怪談





 そりゃあ怖かったんだよ、とカカシは話しだした。
 傍らに座って紫煙をくゆらせるアスマは、ああ、とも、はぁ、ともつかない相槌をうった。それに気をとめたふうもなくカカシは、宙をみつめて続ける。



 チクワがさ、溶けてたんだ。

「…何がどうなってたって?」

 チクワだよ、チクワ。見たことない?

「いや…あるけどよ。食べるチクワか?あの?」

 そうそう。長くて、中が空洞のね。その二本入りのが冷蔵庫の奥のほうにあったとおもいなよ。なんだあるじゃん、とおもって手を伸ばしたらね、パッケージの外からでもわかる、ぐにゃって崩れる感触が…―――

「分かった、分かった、分かったからやめろ。なるほど、それが怖かったんだな?」

 違う違う、それは前座。

「…前座?」

 まぁ無くてもいいかーとおもって気をとりなおしてさ、今度は麺を探したんだよ。なんでも少し前に買ったって言ったからね、今度は慎重にね、探したんだよ。そしたら引き出しのこれまた奥にあってさ、良かったーっておもって出してみたらさ



 ここでカカシの目がふっと遠くに霞んだ。



「なんだよ」

 乾麺になってたんだよね。

「―――…ああ」



 もとは生麺タイプの麺だった、ということらしい。
 それでさ、とカカシの話は続く。



 怖くなったもんだから、メニューの変更もしかたないかもなーとかおもいながら、念のためにソースを探したんだよ。ウスターかお好み焼きので良いからって聞いたら、お好み焼きのならあります、っていうから出してもらって…中、見たらさ、白いふわふわしたものが浮いてるんだよ―――。

「白い…? ホコリか?」

 違うね、そんな可愛いもんじゃないね。おまけに白い糸も張ってたね。とっさに蓋を閉めなおしてゴミ箱に入れちゃったよ。

「―――…まぁ正しい判断じゃねぇか?」

 ここでさすがの俺も挫けそうになったんだけどね、いやまだ塩味って手があるっておもい直してね、塩はさすがにあるだろうって訊いたら、出してくれたんだけど、それが持ち上げても入ってる袋の形がかわらないくらいの、…あれ、なんていうんだろな…えぇと、…岩塩?

「…そういうしかないんじゃねぇか?」

 まぁ、それになっててさ、それでも使えないことはないだろ? だから意を決して作り始めたんだよ。幸い、予備の麺とキャベツと肉は買ってきてたからさ。でな―――

「なんだよ、まだ話は続いてんのかよ…」

 いいから聞けよ。それからは順調でな、味付けの手前まできたんだよ、美味そうに仕上がっててな。

「自画自賛かよ」

 悪いか、で、最後に天カスですよね!って言われてさ、そういうもんも入れるのかーって思ってな、手が離せなかったしイルカ先生に取ってもらったんだよ、冷蔵庫から。天カス、お前知ってる?

「いや、しらねぇな」

 なんでも天ぷらの粉だけを上げたもんなんだってさ。入れると、油っぽくなるけどこういう料理の場合は美味しくなるんですよってさ。

「ほー」

 まぁ料理オンチの熊はおいといて。

「悪かったな」

 で、そういうのなら入れようかってもらったらさ、…ほら、普通、天ぷらって白いだろ。エビフライとか。それでその天カスも白かったんだけどさ、ところどころ、青いんだよな。こう、ぽつぽつ、って白い中に青いんだよ。なんだろ、青ノリっぽいしさ―――

「なるほど、磯辺揚げか?」

 そうそう。俺もそう思ったんだよね。へー、とか感心したりね。

「――――――"思った"…過去形か」

 そうそう。察しがいいね。





 カビだったんだ。













 アスマは項垂れたカカシの肩を、二度、慰めるように叩いた。
 昨日のイルカ宅の献立は、焼きソバ、だった。



2003.5.16


全部実話なんですよぅ!泣けるー!(誰が) あと溶けるのは、コンニャクも実は溶けるし、きゅうりやナスやタマネギもそうです。えっへん!(威張るな) お醤油にもカビは浮きます。砂糖も岩砂糖になります。だしの素も岩だしの素。(もういい) 最後のが、最新の発見で感動したのでしたー!(感動!?)―――いえ、ちゃんと社会生活は大過なく送れています。(笑)