金平糖の降る夜に。
「きゃー! 本当にっ? ありがとう〜!!」
ガバッと首にしがみついてきた友人を、ミツホは抱きとめた。
まったく、とため息をつく。
自分などは彼女に話をきいた時点で、ターゲットの恋人が男であることの問題点を気づいていたというのに、なんと彼女の気づいたタイミングは一夜明けて朝だというから、呑気なものだ。
「本当にありがとう! 私じゃ怖くてとても確かめられなかったもの。あ、でも、ミツホは大丈夫なの? すごく嬉しいけどあなたに迷惑かけちゃ…」
喜んだ先から、不安そうな顔。
ミツホは頬をほころばせて、大切な友人の額を人差し指でこづいた。
いたい、と大げさにカガリは顔をしかめる。
「別に疚しいことをきいたわけじゃないから大丈夫だよ。それに、誰っていうのは言わずにきいたんだから」
「え? それで彼だって分かるの?」
「さあ。でも少なくとも、カカシ先輩は、彼のことを言ってたようだけど」
ミツホにしても、その現場をみたわけではないから、確信できないところはあったけれど、カカシのあの様子では確定だろう。
とはいえ、夏にちょっとした話題になっていたという『事件』は、ずいぶんと暗部や上忍のあいだで楽しまれていて、尾ひれを切ったとしてもミツホには信じられなくて、ちょっと不安だった。(第一、望まれるならカカシの相手をしたいという女はあまたにいるだろうし、そんな男が、好んで同性を、しかも噂では秀でたところもない男を大切にしているという話しは、にわかに信じがたいものだ。)
この呑気でいて、無邪気な可愛らしい友人に話しできいたような危害が及ぶのは、避けたいところだ。
「それに、恋人の恋愛事情には口挟まないっていう主義みたいだね、あの人。私にはちょっとわかんない主義だけど、お互いが望めばいいんじゃない、って言ってた」
するとピンク色の唇が、む、とへの字に曲がった。
「なに、アヒル口になってる」
「だって、それって自信があるってことじゃないの? 私なんかが頑張っても別れるわけなーいよ、っていう意味じゃない?」
「うーん、そうかもしれないね」
やっぱり、とミツホが内心羨んで仕方ないぷるぷるの唇を、可愛らしく尖らせている。まったく、この友人をみていると、自分に欠けているものがありすぎることに気づく。
だからこそ、彼女への憧憬と愛おしさが沸くのだが。
「まあ、お墨付きがでたと思いなよ。まさか好きにしろってお墨付きがでるとは思わなかったから驚いたけど」
「私もミツホがそんな怖いことしてくれたなんて、ビックリだわ!」
可笑しそうにカガリが言い、ミツホも笑った。
「確かにちょっと怖かったけどね」
「ありがとう、本当に。ね、朝の朝礼のときにね、彼に台本を渡したの。役柄と台詞よんで、彼ったら顔真っ赤にしてたの。可愛かったなあ」
うっとりと頬を染めるカガリのほうが可愛いと、ミツホは思ったが、あいにくその『彼』をたぶん生でみたことがないから、これは贔屓目だというものだろう。
「はいはい、それはまた今度きかせてね」
「うん。また任務?」
「そうだね。ちょっとでてくる」
「そっか。気をつけてね。あなたの帰りを楽しみに待ってるわ」
「頼むよ」
ぎゅっと抱きしめあって、カガリの暖かさを確かめてミツホは帰ってくることを約束した。
2007.12.01