金平糖の降る夜に。
ったくもー! ガードが堅いっての!
アンコの叫びが、誰もいない上忍待機室に響いた。
今日も空振りだった。
ばら撒いた団子もろくに役にたたなかった。
分かったのは、イルカのことを好きな教員は誰か、ということだけだ。
確かめと、ついでに情報でも拾えればいいかと待ち伏せしていれば、腰を抜かさんばかりにしていたから、いかにも中忍教員、といった感じだった。
正直、あれならカカシのほうが見込みがあるし、お買い得だとおもう。
まあカカシといくらセックスしても子どもはできないだろうから、自前で子どもをつくるならあの女でも充分だろうが、あんな胆力では忍びとして頼りない。
とはいえ、悪いところばかりでもない。
見た目はたいそう可愛らしく、柔らかそうな頭髪は手入れもよく輝いていたし、肌の状態も文句なしで、唇も丁寧に色がついていた。
くの一としての見た目なら文句はないのだから、なにもイルカじゃなくても違うタネみつけれそうだけど、と点数をつける。
それよりも問題は、イルカがこのところ毎晩遅くまでかかりきりになっていることが、どうにも掴めない。
アカデミーのクリスマス会ということは分かっている。
が、その内訳が分からない。
準備は全て、アカデミーの講堂を締め切って、その建物内で行われているらしく、出入りも関係者に限っている。
最初、出入りする数は少なくなかったから、化けて入ってやろうかと思ったが、出入り口に教員が二人、門番をしていて、諦めた。
関係のある教員や、その友人まで手を広げてみたが、肝心なことはきけなかった。
アカデミーのクリスマス会ごときで、クナイをチラつかせるわけにもいかず、この週末をまえに、とうとう手詰まりだ。
あーあ、ったく、諜報は得意じゃないのよね。
寒い室内に、ため息が響く。
明日か明後日に帰ってくるだろう男のことを考えて、憂鬱になる。
絶対に、ネチネチいうにきまってる。
ことイルカのことになると目の色を変える男だ。
イルカを狙っている女が、けっこうな美人だと知れば、浮き足立つだろう。
建前を気にして、手出し自由などと甘いことをほざくから、こういうことになる。
さっさと派手な家でも買うか、養子をもらうかすればいいのに、それもせずに『ふたりでいたいんだー』などとヌルいことを言っているから、他人が入り込む隙が有る。
自分達の職業は、いつ死ぬがわからないのだ。
相手の気持ちを大事にしているヒマなど、ないのに。
ふぅ、と自分らしくない考えを、空中に吐き出した。
らしくもない考えは、それでも理想を貫く二人に、本当にらしくもなく、そういうのも良いんじゃないかな、と感じているからかもしれなかった。
だから、こんな風に、腹の足しにしかならないことを、けっこう真剣にやっていたりするのだ。
かーえろ。
カカシへの対処はそのとき考えることにして、部屋をでた。暗い階段を下りて、通りに出ようとするときに、見慣れた影を見つけた。
心中で、やっぱり頑張る人には運が回るものね、と舌なめずりをする。
うふふ、と笑う。
そして声をかけた。
「おーい、イルカ! 今帰り? ちょっとメシ、つきあいなさいよ!」
2007.12.07