無理のない総合学習、中学校でのとりくみ

岩本賢治

はじめに

 このレポートを読まれた多くのみなさんは、授業時数あわせや時間割のコマ入れに矮小化された論のように感じられるだろうが、私は次の視点から「総合的な学習の時間」の問題点を考えてみた。

@【深刻な学力の低下】今でさえ授業時数がなく、基礎学力の習得に重大な問題が生じているのに、授業時数と教育内容の大幅な削減によって、教科学習の形骸化、そしてますます学力の低下はさけられないのではないか。   →【授業時数の確保】

A【教職員のリストラ】今回の改訂で大きく授業時数が削減された教科の教職員が、安易に「総合的な学習の時間」の担当者とされたり、人事異動の対象にならないようにする。                        →【教職員の権利擁護】
 また今後は総合学習への非常勤講師の配置、さらに学校のスリム化によって、教職員の定員減が危惧される。

B【過去の実践を生かす】これまで学校で取り組んできた教育実践に確信を持ち、「総合的な学習の時間」をその延長線上におく。今までの学校行事や校外活動、道徳や特別活動を徳目主義的あるいは活動主義的にこなすのではなく、「総合学習」の視点で見直し、学びを中心とした活動に再編する。       →【行事のとらえ直し】

 もとより「総合的な学習の時間」をどうすすめるかを検討する際には、「教科・特別活動の領域を含めた『学校の教育計画の全体像としての教育課程』をどう編成するかの論議が重要です。単に『時間』のプランをどうつくるか、選択教科をどうするか(とくに中学校の場合)に議論を矮小化しないこと」(京教組教文部情報bU)は自明であるが、ここではあえて問題へのアプローチを「98年度授業時数の検討」という狭い視点からはじめる。

 中学校の現場では、まだあまり「総合的な学習の時間」の検討が具体的に始まっていないのが現状だろう。しかし、一方で「時間割はどう組んだらいいのか?」「持ち時間数はどうなるのだろう?」「授業時数が大幅に削減されたが異動させられるのだろうか?」など、卑近ではあるが、教科担任制の中学校の教職員にとっては重要な不安があるのも事実だ。

 「総合的な学習の時間」の問題を身近なことがらから議論を始め、今日の教育改革のねらいと我々のたたかいの方向を見通してみたい。

 なおここでは「総合的な学習の時間」と従来からとりくまれてきた「総合学習」は似て非なるものとして、上記のように「」で区別して表記する。


子どもたちに基礎学力を保障するため

 今回検討したA中学校は、98年度には、第2学年では各教科とも上限をとり、選択教科は実施していない。第3学年では、保健体育の授業時数は下限の105時間で、この1時間分を選択教科の時間に当てているが、個人選択ではなく、学校選択で音楽科と美術科を隔週交代で実施した。(99年度は保健体育を下限にし、1時間の選択履修をしている。)

 98年度の月中行事から各学年の実授業時数をカウントしたものが下の表である。

明石市立A中学校 98年度 学年別授業時数調査

教科

現行と改訂後の比較

  は98年度本校実施時間数)

98年度授業時数実績

(テスト時間はのぞく)

98年度実績−改訂後授業時間数

国語

1年

    175→140

135

77.1%

− 5

2年

    140→105

109

77.9

+ 4

3年

    140→105

 100

71.4

− 9

社会

1年

    140→105

110

78.6

+ 5

2年

    140→105

108

77.1

+ 3

3年

 70〜105→ 85

74

70.5

− 9

数学

1年

    105→105

 79

75.2

−26

2年

    140→105

107

76.4

+ 2

3年

    140→105

99

70.7

− 6

理科

1年

    105→105

78

74.3

−27

2年

    105→105

78

74.3

−27

3年

105〜140→ 80

 104

74.3

+24

音楽

1年

     70→ 45

52 

74.3

+ 7

2年

  35〜70→ 35

52

74.3

+17

3年

     35→ 35

26

74.3

− 9

美術

1年

     70→ 45

54

77.1

+ 9

2年

  35〜70→ 35

51

72.9

+16

3年

     35→ 35

26

74.3

− 9

保健体育

1年

    105→ 90

77

73.3

−13

2年

    105→ 90

75

71.4

−15

3年

105〜140→ 90

76

72.4

−14

技術家庭

1年

     70→ 70

53

75.7

−17

2年

     70→ 70

54

77.1

−16

3年

 70〜105→ 35

75

71.4

+40

英語

1年

105〜140105

104

74.3

− 1

2年

105〜140105

109

77.9

+ 4

3年

105〜140105

100

71.4

− 5

 この統計によって98年度実施時数を指導要領のしめす年間標準授業時数と比較すると、ほとんどの教科ですでに満たしていないか(60%の教科)、満たしていても数時間オーバーする程度で、仮に改訂後に現行通りに実施したとしても大きく授業時数が上まわるのは、現在上限をとっており現行時数からの削減の幅の大きい第3学年の理科(27時間)・技術家庭科(40時間)、第2学年の音楽科、美術科(ともに16時間程度)であることがわかる。現行でさえこのような状態なのであるのに、さらに「総合的な学習の時間」が週2時間時間割に位置づけられたら、授業時数の確保がさらに難しくなるのは必至である。

 新指導要領が標準とする授業時数を確保しようとすれば、改訂後もおおよそ現行の指導要領のしめす週あたりの授業時数を時間割上で確保する必要があることがわかる。

 98年度の実質授業実施率が約75%であるから、たとえば私の担当する社会科などは、各学年週3時間(年105時間)→週3時間(年105時間)→週2.4時間(年85時間)と時間割に位置づけて1年間授業したとすると、80→80→65時間程度に激減してしまう。これではとても文部省学習指導要領のいう「民主的,平和的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」ことさえも不可能であろう。

 「1年で社会科週4時間というような時間割をつくってもいいのか?」という疑問が生まれるが、もちろん「可」である。文部省は指導要領で「各教科,道徳,特別活動及び総合的な学習の時間(中略)の授業は,年間35週以上にわたって行うよう計画」するよう求めているが、同時に「ただし,各教科等(特別活動を除く。)や学習活動の特質に応じ効果的な場合には,これらの授業を特定の期間に行うことができる。」とも述べ、教育課程審議会「審議のまとめ」でも「各学校においてこの時間(注「総合的な学習の時間」)を展開するに当たっては、ある時期に集中的に行うなどこの時間が弾力的に設定できるようにする」と述べている。「総合的な学習の時間」をある時期に集中的に行えば、当然行わない時期は通常の教科学習が多く実施されることは言うまでもない。だから、○○科は週○時間の授業と従来のように考えるのではなく、○○科は年間で105時間の授業時数を目途に授業を行うと考える方が妥当性があるわけだ。


授業時数の削減と総合学習の方向性

 さて、2002年からは週あたりの授業時数を時間割上30時間を28時間にしなくてはならないため、コマ数で2時間分削減しなければならないが、次のように計画してみてはどうだろうか。(注:このあたりは検討を要する)

 1・2年は音楽科・美術科はそれぞれ週1時間と隔週交代で音楽(0.5時間)・美術(0.5時間)を実施し、時間割の表示は美/音と表示する。第3学年では、技術家庭科で週3時間→週2時間に削減、理科も週4時間→週3時間に削減する。

 第1・2学年でもう1時間時間割上で削減しなければならないが、どの教科を削減するかの結論は職場の議論にゆだねなければならないだろう。本校では国語(1年)、社会、数学(2年)、保健体育、英語などが候補としてあがるだろうか。

 なお、選択教科は2年生では実施せず、3年生では1時間だけの実施と計画している。

 結論として、総合学習は週程表のなかに週○時間と位置づけるのではなく、校外活動や行事の際にまとめて取り組むことにする。

 「総合的な学習の時間」は「ある時期に集中的に(中略)弾力的に設定」してよいわけだから、今までの校外学習(1年)、修学旅行(3年)、ことによればトライやるウィーク(2年)をも含めて考える。内容は今まで民間教育研究運動のなかで培われてきた「総合学習」のよきものを取り入れ、調査、体験、交流、報告、討論といった方法を授業に組み込みながら、すすめていくことができるだろう。その際に子安潤氏の「学びを総合的で探求的に組織する際の視点・方法をいくつか提案」が参考になる。(『共同でつくる総合学習の理論』フォーラム・A)

   A インパクトのある事実・事象を示す。(例えば、エイズについてのビデオなど。)

   B その中から疑問を引き出し調査する。この時、なぜそれを調査するのか、個人

的理由を明確にする。

   C 調査は、文献研究だけでなく、関係する人々へのインタビュー・手紙などを通

じて行い、可能な限り直接的な交流を追求する。

   D 調査で明らかとなったことに対する意見形成を促し、討論を組織する。

   E こうした調査・討論の結果を学習共同体の外に向かって発信する機会を設ける。      

(例えば、学習発表会・文化祭や新聞への投書など。)

   F 取り組み全体を総括する。

 このようなとりくみで「総合的な学習の時間」の時間数としては、35時間程度となる。

 残りの35時間であるが、これも今までに道徳や学級活動の時間に取り組んできた人権、平和、進路学習、性、福祉・障害、環境教育、映画会、意見発表会、わたぼうしコンサートなどを少しふくらませてみるとよいのではないか。昨年もエイズの学習(人権学習)をしたあとで、「もう1時間欲しかったですね」という声があったが、月中行事を組むなかで、学活(水曜日)と道徳(金曜日)で週2時間にプラスして、木曜日の6時間目を「総合的な学習の時間」にふりかえて3日間連続の人権学習を計画することもできるだろう。「総合的な学習の時間」を通常の時間割に組み込むのではなく、教科学習を主とした通常の時間割に「総合的な学習の時間」を投げ入れるのである。

おわりに

 「総合的な学習の時間」の「課題や内容づくりにあたっては、これまでの各学校の実践や研究に光を当て、教育課程上の位置づけを明確にしながら、その延長線上に構想する。すぐれた実践は必ず『総合的』なものになりうる。」我妻秀範氏の指摘の通り、先を急がず、あわてず、バスには乗り遅れてゆっくりじっくり検討していきたい。