金平糖の降る夜に。




 朝の清掃と受け持ちクラスごとの朝礼が終わり、イルカは教員室の自机にもどった。隣の同僚がおはよーさんと挨拶をしてくる。

「おはようございます」
「今日は寒いなあ」
「そうですね」
「女房にいわれて洗濯干してんだけど辛いのなんのって」
「そりゃ寒いですね、でも奥さん、大助かりでしょう」
「口だけだよ」

 雑談といっしょに、手早く授業の用意をする。
 今日の予定は午前中に二つと、午後に演習が一つ。
 演習の準備は昼にするとして…。
 まとめた荷物はあんがい早くできて、少しばかり時間があまった。
 隣に、お茶でもどうですか、と声をかける。

「おう、ありがとう」
「俺のいれたものなんで、カガリ先生ほど美味くないでしょうが」
「カガリのは人によって味が違うんだよ」

 今は教員室に姿がないから言った軽口に、変なボールが返ってきてイルカは頬を緩ませた。
 部屋の隅につくられている小さな洗い場が給湯室がわりになっている。
 お湯と急須を用意して、茶葉を出そうと、ちいさくて古びた冷蔵庫の扉に手をかけた。

「まあ飲む人の味覚もそれぞれ違いますからね…、あれ」
「どうした?」

 開けた中に、見慣れないけれど、最近食べた覚えのあるものをみつけて、首を傾げた。
 茶筒を取り出して、冷蔵庫をしめる。

「いえ、冷蔵庫にやけに大量の団子があるんですよ。『たま弥』の」
「誰かのおやつじゃねえの」

 湯を注いで、しばらく待って湯飲みに注ぐ。

「それにしては包みが五つほどあるんです。お客様にしても、団子なんて冷蔵庫にいれてたら硬くなっちまうのに…」
「じゃあ昼にみんなのおやつで出るんだろ。昼飯はここで食おーっと、俺」
「そうですね…」

 昼のおやつが決まったと喜ぶ同僚に、イルカは首を傾げつつも相槌をうつ。
 やっぱり、ちょっと不思議だったが。
 『たま弥』はこんなに早く空いてないだろうから、昨日買ったものだろうし、包みが五つと大量なのも気になる。
 変なことをする人もいるものだ、とイルカは淹れ終わった湯飲みをふたつ、手にもって机に戻ったのだった。




2007.12.06