推薦。
だからさー、俺としては略奪愛を狙いたいの。
わかる?
こうチマチマと点数を稼いでるばあいじゃないんだよ。
もう彼女がいるらしいからさ、早く俺の良さってのを教えてあげないと。
それが重要なんだよね。
「―――で、何をするっていうの。カカシ」
「んー。だから、一服盛っていただいちゃおうかなぁって」
「それ、仲間にしたら罰則規定に引っかかるって知ってるでしょ」
あらら。女は妙なとこで現実的だからノリが悪いなぁ。
紅はまるで怒ってるみたいに腕をくんでる。最近どう、って訊いてきたからさっきの出来事をはなしてやったってのに、どうして俺が不機嫌な顔されなきゃならないんだろ。おかしいぞ。
「知ってるけど、やってる奴いっぱいいるよ? こんなこと」
「あんたねぇ…」
はぁ〜って大きなため息で、紅は髪をかきあげた。真っ黒で長い髪。うねうねしててまるで蛇みたいだ。いい女だけどちょっと怖いよな。
にしたってなにが問題なんだろう。
里じゃ、忍び同士の盛る盛られなんて、盛られたやつが間抜けなんだって見方のほうが筋を通してる。上がきめた忍びへの罰則規定ってのは確かにあるし、俺も知ってるけど(暗部のときに叩き込まれたからね!)それだって下忍になったばっかの子供あいてに暴行したりした奴とか、里人に術使ったとか、そういうばあいに使われてるもんだし。
俺とあの人の場合、上忍と中忍でしょ。しかもお互いいい年だし。おもいあまって、って言ったら情状酌量っていうの? それ、狙えそうじゃない? もし裁定されるんでもさ。
「―――変に度胸があるうえに狡賢いわ…イルカセンセ、かわいそ…」
なんのことを言ってんだか。
可哀想じゃないよ。これから気持ちよくなんの。
「…盛るって、なにを盛るのよ」
「ちょっと迷ってんだよね。眠剤(みんざい)にするか痺れるのにするか塗るのにするか」
「塗る?」
「痒くなるやつね」
「ああ、あれ」
くの一はこういうのに詳しいからなー。具体的な薬に思い当たったみたいで、うんうんって頷いてる。このさいだからちょっとアドバイスでもきいとこう。
「どれがいいと思う? 俺としては、忘れられない思い出にしたいんだけど」
「多分、どれを使っても忘れられない思い出にはなると思うけど」
「そうかな」
「そうよ」
「それって、気持ち良くて?」
「ん、まぁ、…ぼちぼち」
紅は掌を水平にひらひらって動かした。どういう意味だろ。ぼちぼち? 呆れたっぽく聞こえたんだけど、前みたいに褒めてくれたんだろうかなぁ。心でお礼を言っておくよ。ありがとう、紅。
「じゃかどれでも同じかー。飲ませるのは手間だし、塗るのにしようかな」
「あ、そう」
「紅さ、なんかお勧め、ある?」
あれ、ちょいっと紅の眉毛が片方だけ上がった。変なこときいたかな。でも俺、話にはきいたことあるけど、実際には持ってないんだよなぁ。作ろうと思ったら作れるけど、どうせならその道のプロから聞いたほうがいいでしょ。
「持ってないわけ」
「今までそんなの要らなかったし」
「まぁあんたはね。―――そうね…、いい? 絶対、絶対に、イルカを虜にできるっていう自信があるなら、教えてあげるわ。強ッ力なのをね」
「あるよ。自信。だから教えて」
「ほんとう? 私、まだ審問会になんか出たくないんだから」
「わかってるって。大丈夫。どんな拷問にかけられても紅の名前は出さないって誓いますー」
片手を上げて、俺は誓った。いや、本当だって。そんなじーって見られても困るよ。早く教えてよ。教えてくれたら、ぜったいイルカ先生を俺なしじゃ生きれないぐらいにしてみせるからさ。すんげー気持ちよくしてあげるんだ。
思って黙って待ってたら、紅はすんごい迷ったみたいに長いだんまりのあと、ふたつの店の名前を教えてくれた。そこに売ってるあるなんとかという薬と、なんとかという膏薬を混ぜると、そりゃあ気持ちよくなれるものができるそうだ。ふぅん、さすが良い情報持ってるなぁ。
「ありがと、こんどお礼したげるよ。なにがいい?」
「私の名前をぜったいに出さないこと。あと、上手くやんなさい。捕まらないように」
「わかってるって。んじゃね」
良い仲間を持ったもんだ、俺も。さっそく試してみるかー。ふふふ、楽しみだなぁ!
でも別れ際に紅が呟いてた言葉なんだけど。
「イルカセンセ、…ごめんね――――――」
だからそれはどういう意味かなぁ。もう。
2004/03/27