覚えようと考えていられたのは最初だけだ。
すぐに何もかもがイルカの羞恥心の許容量を超えて、戸惑うばかりになってしまった。
それでもカカシの手は止まらず、まごつくばかりのイルカを追い立てていく。服も、脱ごうか迷う暇もなく脱がされて素肌に触れられた。
ただでさえ、カカシに触れられるだけでも気分が浮き立つのに、普段でない触れられ方をして、冷静でいられるわけがない。
焦って、もうすこしゆっくりして欲しいとうわ言のように頼んでも、カカシからの返答はなかった。
手のひらとざらついた舌が肌をなぞっていくだけだ。
いつか言われた、臭いという言葉が頭をかすめ、いまさら身をよじって言い訳を口にしようとすれば、腰を掴まれてベッドの中央まで引き戻される。
背中から体重をかけられ、押さえ込まれて耳朶に囁かれた。
「なに、いまさら」
イルカの身が竦む。
声が冷たかった。
あの、といいかけて言葉が詰まる。
だって、分かっていたじゃないか。
カカシにとっては、頼まれて厭々やっていることだと。
趣味でもない同性を抱く、しかも容姿は十人並みで鼻傷があり酷い顔といわれ続け、臭いとまでいわれた男だ。
口ではとやかくと煩くても、カカシ本来の面倒見のよさにつけこんで、自分の想いを果たそうとしている浅ましい男だ。
すいません、と無意識に言っていた。
「は?」
「ごめんなさい、すいません、本当に、ごめんなさい」
「ちょっと…」
顔がみっともないことになっている気がして、シーツに押し付け腕で抱え込む。
服を全て脱がされていたのもいけない。
自分を隠すものがなにもない。
全部、暗闇のなか、
自分ひとつだ。
冷たい声が、冷や水のように一気に羞恥を思い出させたのかもしれなかった。
こんな自分で申し訳なく、イルカはただ頭を抱えて身を丸めた。ごめんなさい、と呟きながら。
呆気にとられたようだったカカシは、しばらく黙っていた。
やがて、大きなため息が聞こえ、抱えた頭へ暖かい手のひらが置かれたのが分かった。
手のひらは、二度、三度とイルカの髪を撫でた。柔らかく。
だから言ったでしょう、とカカシが言うのを聞いた。
「…好きな相手とやるのが一番だって。もともとアンタは、好きでもない奴とこんなこと、できる人じゃないでしょう。…いいよ、ここで止めときましょう。用意したものは全部持って帰りな。このことはなかったことにして―――」
「違います! そうじゃなくて…!」
撫でる柔らかさが遠ざかろうとした気配に、イルカは言葉を遮って顔を上げた。
ベッドから降りようとしていたカカシの腕を、とっさに掴む。
暗闇のなか、肌の輪郭がぼんやりとわかる程度で、表情は分からなかったが、きっと呆れている。
自分から強請ったくせに、いまさら、本当にいまさら怖気づいた男だと見下げられているだろう。
違う。
イルカが怖くなったのは、カカシがいう理由などではなくもっと、小さい、卑屈なことだ。
「そうじゃ、なくて、俺は…その」
いえなくて口ごもると、カカシは手を振り払うこともせず、ベッドの傍らで留まってくれた。
言いづらく、待たれているから早くいわなければと焦るだけ、自分から変な臭いがたつようで余計に焦って、あの、とその、ばかりをモゴモゴと繰り返す。
カカシは上半身だけが裸のようだったが、イルカは全身だ。
長話をする格好ではない。
室内は充分に暖かかったが、それでもずっとまごついていれば、肌寒くもなる。
カカシが痺れを切らせたのは、充分に待ったあとだった。
「…あのさ、言いにくいことなのは分かったから、とりあえず、アンタは布団のなか入りなさい、いいから。服も着るんなら着て。風邪引く」
ため息を堪えているような呆れ声。
けれど布団に入るためにはカカシの腕を手放さなくてはならず、それをしてしまうと、カカシが今度こそベッドを離れ、こんな馬鹿馬鹿しいことには付き合いきれないと行ってしまう気がした。
それが嫌ですぐに動けずにいると、再度入りなさいと促され、ずり落ちかけていた布団へと手を伸ばしてカカシはめくり上げてみせさえした。
それでも俯いていると、カカシはため息を隠そうとせずに吐き、どうしたの、と言った。
「俺の腕掴んだままで黙ってちゃ、俺も分かんないよ。どうしたいの。俺にどうさせたいわけ。俺としちゃ、大人しく布団に入ってて欲しいところだけどね、今は」
「……その、向こうとか、行きますか」
「は? 別に行かないけど。行ってて欲しいってこと?」
「いえ。そんなんじゃ…」
「じゃあ入んな」
あっさりとカカシは言い、緩んだ手のひらを解き、イルカを布団のなかへと転がした。
ぎゅっと首元まで柔らかいものに包まれる。入ってみてはじめて、肌が冷えていたことに気づいた。
カカシは言葉どおりにベッドの傍らに留まっていて、イルカを包んだ布団を、上から軽く押さえている。
まるで見ていないとイルカが布団から抜け出すと思っているかのようだった。
「あの…」
「ん。なに」
「…カカシさんも寒いんじゃ」
「俺のことは心配しなくていい。…あったかい?」
訊かれたから、はい、と答えた。
けれど全裸で完全に落ち着けるわけではない。
布団で顔を埋められながら、弁解するように言った。カカシが先ほど言ったように、黙っていては始まらないのだ。
「あの、俺…その、服着てないんで…」
「知ってるよ、俺が脱がしたから。んなことよりちゃんと布団全部かぶってるの。足とか出してんじゃないでしょうね」
「いえ、それは大丈夫です。ありがとうございます。…じゃなくて」
そもそも、やろうとしていたことはイルカだけ布団をかぶっていてもしょうがないことなのに。
カカシはイルカの態度にやる気をなくしてしまったのか、小言がでるようになっている。
これが最後のチャンスだというのに。
「違うんです。俺がすいませんといったのは、カカシさんが相手だからとかなんかじゃなくて、俺の問題で、その、カカシさんが以前おっしゃっていた、俺が、」
くさいから、という音は布団のなかで半分以上消えてしまった。
イルカが言ううちに布団のなかに逃げ込んだから。
「は? ちょっと、聞こえなかったんだけど」
布団のなかで、嘘だと思う。カカシの優秀な耳で聞こえないはずがない。
口にだすと余計にダメだ。絶望的だ。ヤケになった。
「お、俺が臭いから、カカシさんが嫌だろうと思って…! もう、あの、いろいろしなくてもいいですから! 俺にできることだけ教えて下されば…っ」
そうだ、舐められたりとかしたのがいけない。
だいたいカカシがそんなことをするなんて、想像していなかった。
そんな普通の睦み合いのような。
むしろイルカがカカシに奉仕したいのに。
布団に潜ったまま、大声といかないまでも聞こえるように声を出す。
「口でできることとか、手とか、色々、俺、がんばりますから…っ」
だが、返事はなく、かわりにぽすぽすと布団の上から軽い衝撃があった。
そして布団がめくられ、イルカの顔の部分まであらわにされた。
暗くカカシの表情は分からないが、覗き込まれていた。
「アンタ、そんなこと、気にしてたの」
「……そんなこと、なんかじゃないです」
「そうだね。俺が悪かったね、無神経だった。ごめんね」
また、ぽすぽすと宥められる。驚く。まさか謝られるとは思っていなかった。
以前に臭いからと遠慮したことがあったが、あのときは「そんなことを気にするなら体調管理をしっかりしておけ」と一刀両断されたはずだ。
カカシの指が、布団のなかで乱れたイルカの額髪を、なんでもないように梳いて整えていく。
しぐさが丁寧で、柔らかく毛づくろいをされているようだった。
とんでもなく心地よい。
「そうだね、今日のアンタは念入りに風呂入ってきたのかな。匂いがほとんどしないよ。気にしてるなら安心しな。大丈夫」
髪をなでつけ終えた指がイルカの耳朶の後ろをなぞり、耳の輪郭を撫でていく。
背筋がぞくぞくとする。
「あん時は、ちょっと汗の匂いがしてただけだよ。そんなに気にするとは思ってなかったんだ、本当に悪かったね」
「…忍びですから、気にします」
「そう」
「汗臭いとか、言ってくだされば…臭うっていわれたから、俺…」
声が上擦りそうになって、口を閉じた。カカシの指が耳朶を弄んでいて、さきほどから意識がそちらに取られて仕方が無い。
「言葉が足りなかったね。まあ人の汗の臭いって、受け取る奴によって良い匂いになったりそうじゃなかったりするからね。匂わないほうがいいでしょ」
「まあ…そうですけ、ど…、…」
指がとうとう離れていった。
さんざん人の髪や耳朶や首筋を撫でて、焦らすように離れていってしまった。
暗闇のなか、輪郭だけがほのかにわかるから、未練たらしく視線で追いかける。
自然と仰向けになっていた。カカシがベッド際に腰掛けてイルカを覗き込んでいた。
気持ちが先ほどよりずっと楽になっていた。
「抱いてもらっていいですか?」
言葉がすんなりと出てきた。
息を吐くような微かな笑い声がカカシから漏れ、苦笑されたのだと分かる。
「…いいよ。最初からそういう話しだったけどね」
暗闇のなか布団がめくられ、冷たい外気が素肌に触れてきたが、すぐにカカシが入ってきたことで寒いと感じる間はなかった。
途端に心臓が跳ね上がる。仰向けで、上にカカシが重なっているから、まっすぐに見下ろされているわけで、咄嗟に顔を横に向けた。
首筋を、カカシの爪の平らな部分が滑っていき、肩が反応して動く。
おかしい。
こちらの反応を窺うような仕草は、最初の戸惑うしかなかった性急さと全く違っている。
「また、何か考えてそうだけど」
「……」
身体を硬くしたイルカへ、からかうように囁かれる。
「さっきは急ぎすぎたからね。今度はゆっくり、してあげる」
言葉通り、それからのカカシは、普段みせていたそっけない態度など忘れるほどに、優しさを含んだ丁寧な愛撫でイルカに触れてきた。
イルカが、もういいですからと言っても、まだ、と譲らず、くすぐったさや恥ずかしさも消えて息が切れるようになるまで、しつこいほどにイルカを撫で、唇で触れ、舌で湿らせた。
しかもイルカは全裸にされているのに、下半身には適当に触れるだけで、それならばとイルカからカカシへ手を伸ばして奉仕しようとしても、ダメとやんわり避けられる。
「カ、カシさん、俺にも」
「ダメ。俺だって男は始めてだし、勉強させてもらってるの」
「そんな。もう、だって」
充分あちこち、主に上半身を試したはずだ。それに、カカシに触られていてイルカの下半身が何も反応していないわけがなく、それをカカシは分かっているはずで、もう泣きそうだ。
意地悪をされているに違いないとまで思う。
色々と弄られているうちに、目減りしていた体力も不安になる。
胸が苦しく、カカシからの刺激にすぐに息が上がるのも、愛撫のせいばかりでなく、堪える力が少ないからだろう。
四肢に力が入りづらく、このままではカカシに奉仕できなくなってしまう。
「俺も、カカシさんに…」
「だからいいよ。そんなこと気にしてる余裕があるのは、俺のやりようが足りないからかな?」
こちらは半ば必死に声をあげているのに、余裕があるのはカカシのほうだ。
機嫌の良さそうな軽い声でイルカの背中に口付け、指先は胸元で好き勝手に弄っている。
泣きそうなイルカと全然違う。
「よ、余裕なんて」
「…まあ、アンタの体力がいつまで、ってのもあるからね。あんまり遊んでられないか」
「ぇ…?」
途端に、イルカは急かしたことを後悔した。
だって、カカシの頭が、下に。
布団はもうずり落ちていて、暗闇になれてきた目にゆっくり身体をずらしていく銀髪は仄かに分かり、湿って生暖かいものがイルカの勃ちあがっていたそれを、包んだ。
「ぇ、あ、ぁ、そんな…っ、放して、やめてくださ、い…ッ」
「暴れないでね。歯が当たると痛いよ」
「……っ」
逃げようと起こしかけた身体が強張る。
歯が当たるから、というわけでなく、やっぱりアレを口に入れてるんだ、ということがはっきりしたからだ。
信じられない。有り得ない。あのカカシが、あの綺麗な口元に、自分の、が。
頭が沸騰する。
「だだだダメです、だめですって、ダメです。俺がします。俺がしますから、カカシさん、放して、そんなの止めてください…っ、…ひゃっ」
じゅるっと音を立てられた。
先端を包まれて吸い上げられて、太腿が快感に強張る。
カカシの手のひらが、根元から下に動いて普段気にしないようなところをやんわりと刺激してくる。
半ば以上勃ちあがっていたそれは、簡単に追い詰められて、放してもらうまえに達してしまいそうだ。
「だ、ダメです…っ、んぁ…っ、そこ、も、やめ」
舌先で先端を抉られて、口元を手のひらで押さえた。
みっともない声が出る。
「声、ガマンしないでいいよ」
息継ぎの合間か、カカシにそういわれたが、吐息まで敏感な部分にかかって喉が鳴る。
親指の腹でやんわりと擦られ、もどかしい刺激と達してしまいそうな悦さが交互にきて、文句も言えなかった。
舌のざらついた部分が全体にからまって、もう丸ごと喰われているようにさえ感じて、酷い射精感がせり上がってくる。
下半身の奥のほうで熱い塊があって、飛び出したがっている。
「ゃ、やめ、放して…も、出る、カカシさん、ぁ、あぁ…っ」
なりふりかまっていられず、なんとか身体を少しだけ起こして、カカシの肩を押したが無理だった。
むしろ股を広げてそのあいだにカカシがいること、自分の太腿をカカシが押さえつけて、深く口元に咥え込んでいる様が暗いのにはっきりと分かってしまって、もう駄目だった。
ごめんなさい、といえたのかは分からない。
ぎゅっと目を瞑って、手のひらでカカシの肩を掴んでいた。
カカシの唇がいやらしく動き、咥内の奥で先端が擦られてすすり上げられ、背が熱くなって耳裏まで気持ちよさがきて我慢できなかった。ダメなのに。射精した瞬間、喉がひゅっと鳴って吐息が漏れた。
一度でなく何度か吐き出したあと、やっと強張った身体が弛緩して、すぐに、ごめんなさいと謝った。そして信じられないものを見た。いや、聞いた。
何かを飲み込む音を聞いた。
ざぁっと血の気が引く。
なんとか肘を立て杖のようにして身体を起き上がらせて、カカシを見る。
カカシは口から抜いているところで、最後に唇の先で先端を吸い上げてさえした。
達したあとの敏感さで身体は反応したが、それでも、どうして、と呟けばカカシはなんでもないことのように言った。
「ふぅん、こんな味なんだね」
「…なっな、なん、で」
あんまりのことで言葉が続かず、軽い眩暈を覚えてイルカはシーツへ顔を伏せた。
信じられない、と呟けば耳朶の間近で、
「何が信じられないの」
と美声が響き、ビクッと身体が震えてしまった。
「だ、だって、そんな、あんなもの、飲むなんて…」
「飲めないものじゃないでしょ」
「そそそういう問題じゃなくてっ」
「ほら、興奮したら酸欠なるよ。いまからもっと酷いこと、するのに」
「ぇ」
身体を裏返され、割れ目に指が入ってきた。
反射的に身体が硬くなるが、止めるつもりはなく口を噤む。カカシの指は手際よくローションの蓋をあけてたっぷりと手のひらに出したようだった。
「もうちょっとお尻上げて。それが辛いなら前からしてもいいけど」
「い、いえ、大丈夫、です」
恥ずかしさも極まっていたが、なんとか言われるような体勢になると、ひんやりしたものが後ろに垂れてきた。
シーツに顔を埋めて、じっと我慢する。
「指、入れるよ」
自分でも触らないようなところを、触られている。
意識しないようにしても、どうしても考えてしまって、後ろに入ってきた太く感じるものにも、身体を硬くしてしまう。
「力抜いてよ。入らないよこれじゃ」
「は、はい…」
「まぁ無理でも、こっちでなんとかするからいいけどね」
何とかってなんですかとは訊けなかった。訊くような余裕は、たっぷりと後ろに注がれる液体とカカシの指のせいで、なくなった。
最初は苦しさと不快感。
押し込められる感触と圧迫感が気持ち悪く、引き抜かれるときには排泄感で呻き声がでそうになるのを堪えなければいけなかった。
けれど、指が出入りするたびに液体が入り込み、無理に二本の指が入ってその間から音がしだせば、不快感に耐えることより恥ずかしさに逃げ出したくて、泣きたくなった。
静かな部屋に、液体のくちゅくちゅという音が、している。
音がするたびに、カカシの指が動いて、挿入の準備をしているんだと考えると駄目だった。あのカカシに、こんなことをさせているんだと、なぜか涙腺が緩んで、涙が出た。
そんな手間をかける価値が自分にないのに、奉仕もさせてもらえないのに、情けなくて。
涙はこぼれるほどでなく、瞼のあたりを熱くしただけだったが、イルカは鼻をスンと啜った。
涙も鼻水もシーツに消えて無いことになればいいのに。
けれど、それをカカシが聞きとめた。
「―――ちょっと、なんで泣いてるわけ」
「んぁ、は…っ」
不意に後ろから圧迫感が引き抜かれ、イルカは息を詰める羽目になった。
そしてグルリと身体を仰向けに返される。後口からとろりと何かが染み出すのを感じた。
暗闇のなか、カカシがイルカを覗き込んでくる。
仰向けになったイルカの顔の両側に手をつき、表情は分からないものの呆れているようだ。
「全くアンタは…今度は何を気にしてるの。こんなときに何も泣かなくてもいいでしょう。余計に後ろめたくなるでしょうが」
嘆息まじりのその言葉に、これがカカシにとって裏切りに近い行為だったことを思い出した。
思い出して、感じたのは羨ましいという感情。
カカシと何度でも愛し合える相手に、胸が苦しくなるほどの羨望を感じた。瞼を湿らせただけの雫が、溢れて、眦から伝い落ちていった。
それがなぜカカシに気づかれたのかは分からない。
「ああ、もう」
カカシが少し苛立ったように言い、唇が眦に降りてきた。
舌が涙を拭っていった。
「俺もね、けっこう我慢してるんだよ。これで最後だよ。本当に―――やっていいの?」
唇と唇が触れ合うほどの至近で囁かれた。
カカシの息は熱く、重なり合ったところからカカシの熱が分かって、イルカは瞬きをした。
だって、イルカは何もしていないどころか我侭をいったり水をさしたりと酷い有様だというのに、興奮してくれているのが不思議で、少し驚いて、それから酷く身勝手に、嬉しいと思った。
はい、と唇が返事をしていた。
いいの、と重ねてカカシが聞いてきたが、同じように返事をした。
カカシがこんな身体に昂ぶってくれることに、なにを裏切っていても今だけは構わないと思うほど、嬉しかった。
それだけだった。
「いいです、して、下さい」
「そう。分かった」
真正面から、カカシに見下ろされたままで股を開かされた。
カカシの手のひらが太腿の裏を支え、イルカの胸につくほどに押さえつけてくる。
酷く苦しかったが、それよりもとろりとした液にまみれた後口に硬く太い何かがあてがわれ、イルカは息を呑んだ。
カカシの身体がゆっくりと覆い被さって、硬いものがイルカの中へ徐々に入ってくる。
「……く、ぅ」
身体の空気まで押し出されるようだ。
痛い。でも熱い。熱い、ような気がする。本当は苦しさと圧迫感で温度なんて分からない。
けれどカカシの昂ぶりが熱くないわけがない。嬉しい。
辛いけれど、苦しさがカカシの熱を受け入れているためなら、ずっと続いてほしいほど。
カカシが全てを収め終え、動き出してもやはり苦しかった。
イルカは言葉らしい言葉などいえず、揺さぶられては喉から息を吐き出すだけで、みっともなくてまた口を押さえたが、今度は手を取られて一纏めにされた。
「あぁ、あ、ぅん…っ、ゃ、あ…」
下半身は揺さぶられていて、たまに大きく腰を引かれるたびに、酷く不安になり行かないでと思い、突かれると喉を逸らして吐息が漏れる。
みっともないのに、手は頭の上にまとめられて、声も殺せない。
上からじっとカカシに見られていた。情けない。
「見ない、で、見ないで」
ようやく言えたのはそれだけ。それでもカカシは目を逸らさなかったように思う。
最後まで。
イルカが内壁を擦るそれに反応し、息を詰め、漏らす様をじっと、見ていた。
声が鼻にかかったような、変な声も聞かれた。
カカシが内で焦らすように動かして、小刻みにしたりしたから、いけない。泣きそうな声がでた。
「は…っ、ん、やめ、やめ…て」
「止めるの?」
「ぃ、や、…やめ、ないで、」
「そう」
「んん…っ、あ、ああ、あぁ、ぁん…っ」
いつの間にか腕がカカシの背中に回っていた。
カカシの手のひらは、イルカの尻たぶを掴んでいて、カカシのものが根元までイルカを犯して揺さぶっていた。
繋がったところから、粘着質の音が聞こえた気もした。
それよりも自分の吐くうわ言のような声と、カカシの微かだけれど荒ぶった息遣いだけが聞こえていて、ただ嬉しかった。
カカシの動きが激しくなり、最後に深くまで突き入れられ、熱が弾けたとき、イルカも射精することはなかったが、気持ちよかった。
半ば勃ち上がりかけていたほど、悦かった。
カカシが中からでていくのも、引き抜かれるときの感覚が寂しく、あぁ、と声が漏れて身体が弛緩する。
惜しかったが、カカシの背中から手を離し、自分の目の上にあてた。
カカシにずっと見られていたから、今さら自分の醜い顔を隠したかった。
だがそれをカカシは違う意味に取ったらしい。
「…大丈夫?」
言われた言葉がそれ。
大丈夫に決まっている。ただ、寂しいだけだ。
だからへばりつく様な喉を無理に動かして、言った。
「あなたが、俺でいってくれて…嬉しいんです。だから、大丈夫です」
寂しいけれど。
カカシがイルカの返事をきいてどう思ったのかは分からなかった。なにも言わなかったから。
ただ、イルカの髪を、毛づくろいのように優しく指で梳いたあと、イルカの硬くなりかけていたものに気づいて、イルカが遠慮する隙もなく、手であっというまにいかされてしまった。
そのあいだもずっと、カカシはイルカをみていたようだった。
2010.12.19