[カシュパーレクの変化とチェコの歴史]

今回カシュパーレクについてのいろいろな方からの情報によって、カシュパーレクの姿が見えてきた。 カシュパーレクは今も昔も道化の役をこなし、※スラップスティックコメディーのヒーローであることに 変わりはない。しかしその役にも少なからず言動の違いが見られた。

以下に簡単にカシュパーレクの変化を示す表をまとめる。

カシュパーレクの変化

1性格

2観客の身分

3年齢

4見た目

5観客の年齢層

6服装

7帽子

8劇中の立場


人形の概観は非常にリアルで、背の低い老人と決まっていた。この姿は滑稽な道化をよくあらわし、 それに皮肉られる支配者層をいっそう小ばかにする趣旨で使われていたのだろう。庶民の欲求不満を 一手に引き受けていたカシュパーレクが想像される。はじめは脇役だったから、道化と判ればそれで よかったのだろう、服装も統一されなかった。客層は大人から子供まで、幅広い年齢層だった。それは 誰でも見ることができる劇だったからだが、子供用の劇がなかったからと言い換えることもできる。 そこで19世紀、啓蒙思想の流入により子供向けの人形劇を作るという発想が生まれ、カシュパーレクは そこで主役を張るようになった。彼の年齢や外見は一つ一つ違うが、服の色が統一され、 “カシュパーレク”は一目でそれとわかるようになった。子供向けになったからか、それとも皮肉を 言わなくなったせいか、顔立ちもかわいいものが多くなった。たまにはアレンジされてまったく わからないものもいるが、それもまた特徴をよく引き出した人形になっている。

支配下にあるときは、スラップスティックコメディーの間に支配者層の皮肉を言う役を引き受けていた。 母国語を満足に話せない状態の中、チェコ人しかわからないようにチェコ語でしゃべり (チェコ語は難解で他民族にはほとんどわからなかったようだ)、聴衆の鬱憤を晴らしていた。 だがそんな窮屈で屈辱的な支配から解放されると、カシュパーレクは風刺などのブラックユーモアから、 とんちで笑いを取るようになった。もちろん、本来カシュパーレクはとんちを使っていたし、今でも 彼の気に食わない(観客が気に食わない)人物の皮肉を言うこともあるようだが。

その理由は皮肉る相手を失ったことにある。支配層が消えてしまってからカシュパーレクは ブラックユーモアを言う必要がなくなった。ブラックユーモアを必要としていた大人の観客に替わって 子供むけの人形劇で主役になり、子供に受ける劇を演じるようになったのだ。

※スラップスティックコメディー…複数の登場人物が出てくる劇中で、相手の人形に暴力をふるう 下品なコメディー形態。人形が相手をたたくために持っている棒をスラップスティックと呼ぶことから 命名された。


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