチを小節の頭で変えた人間用のクロックが発明され、英語の擬音語からクリック(click)と呼ばれました。これで幸宏のドラムとMC-8とが同期演奏できたのです。すごいですねー。
さらに、クロック入力つきの LFO でもってモジュレーションの周期まで同期させたり(今風ですねー)、クロックそのものに音量差をつけてエンベロープ・フォロワーにかける事で、CV
を変えながら出力させ、VCF の開き具合に表情をつけてみたり、またまた PWM をかけてみたり、オシレーター・バランスを変えたり(CV
はピッチだけでなく、実はあらゆるものの制御電圧に使えるので、カットオフや PWM などもCVで制御できるのです)、めんどうですが可能性はいろいろありました。