金平糖の降る夜に。
や、久しぶり、というのが本当に久しぶりにあった友人の挨拶だった。
なにしろ、同じ時期に合格したスリーマンセルで班が分かれて、その後は任務や昇級試験やらで忙しく、しかも友人は才を見込まれて暗部に配属された。
アカデミー生のときからなにかと馬があったから、忙しくて会う暇がなくても、たまにあえば、昔のように言葉を交わせた。
二十台も後半になると、そんな友人は果てしなく貴重だ。
「久しぶり、じゃないわよ。こういうときは、遅れてごめんね、っていうものよ?」
「悪い悪い。報告書の確認をって引き止められてさ。さすがに受付の人、振り切って『飲みの約束があるんで!』って逃げられないだろ?」
「当たり前でしょ」
悪びれずに可愛らしく舌を出す友人に私は笑い、カウンターの隣の席の椅子を、彼女のために引いた。それにすとんと腰を下ろす友人は、女の私の目からみても、やっぱりかっこよくて可愛い。
「髪、また切ったの?」
「ああ、やっぱり邪魔だなあと思ったら、我慢できなくてね。…カガリみたいには無理だな」
「ミツホの髪、黒くて私は好きよ。気がむいたら、小さいときみたいに伸ばしてね」
「気がむいたらね」
たわいのない会話と、美味しい肴に適度なアルコール分。
仕事の疲れを癒すには最適だ。
それにグチと恋話が加われば、もういうことはない。
運ばれてきたミツホの分のビールと、小さくカチンと乾杯をした。
お疲れ様、久しぶり、元気そうでなによりだわ。
「で? 里に帰ってきたばっかりの私を誘って、どんなグチを聞かせてくれるのかな」
「なによう、ちょっとした近況報告じゃない」
確かに会えば喋るのは主に私。聴くのはミツホだけれど、グチばかりでもない。
そう、今日は恋話もあるのだ!
私はここ最近のアカデミーのことや、いましていること、それから気になっている人のことと、昨日のことをミツホに語った。
彼女は酒と肴をつつきながら、へー、とかほー、とか言いながら聴いている。
「でね、アカデミーの教師なら参加しておいて損はないと思うんです、子どものことも分かるし、任務だと思えば、って説得しちゃったの」
「ははあ…カガリの押しに負けたんだ、彼」
「まあ、先生業としちゃ、私のほうが先輩だしね」
「かわいそうに」
なんて言いながらビールを飲むミツホは、あ〜冬のビールは美味いな〜、なんて嬉しそうにしている。
「ともかく、一ヶ月もないんだから、頑張っちゃう、わたし。ミツホも応援してね」
「はいはい。応援ならするよ。だけど、彼、たしかある人と付き合ってなかったっけ?」
それは考えないようにしていたのに。
私はちょっと、シュンとなる。
でも、噂だから。
「うーん…私も聴いたことあるのよね。直接確かめたことないんだけど、不知火上忍とか、猿飛先生とか、あと濃ゆい人とか…」
「あー、濃ゆい人。濃ゆい人、あの人か」
「そうそう、あの人」
「確かに濃ゆいね」
「濃ゆいでしょ」
分かりやすい表現だなあ、ってミツホはまたビールを飲んでる。
ベリーショートの黒髪の彼女の首元はすんなりしていて、ビールを煽る顎と首筋のラインはカッコ良い。
それをみながら、私は言いたくなかった名前を口にする。
「あと、ほら、…はたけさんとか」
「え? ああ、カカシ先輩かあ。たしかに、それが一番もっともらしいけど、でもちょっと信じられないなあっていうのも、一番いわれてるよね」
まあね。
言っちゃなんだけど、彼はごくごく普通の男性で、とびきり才能ある人ってわけじゃない。
比べてはたけさんは、どう見ても、才能溢れるエリートって人だもん。
どっちに惚れるっていわれたら、はたけさんのほうjに99%いくよね、っていうぐらい、凄い人。正直、私も嫌いじゃない。
だから、実際にあの二人が付き合ってるって噂があること自体、信じられないんだけど、とある人の話では、みたらし上忍がニンマリ笑って、アタシの実験体になりたかったらチョッカイだしてみれば、とか言ったらしいし、確かめるのは怖い。
ゆえに、噂は噂のままだ。
彼がもっと私的なことをペラペラ喋る人ならいいんだけど、いかんせん、地味なんだよねえ。そういうところは、彼は。
「ま、いいんじゃない? 伝説のスーパーエリートカカシ先輩が捨てられるとこ、みてみたいよね」
「なによそれ、怖いなあ」
「応援してんだよ、がんばれカガリ」
「うん、がんばるよ。…相手がはたけさんかどうかはおいといてね」
それに私の恋がはかなく散るっていうストーリーだってあるのだ。
…なるべくなら、叶ってほしいものだけど。
「うん、がんばるぞ」
「よし、がんばれ」
私は来月に行われるクリスマス会にむけて、気合をいれるべく、再びミツホと小さく、カチンと乾杯をしたのだった。
2007.11.29