金平糖の降る夜に。




 昨夜はなぜかイルカの顔をみれない気がして、結局、イルカのところへ帰らなかった。
 そうしたら余計に落ち着かなくて、今夜は絶対に帰ることにした。

 一度、夕刻にアパート前を確認したら、まだイルカは帰ってきていなくて、早番なら帰ってきてる時間なのになと思いつつ、カカシは商店街のほうへ足をむけた。
 なんとなく冬の魚が食べたくなって、真鯖四切れ入りパックと生姜、それとほうれん草と大根の葉付き。ビールと、思い出して料理酒を買う。
 アパートへ向かいながら、頭のなかで献立を考える。
 この年末はイルカも忙しいらしく、今日も忙しくて残業続きなのかもしれない。
 夕飯もとってないことがあるから、たまにカカシが作っている。
 大したものでなくても、イルカは大仰に感謝してくれるから、カカシも嬉しくて、こうして夕食を作るのが面倒でなくなった。
 自分の作ったもので、喜んでくれる人がいるのは、ありがたいことだな、とイルカと暮らしていて思う。

 アパート前に戻ると、やっぱり、窓に灯かりはついていなかった。
 もらったカギをつかって中に入る。
 お邪魔します、ただいま、とちぐはぐなことを呟きながら、灯かりをつける。
 ベストを脱いでうがいをして顔を洗って、一息ついて。
 さて、と夕食作りにかかる。
 そんなに難しいものができるわけではないので、鯖の味噌煮と、ほうれん草の胡麻和え、大根の味噌汁だけだ。二十代の男の食卓としては充分すぎるほど充分かもしれないが。

 大方を用意し終わったころになっても、まだイルカは戻ってこなかった。
 しばらく待っても帰ってこなかったので先に食べてしまっても、まだ待ち人来たらず、でカカシは風呂を沸かしてのんびりすることにした。
 結局、イルカが帰ってきたのは、九時も過ぎた頃で、しかもやけに肩が落ちて疲れた様子だった。
 ただいま帰りました、と疲れ果てた様子で微笑うイルカに戸惑っていると、風呂に入ってきます、とカカシの傍らをすりぬけていってしまった。
 肩が落ちてるよ、という間もない。
 それに、気のせいだろうか。
 イルカのものとは違う匂いを感じた気がした。
 風呂場からの水音を聴きながら、落ち込む時間は、カカシにはたっぷりとあった。




2007.12.01