金平糖の降る夜に。
夜、カカシがくつろいだ心地でイルカのベッドで寝転んでいると、もう遅い頃合なのに電話が鳴った。
普段の、忍びとしての連絡なら式が飛ばされるし、緊急の連絡ならなおさらだ。
だからカカシの傍らに座り、壁を背もたれにして巻物を眺めていたイルカも、三回ほどは首をかしげてリンリンとけたたましい音を眺めていたのだが、やがて止む気配がなさそうだと分かると、ベッドを降りていった。
里人からの電話かな、と想像しながらカカシは変わらず寝そべったまま、イルカが座っていたあたりに移動して巻物を引き寄せた。中身は『変化の術の安定について』の教本らしく、アカデミー関係だな〜とちょっと顔が緩んだ。
数年前からアカデミーの『先生』になったイルカは、外でみると、ちょっと凛々しくて、ちょっと間が抜けていて、ちょっと頼りない。でも、まっすぐ子どもに向き合おうとする姿勢が良く分かる。
まだまだ新米教師ですから、とイルカ自身がつねに言うように、至らない部分もあるのだろうけど、カカシにはその姿勢こそが好ましく、そしてイルカには内緒だが、微笑ましいのだ。
家に持ち帰って、自分とのんびりしているこんな時間まで、堅苦しい教本を眺めている姿をみると、無条件に、イルカの「先生業」が上手くいってほしいと思う。
そんなことをツラツラと思っていると、ふと、電話にでたイルカの声が大きくなった。
「えぇっ? こま、困りますよ、そんなの、もう一ヶ月もないじゃないですか」
何の話だとカカシは壁に遮られている電話のほうをみる。
少しだけイルカが電話の受話器を持っている姿がみえた。
「…でも、俺につとまるかどうか…はあ、まあ、それはそうですが…」
電話向こうの声は、耳をすませば聴こえるかとおもったが、なかなか聞き取りにくい。なにやら頼んでいるようだが、内容までは分からなかった。
しばらくの問答のあと、イルカが
「…わかりました。任務だと思ってやってみますよ、はあ……、もう、笑い事じゃないですよ、カガリ先生はいいでしょうけど…はい、分かりました。ご指導よろしくお願いします」
そういって、暇の挨拶のあと電話は切れた。
ベッドへと帰ってきたイルカは複雑な顔で、一番面にでていたのは『困ったなあ』という表情だった。
カカシはイルカの場所を空けてやり、どうしたの、と訊いたが、イルカは首を傾げてすこし笑った。
「仕事の同僚でした。ちょっと難しい頼まれごとをされたので…」
カカシは、無理に聞きだすことでもないかと、ふーんと相槌を打って、その話しは当分、忘れたままになった。
2007.11.28