悪態。







 幸せになりたいなぁと言ったら髭男に笑われた。
 俺はひどく真剣だったのでとても腹がたった。
 けど同時に。
 笑われることは承知のうえだった。














「これ」
「お疲れ様です」

 そっけない声。
 そっけない返事。
 俺の愛想も色もない態度でつきだされた報告書を、あの人が、俺以上に事務的で流れ作業的に受け取って、ハンコがぽんと押された。確認印。適当に適当で書いた俺の報告書の隅っこ。

「けっこうです。お預かりします」
「あんたさぁ」
「は」
「もうちょっと真面目に仕事したら? 俺の字読めないぐらい汚いでしょ?」

 本当なら一目会うだけで満足なはずなのに。
 どうして俺ってやつは、それ以上を望んでしまうんだろう。
 ちょっとした「会話」ってやつが欲しいだけなのに。
 どうして、こんな益の無い嫌味を、無表情でさらっと言えてしまうんだろうなぁ。
 ほら、この人、分かりやすいからどんどん顔が強張っていくよ。
 あーあ。…あーぁ。



 今日もダメだなぁ。




「…いえ、読めますので、お気遣いなく」
「そうなの。適当仕事だね。羨ましいよ」
「どうも、ありがとうございます」
「そう。じゃあね」
「さようなら」





 背中をむけたら、硬い声が俺の背中にぶつかって消えていった。
 さようなら、という「大嫌い」の言葉。
 あーぁ。









 幸せになりたいなぁ。 









2004/02/22