金平糖の降る夜に。




 料理の美味い女に男は戻ってくるのよ。


 というのはどこの本で読んだ台詞だっただろうか。
 たしか不倫した夫に嘆く妻に、その友人が自信たっぷりに吐いた台詞だっただような気がする。ただその友人は一度離婚していて、同じく夫に浮気されたことが原因だった。なんだかなあ、と思ったのを覚えている。
 そんなことはどうでもいい。
 カカシは洗面所で髪をしばっているイルカに声をかける。

「朝飯、できたよ」
「あ、はい、すいません」
「砂糖、要る?」

 はい、と返事が聞こえてから、カフェオレの中にたっぷりと砂糖を入れた。
 冬の朝は冷たいから、糖分をとると身体が温まるらしい。
 カカシのコーヒーはブラックのままで、焼けたパンにバターを塗る。
 添えた皿にのるのは出し巻き卵とベーコンと、湯で置きのブロッコリー。
 冷蔵庫からドレッシングを置いてイルカの皿の傍におく。

「うわ、美味そうですね」
「たまにはね。さ、食べようか」

 カカシは微笑んで、促した。
 色々な下心と思惑を隠して。

 ほんとに俺って陰気なダメ人間だよ。

 と落ち込みながら。




2007.12.09