神戸朝鮮人学校事件 掘りおこしの教材化研究


<歴史教育者協議会第29回秋田大会第3分科会 近現代史分科会提出レポートより>

◎はじめに
 <去年の大会報告号から>
 本報告は、昨年当分科会に提出した「神戸事件・・神戸における在日朝鮮人の民族教育を守るたたかい」を、その後発展させたものである。昨年の報告は、「さほど知らざれる地域の歴史の掘りおこし」であり、そして「未だ教室実践の行なわれたものでないという強弱両面」(大会報告号、P.55)をもっているものであった。よって、「未だ教育実践がなされたものではない」という「問題点を克服することが、来年の課題」(P.57)として残され、「残された課題をふまえた実践報告を来年度の大会に期待」され、「本分科会参加者・報告者のその後の実践を心待ちに」されていたのであった。
 この課題にこたえるために、私たちは事件を教材化し、教育実習という特殊なかたちではあるが、実践した結果をもって秋田にやってきた。教材研究にいたる過程の可否、教材編成の視点の可否、教材の叙述の可否等等、十二分に検討していただきたい。
 なお、大会報告号にまとめられている昨年の報告の「意義」を参考のために引用しておく。
 「………(『神戸事件』は)戦後における朝鮮人への圧迫をとりあげた歴教協最初の報告だったことである。従来からも歴教協は朝鮮問題を早くから問題にしてきたし、戦後における問題を論じたものも少なくない。しかしねこと国家権力による在日朝鮮人圧迫に関しては、圧倒的に戦前の例のみばかりで、戦後史のなかからの報告は、この報告をもって口火とせねばならない。ここにまた一つ欠落していた戦後史の部分が、補充されたその意義は多とされねばならない。」(P.56)
 <なぜ在日朝鮮人運動を重視するのか?>
 「朝鮮を正しく教えよう」日本の子どもたちに正しい朝鮮像、朝鮮人民像を育てなければならないことは、戦前における日本と朝鮮の不幸な体験をふりかえるとき、特に重要に課題であることがわかる。
 「たとえば、朝・日関係の近現代史を教える場合、『日本人はアレも殺した、コレも殺した』というような教え方ばかりしていて、日本人の生徒たちが自分たち日本人について誇りをもつだろうか。また朝鮮人に対しても『いじめられたんだナ、可哀そうな民族だ』という同情はしても朝鮮民族に対して尊敬の気持をもつようにならないんじゃないか。(中略)朝・日民族にとって、もっといい側面・・朝鮮人は解放のために闘ったし、日本人民にもそういう朝鮮人民と連帯して闘った人々もいるんだという事実を積極的にほりおこし、それを教える必要があるんじゃないか。加害の事実は事実として教え、同時に連帯の観点が大事だと思います。(日朝協会大阪府連編『民族教育と在日朝鮮人問題』P.203)
 これは東大阪朝鮮中級学校校長、キム・ホンギュ氏の発言である。歴史教育の課題がよく示されていると思う。私たちの場合、朝鮮民族の解放のためのたたかいを、民族教育の権利を守る運動を中心にほりおこすこと、そしてそれに対する日本人民の連帯したたたかいをほりおこすことを課題としていた。残念ながら後者は、十分教材化するほどにほりおこせていない。
 ところで日朝人民連帯の歴史を明らかにするためには、日本にいる日本人民が朝鮮人民を支持し、たたかった歴史を明らかにすること、そして朝鮮等にいた日本人民が、朝鮮人民とともにたたかった歴史を明らかにするとともに、日本人民と日本にいる朝鮮人、つまり在日朝鮮人とが、どのように共同のたたかいをくみ、どのように連帯の精神を育んでいったのかを明らかにすることもまた有効な方法であろう。
 なぜならば在日朝鮮人は、もっとも近くにいる朝鮮人民であり、二本人民は直接の知覚によって、彼らから「朝鮮人民像」を形成し、朝鮮についての思想を育てるからである。ある意味では、在日朝鮮人は、日本人民の朝鮮認識の窓口になる。
◎神戸事件の教材化への方向性
<1976年10月9日、歴史・歴史教育研究会の合宿のレジュメから>
1.教材化をどう進めるか
 まず、神戸事件に限らず、地域史の教材化(但、投げ込み教材としての)をどのように行なっていくかを一般的に考えてみよう。下に示した図はその私案である。検討願いたい。

第一段階 素材選び その時代を具体的に反映した事件であること。
・現代的意義をもつもの。
第二段階 素材の研究 ・フィールド
・文献考証
・事件の背景
素材の意義 ・その時代における意義
・現代における意義
教材としての意義 ・教材から何を教えるか
・教育的配慮
・子どもの認識
第三段階 ・他の教科との関係 ・内容の選択
・教材化 ・文章化
・授業の組み立て
・教材を使って、どのように教えるか

2.教材としての「神戸事件」
 @いつ教えるのか
 現在のカリキュラムでは
    小学6年   社会
    中学     社会科歴史的分野
    高校     日本史
 が考えられるが、ここでは中学歴史的分野を考える。
 A何を教えるか
T)戦後アメリカの極東政策
・日本の民主化の本質
・アメリカ帝国主義に対するアジア人民のたたかいの一環として
・日本民主化闘争の一環として<誤った考え方(?)現代の総連によると>
・朝鮮戦争を身近でとらえるため。
 《問題点》
・中学生に、当時のアメリカ、日本内部、朝鮮、朝連の関係が理解できるか。U)在日朝鮮人あるいは朝鮮についての学習の一環として
・日本の朝鮮支配、強制連行から戦後の朝鮮民主主義人民共和国成立までの朝 鮮人民のたたかいの一例として
V)日朝人民連帯のたたかいとして
 《問題点》
・掘り起こしが不十分この間まではこじつけになるおそれあり。

(続)