好きこそものの上手
                    社会科の勉強法
憲二:先生!どうも社会科の勉強方法がわからなくて,困っているんですけど,教えていただけますか?
先生:あぁ,いいよ。法子さん,君も社会科が苦手なの?
法子:はい,何か覚えることが多くて,頭の中がごちゃごちゃしてしまって,勉強はしているつもりなんですけど,なかなか点数がとれないんです。
憲二:僕は,歴史は好きなんですけど,地理は地名や産物が全然頭に入らないし,公民は政治に関心があまりなかったので,先生が何のことをいっているのかわけがわからなくて,何を覚えたらいいのか,迷ってしまうんです。
          自分の勉強法は自分で
先生:そうか。でもね,君たち。君たちは,勉強方法に悩むほど勉強しているのかな。
「勉強方法がわからない」と言っている生徒にかぎって,先生が考えているほど勉強していないんだ。何かをわかろうと一生懸命やっていれば,おのずと自分の勉強のやり方は見つかるし,身についてくるはずだよ。
やり方は人それぞれ違うだろうし,こういう方法をやりさえすれば成績が上がるというものなどありません。勉強方法はあれがいいかな,こうやったらいいかなと,自分なりにつかむものだからね。
毎日毎日,どれくらい勉強して,それを何日間積み重ねているか,自分に問いなおしてみてごらん。
憲二:先生,最初からえらく「キ・ツ・イ」ですね。
先生:ハハハ,まあそうふくれるなよ。
そうは言っても,物事を覚え,知識を増やしていく工夫はあるから,教えてあげよう。
法子:そうこなくっちゃね,憲二君。でなけりゃ,私たち叱られにきたみたいですもの。
憲二:そう,そう。
先生:憲二君。「好きこそものの上手」という言葉があるね。まず,社会科の成績を上げたかったら,社会科を好きになることが1番じゃーないかな。
そのためには「なるほど,これはおもしろい」と思えるものを見つけるまで一人勉強を頑張ることだね。
それと歴史だったら「学習まんが」や「歴史小説」「歴史漫画」をみたり,テレビでもNHKの大河ドラマを見たりするのもいいよ。
勉強は漫画でもドラマでも
憲二:何か推薦の本なんかありますか。
先生:「学習漫画」なら小学館の「まんが日本の歴史」がいいだろう。特に19巻20巻のストーリーは,先生の尊敬する歴史研究者,故・黒羽清隆さんの手になるもので最近の歴史学の成果を取り入れているすばらしい作品だね。それから1番新しくて,1番ストーリー性があって,名も無き民衆の生活が描きこんであるのは,大月書店版「まんが日本の歴史」だ。これも推薦するよ。誕生日のプレゼントの全巻贈ってもらうなんてことがあればいいね。
 「歴史漫画」はやはり今は亡き手塚治虫さんの「火の鳥」をはじめとする作品がすばらしいし,池田理代子さんの「ベルサイユのバラ」「女帝エカテリナ」「エロイカ」などがたいへんよく調べて描いた作品だから,参考になると思うよ。
 歴史小説は図書室にたくさんあるから,片っ端から読んでいけばいいでしょう。いい作品が一杯だから,どれを読んでも「ハラハラ・ドキドキ」まちがいなし!と言ったところだ。
憲二:僕は「はだしのゲン」が大好きなんですけど。
法子:私は「日の出る処の天子」を読んだことがあるわ。漫画を読んでいると,歴史の勉強にもなるし,なにか自分も歴史の中にいるような気がして,おもしろかったです。
先生:そうだろう。「歴史を勉強していて,いろいろな人の人生を見たような気がする」
と歴史の感想を書いていた生徒がいたよ。
 それとね,社会科が好きになって,社会科の成績を上げようと思ったら,社会科の先生を好きになることじゃないかな。「足が長くて,格好いいから好き」とかね。
憲二:先生,それはちょっと「ゴウイン」じゃないですか。
法子:そーそー!
先生:そうかな……???でも先生を好きになると,その勉強が好きになるというのは,本当のことだよ。
 先生も社会科の先生になろうと思う前は,英語の先生になろうと思っていたんだけど,
それは高校1年生の時の中村先生の人柄が好きだったから,先生にあこがれて,「英語の先生になりたい!」と思ったんだよ。
法子:でもなんで,英語の先生じゃーなくて,社会科の先生やってるんですか。
受験には岩波の『日本の歴史』がいいと……
先生:よくぞ聞いてくれた,
法子さん。それはな,こういうわけなんだしゃー。
憲二:先生,どうして急になまるんですか。
先生:まあまあ。
 高校3年生の時に「受験には岩波新書『日本の歴史』がいい」と聞いたので,買って読んでみたんだ。井上清という京都大学の教授が書いた本なんだけど,教科書にはあまり書かれていない「土一揆」「百姓一揆」「自由民権運動」など民衆のいきいきした姿に,感動してしまったんだね。ワクッ,ワクッなんて。
 それで,「教科書に書いていない,本当の歴史があるに違いない。大学へ行ってそれを研究したい。」と思って,大学へ進学したんだ。大げさにいえば,真理を見つけるために進学したんだね。
憲二:へー,先生にもそんな若い時代があったんですね〜。
先生:コラッ!
法子:でも,「本当の歴史を知りたいから,大学へ行く」なんて,いいですねー!
憲二:大学に行くためには,受験勉強で細かいことをたくさん覚えなくてはいけなかったでしょう。どうやって勉強していたんですか。
ラジオ講座で粘り強さを
先生:そろそろ,本論へ入ろうか。
  先生は塾へは一度も行ったことがないんだ。行きたくてもそんなもの近くになかったし,お金がたくさんかかるし,時間もかかるし,自分で勉強した。
 まず,@英語や数学などはラジオ講座をよく利用したよ。「百万人の英語」「旺文社大学受験講座」などだ。録音もしたけど,放送しているときにしっかり聞こうとしていないと,いつのまにか「また今度聞けばいい」となってしまって,結局やめてしまうことになる。だから,放送の時に聞く・見るが継続できる絶対条件だと思うな。
 「百万人の英語」の中で自分の好きな英語の歌がかかって,訳詩をしたらゴキゲンだったし……。結構楽しめみながら,しかも途切れずに頑張ったもんだよ。この勉強で,粘り強さが身についたね。
 そして先生の場合は,参考書はお金がかかるから,いちばん安くて,いい参考書をよく利用したんだ。
           金のかからない参考書
憲二:先生,ケッ・コー・セコイですね。
 で,安くて,いちばんいい参考書ってなんですか。
先生:教科書だよ。
法子:なんだ教科書ですか。
先生:なんだじゃないだろう。A教科書はいちばん安くて,一番いい参考書じゃないか。そして,入試問題とはいえ,この教科書から問題が作られるんだよ。だから,教科書はじっくりかみしめるように読む。欄外の脚注ものがさず覚えた。
 歴史小説や漫画や新聞は速読・多読だけど,教科書は精読するんだよ。
 一人勉強で一通り覚えたら,次はB友達と問題の出しあいをして,競争するんだ。「日本に仏教が入っていたのは何年か?」「538年!」とね。お母さんに問題を出してもらって,お父さんとクイズ合戦で競争して,おこづかいの賞金をかけたりして……。
憲二:そりゃいいですね。
先生:でも間違えたら,罰金!
憲二:……。
先生:冗談はさておくとして,友達や家族と一緒に勉強すれば,勉強はできるし,受験勉強の孤独感から救われるし,一石二鳥だね。
  そして,とにかく問題にも慣れないといけないし,大体出やすい問題は決まっているし,問題をたくさんやっていれば,同じような問題が何回も出てくるから,それがわかってきたんだ。テスト前にやった問題と同じ問題が定期考査に出てたなんてことも何回もあったね。
 それから問題集はあまり分厚いものを選ばずに,ちょっと薄めのを選ぶ。
 大事なことは,×になったところを大切にしていくことだ。わからなかったことがらがが「わかった」のだから,そこを徹底的に復習すればいいわけだ。数学などは,同じ問題集を何回かやったね。
           さくいんを利用しよう
  「何がわからないかが,わからない」というみんなの場合は,教科書の後のほうにある,「さくいん」を利用するのもいいよ。

 これは1人でも,2人が組んでやってもいい。まずさくいんをつぎつぎと見ていって,
わかるところはパスします。わからない項目が出てきたら×印をつけます。1ページが終わると×印の項目のページ数を見て,その箇所を通読します。この時,メモをとったり,アンダーラインを引きません。とにかく大脳にたたきこむのです。×印の全項目が終わると,次のページに進みます。
 同じ作業をして,2ページから4ページくらい終了したら,また初めに戻ります。
 同じことをもう一回行ないます。その時になって,すでに記憶を失っている項目だけ×印をひとつ加えます。2ページしたら,××印のところだけ,調べ直します。
 この作業を全さくいん項目にわたって見渡してしまったら,また最初にかえって,2・3日たってからやり直すとまた×××印がつくでしょう。
  またやってみて,それでも記憶できない項目は黄色印を,それでもすぐ忘れる項目には,赤印の線をつけるのです。××印や黄色,赤色によって,自分の大脳の記憶の確実度を知るのです。
 年号や事件名,人物名の点検に使ってみてください。

(『どの子もできる勉強の仕方・させ方』君和田和一,三和書房より)
 とにかく暗記術の極意は,「なんども繰り返し覚えること」だから,結局短気な性格より,気の長い粘り強い人が,成績が上るんじゃーないかな。
憲二:自分の好きなことなら,長続きするんだけどなあー!
先生:だから,「好きこそものの上手」だよ。
 それじゃー,この本を君たちに貸してあげるから,勉強法を勉強してごらん。
法子:ハイ!今日はどうもありがとうございました。夏休みは今までの総復習で頑張ってみます。