私は今年で世界地理を都合4回目を教えている。世界地理で何を教えればいいか、これがいま私の一番の悩みである。世界地理実践の機軸を求めているが、見失ってしまい、いま、手探りの実践を続けている。
以前はこう考えていた。世界地理で何を教えるか。
@世界の人々の労働と生活の様子をリアルにとらえさせる。(労働と生活)
A世界の人々がかかえている現代の課題は、何か。悩みや諸問題について考える。
(現代の課題)
B@Aにおいて、日本とどこが違うか、日本とどこが同じか。(差異と同一性)
とくに実践の中心にしていたのは、次の諸点であった。
*植民地支配とかかわってモノカルチァー、プランテーション………アジア・アフリカ・ラテンアメリカの共通性
*植民地支配とかかわって、民族問題、民族差別、人種差別の問題
*および現代資本主義の労働力流動化政策とかかわって、先進資本主義国における移民労働者と差別問題(たとえば西ドイツにおけるトルコ人労働者)
しかし、昨年からこの様なテーマでの授業で、生徒の反応がいま一つ手ごたえを感じられなくなってきた。なんとなく教師の一人芝居のような感じになってしまう。非常に感覚的な言い方で恐縮なのだが、授業が上滑りをしている感じがするのである。
そこで今年は今までAを授業の中心的課題にしようとしていたのを、@を中心とした授業に重心を移し、さらに生活の中でも衣食住、言葉、通貨などをふんだんに取入れ、授業を展開している。授業のプリントを見ていただければ分かると思うが資料の大半は、この様な内容で埋まることが多い。
今年は世界の人々の生活が分かる資料を、例年以上に教室に持ち込んでいる。生徒が興味を持ち、教室が涌き返るような資料ならなんでも教室に持ち込もう。生徒が喜ぶことならなんでもしようと、少々極端に考えて、実践を進めている。おかげで社会科の授業が面白いといい始めた生徒が段々と増えてきたように思う。しかし「こんなことばっかりしとってええんか?」の問いかけを常にしている。
自称・教材の狩人
私は生徒に自己紹介するときに、「私のキャッチフレーズは、ふたつあって、一つは『教材の狩人』です。」と言っている。過去の卒業生が私に残していってくれた教材の数々を見せながら、「宿題だよ。」といって、「世界に関係のあるものを持って来る。」と言い渡します。私は元来家から一歩出るのもおっくうな性格で、海外旅行などいってみたいとも思わない人間なので、自分の力では何ともしようがないので、いきおい「人のふんどしで相撲をとる」たとえの通りとなる。人からもらったり、借りたりしたもので授業をしています。生徒の保護者の中には、海外出張が多いようで、「先生、サハラ砂漠の砂、家にある。」「へーっ、すごいなぁー。ちょっと見せてーなー。」「でも、返してよ。」といった具合いで資料が集まってきます。もうひとつは私の同僚の先生が海外旅行が好きで、あちこちいっているので、その先生からももらったり、借りたりして授業を進めます。
○○君や××さんが持ってきた資料という固有名詞のついた資料は、汎用タイプの資料集の何倍も生徒の印象に残るようです。
【中華人民共和国】
通貨………これはたくさんの生徒が持ってきてくれました。1960年の一元などがあったりして、「国交回復前の中国のお金やなー。」と話しました。もうひとつ紙幣の裏に5つほどの言葉で書いてあるところがあって、多民族国家中国を説明しました。また「香港の硬貨には、女の人の顔が描かれている。誰の顔やろう。」とイギリスの植民地であることにもここからふれる。
民族衣装………これはイ族の女の子が着ていた物を直接民家から買ってきたというしろもので、同僚の片山先生に借りました。美しい刺繍がほどこされており、生徒に着せてやるとどっと歓声が上がりました。人民帽も片山先生に借りました。生徒の中にも持っているといっていた生徒がいました。
音楽………伝統的な民族音楽ではなくて、現代の歌謡曲のテープです。生徒が持ってきてくれました。適当にテープをかけてみたら、どこかで聞いたようなメロディーです。「これなんやったかなー。」と生徒に聞くと、「しらん。」といいます。思いだしました。『すばる』でした。「あぁー、『すばる』やんか。」と言っても生徒は全く知りません。『襟裳岬』もありましたが、これも生徒は、「しらん。」と言っていました。世代の差を感じてしまいましたが、ここでは「近代化」名目で日本の資本や商品を輸入したり、していることとともに、音楽界においてもその傾向があることを伝えました。
食べ物………「中華料理のメニューから食べたいものを三つ選ぶ」という課題から中華料理の素材の豊富さを強調した。生徒が老酒を持ってきてくれた。
言葉………ニィ・ハォ(こんにちは)、ツァィ・チィェン(さようなら)
【大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国】
民族衣装………K先生が大阪で買ってきたチマ・チョゴリとパジ・チョゴリを教室へ持ち込みました。K先生はこの衣装の美しさ、合理性を授業の中でとりあげておられました。これも生徒に着せてやりました。
音楽………イムジンガンを私がギターを弾き、歌いました。私はもうひとつのキャッチフレーズだと言って、「歌って踊れる社会科おじさん」と宣伝しています。
言葉………アンニョンハシムニカ(こんにちは)、アンニョンヒ・ケシプショ(さようなら)
通貨………ウォン
朝鮮人参(生)朝鮮人参茶、朝鮮人参ガム………食べたい生徒に食べさせました。
【東南アジア各国】
ベトナム………編んだ帽子(ソン?) 歌………『坊や 大きくならないで』
シンガポール、マレーシア、ビルマ………通貨
言葉………タイ
農業………校長室にあるゴムの木を持って行って、傷を入れてみたら、血がしたたり落ちるように白い樹液が流れ出し、一同大歓声、切った本人も余りに流れ出すので、ちょっと心配になった。
【インドネシア】
通貨………動物をあしらった物や、住居、民族音楽を演奏しているところの絵など日本の通貨と違っていて興味深い。
音楽………バリ島のガムランのテープもあるのだが、授業では松任谷由美の『スラバヤ通りの妹へ』を使って、オランダの植民地支配や日本の占領にふれる導入とした。
民族衣装………巻きスカートのような衣装。民族衣装を着た、人形劇の人形を紹介した。
【南アジア】
通貨………教科書にも載っている1ルピー紙幣が担任している生徒からやっと手に入って、大変うれしかった。非常に多様な民族構成になっていることの一例として扱った。
農業………パキスタン産のインディカ種の長米を片山先生からもらったので、これをタイの米づくりの所で紹介した。
以前は紅茶の空かんをいっぱい持ってこさせて、どこで取れたものか、どこでブレンドされるか、ということからプランテーション農業の説明を行ったが、教科書からスリランカが落ちてしまって、近ごろは取り上げていない。「日東紅茶はなぜ安くておいしいか」が書かれてあるパッケージを教材にした。
民族衣装………パキスタン製 イスラム教徒の女性の衣装であるチャドルをこれも借りて、女の子に着せてみた。片山先生のクラスの生徒が男性のかぶりもの(なんていうんだろう?)を持ってきてくれた。
音楽………ビートルズに影響を与えたインドの音楽と言うことで『サージャント・ペパー・ロンリーハートクラブバンド』のB面の一曲目の「ウィズイン・ウィズアウト・ユー」、そしてジョージハリソンがバングラディシュの独立の時、「バングラディシュ難民を救おう」と歌った『バングラディシュ』と2曲扱ったが、生徒の反応はいま一つで、あとで「日本語にして、先生が歌ってくれたほうがいい。」と生徒に言われた。英語への抵抗感があるのかも知れない。一人よがりの教材だった。
食物………特製インド風カレー(ただし牛肉)を作って食べさせた。本当は「本格インドカレー」を作りたくて、香料をいま集めている最中です。
授業では、NHKの『食生活と文明』からインドの食事の様子とカースト制度について教えた。
言葉………ナマステー
【西アジア・北アフリカ】
通貨………イラクの紙幣をコピーすることができた。この紙幣には石油化学の工場の絵が出ていて、いかにもお国がらをよく示している。あとアラビア語で書かれたどこかの国の通貨もいっぱい集まったが、どこの国の物やら全く見当がつかなかった。
民族衣装………パキスタンのチャドルをここで使った。
食べ物………NHK『人間は何を食べてきたか』よりチーズづくりを紹介した。一度チーズをつくってみたいと片山先生と言っているのですが………。
言葉………『やってみる算数』(草土文化)の確率の教材から「アラビア語テスト」20問をやってみた。これは生徒に人気のあるクイズの一つで、最高17問まで正解があった。
生活………金曜日が休日になっているパキスタンのカレンダー。5年前の卒業生がサウジアラビアのヤンブにプラント建設に行っているおじさんからの手紙を持ってきてくれて、今でも大事に使っている。
民族音楽………北アフリカの吟遊詩人的な音楽をかけたが、生徒の興味は余りなかった。
【中央アフリカ】
音楽………中央アフリカのお母さんの子守歌。
ナイジェリアのジュジュミュージックの大御所キング・サニー・アデの「シンクロシステム」など。
飢餓難民キャンペーンのひとつ、『ウィアーザワールド』
南アフリカのアパルトヘイトを痛烈に批判したスティービー・ワンダ
ーの『イッツ・ロング(アパルトヘイト)』、そしてピーター・ガブリエルの『ビコー』(当局に抹殺された黒人運動のリーダーを歌ったもの)も聞かせた。歌詞の内容とともにアパルトヘイトを批判する人々の広がりを知らせたかった。
農業………ロッテの「ガーナチョコレート」からチョコレートの原料、カカオの収穫の様子を比較的詳しく説明した。南アフリカの紅茶を生徒が持ってきてくれたが、これはまだ使っていない。
生活への関心
以上私が授業で使ったいろいろな小道具を紹介したが、かなりの部分は同僚の教師からかりた物、生徒が持ってきてくれた物です。生徒が持って来る事自体がその生徒にとって勉強になっていると思います。
さて、生徒の反応を振り返ってみると、生徒が一番関心を示すのが、食べ物、その国の生活の様子(一月の給料、生活用品の物価)、あいさつ・言葉などであった。音楽は私がライブ演奏した物は評判が良かったが、テープでわけの分からぬ音楽を流した時は成功しなかった。
このような取り組みを通じて、「先生は、今日は何を持ってきたか?」と期待を持って授業を待つ生徒が増えてきたように思う。今年は「楽しい」に重点をおいて実践しているが、このことへの意見を聞かせていただきたい。
実践記録
7.本時の目標
・南北の朝鮮をくらべ、それぞれの特徴について知る。
・工業生産や農業生産は自然条件だけで、決定しないことを知る。
・韓国製品の輸入による日本への影響について考える。
8.準備物
・韓国製品(ソニーのテープレコーダー)
・新聞記事(韓国製品大量輸入、ジャスコ)
9.展開
学習活動 | 指導上の留意点 | 備考 |
1.前時の復習をする。 北の朝鮮、南の朝鮮の正式国名、首都、面積。 2.地形のあらまし、気候を調べて、農業によい自然条件を持つのは、北か南か考える。 地図帳で地形、気候をしらべ、発表する。農業に適しているのは北朝鮮か、韓国か予想する。 3.実際に地図帳で調べ検証する。 米、小麦、じゃがいも牛などについて調べる。 4.北朝鮮は、本当に米作りで韓国に劣っているか、考える。 5.地下資源について、教科書で調べる。 6.工業生産はどうなっているか、同様に調べ、発表する。 7.身の回りの韓国製品を発表し、その影響について考える。 8.まとめをする。 |
・既習の知識なので、できるだけみんな で声を出して、唱和できるようにする。 ・朝鮮の自然環境を調べ、農業の適してるのは韓国であることに気づかせる。 ・北朝鮮は畑作中心、韓国は米作り中心の農業であることに気づかせ、中国と比較もする。 韓国は米の生産量で上回っていることを確認させる。 ・国民一人当りの米の生産量を計算させる。米の自給可能になっている北朝鮮の現状と最近まで「米なしデー」が残っていた韓国の話をする。 ・圧倒的に北朝鮮が上回っていることを気づかせたい。 ・鉄鉱やセメント、コンピューター、テレビ、造船、テレビなどで韓国がアメリカ、日本に次ぐ工業国になろうとしている事を指摘する。 ・農業も工業も自然条件だけでなく、人間の知恵と工夫で生産高などは変わってくることを気づかせたい。 ・最近の円高不況や失業倒産問題にも触れる。 ・まとめと次時の予告をする。 |
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