金平糖の降る夜に。




 アカデミーの一角では、夜ももう夕飯時をとっくに過ぎたころになってもまだ、灯かりが煌々とついていた。
 それというのも今月の下旬に行われるクリスマス会の準備に追われているからだった。
 まだ当日までに二週間以上の猶予があるが、関わる人数が20を超えるおおがかりなもののために、一つ準備を進めるだけでも、いろんな問題が出ては解決するのに時間がかかり、なかなかすんなりとは進んでいない。
 だからこそ、こんな夜にまで、実行委員の教員は残って打ち合わせをしていた。

「じゃあ、今週末には衣装の用意ができるということで―――」
「大道具のほうは…今週末に―――講堂で―――作業を」
「わかりました。では――――――…あと生徒の保護者に配るプリントと、チラシの件ですが―――」
「それはこちらで―――」
「業者に―――予算が―――」
「いえ―――生徒が…」
「わかりました。サイズは前回どおりで…」
「ええ、あとは練習の―――」

 実行委員としてはかかわりのないイルカは、教員として打ち合わせに参加はしているものの、発言することもない立場で、半ばほんやりと話しを聞いていた。
 卓上には、おやつ兼夜食代わりらしく、誰かが提供した団子が置かれている。

 話しが素通りする頭のなかは、週末まで帰ってこない男のこと。
 寂しいなあと素直に思う。
 けれど打ち合わせの内容をきいていると、進行はいっぱいいっぱいのようで、イルカの拘束時間も増えそうだ。夜も遅くなるし、留守にしているのはかえって、こちらに集中できていいのかもしれない。
 でも、やっぱり、家が寒い。
 先日つけられた痕も、居ないことを思い出させる。
 なにか苛立っていたのか知らないが、昨日、「薄くなってる」などと言って(イルカには大して違っていないような気がしたし、正直、そんなところに付けてもらっては困る気持ちもあったが)胸元やわき腹にまでつけられた。
 おかげで、一人の風呂がもったいないから銭湯にでも、という楽しみがなくなった。

 はやく…帰ってこないかな…。

 ささやかな文句も恋しさも、相手あればこそ。
 打ち合わせのおやつに出されている、『たま弥』の団子を齧って、イルカはぼんやりと考え事をしていた。




2007.12.04