雨上がり。
カカシはそのとき、数日ぶりに里に戻ってきたところで、さて受付所にいこうかそれとも木の葉病院にいくほうが先かと、眠気と疲れにかすみそうになる思考をめぐらせていた。
木の葉の大通り。
空は、さきほどまで雨粒を滴らせていた曇天。
足元はぬかるみ、カカシの頭髪も濡れて気持ち悪かった。
風邪を引くほうが先かもしれないな、と思って目をあげたとき。
パン。
軽い破裂音のような響きがカカシの鼓膜を刺激し、カカシは肩を震わせた。
反射的に体と目をかまえれば、見えたのは、大通りから外れたほうに立つ男。
手には傘をもち、開けたり閉めたりを繰り返していた。
任務帰りということもあって、瞬時に反応した自分は、里においては当たり前であって、かといって傘を開け閉めしている男が悪いわけでもない。
カカシは苛立ったが、そのまま行き過ぎようかと踵をかえす間際。
目の端に、男の、晴れ晴れとした顔が焼きついた。
水をはらった傘を閉めおろし、空を仰いで。
こんな曇天を仰いで、なにが楽しいのか。
おもって顎をあげ目を空へとむければ、そこに広がっていたのは灰色の雲から覗く、淡い青空。
太陽の光が、厚い雲のすきまから里へとそそぐ様が、空を幾層にも輝かせていた。
まるで闇に降り注ぐ光をみせつける光景。
暗部である自分と、空を見上げる男と。
しばらく見惚けて、気づいて周囲をさがしたときには男の姿はなかった。
それからカカシは探すことになる。
傘をもつ男を。
里の忍びである支給服を着、髪をひとつに結わい、顔に一文字の傷がある男を。
2005.05.13