金平糖の降る夜に。




 午後の授業のあと、翌日の準備とクリスマス会にむけての雑用をこなしているとあっというまに日が暮れていた。
 冬の日の入りは早いといっても、とっぷりと暗く、壁掛け時計を見上げると夕飯時だった。これから少し腹ごしらえをして、稽古場へ向かおう。

 たしか彼は午後から演習だったからお腹も減ってるだろうな、と思いつつ階段を下りていると、暗がりに溶け込んでいる人影が踊り場に突っ立っていて、ビクッとした。
 影に佇んでいるだけならともかく、気配まで綺麗に消しているものだから、えらく不気味だ。ただでさえ、アカデミーの廊下や階段は経費削減で、薄暗い傾向にあるのに。
 ちらりと見て、気にしつつ通り過ぎようと折り返した背中に、声がかけられた。
 再びビクッとする。

「ななな、なんでしょう…っ?」

 気配からして中忍以上で、豊満な胸の彼女には見覚えがあったから、敬語で答えた。
 女は、半身だけ暗がりから出して、ニタリと笑った。
 どこいくの、と問うてくる。

「え、ええと、ご飯を、買いに、近くの木の葉マートに」

 そう、と女は言い、さらにアカデミーでは何をしているのかと問うた。

「最上級生の担任をしていますっ、まつきカガリともうしますっ」

 はっきりいって、怖い。
 殺意がないのは分かるが、とにかく威圧感と不気味さで、圧倒される。
 これほど暗がりの似合う人間を、今までみたことがないといってもいい。
 女は、しばし黙り、それから不思議なことを聞いてきた。
 アカデミー教員が夜遅くまで関わっていることはなんだ、と言った。

「アカデミー教員…ですか…?」

 そうよ、と女は先を促した。
 だが、迷ったが、気合を振り絞って、首を横に振った。

「申し訳ありません、それはお答えできません。アカデミー教員として、終るまで外部の人間に話してはいけないと取り決めがありますので」

 同じ里の人間でもか、と女は言ったが、その声に殺気がないことに勇気付けれらて、再び首を振る。

「子どもたちにもそう伝えておりますし、子どもたちはそれを守っているようです。ならば、子どもの手本となる私たちが先に破ることなどできません。申し訳ありません」

 沈黙が降りた。
 足が小刻みに震えて、膝まで笑おうかという長さの静寂のあとに、女が、わかったわ、と言い残し、消えた。
 完全に気配が感じられなくなってから、やっと、カガリは階段にへたり込んで、しばらく「生きてるって素晴らしい!」と感動していた。




2007.12.06